表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/292

146「廻る銀の力-1」

10/25:一部表記訂正

その日、俺は空の上にいた。


勿論、生身の自分だけで飛んでいるのではなく、

ジャルダンに飛んでもらっている。


何度飛んでも飽きない、空を駆ける感覚。


魔法によるものだろう障壁のおかげで、

息苦しいということもなく風を切り、飛ぶ。


両翼と、空を走るかのようにジャルダンの4本の足がリズム良く動く。


ガイストールを飛び立った俺とジャルダンは、馬車とは

比べ物にならない時間で、既に視界にオブリーンを捉えていた。


ガイストールのギルドで、冒険者に向けての

定期的な訓練、講習といえそうなもののスケジュールを組んだり、

その実施を手伝っていた頃、依頼を受けた。


オブリーンのギルド及び王族への親書の送付である。


別途、普通に行き来する予定があったようだが、

どこから聞いたのか、俺に依頼が来た。


確かに、そろそろジャルダンたちを隠しながらというのも面倒だし、

使えるものは使う、という姿勢は嫌いではない。


一応、ヒポグリフの森のこと、契約は試練さえ突破したら誰でもいけることを

手記のような形でギルドには残してあるので、

今後、資格ありとなった冒険者がだんだんとあの森に足を向けることだろう。


心無い冒険者が向かう可能性もあるが、

ヒポグリフやグリフォンの戦闘能力はかなり高い。


1、2頭なんとかするぐらいはありえるだろうが、

全体に害を及ぼすような力があったらとっくに別のことに使っていることだろう。


いつか空を多くのグリフォンやヒポグリフが飛ぶことを空想しながら、

俺はオブリーン王都近くの丘へとジャルダンに降ろしてもらい、

残りは歩くことにした。


王家自体はグリフォンのことを知っているだろうが、

街全体で考えれば不用意に驚かすのもどうかと思ったのだ。


出来ればこれを機に、こっちでもおおっぴらに飛びたいところだが、

それは後々か。


ちなみにキャニーとミリーとは別行動だ。


ただ手紙を届けるだけの予定なので、

その必要性が薄いということと、気になる依頼があったとのことだった。


誰も、そばにいない。


ジャルダンももう、送還したところだ。


「一人は、いつものことだ」


つぶやきも吹き抜ける風がどこかに運んでしまう。


正しくは、いつものことだった、か。


(ゲーム時代はいつもこうだったな)


俺は景色こそ違うが、昔味わった感覚を

目の前の光景に感じていた。


MDプレイ時、俺はそのほとんどをソロで過ごしていた。


元より、生産や採集というものは戦闘のそれと違い、

複数人で何かをするということは少ない。


素材対象がモンスターだったとしても、

二人以上で採集にいくというのはなかなか日常にはなりにくいものだ。


(まあ、俺がそういうスタイルだったというだけかもしれないが)


必要なときに同業者や友人に一緒に出かけていたぐらいで、

比率的にはソロが圧倒的だ。


だんだんと近づく白亜の防壁を目にしながら、

俺は寂しさと、ゲームと違って歩けば

自分の体重で土がへこむという現実にある種の興奮を抱いていた。





「確かにガイストールギルドの印だ。早いな?」


「まあな。ちょっと、秘密の技があるのさ」


オブリーン王都のギルドカウンターで、

俺は親書をギルドの受付に手渡していた。


仕組みは良く知らないが、封をした蝋は

魔法でもかかっているのか、時間がたつほど色を変えるらしく、

受付の男はその色を見るや、俺が通常の手段で運んでこなかったことを見抜いたようだ。


確かに馬車の10倍にもなろうかという時間だ。


だが、組織立ってきたとはいえ冒険者の世界が

情報が財産で、秘密も仕方が無いことを良くわかっているのか、

それ以上受付は追及してこない。


終わり際に、厄介な依頼があったら頼むぜと

言われたあたり、抜け目が無い。


俺は次に城を目指すべく、ギルドの建物を出る。


まだ陽は高く、宿をとるような時間でもない。


馬車や露店で込み合う大通りを避け、

少し裏通りに入ったところでいくつかの酒場が

既に賑わっていることを知る。


さすが王都、活気があるようだった。


そのうちの一つの前を通り過ぎるとき、

中からの喧騒が耳に届く。


「もういっぺん言ってみろや、ガキがっ!」


「私が子供なのは見てのとおりです。私はただ、

 本当の事が知りたいと言っているだけですよ?」


野太い、いかにもといった大きさの声と、

酒場には似つかわしくない鈴を鳴らすような女の子の声。


言い争っているということだろうか?


ふっとそちらに首を向け、

既に周囲にいた野次馬の肩を叩く。


「あれは?」


「ん? ああ、あのお嬢ちゃんが、冒険者の話を聞きたいって直接話して回っていたのさ。

 何だったかな、最近、おかしなことはなかったか?ってな。

 どこの子か知らないけどな、一回あたり銀貨1枚なものだから俺もぺらぺらとね」


肩をすくめてそういうのは皮鎧に長剣、と

いたって普通の格好の冒険者だ。


「ふむ。それをあの大男がからかうなりして、

 言い返したあの子と喧嘩になってるってとこか?」


「ま、そんなとこだな。大きな声じゃいえないけどよ。

 アイツ、自分じゃ倒したことが無い亜種の話をいつも自慢するんだ。

 たまたま、討伐した集まりにいたらしいんだがね。

 さっきも聞いたことを自分のことのように言っていたのさ。

 そしたら……」


あの少女が、大人なら敢えて踏み込まない部分にまで踏み込んでしまったということだろう。


話している間にも、二人の口論はエスカレートしていく。


さすがに大男も男同士の喧嘩のように口より先に手が出るということは

無いようだったが、あの顔の赤さからいってそう遠くない気もする。


対する女の子は……んん?


どこかで見たようなその少女に、俺は誰だったか思い出そうと見つめてしまう。


それがまずかったのか、視線を感じたのか少女が

口論の最中だというのに俺を向く。


そして、待ち人来たれり、という笑顔になると、

何故か俺に駆け寄ってきてその手を取る。


「ね? ファクト様もそう思いますでしょ?」


「はい?」


何故名前を知っているのか、そんな疑問より先に

何を聞かれているのかがわからなくて混乱する。


「てめえ、そいつの保護者か? しっかり躾けておけ!」


「ファクト様はそんなんじゃありません!

 貴方みたいなほら吹きと違ってお強いんです!」


ささっと手際よく俺の後ろに隠れ、

少しだけ顔を出して大男をそんな言葉で追撃する少女。


口調は別として、確かに覚えのある声だ。


「ふざけるなあ!」


男対男という構図になったからだろう。


先ほどまで我慢していた様子の大男は、

その鍛えられているらしい右腕を振り上げ、

俺に殴りかかってくる。


「きゃっ」


「おっと」


(そこそこ速い。だがモンスターたちほどではないな)


怒りによるものか、男の拳は

確かに当たったらいたそうだが、技術もあったものじゃない。


ゲーム時代、フィールドで倒していたモンスターと比べれば速さも、

当てようという技術も足りない。


とはいえ、しっかり組み合うのも遠慮したいので、

半身に回避しながら足と手で男のバランスを崩し、

ころりと転がす。


回避するのに邪魔な少女は左手に抱えつつ。


「いっつっ!」


石畳にその体を転がし、砂まみれになった男だが、

逆にそれで冷静になったのか、

立ち上がりながらも飛び掛っては来ない。


「良くはわからないが、ここで争っても金にはならないんじゃないか?

 かといって、この子に何かするのか? 大の大人が」


俺からすると、どっちが悪いかといえばどっちもどっちだが、

あまり騒ぎになるのも後が大変だと思い、

世間体に訴えてみたのだった。


「ちっ、さっさと行ってくれ。酒がまずくなる」


集まった野次馬と、この先にある自分への評価に思い当たったのか、

男はジェスチャーで俺と少女を追い出すようにして近くの椅子に座りなおした。


「ああ」


「ちょっと、どこ触ってますか!?」


俺は男にそういって、あれ?という様子で

固まっている少女を脇に抱え、そそくさとその場を後にする。





「降ろしてくださいー。おなか苦しいです」


「それぐらい我慢してくれ。騒ぎの原因は君なんだからな」


じたばたと暴れる少女、町娘風に装っているものの、

各所に出てくる不自然さにため息をつきながら、

俺は離れた路地でようやく彼女を降ろす。


「うう、苦しかったです」


「あのままだったら手加減されてたとしても、殴られてたぞ?」


俺の腕が当たっていたおなかをさする少女は涙目だが、

恐らくはあのままだとその涙は手を出された痛みになっていただろう。


「そうですか?」


「大人だっていつまでもああ言われたら怒るものさ、シルフィ王女」


びくっと、少女が震える。


と同時に、帽子だけでは隠しきれない、

さらさらと手触りのよさそうな金髪がこぼれ出る。


「覚えててくれましたか?」


「最初はわからなかったさ。近づいてようやく覚えのある魔力だとわかったのさ」


脇に抱えて初めて証明できたぐらいなのだ。


実際、言葉を交わしたこともほとんど無いのだから、

わかっただけなかなかの物だと我ながら思う。


それはともかく、だ。


「それで、一人か? まさか護衛を振り切ってきたとかじゃないだろうな?」


俺の追及に、さらにびくっと少女が震える。


「えっと……いつも先に帰ってるんですよ?」


おどおどとした様子のシルフィの姿に頭を抱えつつ、

どう連れ戻したものか、と悩む。


馬鹿正直に王城に連れて行くと一悶着ありそうだ。


「ああ、逆に考えればさっさと戻ってもらえばいいのか」


俺は思わず、その考えを口に出していた。


え?となっているシルフィの肩を掴み、俺はその口を開く。


「もう少し話していたいところだが、さっさと今日は城に戻ってくれ。

 そのほうが逆に早いだろうから」


「え? あ、はい。お話できるなら嬉しいですけど、でも……」


俺の提案に、シルフィは笑顔で頷いたと思うと、

急にその顔を曇らせる。


(んん? 何が……)


俺の思考はそこで中断される。


なぜなら……。


ガインッ!!


迫る気配にぎりぎり振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、

ひらひらした感じの服装のまま、

体に似合わない大きなメイスを掲げる女性の姿だった。


だが俺の記憶はそこで途切れている。


なぜなら、高レベルでかなりの防御を誇るはずの

俺のガードを突き抜けて、彼女の振るうメイスによって、

あっさりと俺の意識が失われたからだ。




「ご無事ですか、シルフィ様!」


男、ファクトを奇襲して沈黙させたのは妙齢の女性。


ファクトは見た事が無い姿である。


その姿は、街を歩くのに多少不自然といえば不自然だが、

ありえなくはない姿、侍女服であった。


貴族の館にいるようにも見えるし、ちょっと裕福な家のお手伝いにも見える。


その正体は、シルフィ付の侍女、名前をクリュエルという。


「クリュエル、なんて事を!」


シルフィが声をあげるのも無理は無い。


話だけとはいえ、ファクトが手練の冒険者だということは知っている。


そんな彼を、奇襲し、なおかつ意識を失わせたのだ。


丁度いいところに当たったとはいえ、ファクトの意識を

刈り取れる一撃とは一体どれほどのものなのか。


もしこの場にファクトの強さを知るものがいれば、ある種の恐怖に襲われたことだろう。


「高貴なる主の体に手を出すような下賎の輩に、私の忠義が打ち勝ったまでです!」


そう胸を張るクリュエルの手にあるのはメイス。


変哲も無いように見えるそのメイスは、

彼女の家に代々伝わる忠義の証。


そして、名前は伝わらず、代々受け継がれてきた彼女の家系の力。


──インペリアル・ガーダー


MDではNPCのみが持つ、イベント戦闘時等に

その戦闘力を飛躍的に向上させる、システム上用意された

NPCの切り札の1つであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ