表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/292

138「新しい芽吹き-3」

──ウィングバット


キャニーとミリー、そして冒険者たちも

名前と、多少の生態は知っていることだろう。


地球のそれとは見た目は似通ってはいるものの、

ファクトは姿を見ればこう叫ぶかもしれない。


現実で大型犬よりでかいコウモリなんてごめんだと。


遠くから見る限りでは普通のコウモリの大きさにしか見えないが、

翼を広げた大きさは相当なものとなる。


何故か障害物の無い場所には住みつかず、

いつも森にしかいないために人間の街が襲われるということは余り無い。


森から森へ、時折移動する際に運悪く遭遇した旅人は

その爪につかまれ、空へと消えてしまうときがあるという。


その攻撃方法は上空からの突撃、それのみ。


遺跡から出て、クレイ達は敢えてそんなウィングバットの視界に自らの体をさらす。


一見、無意味に危険を冒しているように見える行動だが、

ウィングバットの習性から、これが正解だと彼らは知っているのだった。


「来るぞ! 十分引き付けるんだ……」


メンバーに指示を出し、自身もストライカーブレイドを構えるクレイ。


その足元は確かな光にあふれていた。


彼はその名前を知らない。


だが、その効果は身を持って知っている。


体が軽くなり、人の理を超えた魔法の力。


クレイ以外のメンバーは武器は構えるが、迎撃のためではなかった。


空中からいくつもの巨体が突進してきたとき、

その場から大きくクレイを残して散開する。


そのクレイも、ぎりぎりまで引き付けた後に

まるで消えるような動きで数歩分だけ下がるだけで迎撃はしない。


その理由は、目の前にあった。


轟音とともにぶつかり合う、ウィングバットの巨体。


ただ一点、獲物である動物、人間たちへ向けて

突進した4匹ほどのウィングバットだったが、

その巨体ゆえに融通が利かない。


結果、避けきれずに互いに衝突したのだった。


敢えて誘い込まれたことにウィングバットが

気が付いていたかどうかは定かではない。


ごろごろと、クレイの前に4匹が距離をとるように転がっていく。


結果的に離れたその距離は10メートルも無いだろう。


さすがにすぐに致命傷を負うということはなかったようだが、

それを見逃しているようでは冒険者は務まらない。


「はぁ!」


クレイの足元を覆う光、それは一瞬にして彼を彼自身の最高速度へと押し上げ、

瞬きの間に転げる4匹のうち、1匹へと駆け寄らせることに成功する。


一閃。


その力特有の、肉のこげるような音をあわせて立て、

ウィングバットの巨体は半ばからストライカーブレイドによって両断される。


なおももう1匹、そして残り2匹がキャニーたちの手によって倒される。


「雷の、魔法?」


キャニーはクレイの切り裂いたウィングバットの体を見、

そう確かめるようにつぶやく。


「ああ。最近話題なんだぜ、クレイのあれ」


そういうのはキャニーのそばでポールアックスを構えて

空を警戒する青年。


言われて良く見れば、クレイの構えているストライカーブレイドの刀身に

うっすらと黄色とも、金色ともとれる色が煙のように

漂っているのがキャニーにもわかった。


(変に焼けたようになってるのはその所為か……それにしてもあの動き?)


クレイの攻撃の種明かしに納得したキャニーであったが、

それだけでは足りないこともわかる。


しかし、偶然にもキャニーはその答えに近いものを知っていた。


ランディング。


スノーホワイトたちが使っていた移動用の魔法だ。


(アレと違って戦闘用の一時的な強化かしら? それでも余り長くはもたないみたいね)


既に消えているクレイの足元の光に、

キャニーはそう分析して自らもウィングバットの残りと相対する。


「数が減ってしまえば後は怖くありません。行きましょう!」


杖を構え、ウィングバットを落とすべく風の魔法で

飛行を乱そうとする少年の声に、冒険者たちはそれぞれの声で答えたのだった。


それは10分か、数分か。


どんな戦いでも、気持ちのいい戦いというものは無いものだと、

クレイは静かに息を吐きながら思う。


命を奪うのだ。


程度の差こそあれ、それ自体は変わらない。


そのことが、クレイを勝利の余韻へと単純には浸らせてはくれなかった、


勿論、やらなければいけないことであるという自覚はある。


生き残るためにも必要だという自覚も。


だがそれでも、流れる血、残る骸に、

相手も生きているんだなと答えの出ない問いに心が動く。


「よう、今日も冴えてるな」


クレイは、そんな自分の気持ちを吹き飛ばすように

軽く声をかけてきた本人、槍を右手に持ったままの少年に振り向く。


「なんとか、な。ずっと空を飛ばれてたらやばかった」


長期戦となれば、地の利がある相手のほうが有利なのは

クレイも身にしみてわかっていることだった。


だからこそ、わざと最初に数を減らせるように誘いをかけたのだ。


ストライカーブレイドに付いた相手の血を拭きながら

答えるクレイの元へと冒険者が集まる。


「残りはどこかにいっちゃったみたい。消耗するだけだって判断したのかしらね」


「ウィングバットはちょっとにおうからそのほうが良いよ」


結局、彼らが倒したウィングバットの数は14。


増援のようにやってきた残りの集団は、

彼らが空を見上げる間にどこかへと去っていったのだ。


それは倒される同族の姿におびえたからかもしれないし、

そうでないかもしれない。


ただ、クレイたちが勝利を掴んだのは事実だった。


「やったな、雷閃」


クレイの肩を叩く、ポールアックスを持った青年の口からは、

キャニーたちの視線を集めるのに十分な言葉が飛び出てくる。


「雷……閃?」


「ちょ、やめてくれよ。俺が自分で言い出したんじゃないんだからさ」


つぶやくようにして疑問を浮かべるキャニーにちらりと視線をやりながらも、

迷惑そうに表情を変えるクレイ。


瞬く間に間合いを詰め、そして光る一閃。


後に残るのはまるで落雷にでもあったかのように

一撃で倒された相手が残るのみ。


設立されたギルドの上層部で、

そう評されるのも無理はないといえる。


「それに、万能じゃないさ」


クレイがそう語るとおり、実際には速くて強い、それだけである。


熟練者相手となれば、無傷とはいかないかもしれないが、

とっさに回避される事だって十分ありえる一撃なのである。


その理由は、技が追いついていない所為であった。


「今見た感じだと、足の速さというか勢いに、上半身が追いついてないわよね。

 いえ、追いついてはいるけど、魔法か何かの助けを得ている下半身と違って、

 上は自分の力だけだから、速さをそのまま使うだけの攻撃になってるのかしら」


「方向転換のときとか、魔力を凄い使ってるよね。

 あれだとどこかに攻める時には効率がよくないかな?」


姉妹の指摘に、クレイは驚きを隠せない。


そう、姉妹の指摘は正しい。


だがそれは多くの相手をその力でクレイが倒し、

ギルドの上層部や熟練の冒険者が動きを観察し、

分析とクレイ本人への聞き込みでわかったことなのだ。


数回見ただけでそれがわかる。


それは自覚の無いままキャニーとミリー、

2人の実力が思っていないところまで引き上げられており、

ゲームで言うパワーレベリングの状態だったことの証明でもあった。


だがそれを正確に把握できるはずのファクトはここにおらず、

姉妹が只者ではない、そう冒険者たちに改めて思わせるという結果が残るのみであった。










(敵はいない……と)


扉を潜り抜けた先は天井の高い部屋だった。


恐らくだが、上の遺跡まで突き抜けていることだろう。


壁のあちこちには恐らく魔力を燃料とするマジックアイテムの灯り。


壁に完全に埋め込まれており、取り出すのは難しそうだった。


「もったいないですね。これ1つでもかなり高いんですよ」


コーラルが指差すとおり、その魔法の灯り、マジックランタンとでも言おうか。


それは明らかに高度な技術が使われていることがわかる。


そう、ゲームのMDで見ることが出来るぐらいには。


まるでついさっきまで時間が止まっていたかのような空間。


いつの時代の物かははっきりとしないが、

数年前だとしてもこうはいくまい。


「魔力が動いた形跡がありますね。もしかして上でガーゴイル像に銀貨を入れた後の、

 何か動いた感じはここにも関係してるのかもしれません」


周囲を見渡したコーラルがそういい、視線を正面に戻す。


そこにあるのは枯れた泉と、受付のような石で出来た机。


モデルのわからない女神のような像が持つ水瓶から、

当時は混じり気の無い綺麗な水が流れ出、泉を満たして……いた場所だ。


そして机には、落ち着いた様子の牧師が似合いそうな男のNPCがいたはず。


だが壊れてはいないものの、泉は枯れ、机には誰もいない。


「聞いたことがあるかな。自然にある魔力を集め、宝物庫の汚れを防いだり、

 武具が錆びないようにする技があるって。今もあるかどうかは怪しいところだけどさ」


罠がないか、あちこちを調べていたシーフの少年が思い出したようにそういい、

答えはどこにもないけどね、と肩をすくめる。


恐らくは彼の言ったことが正解だ。


MDにあった魔法の設定にも近い。


問題はそれが、装置などがまだ生きているのか、魔法として

実行した存在がこの場所にいたかだが……恐らくは両方だろう。


細かな装置もあったかどうかはともかく、

何かしらの大規模な魔法が使われたのだ。


その理由は、部屋の隅にあった扉を開けた先、

ベッドに横たわる白骨が物語っていた。


「ここの管理人だったのかしら」


「だろうな。誰かが埋葬代わりにここに寝かせ、後は何かが綺麗にし続けたというところか」


両手が胸の前で合わされ、棺に納められているかのような姿だ。


腐ったような跡は無く、ベッドのシーツも年月による若干の変色以外、

汚れた様子は無いことからそれも明らかだ。


「それにしたって、墓に入れてやるのが人間ってもんだと思うんだがな」


剣士はコンコンと壁を叩きながら、隠し扉が無いかの確認でもしているのか、

歩きながらそういってくる。


だが俺は近くのテーブルの上にあった1冊の本をとり、それに答える。


「きっとここから離れたくなかったんだろうさ。理由はまだわからないけどな」


まだ十分に読めるだけの質を保っているらしいその本をめくる。


それは日記だった。


だがこの世界特有の文字、しかも今使われている文字とは

かなり違う文字だった。


「これは、古語……? 遥か昔、精霊戦争前後に失われたという言葉です。

 噂によればこの言葉でしか話が出来ない強力な精霊がいるとか」


コーラルはその古語を多少知っているのか、

文面を目で追うがすぐに頭を抱えてしまう。


「たまにわかる単語が出ますけど、文章にならないですね。

 ファクトさんならどうです?」


「たぶん、大丈夫だ。以前似た物を読んだことがある」


微妙に嘘と本当を混ぜ、この世界に来たときからお世話になっている

自動翻訳的な何かにお世話になりながら読み進める。


この白骨がやはりここの管理人であること。


いつこの役目を受け、いつ終わるのかもわからず、

だが自分を突き動かすその使命感に彼は休むことなく

ここを維持し、周囲のモンスターを倒し続けた。


それは瞬きのようで、無限の時間のようで、

時折訪れる旅人との語らいが何よりの楽しみであったとあった。


精霊戦争の最中、彼は戦場に出向くことは無かった。


ここは前線からは遠いこともあったが、

一番の理由はこの場所にあった。


ここを守る、それが彼自身の役目だったからだ。


そして戦後、自らの寿命を悟った管理人は、

知り合いの魔法使い達に頼みをする。


いつかここが必要になるときのために、未来に残したいと。


その願いは聞き届けられ、遺跡は封印された。


それは世の中に精霊がまた戻り、世界が復活してきたときに

必要になるだろうという魔法使いたちの願いでもあったのだ。


(そんなになるほどこの施設はレアだったか?)


俺は読み進め、無難に翻訳しながらアンヌたちに伝えながら

疑問を抱いていた。


確かに便利な施設だったが、NPCがいないのでは、

いつだったか目にした回復の泉とそうかわらない。


他に何があったか?と考えたところで脳裏に1つのシーンが浮かぶ。


それは回復、そしてNPCとの会話でのことだ。


通常、メニューから自分のステータスを見ればわかる

所謂次レベルまでの必要経験。


それが確かこのタイプの施設を使ったときには、

テンプレートな会話として行われたはずだ。


そう、それはつまりメニューなんてない世界で、

自らがより強くなるための数字が明確にわかるという機能。


レベルという概念があろうがなかろうが、

ぴんと来る人間は確実にいただろう。


「ははっ、なるほどな」


「どうしたのよ……面白いことでも書いてあったの?」


急に笑い声を上げた俺を心配したのか、

そわそわした様子で話しかけてくるアンヌに俺は振り向く。


「泉へ行こう。復活させるぞ」


それだけをいい、呆然としているコーラルや少年たちを置いていくようにして

枯れた泉へと向かう。


慌てて追いかけてくる気配を感じながら、

俺は泉の中央、女神っぽい像の前に立つ。


「コーラル、ちょっと魔力を探ってみてくれないか」


「はい。……え? 何か、すぐそこまで来てる?」


コーラルがそうつぶやいたように、この泉は枯れていたのではない。


言ってしまえば、蛇口が閉まっていただけなのだ。


蛇口をあけるには簡単だ。


日記にもその方法が書いてある。


「願わくば人に恵みを。風が運び、火を眠らせ、大地に染みる物、

 ピュアリィ・ウォーター!」


仰々しい呪文のような叫びだが、起きる事は極々シンプル。


魔力を帯びている部分はあるものの、混じりっ気なしの真水が

俺の両手の中、像を包むように生まれ、そしてばしゃりと音を立てて泉をぬらす。


その量はお風呂一杯分っといったところか。


ちなみに仰々しい呪文部分が蛇口を開くキーワードになっているらしい。


乾くまでに本来ならば時間のかかるだろう水量だったが、

何かに吸い込まれるようにして泉の底にたまった水が

すぐに消え去っていく。


その先は、女神像。


瞬間、何か重い音が響く。


「なんだ、地揺れ?」


「遺跡が……? いや、泉のほうから音がするぞ!」


俺はコーラルの手を引いてすぐに泉から出る。


そして待つこと数分。


勢い良く水瓶から噴出すのは、いつか見た回復の泉の水そのものだった。



全員が言葉無く見つめる先で、

水瓶からは永遠と思われるほど、水があふれる。


それは地球でも公園にあるようなそこそこ広い

噴水のような枠の中を満たし、

気が付けば泉はその水量を復活させていた。


一度満たされればそれがわかるのか、

水瓶からあふれる水は減り、そしてどこかに一部の水は

流れていくのか泉があふれる様子は無い。


まるで庭園にある泉のように、

さらさらと静かに水が流れる音が部屋に響く。


「復活……したのか?」


「ああ、少なくとも1000年は昔のものがな」


呆然とつぶやかれる誰かのつぶやきに、俺はそのままで答える。


「生きてる遺跡。ううん、復活した遺跡ね! 大発見だわ!」


抱き合い、喜びをあらわにするアンヌたちを見ながら、

俺はこの後に起こることにもう気持ちを向けていた。


どの段階で泉を利用したことになるかは

検証の余地があるだろうが、この瞬間は

利用したと判定されることは間違いないと思ったのだ。


そして、その予想は的中する。


俺はもとよりコーラル、アンヌ、そして他の頭上に

ぼんやりと浮かぶ金色の文字。


それは必要経験の数字を伝える世界のメッセージだった。


脳裏に響く、聞き覚えのある重厚そうな声に、

俺はどこか静かな気持ちで耳を傾けていた……。




自分の覚書も兼用として、アイテムとかを書き出すようにしようと思います。


○アジリティグロウ

クレイが自然習得したアクティブスキル。


使用すると魔力の力場が足元を覆い、

習得Lv1だと10秒間、行動に補正がかかる。


実際には瞬きほどの時間に動くわけではないが、

そう錯覚するほどには速く動ける。


体全体に補正がかかるわけではないので、

熟練には数値以上の実体験からの慣れが必要。


○ストライカーブレイド(雷)

雷属性の特殊能力が発現したストライカーブレイド。


その性能は、アクティブスキル2つ。

・雷鳴剣

名称はゲーム上の物。

単発の効果で通常攻撃に加え、

INTとSTR依存の雷属性の追加ダメージを与える。

これは物理防御では減算されず、

魔法への抵抗で計算される。

物理的な刃は通らなくても、雷の属性ダメージで

相手を倒すことも可能となる。


消費は最大魔力の5パーセント。


・飛雷

雷を帯びた魔力弾を打ち出す。


クレイは未発動。

必要条件が一定値以上のINT及び総魔力のため。


どちらもゲーム中の性能としては、

継続的にいわゆる狩りをするには少し消耗が重たい。


命がけのこの世界ならではの切り札具合といったところです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ