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00「目覚めの前、その日々」

・お知らせ


異世界でのファンタジー物、になるはずなんですが

こういったタイプでの執筆は初めてなのでよろしくお願いします。


戦闘無双、は無い予定です。


初めまして。

世界観説明を先に持って来たら1話目は移動できませんでした。


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「これで10本目完成っと」


そう広くない工房、その中に自分の声と甲高い金属音が響く。

目の前には一振りの剣、ゲーム内ではクレイモアと呼ばれるモノがある。

周りを見渡せば様々な武器、防具が工房内の照明の光でその威力や頑丈さを誇示するかのように光っている。


(今日は珍しく失敗ゼロだったな……何が違った?)


自分以外には誰もいない工房の中、

一人空中へとステータスウィンドウを開きながら様々な数値や情報を確かめる。


視界の一番右上に光る文字、いかにもファンタジー、な

そのままでは読めない文字列は【マテリアルドライブ】と読むはずだ。

ゲーム内なんかじゃ、単にMDと呼んだりもする。


探せばどの文字がどう読むか、をまとめたサイトがあるはずだがそこまでは気にならない。意識すればなんとなく、その意味がわかるからだ。


備え付けのフリースペース、攻略用のメモのような部分にまとめた情報を放り込み、

クレイモア達を全て虚空のアイテムボックスに収納して立ち上がる。

外に出て販売の準備をするためだ。


ドアを開け、外に出る。


直後、コンピューターに再現されたとは今も納得しがたい日差しそのものが俺に降り注ぐ。


耳に届くのは街中の喧騒、どの地域が効率がいいだの、レアを手に入れただの、どのゲームでもありがちな当たり前の話。


後ろを振り返ればどこにも今までいた工房の扉どころか、工房の形は無い。

ファンタジー世界にありがちな、石と木材による住宅街のような街角があるだけだ。


それはこのゲームのシステムである、キャンプと呼ばれる物に秘密がある。


システムメニューにあるそれを実行すると移動できる空間は、

俺のように鍛冶、所謂アイテム作成を行うタイプには工房、

剣士のようなタイプなら小さなジムの様な設備を備え、

魔法を使うタイプなら瞑想をしたりする部屋が備わるといった個人用スペースだ。



ゲーム内のアイテムである程度レイアウトを変更できるし、クエストを達成すればより効率の良い設備に変える事も出来る。


当然戦闘中には実行できないし、街の外で使う時にはいきなり戦闘にならないように

注意して外に出る必要がある。


ただ、キャンプ中は襲われないし、一緒に入ると意識した他プレイヤーも一緒に入れるから作戦会議や戦闘準備には便利なシステムである。


そもそも、【マテリアルドライブ】は無駄に歴史の古いネットゲームである。


初期にはクライアントプログラムを実行し、

モニターに表示されるウィンドウ内でゲームをプレイするタイプの

オーソドックスなMMORPGだった。


ひたすらマウスを操作し、キーボードを叩き、椅子に座ったお尻の位置を気にしながらプレイするタイプだ。


時代は進化する。

ゴーグル型のモニターが出現し、アクションやスポーツゲームにおいては指の動きを感知して操作するグローブ型等が出現していくことで環境は変化する。


一時期はゲームをするにも体力がいる!なんていうはた迷惑なシステムも出来たが、自然と淘汰されていった。


そしてついに出るのはよりリアルな感触の仮想現実であった。


360度、走る感覚まで実装したソレはある程度以上の痛覚等は娯楽に適した物、なんとなく痛い、なんとなく熱い、といった具合のぼかしたものではあったが、ファンタジー世界に行けば濃密な自然の臭いを感じ、その壮大な景色に全身で圧倒され、そして、戦いも興奮を呼んだ。


速度を活かした戦いで読み合いを楽しむ者、重量感のある武器で力自慢を楽しむ者、様々だ。


【マテリアルドライブ】もそんな世界に追いつくように、運営は完全リニューアルとしてスキルや魔法、Lv等のステータス、1部ユニークアイテムのみに限ってのコンバートか、優遇アイテム満載による新規参加を旧MDにて告知した。


俺は前者を選び、新しい世界での生活を始め、1年になる。


リアルでの俺は特に不便の無い社会人だった。

なんとなく仕事をし、帰ってきてはログインする。そんな生活。


このゲームには様々な生き方がある。

単純に剣士として戦闘系スキルを究めていく道、

魔法使いとして魔法とそのスキルを求める道、

自分のようにアイテム作成、主に武具……のスキルを鍛える道。


とはいえ、わざわざ仮想現実に来たのに地味に工房に篭ったり、アイテムが売れるのを待つことが楽しいと思えるプレイヤーはそう多くは無かったようで、ほとんどは戦闘をするタイプのプレイヤーだった。


このゲームにメインとなる職業、は明確には無く覚えた魔法やスキルで結果的に称号のように職業が決まる。


素材を確保するために最低限の戦闘スキルや魔法を覚えたが、ほとんどは鍛冶やその他のアイテム作成関連のスキルに費やしている俺はそのままずばり鍛冶職人(マテリアルスミス)となっている。


仕事から帰ってきては黙々とアイテムを作り、販売の為にログインしたまま放置する。

休みの日にはひたすらLv上げ。

そんな生活スタイルだったが、自分はこのプレイスタイルが気に入っていた。

旧MDのβ時代からプレイを続けている俺は

コンバートを選ぶことでそのまま移行し、

接続時間やゲーム内知識、アイテムの作成回数といった物だけは恐らく

ゲーム内でもトップクラスだろう。

Lvも、長年地道に稼いで来た為に高いと言って良い。

無論、戦闘能力はLvに比例しない物だが。


トロフィーがあるわけではないが、メニューに浮かぶそれらの数値を眺めたり、

旧時代からの馴染みなプレイヤーとオンライン時には雑談をしながら武具を修理してやり、欲しい武具を受注する日々。


確実に増えるスキル経験値とゲーム内資金。

これが現実だったら、とありきたりな妄想もたまにはした。


それに変化を与えたのはゲーム内でのアイテム作成に関するシステム変更だった。


それはリニューアル後、三ヶ月ほどが過ぎた頃、

運営から変更が明記されたわけではないので今も真実は不明だが、

ある日のアップデートから世界に悲鳴が響いた。


ほとんどのプレイヤーがアイテム作成に失敗しだしたのだ。


なんでもないようなシステム売りされているような武具、回復薬等は

大きく変化しなかったが、強力な物や属性付の物といったような武具や

パーティー全体を癒すようなアイテム等が作れなくなった。


正確には作れなくも無いのだが、その成功率は極端に下がった上に

武具はその耐久性も大きく減らした。


いうなれば、粗悪品になったのである。


これまでは明らかに無理な行動をしなければ壊れなかった武具が強敵を相手にしたり、変な使い方をするとすぐ壊れるようになったのだ。


俺自身はゲーム内のインフレ対策であったりするんじゃないかと思っているが真実は定かではない。


結果、戦闘プレイヤーの所持金の使い道として武具が消耗品扱いになることで

街中の商店や、プレイヤーの露店が候補として加わることになる。


プレイヤー達の試行錯誤の上、とある事実が判明する。

高Lvに加え、アイテム作成を長くやっていたり、職業がその方面だと失敗する確率が減少し、

比較的耐久性の高いものが出来上がることがあったのだ。


Lv以外は単純にスキル直結というわけではなかったために、

時間帯が関係するんだ、だの、実際に作る工程を再現するんだ!などと様々に仮説が産まれ、検証されていった。


結果、ほとんどは外れだったが確実なのはたった1つだった。


それは実際に作るような行動をすること。

ポーション類ならゲーム内文献通りに薬草達を集めるといった具合だ。


この事実に自分を含めて、作成をメインにしていたプレイヤー達の動きは早かった。


すぐにリアルでの文献をコピーしてきたり、ゲーム内のNPCが口にする武具の作り方等を確認し、実践したのだ。


そこで生じるのがLvの問題だった。


当然、戦闘系スキルや魔法に乏しい生産者達のLvは殆どが中堅以下、

その戦闘向きではない構成からはすぐに上げようと思っても上がるものではない。


かといって俺のように高Lvのプレイヤーとて、

1日に大量かつ無限に生産できるわけではない。

自然とLvに応じた生産品を作るという暗黙のルールが作られ、

ゲーム内の経済は新しく循環を始める。


そしてやってくるオファー、端的に言えばRMTによる専属願いだった。


だが俺は断った。RMTのお誘いは来なくなったが、次は依頼が激増した。

オンライン時でも延々とやってくる依頼やメールに辟易した俺は

外部にサイトを立ち上げ、受付のような物を作って受注を管理することにした。


そのサイトが自動的に広告の載るタイプだったのは

俺が選んだわけではないが、利用者はそう思わなかったようだ。


最初に何かの請求書かと思った書類を見た俺はそこに記された

収入となる数値に歯ブラシを咥えたまま部屋で声を上げた。


適当に1人で生活するには生活必需品だけなら

まあ、なんとかなる、という数字だったのだ。


無論、高額商品をまとめて買うからなんとかしろ!というような

依頼にはお断りを添えてメールするようにし、利用者にも

気まぐれだから変に買わなくても良い、とは通達することにした。


だが、減らない。


どうやら俺が思っているよりある程度以上での

武具枯渇は深刻なようで、ユニークボスに店売りの装備で突撃したギルドがいる、

といった話も後で聞いた。


どちらかというと、お世話になってるから生活品を購入した、というようなプレイヤーが多かったのも俺の後押しをした。


なんの事かと言うと、仕事を辞めたのだ。


ダメならまた何か始めればいい、そう思いながら数ヶ月。

ゲームに集中していくと面白いように依頼が舞い込んだ。


定期的に作成し、販売することで自然と収入が安定し、

寝たきり老人のようになってしまわないようにリアルの運動以外には

殆どがプレイ時間に当てられるような生活が続いた。


作成が進めば経験値も貯まり、スキルLvも上昇し、

そして効率も上がり、と自然と対応できる依頼も増えていった。



「こんちゃっす」


昔のことをそんな風に思いながら、

俺はいつもの露店場所へと向かい、馴染みのプレイヤーの傍に立ち、

適当に声をかけてから露店を展開する。


絨毯のような何かの上に木箱と机、椅子、そして武具立てといった具合だ。


「今日はどのギルド用だったんだい?」

「あー、なんだっけ、銀狼うんたらだったはず……」


アイテムボックスから販売に回せる余剰品から

適当に選び、剣や盾、槍などと出していく。


最近は特定の団体から一式の受注を受け、時間的に余った物を

露店で売る、という感じなのだ。


「そうか、銀狼師団もついにボスを狙うのか」


如何にも行商人です、といった風貌の顔をしたプレイヤーは

自分の露店の在庫、ポーション類を眺めながらウィンドウを操作している。


恐らくは自分の商品の何が売りつけられるかの算段だろう。


「これ耐久いくつですー?」

「お、いらっしゃーい」


若い声。

振り向けば少女。装備からして剣士タイプだろう。


「これっていうと、お嬢さんだとショート? ロング? ショートは……」


説明をしながら、最初のお客さんが女の子とは今日はきっと運が良い、

なんてことを片隅で思うのであった。



 


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