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151「廻る銀の力-6」

ジャラジャラと銀貨の落ちる音が教室もどきに響く。


それはまるで、時計の代わりのようだった。


いつの間にかその音はまたどこか遠くから聞こえるようになっていた。


何年ぶりだろうか?


一人用の椅子と、セットの机。


視線の先で、精霊は何かの講義というよりは、

本を朗読するかのような声で喋りだす。


それは色々と衝撃的なものだった。


「まず、自分たちもこの星のことしかわからない。

 これは知っておいて欲しいんだ。星の海には精霊は行った事が無いのさ。

 地中深くや、空高くには行けるのにね。もしかして、星と星の間には

 精霊はいないのかもしれないね」


黒板らしきものは半分ほどがモニターとなっているのか、

精霊が喋るたびに、どこかの森、どこかの地面、どこかの空を映し出す。


そこには見知らぬモンスターも写れば、時に人間も映った。


夜の闇に浮かぶ、大きな月の映像で動きが止まる。


「もしかしたら、将来は星の海にも、この世界の人間や精霊が

 旅立つ日が来るかもしれないけど……気にしなくていいよ」


その頃には君はさすがに生きていないからね、と

精霊が冗談めいた表情で言うと、

夜空に浮かぶ満月が消え、黒板はその姿を取り戻す。


「さて、ちゃんと話を始めようか。世界の始まりは簡単さ。

 ある日、世界は出来上がったんだ。ビッグバンだとか、

 単細胞生物や先祖がどうとかいう話は無しにね」


さらりと、衝撃的な一言とともに、

また黒板がモニターとして、とある荒野を写す。


草木がまったくない、荒れ果てた土地。


それでも、画面の中央付近に湖なのか、水があるのがわかる。


「これが最初の世界。ある瞬間、こういった土地と、

 そこに在る事になる精霊が生まれたんだ。

 その精霊たちには全て自我があったけど、混乱は起きなかった」


何故だと思う?と聞かれるが、俺は首を横に振る。


精霊はそれを怒るでもなく、ただ頷いた。


「そりゃそうだよね。実は、精霊たちは昨日まで自分達が

 存在しなかったことを知らなかった。長い長い時間を、

 そんな世界で過ごしていた、という記憶だけがあったのさ。

 だから、混乱は起きなかった」


「そんな事がありえるのか?」


思わず問いかけた俺に、精霊は笑ってモニターを操作するように腕を振る。


そうすると、次は草原が画面に出てきた。


まだ動物はいないようだった。


そして次に切り替わると森になった。


草花は生い茂り、蝶らしきものが見える。


「ありえたんだよ。人に限らず、モンスターや精霊に至るまで、

 昨日までの自分を知るものは何か? それは記憶であり、記録だよね。

 でも、それは君の元の世界風にいえば、脳みそに刻まれた科学的な要素であり、

 何かの記録も、例えば炭素の羅列でしかない。

 話を戻そう。最初の荒地と、次に出した森。実は同じ場所なんだ。

 最初の荒野から、一年も経たずにああなったようだよ」


精霊は驚いている俺を見ながら、片手でさらにモニター部分を操作する。


次に表示されたのは、森を歩く巨大な狼だった。


さらに画面は変わり、村のような場所で行き来する人々が映し出された。


「ざっと、今から2000年ぐらい前かな? たぶん、人間で言うと

 それぐらいの感覚だ。この頃かな、自分たちのように、

 世界の始まりや、自分の正体に気がついた存在がいくつも出てきた」


「もしかして、エルフ達か?」


脳裏に浮かぶのは隠れ里で出会った長老たちの姿。


「そう。彼らは精霊の次にそれに気が付けた存在だね。

 理由は良くわからないけど、人間だったらこうはいかないだろうね。

 ある日、大人のはずの自分が、ついさっきまでこの世にいなかった、

 なんて誰が信じられるだろうか? 受け入れられる人間はいやしないさ。

 もっとも、気が付かないほうが幸せかもしれないけどね」


俺は精霊の言葉に頷く。


親も、先祖も、あるいは子供すら。


歴史というものが全て、ある日突然生まれた。


伝統ですら、本当の時間をすごしたものではないと

知ってしまったら、誰もが正気ではいられない。


ここまで聞いて、俺は自分の中の何かがカチリと、かみ合ったような気がした。


「つまり、この世界はMDが出来たときに出来上がった……のか?」


ゲームの舞台となる世界が電子上で作られ、

そこに設定を持った各種データが配置され、

そしてゲームが動き出す。


荒野からの変化はその流れを俺に感じさせた。


「本当はもう少し複雑だけどね。君の言うMD、ゲームの世界が

 仮想の世の中に生まれたとき、何かの偶然でこの世界が生まれたのさ。

 それは見えない神様の力かもしれないし、実はあらゆる物語が

 無数に世界を生み出しているかもしれない」


そこまでいって、精霊がモニターだった場所を撫でると、

黒板全体が崩れ去る。


「突然の変化はこの最初だけだった。それ以降は何も無しさ。

 命はその刻み込まれた決まりを元に、それぞれに生き始めた。

 モンスターも、人も、それぞれの命として世界で生き残り始めたのさ。

 ふふ、どうする? もしかしたら瞬きした瞬間、世界は機械で満ちた

 まったく違う世界になっているかもしれないよ?」


いたずらな声色で、精霊がこちらに聞いてくる。


その姿はあちこちがどろりと溶けた姿で、

目の前の存在がある意味、幻だと感じさせる不気味なものだった。


いや、彼らの言うとおりなら、

俺が目の前の存在にそういうイメージを持ったということになるのだろう。


「うわ、ちょっと……右手が逆に曲がってきてるじゃないか。

 勘弁してよね。人型を取れるのも久しぶりなんだからもうちょっと楽しみたいよ」


「おっと、悪いな。あまりのスケールに混乱していたんだ」


必死にそういう姿に、俺は何故だか笑ってしまった。


そんな俺の感情にあわせるように精霊はさっきまでの少年の姿を取り戻す。


「ふう……ボクと彼女は人間に関係する精霊が多く固まった姿だからね。

 こういう姿は取り易くはあるんだけど、やっぱり誰かがいないとね」


「じゃ、一番気になってるあたりに行きましょうか」


横合いから、少女型の精霊が口を開き、椅子に座ったままの

俺の前に歩いてくる。


2人揃って、床らしき場所から何かを持ち上げるようにすると、

また黒板っぽいものがせり上がってきた。


「たぶんでしかないけど、世界はこのままよ。

 人が人として生きて歴史を作り、モンスターも同じく、

 その本能と共にそれぞれに生きて争い、育っていくの。世界の最初にあったような、

 瞬きの変化は無いわ。どこかと世界がつながった感じももうないしね」


「もし変わったとしても、変わったことに気がつけないほうがほとんどだから、

 それに意味は無いから、か?」


どこかしっくりときた感覚と共に、俺はそういって確認する。


2人とも、それに頷いたので合っているのだろう。


「そのとおりね。だから、貴方の生きたいように生きて、

 ファクトという歴史を刻めばいい。もう貴方の人生なのだから。

 ……1つだけやらなきゃいけないことがあるとするなら、黒いあの人との戦いね」


「黒い人は、言うなれば人間の敵と設定された自分の生き方にある意味忠実で、

 ある意味では一番反抗している存在さ。最終目的は人間側の駆逐。

 そう、ありていに言えば世界征服。それが成された瞬間に、

 人間の敵という自分の存在理由がなくなってしまうのだから、

 悲しい精霊ではあるとは思うよ」


瞬間、教室っぽい姿だった周囲が見覚えのある山の上になる。


そこは泰山。


MDのメイン舞台である大陸の東端にあるダンジョン兼用の山だ。


何故わかったかといえば、山頂にある巨大な建物が

ダンジョンそのもので、今その目の前にいるからだ。


何度か来た事はあるが、最奥までは行った事はない。


地面に足はついておらず、数メートルは浮いていることから、

転移をしたのではなく、映像なのだとわかる。


恐らくは泰山のダンジョンを見せる事が目的ではない。


そう、設定上、歩いていけるダンジョンで一番高い場所にある泰山だからこその光景。


それを俺に見せる事が目的なのだろう。


「これは泰山にいる精霊の記憶だけどね。ほら、見てごらん」


言われるまま、東の方角を向くと、

遠くのほうに黒い雲のようなものが見える。


「あそこは人間の名前で言うルミナスという国家群ね。

 最近、あっちの精霊達が騒がしいのよね」


「もしかしてあの黒さ、精霊がそういう扱いを受けているのか?」


黒い雲の色は、余り良い物を感じない。


さっき見た魔法使いの雷の色に似ているが少し違う。


凄く攻撃的というか、恐怖を感じるのは俺の勝手な感覚だろうか。


ただ、ルミナスという国自体は、

これまでに聞いた話を考えても、普通ではないのは確かだ。


「勘違いしないで欲しいのは、精霊の扱いに良いも悪いも無いの。

 人間が使う魔法に力を貸して、モンスターが殺されることも、

 逆にモンスターの攻撃に精霊が力を貸して、人間が死ぬこともある。

 あれは精霊が失われる黒い昇華の力ではないのよ」


もやがかかるように景色が白くなると、

再びどこか教室のような光景に戻ってくる。


「このまま放っておけば、ルミナスは人と、モンスターを飲み込んで

 最後には……そうね、人はほとんどいなくなるかもしれない」


「ファクト、君には、いや……人間にはきっとそれを止めることが出来る。

 君が望めば、力を貸す事も出来るさ」


ふわりと、何かを感じたと思うと2人の姿が光りだし、

どこからか周囲を光の粒子が覆いだす。


ジャラジャラと、銀貨の落ちる音も増してきた気がする。


「なんで、ここまでしてくれるんだ? 精霊は、中立ということだろう?」


この場所に来てから、ずっとそれが疑問だった。


「2つぐらい理由があるかな。1つはボク達がこっち側の人間の元で過ごしていた

 精霊が集まった存在だということ。つまりは人間に影響を受けているんだね。 

 簡単に言えば、こっち側のボクたちみたいな精霊と、

 モンスターに力を貸す形になった精霊たちと、ルミナスだっけ?

 あの国みたいな場所で力を貸している黒い人みたいな精霊の集団に分かれるのさ」


「もう1つは、先に決まりというか、精霊の守りごとを破ったのが

 黒い人だということ。自分の設定、人間の敵であることに忠実でありすぎたのね。

 見守ったり、力をちょっと貸しやすいぐらいにあるはずの精霊の役目を

 一歩どころか、かなり踏み越えてしまっているのよ」


だから、自分たちも今まで以上にちょっと

手を出してみようと思うと2人は笑った。


「俺は俺に出来ることをしたらいいわけか……」


「ええ、先頭をきって戦うもよし、後方で支えるもよし。

 一つ確実なのは、今のこの大陸は貴方の知る……MDとほぼ同等に力が行使できる。

 それだけの精霊が戻ってきているわ」


そっと、俺の手を握る精霊から、言葉にならない情報が伝わってくる。


まだ整理できていないが、直感のように頭をよぎる事。


それは、スキルや魔法が行使しやすいのではないかという感覚。


「そろそろ時間かな。そうそう、きっと皆喜んでるからね。

 クエストも一杯復活すると思うよ」


「クエストだって!? ちょっと、そこを詳しくっ!」


思わず椅子から立ち上がり、

薄くなっていく精霊の肩に掴みかかろうとしたところで、世界に色が戻る。





……チャリン


気が付けば、俺は儀式を行う場所で、銀貨をアイテムボックスから

出している姿勢のままだった。


台座に向けて流れ落ちたはずの銀貨は無く、

最後の一枚が台座に落ち、そのまま光となって消えていった。


ふと横に視線をやれば、イリスは床に倒れるように気絶していた。


「今のは……」


夢にしては詳細に記憶の残っている現象に、俺は戸惑いながらも

イリスを起こすべく、近づくのだった。


世界五分前仮説とかと同じ感じです。


データはコピーされた時点で、

その前にどういった履歴があったかは

関係無しに振舞う……みたいな。

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