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140「新しい芽吹き-5」

短いですが、区切りが悪くなるのでここで投稿します。


・スキル説明あとがきに追加

パチパチと、炎の中で枝がはじける。


火というのは同じ姿を見せないんだな。


そんなことを思うほど、野営の焚き火は闇の中にあって

赤々と周囲を照らし、唯一の大きめの音を立てていた。


俺と、同じく夜の番を申し出た剣士な少年と、

ポールアックスを地面に突き刺したままの青年の3人だけが起きている。


俺は適当に取り出した火属性を帯びた鉄鉱石を

手の中で転がしている。


剣士の少年は訓練代わりにか時折剣を振るい、

何か見えない相手と戦っているようにじっと虚空を見つめるといったことをしている。


そして青年は、木にもたれかかるようにして

ナイフを使って手の中のペットボトルほどの大きさの木を削っていた。


「何か像でも彫るのか?」


「ああ、その予定かな。実はギルドでちょっと依頼を受けてて。

 ほら、最近若い冒険者が増えただろう? だから訓練施設や、

 窓口なんかにこういうのを置きたいって言われたのさ」


俺の疑問に、そういって荷物から彼が取り出すのは、

ややデフォルメ気味の武器を構えた男女の木彫りの像。


片方は杖を持って、恐らく呪文を詠唱したところ。


もう片方は剣を構えている。


「良く出来ているな。器用なものだ……」


「得物が大きい割りに、だろ? 先輩に言うまでも無いけど、

 でかいからこそちょっとした動きで大きく変わるからさ」


地球で言えば大学生ぐらいだろうか?


まだ少年らしさも垣間見える青年は、

そういってウィンクでもしそうな感じで返事をする。


確かに、大きい武器ほどちょっとした向き、

力の入れ方で意外と結果は変わってくる。


最後まで振りぬけたり、あっさりとはじかれたりと。


「それもだいぶ使い込まれてるな」


修理というレベルは無理でも、ちょっとしたメンテぐらいならば

不自然じゃないだろうということで彼のポールアックスも触ったが、

なかなかどうして、要求STRも、そしてDEXも高めのなかなかのものだった。


製作者の名前からキロンの工房の職人の1人だとわかる。


これを使う彼の技量、そしてその強さを考えると……。


「……次に攻撃するときは、振り下ろしの後に周囲に味方がいなければ

 そのまま回転するように振り回すといい。そのときは刃のほうに

 魔法を使うように魔力を込めるのを忘れないようにしてな」


「え? あ、ああ……」


きょとんとした様子の青年だったが、

それがアドバイスだと悟ったのか、半信半疑そうながらも頷いていた。


ちなみに街で別れた彼がその後、MDで円裂斬と呼ばれるスキルを使うようになったと

聞いたのは結構後のことであった。


「ふう……うーん、想像でもなかなか勝てないな」


俺が青年にアドバイスを終えた頃、

そんなつぶやきとともに剣士の少年が見張り兼用の訓練を終えて焚き火に戻ってくる。


皮鎧の表面と顔が揺れる炎を照り返し、

一汗かいた様子がありありとわかる。


「おいおい、自己鍛錬に集中しすぎるなよ?」


「わかってるって。心配性だな」


青年の苦言に、少年は反抗期の子供のように反射的に、

それでいて嫌そうではない表情で返す。


仲間、というやつなのだろう。


それはそれとして……。


「想像でも勝てない? 何か、強敵に出会ったのか?」


俺がそう問いかけると、2人揃って微妙な顔をする。


「敵……じゃあないです。何せ、相手は今から帰る街にいるから」


少年が小さく、そんなことを言う。


つまりは、相手は冒険者かそれに近い立場の人間。


「ギルドに、精霊戦争に参加した生き残りの子孫って言われてる男がいるんだ。

 現役は引退したらしいが、短時間ならその動きはまさに強者」


真面目な顔をした青年のそんな説明に、

俺は以前の襲撃の際にそんな人がいただろうかと考える。


「ファクトさんはあの魔物の襲撃、不死者異変の時にいましたよね?

 あの時には確かいざというときの後詰めに外壁に待機していたはずです」


そんな疑問が顔に出ていたのか、少年はそう丁寧に説明してくれる。


そうか、あの事件は不死者異変と呼ばれているのか。


確かに、恐らく過去にも数少ない生きているものが不死者になるという

衝撃的な事件ではあった。


そして、引退しているというその男が切り札として

待機していたというのも納得できる。


ギルドにいるということは、

俺の提案が無事に役目を果たしていることでもある。


俺が今オブリーン近辺やガイストール等で行われている

所謂クエストの仕組みを作る際、各地にいるらしい

引退した熟練の冒険者や師範のような立場の人間に

各地のとりまとめをお願いすることを盛り込んでおいたのだ。


今まである意味好き勝手にやっていたことを、

一定のルールの下で一緒にやろうというのだ。


当然あちこちで軋轢は産むし、問題だって出る。


だが、そんなときに俺のような正体不明の人間や

国のような立場が出てくると余計にややこしい。


そんな時、言い方を変えれば顔が効く、そんな

立場の人間が発言する言葉には相応の重みが出ると思ったのだ。


少年と青年から話を聞く中、

そんな仕組みが今のところ上手く行っていることを肌で実感するのだった。





4日後。


さすがに10人ともなれば2頭のグリフォンに乗せるというわけにも行かず、

3人だけ先にガイストールへ行くというのも

それはそれでもったいない気がした俺達は、

そのままクレイたちと行動をともにし、ガイストールへと帰還していた。


彼らの行きと比べて約半分の時間となったのは、

単純に俺がアクセサリーとして疲労回復、

つまりはHP自動回復となるような簡単な装備を貸したからである。


途中、何回もゴブリンや獣型のモンスターから襲撃を受け、

それらを撃退していた。


その頻度は最終的には俺が眉をひそめるほどになっていた。


簡単に言えば、まるでゲームのようなエンカウント頻度なのだ。


これでは行き来に人々は困るし、モンスターとて

食事や生活に困るのではないかというぐらいだ。


もっとも、道があってないような森や林、獣道を通ってなので

街道となればまた話は違うのだろうが……。


「ねえ、いつもこんな感じなの? 随分と敵の数が多いようだけど」


「そうなんだ。街道はそうでもないんだけど、普段人が行かないような

 森だとか、冒険者が薬草を採りに行くような場所にさ、

 最近増えたんだ、奴らが」


キャニーの疑問に、クレイが倒したゴブリンの装備を確認しながら答える。


倒したゴブリンは粗末な木の棒に、人間の鎧を見よう見まねといった様子の

凄く簡易な皮鎧を着ている。


どちらかというと貧相なその姿に、

俺はじわじわと競りあがってくる嫌な想像が少し下がるのを感じる。


話を聞きながらの俺の考えは世界の変革の可能性に至っていた。


実のところ、この世界のモンスターには2種類いる。


いた、というべきかもしれない。


1つは人間のように育ち、そして死ぬもの。

ある種グリフォンたちもそうかもしれない。


番が卵を産み、育て、そして死んでいくように。


コボルトの親子であり、ゴブリンの夫婦。


つまりはそこには社会がある。


恐らくはオークやオーガ、もっと別の種族だってそうだ。


それらとは別のもの。


それは突然現れるものだ。


ストレートに言えばゲームのようにポップする。


以前、儀式のようなもので不気味に増殖した相手がいた。


近いといえば近いが、遠いとも考えられる。


例の遺跡の管理人の本にその存在が記されていた。


日記のような語りで書かれていたその記述からすると、

不定期に世界にはそんなモンスターが増えるらしい。


そしてそれらの後には必ず、どこかで何か大きな戦いが起きていたと。


そのモンスターたちが特徴的なのは、

一定の領域から基本的に出てこないことがある。


縄張りといってもいい。


だが、逆に縄張りの中にいつのまにか彼らはいるのだという。


時に壊滅を狙って集中的に討伐がされた後も、

何故かいる、と。


まさにゲーム内部のモンスターポップと同じ理屈。


(終わらない闘争……か)


ゲームの設定や管理人の記述に従うように、

まず縄張りから出ないのであればまだいい。


だが、俺は忘れていない。


エルフは既にゲームの設定という束縛から半分逃れているのだ。


ある程度の数よりは何故か増えないという

設定はそのままらしいが、モンスターがエルフのように

設定に縛られない日が来ないと誰がいえようか?


そのとき、今のままの人間に対抗策はあるだろうか?


押し寄せる、といったことはなくても

今以上にモンスターが日常となったとき、

人間は強くならなければならない。


いや、生き残れるようにならなければならないのだ。


「見えてきたぞ」


「なんだか懐かしいね」


「ああ、変わらないな」


小高い丘を超え、視界に入ってきた街を目にし、

俺はその思いを新たにする。


冒険者たちが、冒険者として生きていられるように手を添えなければいけないと……。

・円裂斬

必須条件:斧熟練一定値、槍熟練一定値


初撃のあと、自身を中心に円形の範囲攻撃を行う。

ダメージはメインターゲット以外は約3割。


実際の武器の間合いより若干広い部分まで攻撃が届く。

MDではゲーム的衝撃波、作中では魔力による不可視の力場によるもの。

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