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156-外伝「甦る強者達」

説明回というか自己紹介回?


話はまったく進みませんので、読み飛ばし可。

ファクトが儀式を終え、城に戻った頃。


あるいはキャニーたちが遺品と魔石を手に街に戻った頃。


大陸を中心に波が広がっていく。


それは、前代未聞の精霊の補充。


世界的には時を超え、精霊戦争よりも

古い時代からの精霊があふれる。


そう、魔法が飛び交い、怪物が咆哮し、

人が多彩なスキルを繰り出していた頃の。


精霊は子供を作るわけではない。


その存在が、概念が、分裂していくのだ。


現地の精霊とふれあい、混ざり合い、そして増えていく。


栄養だとか、水分が、といった考えを超えて、

植物が、動物が、そして大地や空、海ですらが変わっていく。


その変化は、彼らを呼び覚ますきっかけとなった。





何かがきしむ音が森に響く。


魔法生物の滅んだ森。


何かの建造物らしい遺跡と、

周囲の森だけが静かに眠るはずの場所。


その地面が膨らんでいく。


それは足。


木の根にあたる部分が、永い眠りから覚めるようにうごめく。


あちこちから、春の息吹きのように足となる根が現れる。


そしてそれは何かを支えるようにして踏ん張る姿勢をとったかと思うと、

大きく地面が割れた。


物が割れる音とも、咆哮とも区別がつかないうめき声のような音。


その音の主は、巨木に人工物である何か達を含んだまま、立ち上がった。


幹の一部に、口が開き、目が開く。


その目には中身は無い。


口からも見えるのは木目だけ。


それでもその表情はどこか優しい、受け止めるもののそれであった。


自身が立ち上がったことで開いた穴に、

いたわるように周囲から土を集め、かぶせる。


それは伝説にある巨人が、手で湖を掘るかのようだった。


地球のビル群より巨大なその巨木から

最後に緑色の光が注いだかと思うと、驚くことにそこには既に草の新芽が出ていた。


大きな瞳で、それを感じ取ったのか、満足そうな表情になった巨木は、

ゆっくりとその無数の根を器用に動かし、

地面に負担を余りかけないよう、少しずつ移動していく。


10年動き、体を休めるように一度大地になじみ、

そしてまた移動する。


それは約束の地で眠るため。


あるいは各地の植物たちを元気付けるためとも言われている。


伝説の地にあるという動かない、静のユグドラシルに対して、

動のトレントと呼ばれる存在であった。


時に複数のトレントが同じ場所にとどまると、

体に含まれた建造物と共に、森の迷宮と化すという。


トレントは歩く。


静かに、できるだけ地上の生き物を傷つけないように。




赤竜、レッドドラゴンが住まうムスペル火山。


元々、マグマにより暑いと言う言葉では生ぬるい温度の火口が、

その輝きを増す。


その日、近くの砦や周囲に住む怪物たちは驚いたことだろう。


轟音と共に、マグマが吹き上がる。


それでいて、あちこちに熱い塊が飛び散るようなことは無かった。


己の存在を知らしめるだけのような上空へのマグマの噴出。


そして、咆哮が響く。


それはいつかファクトが若い英雄と共に出会った相手よりも、

遥かに強烈で、強い物。


純粋な赤より、少し黒ずんだ赤。


その体躯は長年マグマで眠ることで、表面に

様々な鉱石の成分が付着し、それが色を作っているのだった。


おおよそ、人が武器1つ、魔法1つで挑むには

強大すぎると誰もが思うであろう体躯から、

赤い色の光が漂い、それは翼を開く。


昔、自分の分身ともいえる若い個体を卵として生み出して何年経っただろうか。


己に駆け寄るその若い竜を優しい瞳で見つめ、

巨体、成体のレッドドラゴンは昔を思う。


長い時を生き、思考を獲得していた彼女は多くを悟っていた。


であるならば、この力を生かして己の領域を広げるのか。


否、そうではない。


元より自分達はこの火山の力がなくては生きていけない、

ある意味脆弱な体であることを知っている。


火の番人であり、大地の力を確かめる試験者でもあるのだ。


今日も2頭は己が身を休めるマグマ、つまりは大地の力と

火の力を見守り、恵みを身に受ける。


時々、空を舞うときに何かに見つかったり、

火山に立ち入った相手と戦うことなど、ちょっとしたイベントなのであった。






嵐が吹き荒れる。


風が、雲を吹き散らし、雷が煌く。


その中を飛ぶ巨体。


となれば通称ブルーさん、ではなかった。


ウィンドスの苛烈な面が具現化したとも言われる空飛ぶ大鷲。


ひとしきり飛び、何かに満足したのか

大鷲は空中で静止すると咆哮する。


と同時に、雷鳴があたりに響き、

大鷲を照らし出す。


その姿はだんだんとふくらみ、いつしか鷲の頭を持つ人型になっていた。


ガルーダ。


いくつかのクエストにより、時に大鷲として、

時に人型としてプレイヤーが相手をする翼人。


その気質は自由そのもの。


眷属と己が空を飛び、旅が出来ればそれでいいのだ。


時々、嵐に他の生き物があってしまうかもしれないし、

獲物がかぶって喧嘩になるかもしれない。


彼らにとってはそれは、生きていく上で仕方の無いことだ。


今日もガルーダは空を飛ぶ。


己の自由を翼に。






大海がうねる。


そのうねりは海中までも巻き込み、

力が廻りだした。


良くも悪くも、海というのは命の宝庫なのである。


魚が泳ぎ、海草が流れに揺らめく。


海洋生物が多彩に泳ぎ、生きていく。


巨体のクラーケンが、別のダイオウイカそのもののような姿の巨躯が、

とある地で喧嘩のように争いだす。


後者はそのまま、設定の上ではダイオウイカというのだから

知っているものからするとある意味、ただの笑い話である。


そして別の場所では、マーマンが己の手を見つめ、

体の中から湧き出る新たな力を確かめ、国づくりに精を出していた。


自分らの王を導くために。


また別の場所では、上半身が美麗な女性の姿である存在が海に飛び込んでいた。


男性という種別が無く、女性のみで構成されるマーメイドと呼ばれる種族。


長年、とある海中遺跡で眠り続けた彼女らは目覚めた。


長い寿命を持ち、人と考え方の近い彼女らは海辺を好んで住む。


上は長老と呼ばれる老女から、

下は幼女然とした少女まで。


太もも付近から下が魚のようなそれであることに目を瞑れば、

噂のサキュバスより彼女らを選ぶという

人族が多いことで有名な美貌と体を武器に、

今日も彼女たちは海辺の男を誘う。


もっとも、無理やりではなく互いに好みであれば、

というのだから陸の女性たちも苦笑するしかない。





別の土地ではドワーフが真剣にハンマーを振るっていた。


昨日から、炎が変わり、石が変わり、

物が変わったからだ。


それは一族に伝わる秘術の再現が可能であることを示している。


出来ることならば、己の修練と努力の果てに、

たどり着きたかった領域ではあったが、

失われたものが復活するのであればそんなプライドはひとまず横だ。


自分たちの作った武器が、罪の無い命を貫き、

防具が下賎な相手を脅威から守る。


その可能性はあるものの、それはいつだって同じだ。


道具は使うもの次第。


技術を高める事が目標であり、生き方。


ある種の割り切りと、託す相手を選ぶことで

それを少しでも減らそうとする感情とを同時に抱えて、

今日も剣を作り、槍を作り、背中に背負う。


子供も出来た。


だから稼がねばいけないのだ。


そうして職人は、今日は山を抜けて街に出る。


昔、自分が武器を譲った相手の子供がいるという話を思い浮かべながら。






静かに目を閉じるエルフ。


エルフだけは、多くは変わらない。


元々、長老の考えを元に日々を過ごしていたからだ。


探求と実践。


その効率と、見える先が変わっただけに過ぎない。


動き出したというトレントの1つに移動し、

住む事にしたという同胞もいるとは聞いていた。


森の探求者である己の役割を果たし、

悩めるものに答えを与える。


耳に響く、若い子供たちの声を心地よく思いながら、

今日もエルフは瞑想にふける。






亜人、コボルトやゴブリンのような存在や、

多くの怪物たちはもっとも変わらなかった種族といっていいだろう。


元より多くの知性は無く、自分の体に生じた変化を感じ取ることもほとんど無い。


今日もまた、他の怪物同様、己の生きるため、

満足するために他のものに襲い掛かり、糧を得る。


それは人間相手でも変わらなかった。






「構え!」


部隊長である男の声が、修練上に響く。


王命を受け、全身全霊がまさに似合う姿で、男は号令を飛ばす。


その号令に従い、選ばれた兵士達が剣を、槍を構える。


見た目の問題もあり、軍の武器といえば剣か槍か、弓なのだ。


目の前に集められた兵士は剣か槍を持つ。


「スキル準備、始め!」


教えられた方法を元に、各々が気合を込めていく。


それは魔力。


魔法使い以外は意識したことの無い力が、

魔法の才能が無いはずの彼らに新たな力を与える。


「放て!」


更なる号令と共に、振りぬかれた武器が、

一瞬ぶれたかと思うと別の場所に突き出された。


ファストブレイク。


ゲームであれば、ほぼ全てのプレイヤーが

初期に習得し、使用したことのあるスキル。


どよめきと、驚愕の気配。


数にして集まった兵士のおおよそ2割という人員が、

スキルの発動に成功していた。





人も変わり、怪物も変わり、世界が変わっていく。


失われたときを取り戻すように、

色が失われた景色が色を取り戻すように。


それには例外は無い。



人が普通には認識できない上空で、光があふれる。


光りを放つ翼の主が、卵のような光の塊から再び蘇った

自らの体をその手で確かめ、遥か下に生きる命達に微笑む。


祈りの限り続く、繁栄と営みを約束するために。



自ずから地下深くから浅い位置に出てきていた闇が笑う。


このまま細々と、からめ手で挑むのも面白いが、

昔のように堂々と行くのもまた一興。


今の場所から西となる大陸に生きる命を感じながら、

己の役目である世界の終わりを狙いながら。




全てに平等に、今日も、明日も、時間は過ぎていく。

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