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137「新しい芽吹き-2」

(へぇ……リーダーしてるじゃないか、クレイ)


仲間の9人を集めて、奇襲を警戒しながらも

話し合いを始めるクレイの姿に、

何故か妙に嬉しくなり笑みが浮かぶのが自分でもわかる。


この世界での冒険自体は確かにそう豊富ではないが、

ゲームプレイヤーとしての経験からクレイが集団での話を

うまく進めていることがわかったのだ。


結局は、リアルだろうが機械を介そうが、

人対人は難しいものだ。


「放置された遺跡にしては妙に綺麗ね。崩れてるところ以外」


「うん。埃は積もってるけど、妙に床が綺麗だよ」


その間、俺と姉妹は新しく開いた入り口の周囲の確認を行っていた。


ちなみにすぐ階段になっていて、地下に降りるようだった。


確かにあちこち崩壊はしているが、それでも年月の割には

綺麗な部分が多い。


先に探索した人間が掃除したか?


いや、そんな酔狂なことをする人間は皆無だろう。


そうなると可能性は結構絞られる。


・結界的な何かでほとんどの時間、封鎖されていた。

・魔法などの手段で清掃されていた。

・ついさっき否定したが、定期的に誰かが掃除していた


などである。


個人的には魔法だろうと思っている。


実際、MDでもそういった感じの設定で綺麗になるのだ。


モンスターの死体や、マイルドに表現された諸々は、

一定時間ごとに何かしらの処理で綺麗になっているのである。


死体そのものは所謂ポリゴン的に消えるのだが、

砕けた壁といったものはそうもいかない。


足元に瓦礫がごろごろしている、というのも問題だったのだろう。


フィールドや洞窟ではその機能はなくなっているようだが、

この建物にはそれが残っていたか、

あるいは魔法などの手段として実行できる存在が残っていたか。


ともあれ、ゲームでは覚えることも無いその魔法もどきだが、

実際に使えたら便利だろうなあとは思う。


「よし、じゃあアンヌ、頼んだぞ」


「ええ、まっかせて!」


どうやら話し合いは終わったようで、10人の冒険者が立ち上がる。


クレイがこちらに歩み寄るのを俺は待つ。


俺からはどうするとは言わない。


これは彼らの依頼なのだから、手助け自体はともかく、

通すべきものは通すほうがいいだろう。


「ファクト、俺と3人はここでゴブリンが戻ってこないかを警戒、残りの6人で潜ることにしたよ」


「なるほどな。アンヌが地下の担当ってことか。いいんじゃないか」


全員で潜るから留守番よろしく!などといわれたら、

姿の見えないジェームズの代わりに怒るところだ。


「うん。それでさ、ファクトって遺跡とかに詳しいだろ? できれば

 後ろについてきて、何かあったときに解読とかお願いしたいんだ」


そのクレイの言葉に俺は思わず瞬きする。


面と向かってそんなことを言ったことがあっただろうか?

と考えるが、そういえばジェームズやコーラルと

魔法のことや、あちこちの遺跡について

いつぞや話していたことを思い出す。


恐らくその話をジェームズから聞いていたのだろう。


(さて……)


「で、いくらだ」


腕を組み、わざとトントンと指を動かしながらそんなことをぶっきらぼうに言ってみることにした。


依頼先で出会う同業者が、皆気持ちのいい相手とは限らないのだ。


どう出るか、と考えているとクレイは半ば俺の言葉を予想していたのか、

思ったよりすっきりした顔で口を開いた。


「ミドルポーション5本と何か発見できたら俺の割り当て分でどうかな」


「ちょっとクレイ!?」


慌てて叫ぶアンヌや、背後の少年少女の様子から、

クレイのいった報酬がかなりのものだというのがわかる。


「一つ聞きたいが、今ミドル……ポーション?っていくらになってる?」


「……出立時の相場でこの剣3本ぐらいはする」


背後の剣士風の青年に問いかけると、悪くない質の

ロングソードを柄ごと持ちあげながら律儀に答えてくれた。


なるほどな……。


「だってさ、何だかわかんなかったら仮に持って帰っても買い叩かれるだろ?

 だったらその可能性をつぶしたほうが全員の儲けは増えるじゃないか」


「それもそうだな……」


最初はクレイの出した恐らくは破格な条件に

渋い顔をしていた面々だったが、クレイの説明に

苦い思い出でもあるのか、幾度と無く頷いている。


「60点」


俺はそんなクレイの肩に手を置き、真面目な顔をしてそう言う。


え?と振り返るクレイを見ながら、

俺は首を横に振る。


「まずは確定する報酬の価値が相手にとってどのぐらいかを見極めなければいけない。

 俺にとってミドルポーションがどれだけの価値になるか、

 その読みが外れたらそこで最初につまずいてしまうぞ。

 高騰しているようだし、数で不安部分を埋めようとするのはいいと思う。

 だが、価値が一定である現金のほうが確実だろうな。

 まあ、追加の報酬の件でも色々あるが、言えるのは……もう少し相手と交渉することだな」


最初からこちらからの条件を一気に提示するのは余り良い方法とはいえない。


じゃあそれプラスこれね、と言われたときに余裕がないからだ。


ともあれ、俺とクレイの関係を考えればもっと別の話がある。


「それにな……知り合いなのだから、手付けはこれで後は相談させてくれないか、

 ぐらいは言ってもいいんじゃないか?」


「あ……いいの?」


通すべき筋を通したならもっと頼っていい。


言葉に込めた俺の考えにクレイは至ったようで、

少年らしさが戻った顔でそう聞いてくる。


「ああ。受けよう。ポーション1つでいいさ。よっぽど変なことも起きないだろうしな」


実際問題、こんな場所で俺がピンチになるような

何かがあったら大問題である。


何せ、この場所からは魔力もほとんど感じないのだから。


「ファクト、私達はここにいるわ。ゴブリン以外がいないとも限らないし」


そういってくれるキャニーに感謝し、

俺はアンヌ率いる6人についていくことにして階段へと向かう。





「だいぶ乾燥してますね」


魔法の灯りで階段を照らしながら、コーラルがそうつぶやく。


「確かに、もっとじめじめというか、よどんでるかと思ってたぜ」


答えるのは、ダガーを油断無く手にして罠の確認をしている少年。


恐らくシーフ系統の担当だろう。


「何でもいいわ。せっかくの隠された場所だもの。

 10人が笑えるぐらいのお宝があればそれで十分よ」


アンヌのその言葉に、違いないと笑う5人。


ちなみにメンバーはレイピアのアンヌ、ダガーの少年、魔法使いのコーラル。


そして剣士の青年に弓からショートソードに持ち替えた少女、

手斧を手にした少年、の6人だ。


上にはクレイを含み、比較的大型の武器の人間が残っている。


建物の中での動きやすさを考えた人選なのだろう。


「む、階段は終わりのようだな」


前から3番目にいた俺は、視界の先が平坦になったことに気が付き、

そういって腰の剣に手を伸ばす。


気配を探るが特に気配は無い。


ゆっくりと進む通路の先で、どこにでもあるような扉が現れる。


素材は木。


だが恐らくは長い年月を過ごした割には妙に綺麗だ。


確かに古さはあるが、それでも十分な状態だ。


「不思議ね。朽ち果ててもおかしくないと思うの」


真剣というよりは、わくわくしているという様子で言うアンヌに、

仲間からはまたかというような視線がいっている。


どうやらいつもこのテンションのようだ。


「ファクトさんがやってくれた事を定期的に実践している誰かが、

 扉を交換しているかもしれない」


壁に彫られた、たいまつを備え付けるだろうくぼみに、

半ば燃え掛けのたいまつがあるのを見つけたシーフな少年が言う。


手に取ってみると、確かに火は消えているがまだ使えそうなたいまつだ。


まるで少し前に消されたような……。


ごくりと、誰かのならした喉の音を合図にしたのか、

視線がまた扉に向く。


開かなければ始まらない。


それは全員わかっているようで、ゆっくりと近づいていく。


「一番速いのはここから魔法あたりで扉を破壊することだが、

 後で何かあっても困るしなあ」


さりげなさを装い、やるべきではないことを先に釘を刺す。


ゲームでもよくいるのだ。


めんどくさいとばかりに結構豪快なことをするプレイヤーが。


向こうに敵や罠があったら一気に解決できて素敵でしょう?といわんばかりである。


大体はそういうときに限って向こうにモンスターの集団がいたり、

せっかくの宝箱があるのに一緒に砕けるのだ。


「魔力の気配はうっすらです。魔法を使うような相手はいないみたいです」


「特に凶暴な気配も無いな。俺たちぐらいなものだ」


コーラルと剣士、2人の言葉にアンヌが頷き、

扉から横に移動してゆっくりとそれを開く。


途端、矢が降り注ぐ!なんていうことはなく、

まさに拍子抜けという様子で扉が開いた後に何も起きない。


「行きましょう」


俺を含めた7人は、警戒しながらその扉をくぐるのだった。








「ちょっと聞いていいかな?」


「ん? どうしたの、改まって」


私はファクトのもぐっていった階段をちらりと見ながら、

声をかけてきた本人、クレイに向き直る。


彼以外には魔法使いらしい少年と、所謂ポールアックスと呼ばれる

大きい武器を持って外を見ている青年、槍を手にする少年がいる。


間合いが広い分、狭い場所では苦労する武器たちだ。


「いや、特に何がってことはないんだけどさ。

 ファクト、しばらく会ってなかったからどうしてたかなと」


「そうね。色々冒険してたわ。海にいったり、

 山の中で変な遺跡に挑んだり、雪山にいったり」


ゆっくりと思い出してみれば、ただの冒険者、

後ろめたい過去のある身としては嘘みたいな経験だ。


たぶん何度かは死んでたんじゃないだろうか、

と思うぐらい凄い相手に出会ったりもした。


日記みたいに書いたら売れるぐらいかもしれないわね。


私がクレイに、そんなことを考えながら話していると

窓際にもたれかかっていた青年が不思議そうな顔をする。


「クレイの話だと別れて1年もたっていないんだろう?

 よくそんなにあちこち行っているな。例の転送?だったかは意外とあちこちにあるのか?」


確かに、私とミリー、そしてファクトの冒険した場所は

普通に考えたら年単位で移動しないといけない場所だ。


どう説明したものか、と考えたところで気配を感じた。


遺跡の壁に近寄り、空を見上げれば影。


(偶然ここに近寄ってきた? いいえ、鼻がいいのか、気が付いたのね)


「話は後よ。ゴブリンの血にでも誘われたかしらね。ウィングバットじゃないかしらアレ」


「数は10……もう少し増大の気配」


すっと、冷たい瞳になった妹の言葉に頷きながら、

私は全員に武器を構えさせ、襲撃に備えるのだった。


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