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152「廻る銀の力-7」

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不思議な空間から戻ってきた世界。


それはまるで荒れ果てた大地が、

洪水の後に肥沃なものになっているかのようだった。


呼吸するたびに、体を力が廻るのを感じる。


この大陸で起きている変化の一端を感じながら、

気を失って倒れているイリスを揺り起こす。


「う、今のはなんだったんだ……? ふあっ!?」


目を覚ましたイリスの、驚愕の声にはいつもの冷静な様子は無かった。


(ちょっと可愛かったな。いやいや、それどころじゃないか)


イリスが何に驚いているかはわかる。


例の眼鏡をつけたままだからだ。


「それははずしたほうがいい。眩しいんじゃないか?」


「ああ。眩しいとまではいかないけど、あちこちに金が転がってるような気分だよ」


イリスは眼鏡を胸ポケットに戻すと、ほっとした様子で辺りを見渡す。


その表情は驚愕へと変わり、そして何かに納得した様子となっていく。


「なるほどね。君がとんでもないことをしたのはわかるよ」


「なんだかイリスとは会うたびに変なことをしている気がするな」


そういえばそうだと、2人して笑いあう。


そして、マイン王にも説明をしなければと思い出し、

ちらりと像に目を向けながらも歩き出すのだった。




外は既に夜だった。


思ったより時間が過ぎているようだった。


闇が廃墟を包み、空に浮かぶ月明かりが

幻想的な影を生み出している。


建物を出、長い階段を下りていくと

王達が過ごす天幕の灯りが見えてくる。


一見同じように見える天幕達だが、

俺にはその1つにマイン王がいることがわかった。


ちゃんと分析したならば、襲撃されにくく、退路の確保された配置の物となるのだろう。


俺は、以前PTを組んだときに感じた魔力の波動とでもいえばいいだろうか?

そういったものを感じたからそこにいるだろうとわかったのだ。


あちこちが崩れており、まっすぐ進めない状態なので

儀式を行った建物からは歩いて20分以上はかかる距離だが、

ここからでも周囲を騎士達があわただしく駆け回っているのがわかる。


「あっ! ご無事でしたか! 王が戻り次第、来るようにと」


「ああ、案内してくれ」


ようやく近くまで来たとき、見知った顔の騎士が俺に駆け寄り、

伝言を伝えてきてくれる。


本当は案内が無くても大丈夫なのだが、

そこはそれである。


入り口を固める兵士に視線をやりつつ、

案内を受けた天幕の中に入る。


すぐに入り口が閉まり、中はランプらしい光で満たされた空間となる。


入り口が閉まると、外の喧騒もだいぶ遠くにいったように思えた。


荷物の中にあったのか、立派な机と椅子。


マイン王はそこで何かの書面を書き上げているようだった。


「少し待て。……よしと。それで? 今度は何をどうしたのだ?」


にやりと、若い冒険者のような笑みと瞳でマイン王が体を乗り出してくる。


「簡単さ。疲れていた世界に栄養剤ごと活を入れたのさ」


そういって、純ガルド銀貨を1枚、指ではじいて王の下に飛ばす。


危なげなくそれをキャッチしたマイン王は、

銀貨と俺を見比べると、うつむいた。


「ん?」


「くっくっく……ははははは!!!」


かと思うと、お腹を抱えてのけぞるように笑い始める。


(やばい、何かまずかったか?)


俺がそう思うのも無理は無いと思う。


仮にも王様が、何か壊れたように笑い始めたからだ。


その異変に、慌てて天幕が開き、騎士達が顔を出す。


剣の柄に手をかけている騎士も数名いる。


どうみても臨戦態勢です、ありがとうございます。


漫画のように内心、冷や汗をかいている空気の中、

どうしたものかというところで王の笑いが止まる。


「よい、あまりの愉快さにな。それより、月が天上に来る頃には戻る。

 泊りこみの慣例は中止だ。すぐに国全体が忙しくなる」


王の指示の元、周囲の騒ぎが大きさを増す。




「ふう……これで納得がいった。礼を言っておこう。相当数の銀貨を使ったのだろう?」


「大した量じゃない。俺にとっては」


驚きに表情を一瞬変えたマイン王だが、すぐに表情を真面目なものに戻し、

遠くを見るように視線を変える。


「魔法を使うものや、見えていたものから報告が次々と上がってきた。

 曰く、世界が祝福を取り戻したとな。なんのことだか最初はわからなかったが、

 外に出てすぐ、空を見て判明したのだ。見たか?」


俺はその言葉に首を横に振る。


そういえば気にしていなかった。


「私は見ていたよ。明らかに結界だ。しかも、強力な」


ずっと黙っていたイリスは、頷くようにしてそう言う。


「うむ。元々この遺跡を覆っていた不思議な結界なのだがな、

 明らかに変化した。間違いないだろう」


自らも各地を冒険したことのあるマイン王だ。


古代の遺跡や、それに付随する物も多く見てきたのだろう。


断言する様子からもその自信が伺える。


「多少ながらも魔法を使う術を身につけている。

 そんな経験から言っても、精霊様達に何か良い事があり、

 その力を取り戻したのだろうと判断をしたのだ」


そういって、さっきまで何か書いていた書面を見せてくる。


そこには、少なくともこの国が

精霊の祝福を取り戻したのではないかということ、

自分たちも力をつけるが、怪物どもも同じだろうこと。


一刻も早く新しい力を把握し、各々尽力すること。


そういった趣旨のことが書かれていた。


これを戻り次第、全国に配布するのだという。


同時に、本当にそうであるという証拠固めに

あれこれと検証する予定なのだとか。


状況だけでここまで判断できるのは物凄いことだ。


ヒントは多少あるといえばあるかもしれないが、

それにしたって完璧すぎる。


「オブリーンには精霊が決して人間だけの味方ではないことが

 ちゃんと伝わっているんだな」


「無論。あくまでも大地であり、空であり、それらの恵みであると考えている。

 マテリアル教の原点でもあるからな。

 さて、ファクトよ。今、魔法はどう使う?」


王からの唐突な質問。


真面目なままの表情での問いかけに、俺も自然と引き締まった感覚になる。


魔法……魔法か。


「正しく、もしくはそれに近い詠唱をして、魔力を込めて最後の言葉を発して、

 それで魔法が発動する、と考えているが……」


俺が言うのはあくまでこの世界で出会った魔法使いの場合、であるが……。


というか、俺の場合は詠唱をまともにしたことが無い。


設定上の詠唱は結構覚えているのだが、

使う必要もないし、本職ではないので

詠唱をわざわざ口に出して雰囲気を楽しむようなプレイもしてこなかった。


切り札だけは例外だ。何せゲームタイトルと同じなので、

名前だけで発動だと色々と不都合があるかららしい。


(ん? まてよ?)


その違いに気が付いた俺が口を開くより早く、

頷いていた王が喋りだす。


「うむ。そのとおり。だが、城に残っていた昔の魔法使いの手記によると、

 詠唱は必須ではなく、むしろ呪文名のみの発動が一般的であったとあるのだ。

 それは戦争を境に徐々に変わっていく。だんだんと、精霊に力を貸してもらうのに

 必要な言葉が増えたということのようだな。それが変わったのだ」


王によると、慌てた魔法使いの1人が、詠唱無しに魔法を使おうとしたらしい。


極々普通の、魔法の灯り。


それでも本来は必要な詠唱を省いた、発動しないはずの

それは、見事に発動したのだという。


「なるほど……」


その後、騎士からの報告内容を聞いたところで

準備が出来たことが知らされる。


予定よりかなり早い形で、俺達は王都への帰路につくのだった。



早馬の伝令により、王都に知らせがいったようで、

真夜中だというのにかがり火と魔法の灯りで

都の入り口は明るさに満ちていた。


王からの指示を受けた騎士や文官らしき人々が

あちこちに走っていく。


「随分と大事になりそうだねえ」


「人事じゃないさ。俺はもとより、イリスもあれを見てくれこれを見てくれ、

 って忙しくなるんじゃないか?」


ちらりと横を見ると、何度か見た覚えのある文官らしき人が

何人も集まり、立ったままで会議のように話し込んでいる。


余り邪魔をしてもいけないと思い、その文官の一人を捕まえて

自分達は一度戻っていいかを確認してみる。


すると、王からは城内にいてくれるように希望されている事がわかったので、

イリスが与えられているという研究室兼私室にお邪魔することにした。



どこか騒々しい城内を2人で歩き、

一角にある部屋へと入る。


「これはまた……色々とあるな」


「まあね。半分ぐらいはまだ未鑑定だから、

 本当はここに置いておいていいのか、わからないんだけれどもね」


壁際や、籠に入れられた雑多な品。


ざっくりと3割ほどは変な気配も、

有用そうな気配もしない、普通の骨董品に見える。


他は大なり小なり、魔力のこもった物だ。


中には攻撃魔法が発動するものや、

スキルが発動するような遺物があるのかもしれない。


「これも遺物でね。お湯が冷めないんだ、便利だろう?」


「ああ、そうだな」


出されたお茶は湯気を立てており、とても今帰ってきてそのまま

注がれたものとは思えない。


便利なものもあるものである、というかどう見ても所謂魔法瓶……。


アイテムボックスに入れているアイテムに

変化が無いことを受け継いだ遺物……なのか?


「さて、私ですらどうも落ち着かないぐらいだ。

 冒険者や、軍はとんでもないことになっているだろうね」


「微妙なところだな。変な感じはしても、実際に体験できるのは恐らく、

 一部の魔法使いだけだろうさ」


俺はそういって、適当な遺物候補を手にとって眺める。


ソフトボールのような大きさの、青い球体。


半透明のその球体は、部屋のランプの灯りでほんのり光っている。


(げ、攻撃魔法が発動するっぽいな)


アイテムの情報は文字化けしてほとんど読めないが、

かろうじて読めた部分にはアクアボムとある。


水・氷系統の魔法で、寒い場所や水分の多い場所だと威力が

自動的に増すという設定があったはずだ。


イリスも使っているらしいメモのような茶色い紙に、

攻撃魔法の遺物可能性あり、取り扱い注意と書いておく。


「その鑑定も気になるけど……どういうことだい?」


「ああ、多くは精霊が見えるわけじゃない。魔法だって、

 わざわざ詠唱を省いて唱えようなんて普通だったら思わないだろう?

 だからすぐにはわからないさ。別の意味では騒がしくなるだろうな」


俺はそういって、残りのメモの1枚を拝借し、

適当に怪物っぽい絵と、人の姿を描く。


「人はいつもと変わらない。でも怪物はそうではない」


ささっと、人から怪物へ線を1本。


逆に怪物からは太い線を1本。


「例えば火を吐く怪物がいたとする。奴らの火の玉がでかくなっているだろうさ。

 無意識に精霊に助けを求めてるからな。対する人は、意識していかないといけない。

 なにせ、自分から今までどおりでいいような行動をするからだ」


120出せるようになったことをちゃんと知らなければ、

学ぶ生き物である人間は、敢えて100以上出そうとは思わない。


気が付くのは、全力で、つまりは具体的なラインを設けず、

限界一杯まで魔力を使うような魔法を使ったりする状況の人間か、

未熟な魔法使いの方が多いのではないだろうか。


今、マイン王がやろうとしている事はそれを上手く解決する事が出来るかもしれない。


要は、王様直々に

『お前たちは今、精霊の祝福を受けて強くなった。だから力を出せ!』

と命令されたようになるからだ。


そう簡単ではないだろうが、

このまま何も説明が無いよりは確実に影響を与える。


もしかしたら、今失われている魔法や、

スキルに目覚める人間が増えてくるかもしれない。


いずれにしても、前々から考えていたアレが役に立つ日が来たのかもしれない。


結局その夜、王からの呼び出しは無く、

途中で伝令から協力してほしい事があるので

このまま城にいて欲しいということが念押しのように

伝えられるだけであった。


「何を書いているんだい?」


「ん? 秘密だ……中身を知ったら、

 戦争が今にでも始まるかもしれないぞ」


イリスの問いかけに、俺が笑いながら答えると、

彼女は冗談だと思ったらしく、もう寝るよと別室に向かった。


俺は一人、月明かりとランプの明かりに照らされる中、

黙々と書き起こしていく。


その中の1つにはこうある。


─ファストブレイク


近接武器で使用できるとされる攻撃スキル。


主な使用武器は片手剣、小剣、手斧、ナイフ、棍棒等。


習得条件、

クルーミアの実を普通の鉄の棒で適切に砕けること、

一刻の間に武器を左右に80~100回振れる速さ。




そう、スキルの解説書もどきであった。


・クルーミア

クルミ。魔力を多く含んだ場所だと大福ぐらいの大きさになる。

転がりやすい形をしているので、

完全に固定してから叩くか、

丁度いいところを思いっきり叩くことが必要。



一刻=1分ぐらい


大陸のモンスターが3から5に強くなるとしたら、

元々1や2だった人間が3や4になり、

魔法やスキルを得ることで6や7にも

なれるかもしれない、そんな状態です。


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