159「戦争の足音-3」
予約日時ミスってたので手動上げ!
お話自体はあまり進んでないと思います。
その星にある大陸の1つ、その東の土地。
通常、そこに住む人々が取りうる手段であれば、
何年も移動にかかる距離。
そんな距離を短縮し、脅威に挑む存在がいた。
「500……預かりし精鋭500が未帰還だと?」
「将軍、残念ながら事実です」
もうまもなく、空は夕闇に色を変えようという頃、
平地に張られたテントの中で、2人の男が向かい合っていた。
将軍と呼ばれた男は、テーブルが痛むのもかまわずに、
こぶしをたたきつけるようにして叫んでいた。
「深追いはするな。必ず日暮れまでには
戻るように徹底しておいたはずだ。違うか?」
そのままわなわなと震えながら、右手を握り締める。
「将軍の命令はそのとおりです。ですが、念のためにと
突入しなかったはずの伝令すら戻ってこない状況では……」
将軍と向かい合う男は、この場にいる集団のいわゆる軍師であった。
集団、ルミナスの軍勢の中では軍知と称されている。
おおよそ戦うには向かない、軍人の中では
ほっそりとした体躯と、多くの書物を読みふけった結果か、
独特の意匠のめがねをつけている。
「砂漠の遺跡とはそれほどのものだったのか?
事前の調査はどうしたというのだ」
「残念ながら我々は、細々とした交流以外は西と接点を持っておりませんでした。
ゆえに、事前の情報が古かったということでしょう。
もっとも、それゆえに我々の文化や歴史は守られたわけですが。
皮肉にも、今脅威となっている怪物どものおかげでもありますね」
もし、目的地の情報を定期的に収集するような歴史であれば、
もっと東西の接触が増えており、今の国は無かったであろうと軍知は将軍に言う。
そこにあるのは目の前の現実を見つめる姿であり、
決して投げ出しているわけではないことが将軍にも感じられた。
だからこそ、将軍は冷たい決断を下すこととなる。
「……戻ってこない、それは事実か。確かにそうだな。
他の転送柱があるらしい場所はどこだ?」
「天帝様のお告げによれば、ここ以外となるとこちらですね」
精鋭500、預かった命と装備、物資は大きな痛手であった。
遠征が終わり、報告に戻ったときの処罰を考えれば気分はよくない。
だが、だからといってこのまま戻るという選択肢は自分、
いやこの集団には無いと将軍は考えている。
決まった期日の間に、進軍しなければならないのだ。
通常、馬や徒歩では不可能な進軍距離を可能にする方法を確保するために。
古代より伝わる土地を移動するための転送柱。
どこからどこへ、本来ならばわからないとされる遺物だが、
将軍らはとある事情により、この方向に必ずあることを知っていた。
そしてそれがどの方向へ転移していくかも。
それは、ファクトの知るゲームの設定と同じ、
東西交流のために点在する基点たち。
要所要所、ゲームであるMDにおいて、
街が設置された箇所にある利便性向上のための転送装置。
多くの街は滅び、砂漠や草原に飲まれたが、
通常の建造物と違うその遺物達は高い耐久を誇る。
そのことはすでに発見されていた転送柱を調べることで判明していた。
軽く1000年は経とうという時間は、若干外見を汚し、
細かい部分は傷んでいたものの、機能は維持されていたのだった。
移動した先が本当に予想されている土地であるかはわからない。
だが、彼らは信じて進むしかない。
1つ1つが、西にいたるのだと。
「砂漠のガルガンティア攻略は中止、草原をこのまま進む。
移動の準備をさせろ」
「わかりました。1刻の間には整うでしょう」
男たちのやっていること、動き、そして会話。
そこにはおかしなところは1つも無い。
食料や物資も、不定期にすでに確立されたルートから
順々に補充されているために、決まった期日まで帰還ということは無い。
ただ単に、国が国を攻める準備、それだけだ。
だが普通と違うこと、おかしなところ、それは確かにあった。
2人だけでなく、集団すべての瞳に漂う黒い光。
その光が男たちの体を時折覆い、脈動していた。
男たちも頬はやせこけ、それはまるで幽鬼のように、
何も知らない第三者が見たならば、怪物と間違いなく思う姿をしていたのだ。
怪物ではないが、ぎりぎり人間にとどまっている。
そんな姿と、本来ちゃんとした人間であったであろう
言動とが奇妙な姿を生む中、
それを疑問に思う人間がいない状況が続く。
彼らの目的はただ1つ。
天帝の導くままに西を奪う。
それだけだ。
「あーあー、テステス。聞こえるか?」
『こちらグランモール。聞こえるぞ、ファクト』
耳に届く、聞き覚えのある声に俺は微笑む。
街の一角に備え付けられた、音声のみの魔法無線(仮)。
俺はそれを操作し、遠い土地にいる彼と話していた。
『これは便利だな』
「そういってもらえるとうれしいよ、ガウディ」
話す相手は、グランモールで俺が以前買い取った工房で
今、代わりに住み込んでいてくれるというガウディだ。
2人は互いに、それぞれの街に作られている冒険者のギルドにいる。
本当はこの魔法無線は誰でも使え、どこでも送受信できるのだが、
やはり成りすましや、そもそも話している相手が誰か特定できない状態では
使いにくくなるだろうと判断し、
設置は冒険者ギルドに限るようにしたのだ。
その代わり、無料で利用できる冒険者の特典とした。
仮にも怪物相手に命をかけて戦う職業を選んだのだ。
そのぐらいの優遇措置はあってもいいだろうと考えたが、
世間も同様だったようだ。
一般人も使いたいという声は確かにあるものの、
怒ってくるようなことはなく、
やはりそうだよなあという消極的な同意が主だった。
それに、通常の郵便のような仕事を奪うわけにもいかないのだ。
『こっちは武具の修理が増えてるな。その分、儲けも多いわけだが。
後は、いろんな道具や薬剤の作成が増えてるな。広まってるレシピのおかげだ』
「効果の大きい薬剤もあるだろうからな、そこだけは注意してくれ」
そうして、その後も雑談交じりの情報交換を終え、
魔法無線のスイッチを切る。
「すごいものですね」
「ん? ああ、古代のレシピが運良く見つかって本当によかったよ」
横合いからかけられた冒険者ギルド職員の声に、
俺はそう答えて席を立つ。
「使い方は今やったとおりだ。このつまみを押して、
話したい場所に対応した魔石を中央に置く。
それで大丈夫だ。魔力の補充は忘れないようにな」
人間の工夫というのはある意味恐ろしい。
魔法テレビもそうだが、この魔法無線も
精霊戦争前後に実際に開発されたものを一部改良しているだけなのだ。
恐らくだが、元プレイヤーが自覚なしにこの世界で生き、
チート的に開発したのではないだろうかと思っている。
これまでにいくつも、古文書に相当するようなものを
見る機会が合ったのだが、翁─古老の庵以外には
プレイヤーとしての自覚のあった人間はあまりいなかったようだ。
その多くは、才能であるとか、
たまたま思いついたのだ、などとごまかして人生を過ごしたらしい。
今ならその理由はわかる。
手を出すときりがなくなるし、
おのずと責任も増えてくるのだ。
ほとんどが一般人だったプレイヤーたちには荷が重いことだろう。
だが、元プレイヤーたちの戦闘能力、魔法の冴え、ゲーム世界の知識の豊富さは
英雄と呼ばれるだけの活躍を生み出したのは間違いない。
俺は今、それらを再現しようとしている。
大きな被害を生んだ戦争すら再現することになってしまうかもしれない。
ただ、あの場所で見せられた世界、黒いアイツの目的を考えれば、
手加減の必要性はないだろう。
聖と邪ではなく、違う立場同士がぶつかり合うだけの戦い。
「ちょっと依頼を見せてもらうよ」
「ええ、ぜひとも」
俺は職員にそういって部屋を出、
冒険者でにぎわうカウンターのある場所へと足を向けた。
依頼書の張り出されたボードには多くの冒険者が集まっている。
近くで薬草を採取する依頼、食料として釣りを希望されている依頼、
ゴブリンなどの亜人を退治する依頼、護衛の依頼、さまざまだ。
テーブルのあちこちでは、
依頼書を前に、色々と議論する冒険者たちもいる。
「でよう、どれにする?」
「私はこれにしたいな」
「これって、兵役訓練? え、どういうこと?」
聞こえてきた声にちらりとそちらを見れば、
3人組の冒険者が依頼書の1枚を前に声をあげていた。
「おう、兄ちゃんたちならちょうどいいかもしれねえぜ?
そいつはな、一時的に軍人と一緒に訓練や任務をして、
鍛えてみないかってやつさ。食事も出る、給金みたいにちゃんとお金も出る。
その上で戦い方が学べるんだ。ほら、ギルドでやってる訓練みたいなものだ」
隣にいたベテランらしい冒険者からの話に、
3人組は頷いていた。
話だけは聞いていた俺もその話に耳を傾けていた。
確か、予備役のように冒険者を
有事の際に運用しやすくするためだと聞いている。
もちろん、冒険者は自由であるがその力を
ちゃんと発揮させるには相応の状況が必要だ。
ちゃんとした知識であったり、命令系統だったり。
ばらばらの集まりはばらばらでしかない。
だからこそ、なのだという。
確かに、何も無いままに連携しろと言われても無理な話だ。
俺はいくつかある依頼書のボードの1つにまた移動する。
「解毒薬の立会い~? 毒を飲めってことか、これ」
「みたいね。報酬も高いし」
「自分が試そう。最悪の場合、この指輪もあるしな」
ちょっと普通ではない依頼書を前に会話している冒険者の一人、
その指には絡み合う蛇をデザインした緑の指輪。
それは俺があちこちの街で、
職人たちにレシピごと渡したアクセサリーの1つだ。
毒になった際の、治癒確率を上昇させるはずで、
耐性を持つわけではないという物。
強力ではない分、値段も安くできるはずだ。
強力なものは必要ない。
冒険をちょっと助けるアイテムたち。
それが消耗品のように、当たり前の世界になれば
冒険者という職業は普通に取りうる選択肢となる。
思うままに書き出したレシピや解説書もどき、
魔法対比表などは、冒険者ギルドなど、
要所要所に、秘密裏に渡されている。
表向きには冒険者が運良く見つけた古代のレシピということにし、
裏側でも本当のことを知るものは少ない。
ゲームの知識です、なんてことは誰にもわからないので、
そもそもが遺物を解析しました、とか
古文書にそう書いてありましたということにして
俺が提供したのだから。
何かが変わっていくというのは興奮するものだ。
俺は今、自分の垂らしたインクで世界が変革していくのを
目の当たりにしていた。
それがいいことだけでなく、きっと悪いことも生むだろう事は承知の上だ。
「手紙が来たわ。フィル王子が式典に出るらしいわよ。
ファクトもきてほしいってさ」
「じゃあきれいな服を用意しないとだね」
気配少なく、横に立ち並んだ2人。
その2人を守っていきたいという、
人間らしいわがままを自分が持つのは罪だろうか?
そうではないと、できれば思いたい。
俺はそんなことを思いながら、手渡された手紙の文面に目を通すのだった。




