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139「新しい芽吹き-4」


「何か、聞こえる。なんていってるんだ? え? 1250? 数字?」


「古語? ううん、かなりなまりがひどいけどなんとか聞こえる……。

 え? 何か頭の上に出てる……。

 次の……精霊の……喜びまで……後2800?」


直接頭に響いているのか、それぞれが響く声に耳を傾けている。


数字だけは聞き取れたらしい剣士、

そしてみんなの頭の上に文字が出ていることに

気が付いたコーラルはアンヌの上のそれを読み上げる。


「私、この間起きたばっかりだからなあ、精霊の喜び」


アンヌのその言葉から、どうやらレベルという単語はともかく、

この世界にもレベルアップの概念というか、

強くなるタイミングがあるという考え方があるのはわかった。


確かガイストールでの戦いの後にも、

参加していた多くの冒険者たちに

同じような現象が起きていたはずである。


ちなみに俺はこうだ。


─数多くの精霊を開放せし者よ。次の精霊の喜びまでは後1213万6215。道は遠いが進め


前の部分は確か初期のレベルキャップを突破したキャラクターの場合で、

最後のほうはまだ10%以上次のレベルまである場合に表示されたはずだ。


それでも確か記憶にある最終値は1400万ぐらいだったはずなので、

結構稼いでいることになる。


もしかしたらこれまでに相手をしてきた、

ボス級の相手が結構な経験値扱いで、その上で

少人数で相手をしたから多めに分配されてるのかもしれないな。


もしゲームどおりならば、レベル差による

経験取得の制限があるとしてもキャニーたちは

俺が思ってる以上にレベルがあがっていることになる。


結構あちこち一緒にいったからなあ……。


そんなことを考えていると、直接響く声にようやく慣れ、

落ち着いたのかそれぞれが念のためにと周囲を確認している。


だが、時折こちらをちらちらと見ている気がする。


「ん? 何かあったのか?」


「だ、大丈夫! ファクトさんの数字すげー、どんだけ強いんだなんて思ってないですよ!」


思わず問いかけると、何故かガチガチに緊張した様子の

シーフな少年が誤魔化せていない台詞を口にする。


いや、君そんなキャラじゃ無かったよな?


「ばれてしまっては仕方が無い。出来ればちょっと不思議な先輩冒険者、

 ってことで過ごしたかったんだが……俺もうっかりしてた」


予想すべきだったのだ。


キャップを超えている自分と、ようやく殻が取れたかというぐらいの

冒険者との差がどれぐらいあるかということを。


「とりあえず、危険はなさそうだし上のクレイたちも呼ぶか」


まだ緊張した様子のアンヌ達にそういって、

俺達は一度上にあがることにした。



途中の若干居心地の悪い沈黙に内心頭を抱えながら、

太陽の光が差し込む遺跡の入り口へと戻る。


すぐそこに、武器の手入れをしているのかしゃがみこんだクレイと、

外を警戒しているキャニーとミリーがいた。


後の少年たちは、倒したのであろう魔物らしき肉塊を切り裂いている。


「あっ、どうだった? こっちはウィングバットを倒して、牙とか取っているところよ」


言われて見れば、確かにその大きさに気を取られていたが、

切り裂かれているのはウィングバットだった。


そこそこの数がいることから、はぐれた数匹に遭遇したというわけではないようだ。


「ああ、下にかなり昔の遺跡を見つけた。しかも動いてる」


俺の言葉に、クレイ達の視線が集中する。


「本当か!?」


「ええ、本物も本物。見ればわかるわ」


アンヌとクレイの会話を聞きながら、

俺も遺跡の窓というか開けている場所から空を見上げる。


静かなもので、ゴブリンの襲撃といったこともなさそうだ。


「これなら全員降りてもまあなんとかなるか」


「そうしましょ」


残ったウィングバットの死体を魔法で処理し、

全員で地下へと降りていく。


泉のある広間に到着し、全員の感嘆の声を聞きながら泉へと歩み寄る。


枯れる様子は無く、魔力もめぐっていることがわかることから、

完全に復活したであろうことが感じられた。


これは地下水を何かの仕組みでくみ上げているのか、

中に水が産まれるアイテムでも入っているのか。


下手に分解は出来ないので詳細はわからないが、

結果に違いは無いのでよしとしよう。


「これを飲んでみればいいのかな?」


「ああ。手を洗うだけでもいいけどな」


柄杓のような物や、コップもいくつか泉のそばにあるのを見て取ったミリーは、

俺がそういうと匂いを一応確認しながらか、口をつける。


そして頭上に光る金色の文字。


キャニーが12万、ミリーは9万、とそれでも他と桁が違う。


「魔物を倒すと、精霊が世界に開放され、倒した本人や

 近くの面々に一部が吸収されて力になると聞いたことがあります。

 この数字がその具体的な物ということですかね」


魔法使いの少年が確かめるようにそういい、静かに一人頷いている。


俺はその話を聞いて、気になっていたそういった周りのことや、

レベル……に関する話をみんなに聞いてみることにした。


どうやらこの世界でもある程度戦うと急に自分が強くなったような

爽快感というか、高揚感はあるらしい。


魔物を倒して、その精霊を開放し、

自分の持つ精霊の量が増えるからだという。


問題としてこれは人も適用されるらしく、

盗賊団などをたおすとその現象が起きることが。


もっとも、その効率は経験上、人間より魔物のほうが遥かに効率が良く、

単純に強い相手じゃないとほとんど意味が無いということを

人間は経験上、学んでいるそうだ。


だが兵士となればある程度の質は保証される。


だから戦争もいけないことだが、

過去それを理由に戦争を仕掛ける国もあったらしい。


土地や財産ではなく、兵士自体を強くすることが出来るという利益。


それに目がくらんだ国もあったようだが、

余り長続きはしなかったらしい。


王は乗り気でも兵士はそうでもなくなっていくというのが大きな理由なようだった。


(奴隷がいて、それを殺すことでレベルアップさせるような世界じゃないだけましか)


俺はその話を聞いてふと、そんなことを思った。


もっとも、奴隷に近いものは各国あるような気もするし、

何より貧民はいるわけだしな。


ともあれ、訓練でも体は鍛えられ、

自分に宿っている精霊を強くするという面では

不殺でのレベルアップも不可能ではないはずだ。


よほどの相手でなければすぐに鍛錬も頭打ちになること請け合いだが。


「俺は気にしないぜ。強い奴は強い。追いつきたいならがんばって鍛える。

 それだけだって思う。どうかな、みんな」


話の流れで、俺の数字がとんでもない桁であることに話が変わったが、

クレイはそういって笑って流そうとする。


(これは一度フィルなりにしっかりと話を通す必要があるな)


これからやろうとする事を考えたら、

ずっと誤魔化すというのも大変だろう。


無限のモンスターVS無限の伝説級武具とかどうだろう……なんてな。


幸いにも、アンヌたちは余りにも桁が違いすぎて

実感がわかないらしく、驚いただけで余りつっこんでこなかった。


そんなことよりどこかにお宝ないかな?という

クレイの発言のほうに気を取られたからかもしれない。


手分けして探索し、ついにみつかるのは

管理人の骨の合った部屋にある隠し部屋。


部屋といっても大きめのコインロッカーほどのそこには

桐箱を思わせる大き目の箱が鎮座していた。


シーフな少年が慎重に開錠するとあっさりした音を立てて、

ぱかんと二枚貝のように口を開く。


そこには銀貨。


「うぉ!? 何枚あるんだ」


「ちょっと輝きが違いますね。少なくとも今流通してる物より質がよさそうです」


覗き込む面々から驚きの声が上がる。


それも仕方が無いことだろう。


その箱はちょっとしたクーラーボックスほどはあるのだから。


「残念。純銀貨じゃないね。半分ぐらいかな? それでも十分お宝だけど」


銀貨の量に、上ずった声をあげるシーフな少年の顔はほころんでいる。


「こっちは槍と弓かしら。弓はもう弦部分は朽ちてるわね」


箱のほかに、中に立てかけられていたのは

恐らくは管理人が使っていたであろう武器。


「どうする? こっちはもらっていいか?」


触っても壊れた槍、としか出てこないが、

職人の性か、気になった俺はそういってみる。


「いいんじゃないか? もって帰っても鑑定できる心当たりはないし、

 良い物とも限らないし」


クレイの言葉に、全員が頷く。


俺はありがたくそれをもらい、

代わりにこの銀貨だとかには手をつけないことを宣言する。


「今更だが、見つけた奴って全部持って帰っていいのか?」


俺はそんなことが気になって、後ろに立ったままの青年に聞いてみる。


ポールアックスを扉に向けたまま、念のための警戒といったところか。


「ん? 一応契約では、見つけたものは報告の義務はあるが、

 よほどの危険物でなければ自由でいいそうだ。

 というより、半端に残しても誰が持っていくかわからないほうが

 後が怖いんじゃないだろうか」


確かに、仮に国の預かりになるとしても

それまで遺跡が封鎖されるわけではない。


その間に盗賊なり、悪意ある第三者が根こそぎ持っていかないとも限らないわけか。




そして、冒険の報酬としてはちょっと多すぎる気もする、

そんなホクホクしたお宝だったわけだが、

外に出る前に管理人に祈りを捧げ、しっかりと弔うかは

後日考えることにして遺跡を出ることにする。


外に出たとき、既に日は傾きかけていた。

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