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149「廻る銀の力-4」

会話少な目、説明回?


そして身も蓋も無いことを選択します。

朗々と、儀式のための祝詞なのか、

あるいは必要な魔法なのか。


どちらとも区別の付かない呪文もどきを唱える魔法使いと、

中央で供物であろう銀の輝きを持つ器を高く掲げているマイン王。


それを俺はイリス、そして待機の人員と一緒に壁際で見守っている。


儀式に誘われているのか、

ふわりと壁からにじみ出るように浮いてくる精霊や、

用意された物品から顔を出している精霊に視線をやる。


その大きさは、今回は缶ジュースぐらいだ。


そんな彼ら……いや、彼女か?


どう見ても男の子っぽい格好や、逆に女の子の格好をした精霊もいるが、

そういえば確かめたことはない。


それはそれとして……精霊とはなんだろうか?


行われる儀式を見ながら俺は考える。


視線の先では1つ1つ、供物が光に包まれていく。


俺が使えるマナリコール(正確にはシステムで用意されていた行為でしかないのだが)

とは違う、特別な魔法のようだった。


浮いていた精霊がその光に吸い込まれるように消え、

そして地面に溶けていく。


僅かにだが、足元を何かが脈動しながら通り過ぎるのがわかる。


これは精霊とその力なのだろうか。


道中で聞いた話によれば、この儀式を

ちゃんとやっておくと豊作になりやすいそうだ。


話を戻そう。


──精霊とは何か。


ゲーム時代の設定であれば、物の品質に関係してくる。


精霊の祝福があるものは高品質で、

素材が祝福を受けているというようなうたい文句であれば

それを使ったアイテムは高性能、といったような。


まあ、ゲームじゃ精霊そのものは見た覚えはないのだが。


シナリオのテキストには存在は出るものの、

NPCとして出てきた覚えは無い。


未実装だったアップデートの中には

精霊が出てくるような物もあったかもしれない。


なにせ、実装予定が公開されている範囲でも

未公開設定やコンテンツはいくつもあったからだ。


今考えると、ユーミたちは実は精霊扱いでした、

という設定も待っていそうだが確かめる術はない。


いずれにしても、ただのフレーバーな話だと思っていたのは確かだ。


でもこの世界では違うようだ。


土地に必要な精霊が不足するとなれば

野菜も余り実らず、水すら清らかさを失うという。


であれば、精霊を使いつぶすような魔法や儀式をつかった

戦争はどんな荒野を生み出しただろうか?


クレーターを生み出し、木々をなぎ倒しただろうか?


実際はもっとひどい。


精霊戦争で一番の激戦区だった場所は未だに、

精霊があまり寄り付く事が出来ずに荒野以上の場所と化しているという。


かろうじて宿った精霊のおかげで、

完全に生命が存在しないというわけではないようだが……。


数百年単位での荒野。


それは旧世紀の大規模兵器のそれよりある意味ひどい。


毒だとか、何か細菌だとかがいるわけではないのだから。


見る限り、そして知った限りでは

精霊は世界の全てだ。


精霊のいない石は、いつしか崩れ去り砂となる。


魔法等によって精霊が奪われた木は、

数日のうちに葉を落とす。


そして、いつかのように黒く、変質した精霊を宿した生命は

アンデッドか、それに近いような存在になってしまう。


さっきの話ではないが、

まるでこの世には致死性の細菌が満ちていて、

精霊がそれから守っているかのようだ。


そこまで恐ろしいことにはなかなか、そう

あえてそういった魔法や儀式を使わなければ

なることはないのだが、今の世界は精霊が不足している。


今まで俺が冒険してきた土地は、

まだ人間の力が及んでいるが、

それ以外の土地、別の大陸ではどうだろうか?


ゲームで開放されていなかった土地や大陸にも

今は多数の命があることだろう。


そこには人間も住んでいるかもしれない。


精霊はその答えを知っているかもしれない。


ふと、気が付けば儀式はひとまず終わったのか、

聞こえる声もどこか終わりを感じさせる。


供物としての物品ももう1つも残っていない。


マイン王がやっている儀式は僅かだが、

今の世界が抱える悪い症状を改善させているはずだ。


もっとも、僅か、というのは間違いないだろうが。


(そういえば何故銀貨なんだ?)


メインで中央にあるのは銀貨だった。


銀の杯に盛られた純銀貨。


思い返せば、それが不思議だった。


片づけが始まったのを機に、イリスに

こっそりと聞いてみると、銀は魔力を通しやすいとされ、

精霊が関係する儀式、魔法には触媒や武器としてよく使われており、

実際に効果がある、つまりは精霊が好むといわれているらしい。


MDではそこまでの設定はなかったが、

俺には心当たりがあった。


ゲームである以上、様々にアイテムがあり、

素材や武器がある。


そんな中、あらゆる物のなかで

一番多く世界に存在するものはなんだろうか?


有用な装備の素材となる鉱石?


消耗品としてみんな使うポーション類?


答えは……。



儀式を終え、一晩はこの街で過ごすのが決まりだというその夕暮れ。


俺は王の許可を取り、遺跡の中にいた。


手持ちの不用品を捧げるという名目で。


個人的なことだから表立ってはちょっと、と遠慮したのだ。


王は何かを感じたのか、それとも俺が何かすることを期待したのか、

あっさりと許可を出してくれた。


(果たして、成功するかどうか)


見届けたいというイリスを横に、

俺は祭壇のような土台の前に立つ。


気のせいだとは思うが、

蛇がこちらを見ているような気がするから遺跡というのは面白い。


気を取り直し、マイン王がそうしていたように

像の前、台座達の中央に立つ。


さて、ゲーム時代にあらゆるアイテムより多いもの。


それは、お金だ。


ゲームによって多少単位は違うだろうが、

最前線のプレイヤーともなれば、例えば1M、所謂100万はむしろ最低単価となり、

100Mだの1Gだという単位すら変ではないこととなっているだろう。


長く続くゲームがインフレするのは極々当たり前なのだ。


運営はそれを防ぐために、何かしらの手法で

現金を消費させ、アイテムの生産、販売、

そして処分、あるいは消滅を回転させる。


耐久値を設けて、新しくアイテムを入手する必要があるようにしたり、

射幸心をあおるようにアイテム強化のシステムを用意して、

強化に失敗したらアイテムが消滅、というような。


MDも諸々のシステムにより、そのインフレがかなり

遅くできた方だとは思うが、それでもゼロには出来なかった。


都合、高レベルな武具をやろうと思えばちゃんと作れる俺には、

少なくないお金が舞い込んでくる。


例の変更により、作った武器や防具が

ボス戦を何度も行えば少なくない確率で破損し、

修復という名の作り直しということも度々あった。


その度に銀貨が動く。


もっとも、素材も高騰するので実際には凄い楽ということでもなかったのだが。


どちらにせよ、ゲームの世界で1枚1枚という形から行けば、

世界に一番多いアイテムだったに違いない。


プレイヤー1人でも数字だけで言えば億だとか

持っているのが不思議ではないのだから。


万物には精霊が宿る。


つまりは、一番精霊が多いアイテムだということでもある。


現在の所持金はざっくりと4.8G。


上には上がいるもので、俺が当然一番多いわけではない。


だが、純ガルド銀貨1枚で冒険者は沸き立ち、

王ですら数百枚の消費に顔色をかえる。


(さあ、そこにこれを放り込んだらどうなるんだろうな?)


静かに俺の動きを見守っているイリスに、

ちらりと視線を送って頷いてから手をアイテムボックスである袋に伸ばす。


まずは儀式に使われた量の10倍からいってみようか、と

1000枚を取り出した。


俺にとっては小手調べである。


じゃらじゃらと、台座の上に積みあがる純銀貨、

ゲーム内で溜め込んだお金たち。


イリスが息を呑むのがわかるが、俺は銀貨から視線をはずさない。


早速というべきか、精霊がにょきっときのこのように

顔を出し始めたからだ。


儀式に王の用意した100枚が多いのか少ないのかはわからないが、

今の銀貨ですら数枚で普通の家族が贅沢できるのだ。


純銀貨100枚となれば円でいえば億単位の価値がある儀式なのだろう。


そう考えれば今から俺が行おうとしていることは、

意味合いは少々違うが、数の暴力と言えるだけの乱暴な手段には違いない。


教えてもらった魔法使いの呪文を口にして、

俺は純銀貨を捧げる。


じわりと、銀貨の輪郭が溶けるような感覚。


そして、世界に精霊が帰る。


それは暗い部屋の電灯をつけたかのような明るさ。


1000枚に宿っていた精霊が、

光と共にあふれ出す。


いつだったか感じたように、

俺の持っているMD時代からの素材、

アイテムの精霊は今のこの世界の精霊と少し違う。


元気がいい、と表現できるぐらいの違いだが、

勢いが違うのだ。


10年分の儀式に相当するそれが空間に満ちる。


「まぶしい……とんでもないよこれは」


「まだまだだ。足りないだろうさ、きっとな」


イリスの感嘆の声が聞こえるが、俺はそのまま空に、

地面に溶けていくように消える精霊を見守る。


確かに王の儀式よりも手ごたえというか、

周囲に何か力が出てきたような気配もあるが、

それでもあくまでもこのそばだけ。


位置を調整し、次なる銀貨を出す準備をする。


幸いにも、この精霊を返すための魔法は

ほとんど魔力を使わず、しかも対象となる

台座や器に物がなくなるまで継続して効果が発揮されるとのことだった。


「ちょっと刺激が強すぎるかもしれないが、このぐらい必要だよな」


俺は半ば、開き直りながらアイテムボックスの袋の口を開き、

下に向けた。


ジャックポットになったスロットマシーンのように、

袋から銀貨が流れ、そして光になる。


放出予定の金額は100M、つまりは1億枚。


所持する金額の一部にしか過ぎないその金額ですら、

100年どころではない年月分の儀式に相当する。


恐らくはどの国すら持っていないだけの純銀貨による力が、

精霊をあふれさせていく。


それはこの廃墟を中心に、強心剤のようにして

世界に満ちていくことだろう。



──そして俺は光の波に飲まれていた。




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