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150「廻る銀の力-5」

音がする。


どこからか、音がする。


ジャラジャラジャラジャラ、と。


近くのような、遠くのような。


無視するには耳に響く、

かといっていらつくほどでもない。


そこは白かった。


どこか覚えのある白い空間。


上下もわからないが、浮いている感じではない。


試しに目を閉じれば、足元に多少固い感触。


しかし目を開けば、壁に向かって90度の角度で

くっついているような奇妙な感覚。


いつかのエルフの隠れ里で遭遇した空間にも似ているが、

さて……?


「……ここは、どこだ」


答えを期待しない言葉。


あるいはお約束で、誰かが答えてくれることを期待していたのかもしれない。


「夢じゃないな。あの世か?」


「何故そう思うのかな?」


(上? いや、どこだっ!)


気配と、声。


とっさに冒険者としての、そして

ゲームプレイヤーとしての経験が構えをとらせる。


死角を確かめるように姿勢を変えるがそこには何もない。


そこまで動いて、俺はあるはずのものがないことに気が付く。


装備していた剣が無い。


確かマイン王がやるような儀式によさそうな、

金銀に輝く栄光の双剣を装備していたはずなのだ。


自分がされたこと、状況の異常さ。


そこに至るまでに数秒かかったような気さえする。


首を、腰を、脚を撫でる不気味な意思の感触に、

俺はそれを押し出すような気合を込めて手に力を込める。


武器生成S!!(クリエイトウェポン)


手加減なし、思いつく限り自分が扱える中で

切り札の1つを呼び出すために。


1割強、ゲーム中の消費としては

バランスがいいとは言いがたい量の魔力が

吸い取られる感触と引き換えに、右手に宿る頼りになる重量感。


偽神剣・グランディア、の試作版


本来の偽神剣・グランディアはスキルによる生産で、

プレイヤーが扱える中では最上級の性能を持つ無属性の両手剣だ。


もっとも、各種高級素材、そして5Mの製造費用、

後は専用施設での作成行為などが必要な

本来のものと比べ、試作版は耐久も3分の1以下だし、

補助ステータスだって多くは無い。


逆に本物は俺には扱えない要求ステータスを誇る。


本番の偽神剣を作るための中間レシピによる

作成品だが、素材も少なくないだけの量を消費するはずだ。


それでもスキル使用一発で出来上がるという点では

メリットが大きいと判断したのだ。


白い空間を引き裂くように、グランディアが

どこからかの光を反射する。


素材に使うはずの高級素材が消えた感覚も無いのに、

実体化した剣の感触に一瞬戸惑いながらも、

俺は袈裟懸けにその輝きを振り下ろす。


武器固有スキル『一閃』


試作版にも搭載されたそのシンプルな、

切り裂く力が前方に襲い掛かる。


暴風にも似た力が俺の体からさらに魔力を奪いながら突き進む。


いつかの迎撃戦のような、人目につく状況や、

さらには巻き込むかもしれない状況では正直、使いにくい技だ。


だが、その甲斐あってか本体の斬撃の形をした衝撃波と、

周囲をサポートするように荒れ狂う風の刃が、

何も無いはずの空間で撒き散らされる。


「そこかっ!」


俺は振りぬいた姿勢のまま駆け出し、すくい上げるようにしてその場所に一撃を……。


何かが実体化する。


そう感じた俺の目の前でそれは少年の姿を取る。


「っと!?」


攻撃を止めることは出来ず、

姿勢を無理やり変えることで転げるようにして

少年ぎりぎりを刃は通り過ぎ、俺は距離をとる。


「あっぶなっ! ちょっと、気をつけてよね」


「はぁ?」


青い、空色に似たさらさらとした、撫で髪で

どこにでもいそうな服装の少年が、少し短くなっている場所を触る。


(ああ、少し切れたのか。じゃなくって!)


「誰だ? 例の黒いのだと結構話が早いんだが」


「それは無理でしょ。あの人は黒以外になれないからね」


グランディアを突きつける俺に、少年は落ち着いた様子で

短くなった髪を弄りながらそう答える。


ついにはどうにかすることをあきらめたのか、

ため息をついてその手を髪から離すと、俺のほうをむく。


その瞳はどこにでもいそうな少年の瞳で、

それでいて何故か老人のような輝きさえ感じる。


「ふう、なんだかおかしい流れだけど。歓迎するよ、

 ようこそファクト。ボク達の庭へ。もっとも、キミが

 無理やりこじ開けたようなものだけどね」


まるで休みの日に友達を迎いいれるように、

少年が俺に手を伸ばす。


俺はそれに答えずに、じわりと間合いを詰める。


勿論、何故か耐久が半減したグランディアを構えつつ。


(もう一撃で修理が必要な壊れた状態になるだと?)


内心の動揺を押し隠しつつ、視線は少年から逃さない。


「あ、あれ? 警戒されてる?」


対する少年は何故かおろおろしだした。


俺が何かの罠かと疑い始めたとき、

横合いから何かの気配が近づいてくる。


「このっ、あほっ!」


「ぷげらっ!?」


近づいてくる、というには早すぎる速度で

気配がやってきたかと思うと、少年が吹き飛んだ。


甲高い、どこか聞き覚えのある声と共に、

少年が変な声をあげて漫画のように回転して吹き飛んでいくのを

俺は呆然と見つめることしか出来なかった。


「ちゃんと、最初から姿を見せて説明しないと誤解を招くって

 いつもいつも言ってるでしょう! 確かに何年ぶりかも

 わからないお客さんだけど……」


「うう、反省してます」


(なんだこのコント)


俺は右手に剣を持ったまま、目の前で

正座させられ、もう一人の相手、少女らしい相手に

説教をされている少年を見て混乱していた。


それにしてもこの声……。


「な、なあ」


「え? ああっ、ごめんなさい! 忘れてたわけじゃないのよ?」


俺の呼びかけに、振り向いた少女は……ああ、やはり。


「まだ喋られるんだな、ユーミ」


「え?」


そう、人間大の大きさになった、

消えていったはずのユーミそのものだった。







若干の沈黙。


その後、それを破ったのはユーミの姿をした少女だった。


姿をした、というのはすぐさま彼女にそれ、

ユーミであることを否定されたからだ。


「つまり、俺に少年少女に見えているのは、俺がそう感じているからだと?」


「ええ、本当の私達は姿を持たないわ。あくまでもファクトのような誰かが、

 認識しようとして初めて姿になるの。誰かがいるに違いない、

 どこかでそうファクトが思ったからコイツも出てきたのよ」


白い空間に、何故か生まれた椅子とテーブルに

驚きながら、椅子に座るように促され、

俺は座ると同時に質問を投げかける。


「コイツはひどいな。同僚に向かってさ」


「同僚?」


正直、わからないことだらけだ。


それにこんな状況になっても、

ジャラジャラと音はどこかで響いている。


「コイツで十分でしょ。久しぶりの精霊以外のお客さんだっていうのに」


2人の説明が事実なら、この言語というか、

喋りも主に自分のイメージだということになる。


「まあね、ちょっと浮かれてたんだよ。だから彼にも

 それが伝わって、こんなんになってるしね」


少年……少年型の精霊はそうおどけて言う。


どうやら俺が思ってる以上に、ここは互いが干渉しあっているようだった。


「さて、話を戻しましょうか。ここは精霊の庭。

 さっきあの世か?っていってたけど、遠くはないわね」


見て、と少女が手を振るうと、

まるで霧をスクリーンにしたように映像が浮かぶ。


それはどこにでもありそうな地上、そして何かの膜、

その向こうにある白い空間、ここか?


じっと見ていると、地上の風景から半透明の人影、

精霊っぽいものが浮いたかと思うと、

膜を通って白い世界に消えていった。


「ああやって、精霊は世界に帰るの。ここは、もう一歩進めば

 地上の裏、精霊だけの世界」


ふいに、視線を2人に戻すと、近くからも、

遠くからも無数の気配を感じた。


気配を感じたというより、周囲全体に

何かが存在している事がわかるような感じがしたというべきか。


全てが、精霊。


それにしては少し密度が薄いような?


「そう。知識というのは怖いものね。1500年以上前、

 人間とモンスターの一部は禁断の術を手に入れたわ。

 それは、精霊を黒く昇華させ、その力を増幅する術」


スクリーンに表示されるのは、どこかの魔法使いが、

巨大なオークの集団に向かって、黒紫色の雷を魔法で落とすところだった。


「基本的に精霊は求められれば力を貸すの。

 それが自分の存在を脅かすものでもね。

 誰かに求められて、誰かに認識されないと精霊はすぐに普通の精霊に戻ってしまう。

 一度自我、あるいはそれに近いものを手に入れた精霊にとって、

 それは苦痛でしかない」


そこで少女は言葉を区切り、こちらを見る。


「そんな事が繰り返されて、徐々にこの大陸だけ精霊が減ってたの。

 それも今日で終わり」


「そう、今日で終わりさ。思っても見なかった方法でだけどね」


2人がそういった途端、ジャラジャラと聞こえていた音が

唐突に音量を増し、すぐ近くになってきた。


慌ててそちらを見れば、上から流れ落ちてくる銀色の輝き。


そしてどこかにぶつかるや否や、あふれ出る精霊たち。


「ゲームではたかが1ガルド銀貨。でもこの世界じゃその1枚が魔法の媒体にすら出来る。

 世界も想定外だろうさ、キミがまだまだ銀貨、精霊を溜め込んでるなんてさ」


「ゲーム……お前たちは、この世界は……精霊とは一体?」


俺がそう口にすると、白い世界は急に泡立ち、

気が付けば学校の教室のような部屋になっていた。


のような、というのはどこか絵本のようにでこぼこした、

随分とフェルトで作られたような内装だからだ。


「じゃあ、始めようか。世界の再生の説明を。

 一時限目は世界の成り立ちと精霊だね」


黒板のような黒い板を前に、少年はそういってペンらしきものを手に取る。


俺はいつの間にか座らされていた椅子と、ノートらしきものが

広がった机に驚きつつ、大人しく話を聞く姿勢をとる。


いつの間にかグランディアは消え去っており、

ジャラジャラと、まだ銀貨はどこからか世界にこぼれ、落ちていっていた。

次回はだいぶメタというか、説明な感じです。

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