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154-外伝「人じゃらし-2」

「テラン、荷物は重くない?」


「全力で走るのは大変だけど、動く分には大丈夫。

 重さよりも量があるのが気になります」


つかず離れず、小休止気味に相手との

距離をとりながら、7人は進む。


いつしか周囲は茨のような物から、

どこにでもあるような森へと変わっていた。


時折、巨木に身を隠しながら7人は相手を追う。


道中、キャニーとミリーは5人の様子を見ながら周囲を警戒している。


動物どころか、虫もほとんどいない。


そのことに気が付いたとき、この場所が普通の森ではないと

警戒を深めたためだ。


そんな中、キャニーは一人の魔法使いの少女を気にかけていた。


彼女は、自分は飛んだり跳ねたりしないので、

と依頼のための荷物を持つことを選んだからだ。


キャニーたち7人はこれまでに2つの依頼をこなしている。


1つは半月草の採取。


丁度空に浮かぶ月が、名前どおりに

半分ほどの時にしか花を咲かさない不思議な物だ。


上手く草に含まれた魔力のバランスが取れているのだといった

研究がされているが、冒険者にはその情報は広まっていない。


要はいつ取れて、どんな薬になるか、

それがわかればいいのだから。


半月草は地球で言う風邪薬のような役割を持つ、

一般の人々にも馴染みのある薬草である。


普段は雑草にまぎれており、半月のときにしか

見分けがつかないことでも有名である。


ファクトであればアイテムとしてのステータスを見ることで

平時でも採取できるかもしれないが、この場にいる誰もがそれは思いつかない。


半月草は意外とかさばり、重さはともかく荷物を入れるための

リュック型の袋がすぐ一杯になってしまうことでも有名である。


稼ぐにはかさばることで数は取れず、

かといって量が足りなければ冬に困ってしまう。


そのため、月に1度は冒険者が採取の依頼をこなしに夜にでかけるのだ。


丁度よい需要と供給、といえるだろう。



「ウルフの牙はそのまま各自でいいとして、

 少し持ちますわ」


同じく距離をとって戦うタイプのマリューが返事を待たずに

テランが背負ったままの袋の口を開き、

自らの布袋にぽいぽいと中身を放り込んでいく。


下処理をすれば日持ちもし、季節を越えて備蓄できる半月草ならではの扱いであった。


そう、もう1つの依頼は街道沿いに出てきたグレイウルフの退治。


居場所が決まっておらず、遭遇したら退治する、

そういう依頼であり、道中で早めに遭遇できたのは幸運と言えるだろう。


駆け出しには少々荷が重いと思われた討伐依頼であったが、

キャニーはもとより、ミリーもほとんど手を出さずに成功していた。


相手の群れが小さく、たまたま食事中ということで

個別に撃破出来たことも大きいだろうが、

各自の特技が上手くかみ合っているのだろうと姉妹は見ている。


(それはいいとして、そもそもアイツ……何なのかしら?)


茂みに身を隠し、キャニーは遠くを行く影を見る。


「普通の怪物ではないわよね」


「うん。襲ってくる様子はないけど、こんなのを何個も落としていくなんて、

 どう考えてもおかしいと思うな」


隣り合う妹へと問いかけるキャニーに、

ミリーは何個も拾った魔石らしいと判断している石を

袋の上から撫でながら答える。


そう、道中何かを食べるようにごそごそとした後、

必ずこの石が落ちているのだった。


鑑定する技能は誰もまだ持っていないが、

何らかの魔力を帯び、色々な媒体に使えそうなぐらいはわかっている。


そう、つまりは金目のものである。


心なしか、若い5人が浮かれているのを姉妹は目ざとく感じていた。


今のところ、他に怪しい気配はないとはいえ、

ここは自分たち人間の領域ではないということを

良く考えなければいけないと考えていた。


なおも気配を探ろうとして、キャニーは眉をひそめる。


(あれ? 横にもいる?)


さっとその方向を見るも、何もいない。


念のために見えないようなスピリット系統の相手がいるのかと

改めて確認してみるが、やはり何もいない。


「やっぱり、何か変だ」


「ミッツ、何か見つけたのか?」


ささやくように、別の茂みに隠れていた少年2人が

キャニーの感じた何かを補強するように騒ぎ出す。


「見つけたというか、見てみろよ。この足跡の数。

 1つや2つじゃない。どう見ても人間の足跡だ。

 だけどよ、この場所や、アイツの話をギルドじゃ聞かなかった。

 どういうことだ?」


ミッツの指摘に、全員がはっとなって周囲を見渡す。


「確かに、こっちにもありますわね。でも、だいぶ古いですわ。

 しっかり固まってしまっていますもの」


マリューがそっと足跡に触り、昨日の今日ついたような

足跡でないことを確かめる。


「うう……何かお化けの話みたいだよ……早く斬って終わりたい」


アリスはぎゅっと抜いていない剣の柄を握り締め、

遠くを進む妙な影をにらむ。


「ダメだよアリス、まだアイツがどこに向かっているかわからないんだから」


そんなアリスを、リックが丁寧に止める。


怖がりなところのある少年だが、

だからといって引っ込み思案というわけでもない。


彼も、冒険者なのだ。


だからこそ、気が付けた。


冒険者の基本。


どこから襲われるかわからないのだから、

ないと思う方向にも気を使え。


探索時の基本ではあるが、

万が一であるが故にベテランほど見落としやすい。


実際、ほとんどの戦闘はそんな確率の低い場面からは始まらないからである。


葉っぱが一枚、リックの前に落ちてくる。


森の中であればなんでもないような出来事。


その葉っぱが妙に青かったことに気が付き、

リックはふと、顔を上げる。


ぶら下がるような枝もない、巨木。


遠くに陽光が煌く森の中、

ソレは巨木の幹に張り付いていた。


目線が合うのが先か、落ちてくるのが先か。


カエルのような、ボールに手足が生えただけのような

不気味な半透明の肉塊が舞い降りてくる。


全員の回避には間に合わない。


少ない経験からも、リックは思考を置き去りに判断し、

槍を構える。


「貫けぇぇぇえええええ!!!」


スキルはこの世界ではレアである。


手引きのようなものが失われて久しい時代、

再現できるのは才能ある人間だけであった。


だがそれは、あくまでも何もヒントなしに

繰り出せるかどうかの意味である。


「リック!?」


少年の叫びに、慌てて他の6人が武器を構える中、

風が舞い上がるように落ち葉ごと、

衝撃が上空に突き進む。


初級槍スキル、ドラゴンアッパー。


得意な属性により、プレイヤーごとに

特徴を持った色を龍が帯びるというスキルである。


中級、上級にも系列の同じスキルがあり、

高レベルほど龍は太く、時に双龍となるという。


魔力が龍の形を取り、落ちてくる影を迎撃する。


悲鳴も上げず、不気味な影は水色の小さな龍に

絡みつかれて地面を転がっていく。


リックの住む村は、かつて精霊戦争で槍を振るったという

戦士が築いた村であった。


若者のうち何人かは同じ戦士を志し、特訓の日々を送る。


日が昇り、暮れるまで延々と繰り返されていく槍の型。


それが今、努力の果てに花開く。


「我が導きに従え! マジックアロー!」


「ふっ!」


近接武器で挑むには少し距離が開いたところで、

テランの魔法と、マリューの弓がほぼ同時にその影へと襲い掛かる。


ビクンと、痙攣したかと思うと7人の視線の先で

不気味な塊は動きを止め、溶けるようにして地面に消えていく。


「はー……はー……やりましたか?」


「ええ。やったみたい。リック、お手柄よ」


気配が一切なく、魔力の乱れすら感じられなかった中、

まさに奇襲であった。


「今はこれも魔力を感じる……隊長、相手はまさか」


「みたいね。魔法生物。しかも複数いるわ」


崩れていった塊の跡に、ミッツが歩み寄るとそこには

魔石らしき石がいくつも転がっていた。


キャニーは右手にシャドウダガー、左手にはアイスコフィンを構えることで

警戒を促す。


その視線の先では、歩く音もなく、影が増えていた。


「……そういうこと。ミリー」


「迎撃準備。警戒は密に」


キャニーは深く、息を吐く。


ある意味明るい、冒険者の先輩から、

生き残るための意識へと自分を切り替えるのだ。


「戦いですか」


見るだけで重量を感じさせる長剣を抜き放ち、

アリスがずずっと前に出る。


一撃の威力においては、

既にアリスは姉妹を超えている。


それは既にグレイウルフとの戦いで証明されていた。


「隊長、後ろにはいない。前のあいつらだけみたいだ」


「上にも見えませんわ。何も気配がないというか、

 なんですのこの……まとわりつくような感覚は」


ミッツとマリューが、羽虫を追い払うように首を振るが、

それは他の面々も同様であった。


「ダメ……あちこちから感じるから上手く誘導が効かないです。

 この感じ……場所のせい?」


「そうね。ミッツがさっき見つけた足跡もそう……誰も戻っていないのよ。

 ここは、巣穴ね。あいつらの。私達はまんまと誘い込まれたわけよ」


魔石を餌にしてね、と忌々しく足元の小石を蹴り飛ばすキャニー。


そんな小石ですら、恐らくは僅かながらも魔力を帯びている。


そうキャニーは直感していた。


「こ、ここで負けるわけには行きません!」


「リックというとおりですわね。やれるだけの事を

 精一杯やらなければ。ところで、さっきの技はリックの切り札ですの?」


ナメクジが這うように、ゆっくりと遠くから何故か迫る半透明の姿に、

槍の切っ先を向けながら構えるリックに、

寄り添うようにしてマリューが弓を構える。


下手に先制はせず、タイミングを合わせるためにまだ矢は射ってはいない。


「そのはずです。成功したのは初めてなので、よくわからないですけど」


「なんでもいいよ。戦って生き残れるなら、それでいいと思う」


普段のドジ具合はどこに消えたのか、

アリスが剣を構えたまま、そう答える。


魔法を使うテランと、弓のマリューを囲むように陣形を組み、

上空からの攻撃にも警戒する7人。


そして間合いに入ったのか、いくつもの不定形だった半透明の何かが、

ワーウルフのような姿をとって7人に襲い掛かるのであった。

スキル覚書


・ドラゴンアッパー

槍熟練10から覚えられる初級スキル。


初期は対空攻撃のみの使いどころの限られるスキル。


途中の別スキル及び熟練一定以上で

角度の調整が可能となるため、

少し背の高い相手の頭部を狙う、といった使い方もできる、

プレイヤースキルによって化ける技の1つ。


プレイヤーの一番得意な属性にボーナスがかかり、

半透明のアジア風の龍が見えることでも人気がある。

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