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134「白の夢、銀の願い-5」

服を着ていないタイプの人型モンスターって、

熱さ寒さの調整どうしてるのだろうとちょくちょく考える自分がいます。


08/19:決着付近の描写を一部訂正。

ハイリザード、しかも寒冷地適応。


様々なモンスターで、ハイと名がつく相手は、

その名前に相応しいだけの実力を持つ。


知能、身体的な能力、そして場合によっては魔力も。


その中でも寒冷地対応のハイリザードというのは稀な部類に入る。


ちょっと考えればわかることだが、元々無理があるのだ。


恐らくは火山地帯や湿地帯のハイリザードと比べれば、

ポテンシャルの何割かは寒冷地に適応するために使われている。


考えてみれば、ゲームの設定があるからといって

生物として無理のある場所に生息しなければならない、

そんなハイリザード達も悲しい存在といえるのかもしれない。


(だからといって全部が許容されるわけではない……というのもエゴか)


そんな感情を捨て去るように、

右手でショートソードを構え、左手でなおも単独で挑もうとするミュエルを抑える。


マナリンクはなおも、彼女からの怒り、悲しみ、そして戸惑いが伝わってくる。


ハイリザードの1体は細い舌を蛇のように突き出しながら、

叫び声とも鳴き声ともわからない声をあげ、上段から足元へと

槍による攻撃としては余り見ない一撃で繰り出してきた。


「シャァ!」


「くっ!?」


左足辺りを狙った攻撃を余裕を持って回避した俺だったが、

ハイリザードは織り込み済みだとでもいうように

わざと姿勢が崩れるような姿をとったかと思うと、

体をひねりながらすくい上げるような上向きの突きが俺の足元から

右肩に向けてぎりぎりを鋭くえぐる。


(足元が滑りやすいのを逆に利用したか!)


体ぎりぎりを通り過ぎる槍の冷気が体を刺す。


ハイリザードが持つのは槍としては短めの、

縦にしたら腰ぐらいまでしかないような長さの物だ。


要所要所に、青みを感じる宝石のようなものがついていることから、

これらもマジックアイテムということになるのだろう。


槍としてのリーチが短い分、次の行動へのラグも少ないのか、

俺とミュエルを追い詰めるように次々と突きを繰り出してくる。


「たかがっ、人間1人にっ、大げさなことだっ!」


それでも、俺にとっては知らない速さではない。


時にそのまま、時に魔力の刃を作り出して穂先をはじき、

その攻撃に対処していく。


最初はその1体だけかと思われたが、

俺がすぐにやられないと見るや、

もう1体が奥のコキュートスハートの近くから進んでくるのが見える。


リーダー格を含めて7体、そのうち4体はそのままコキュートスハートを

守るかのように後ろに下がっており、

キャニーやミリーには何故か1体ずつしか向かっていなかった。


俺のほうへ1体追加としても、3体は戦闘に参加しないようだった。


状況と強さを考えれば、どこかに戦力を集中して

各個撃破を狙えばハイリザードの有利な状態だと思うのだが、

何故かそうはしてこない。


油断なのか、それとも……。


「前っ! ウィンド・ノック!」


半ば自動的にハイリザードの攻撃を回避していたようだったが、

僅かに気を取られた隙に、もう1体のハイリザードの槍が

氷の魔法をまとって俺の前に突き出される。


とっさにか、ミュエルの放った風魔法、

硬い風の塊を任意の場所にぶつけるという、

範囲は狭いがけん制や、急所に一撃を加えるのには

適した魔法が2体目のハイリザードの顔に当たり、その攻撃をそらす。


「悪い。助かった」


「フフ……油断禁物ね。それより、いいの?」


だいぶ落ち着いてきたらしいミュエルに礼を言って、

2体に増えたハイリザードをにらみつける。


「何がだ? ミラージュ・パリィ!」


タイミングを合わせて繰り出される2本の槍に、

俺は短剣やショートソード等、短めの近接武器で使う

初級スキルを発動して両方共を器用にはじく。


多くのリソースを鍛冶やアイテム作成に費やしている俺は、

戦闘に関する直接のスキルは余り多くない。


多くは無いが、無策ではない。


一通りの武器は使えるし、そのための初級スキルは一応取っている。


魔法も大技は無いが、作成には必要になってくる場面もあるので取得はしている。


どう考えてもレベルに相応しいラインではないが、万能系といえるのだ。


「これが終わっても、賞賛はあったとしても私たちからだけ。人間は利で動くと聞くわ。

 報酬はあるとはいっても、苦労には見合わないのではないかしら」


言いながらもミュエルも風の魔法でハイリザードを狙うのは忘れない。


ハイリザードの盾が氷しか対応していないことを見て取った彼女らは

魔法を風に切り替えている。


ちらりと見た限りでは、キャニーとミリーも離れないように意識してか、

2対4といった様相を作り出しているようだった。


「話しながらとは、舐めるな!」


普段のリザードマンらしい声ではない、怒りの声と同時に

魔法剣ならぬ魔法槍といった形で

強烈だと思われる一撃が2つ、前方から襲い掛かってくる。


だが、足りない。


空間やその雪や氷にその光を反射させながら、

俺の繰り出す光の長剣が2つの攻撃を目に残像を残しながらはじく。


動揺の気配。


それはそうだろう。


彼らにとっても自信のある一撃だったはずだ。


……いつもならば。


「遅いな。寒冷地に適応したハイリザードは、もっと強かったはずだ」


俺は威圧するようにわざと低めの声でそう言い放つ。


そう、知らない速さ、強さではない。


ハイリザードはフィールドの特徴のある場所にほぼ必ずいた。


湿地帯のど真ん中、煮えたぎるマグマの見える火山。


そして、寒風吹き荒れる雪山。


住み分けからか、スノーホワイトやスノーフェアリーのいる地域とは

まったく別の場所に住んでいる種族ではあったが、

その強さは折り紙付だ。


そのポテンシャルのいくらかは、環境への適応に費やされているのは確かだが、

彼らには本来それを補うだけの知能と、技量がある。


アイテムしかり、戦法しかり。


純粋な身体能力でいえば、他の土地のハイリザードのほうが強いだろう。


しかし、強さということからいえば寒冷地のハイリザードは強い。


逆境にこそ命は磨かれるということだろうか。


だが、今の彼らはそんなMDのハイリザードに数歩、足りない。


まるで、最初から枷を身に帯びているようだった。


「戯言を!」


認めたくないのか、激昂して襲い掛かってきた1体に向け、

俺は光る長剣を手に同じく近づく。


腕の付け根を狙った俺の一撃は、

信じられないという表情のハイリザードを目の前にしながら、

その目的を達成し、右腕の半ばまでを切り裂くことに成功する。


「本来のハイリザードであれば、こんな挑発には乗ってくるはずが無い。

 そうだろう?」


よろよろと、リーダー格の元へと後退するハイリザードを見ながら、

俺は言い聞かせるように言う。


キャニーとミリーも優勢であることは、その傷の具合から見てもすぐにわかる。


その理由は、恐らくは彼らの背後のアレにある。


コキュートスハート、どう見てもそれから何かを吸い出しているだろう器。


そこから流れ出る温泉にしか見えないお湯、その流れ。


1体だけ、目の前に立ちふさがるハイリザードをけん制しながら、

俺は自分の予想を口に出す。


「どうやってるかはわからないけどな。それ、お前たちの魔力も持っていってるだろう?

 近づけば近づくほど吸い取られている。でも離れるわけにはいかない」


それ、とは例の器のことである。


精霊の見える俺にとって、魔力の流れというものはある意味精霊の動きと同じことである。


緩やかにだが、太い流れがハイリザードから器に流れているのが目に見えたのだ。


俺の予想が当たったのか、リーダー格のハイリザードを含め、

全員が槍を構えなおし、こちらに近づいてくる。


姉妹の相手をしていたハイリザードも間合いを取るように下がり、

キャニーとミリーはその気配に何かを感じたのか、

武器をピックに持ち替えている。


「そこまでわかるなら答えは1つ」


獰猛な笑みを浮かべ、ハイリザードのリーダーは

見てわかるほどの力を全身にみなぎらせ、ハイリザードの

全員が肌で感じ取れるほどの魔力をまといながら突撃の姿勢をとった。


「何も言わずここで死んでもらおう!」


戦いを決める気なのだろう。


だが、俺はその光景に悲しみすら感じていた。


「フラッシュ1(ワン)!」


聞く人にとっては魔法の呪文と思うかもしれない俺の叫びに従い、

突撃してきたハイリザードと俺たちの間で連続して光があふれる。


そして、スノーホワイト3人が視界を取り戻した頃には、

全てのハイリザードは倒れている状態となった。


「今の……は」


「目くらまし用の閃光さ。あせりはそんな可能性すら頭から取り除いてしまう」


まだ少しチカチカする視界に顔をしかめながら、

俺は倒れ伏すハイリザードのリーダーのつぶやきに答える。


そう、以前に渡していた閃光玉というべきアイテムを、

俺はいつだったかした打ち合わせどおりの合図により、

あのタイミングで使用したのだ。


発動のための魔力は極少量。


それだけに今のハイリザードには感知できなかったのだろう。


リーダー格以外のハイリザードはもう息をしていない。


「これで終わりだな」


起き上がってくる可能性を考え、

剣を油断無く構えたままの俺に、

ゆっくりと視線が向けられる。


荒い呼吸のまま、言葉は紡がれずに

その視線と、なおも抵抗しようとする右手だけが震え、

そして力尽きたように腕の動きも止まる。


気配が変わり、ため息をつくようにリーダーの口が開かれた。


「そうか。そうだな……生き残るためにあらゆる術を使い、

 雪原の覇者となるはずであったのにな。黒き者の誘惑と脅しに屈したのが理由か」


なおも、静かにつぶやかれる独白。


どうしてこの場所に自分達がいるのか、

そんな理由がゆっくりと語られる。


その語りはここにいない何かへ向けての

うらみつらみすらこもった様子もあり、

スノーホワイトの3人もじっと耳を傾けている。


そして、まぶたを閉じたかと思うと

次に開いたリーダーの瞳は落ち着いた光を宿していた。


覚悟を決めた、瞳だった。


「人間よ。我らの牙を支柱に突き立てよ。あの器は我らの命そのもの故、

 それで崩壊しよう……雪の娘よ、残る同胞には罪は無い。

 都合のいい話だが、我が全てを背負おう」


それだけを言って、ハイリザードは目を閉じる。


何故、とは言わない。


流れ出る魔力を帯びたお湯の行き着く先、

恐らくは途中で転送ポールのような何かで転移している。


本来であれば長い時間を経て、ゆっくりと強くなる設定の黒いアイツ。


黒の王がその先で力を蓄えているのだろう。


「終わったの?」


つぶやくように言うイシュベルの表情は硬いが、怒りに染まってはいない。


「ああ。彼はああ言ってたが、どうする?」


イシュベルだけでなく、3人に問うように言う俺に、

3人は3人とも、首を横に振った。


「陳腐な言い方だけど、別に妹たちが帰ってくるわけじゃないわ」


「本当は、辛いですよ。悲しいですよ?」


「でも、理由があるなら、いい。一歩間違えればきっと逆だった」


少女のような見た目に反し、冷静なその姿に、

戦闘前や戦闘中に見せた感情と、今の姿の違いに俺は驚いていた。


その一方で、自分がMDで出会い、接したスノーホワイトの

仕草や雰囲気を感じ、どこか納得している俺がいた。


彼女たちの言葉を借りるならば、雪山と寒さは等しく命を襲い、

命のありがたさをかみ締めさせるのだと。


「これで、全部よ」


「青いなんて珍しいよね」


いつの間にか、それぞれのハイリザードの牙を

取っていてくれたキャニーとミリーから受け取り、

そのまま大きな器の支柱へと近づき、次々と突き立てる。


既にスノーホワイトの3人が離れ、魔法の壁を作り出しているのを

確認している俺は遠慮なく牙を全部突き刺す。


僅かな手ごたえとともに、深々と刺さった牙がひび割れを作り出し、

器が動いたかと思うと、中身のコキュートスハートごと、

器は温泉のお湯の中へと倒れこんだ。


巨漢がプールに飛び込んだようなしぶきをあげながら、

お湯が撒き散らされていく。


同時に、俺は漂っていた薄いながらも

異様な空気が霧散していくのを感じていた。


無言の6人の視線の先で、コキュートスハートがその青さを

自己主張するかのように輝かせていた。

ゲームでのスノーホワイトは熱くなってもすぐさめる、

ツン&ヤンな面のあるなかなかマニアックなタイプのモンスターです。

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