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133「白の夢、銀の願い-4」

コキュートスハート。


名前からすると、氷系のアイテムだろうか。


だが、知らない。


(実装済みアイテムや実装予定も目は通してるはずだ……さて?)


言葉にしたならば、自分の知らないアイテムがあった。


それだけだ。


だが、旧来の回線を用いたインターネットを始め、各種ネットワークが

世界中を結んでいる昨今、情報は24時間、駆け巡る。


どんなゲームだって、よっぽどでの物なければ情報は集約され、

閲覧されていく。


俺だって、素材の入手方法や難易度、必要なレシピなどは

随分とお世話になったし、情報提供だってしていた。


詳細はともかく、聞いたことが無いアイテム、というのは

なかなか無いといっていい。


つまりは、単にこれまでレア過ぎて出てこなかったのか、

未踏破の場所のものか、もしくはこの世界で新しく誕生したアイテムだということだ。


もっとも、そのどれでも構わない。


目の前の青く、冷気を感じるそれはそういったものを超越した何かだった。


問題はそれをまるでグラスに浮かぶ氷のように扱う容器だ。


明らかに人工物で、覚えのある光沢の貝殻のような……。


まずは1歩を踏み出したところで、殺気。


「くっ!」


「きゃっ!?」


とっさにそばにいたスノーホワイトを抱きかかえ、

まるで転がるようにその場から飛びずさる。


一瞬前まで自分たちのいた場所に突き刺さる何か。


見ればキャニーとミリーも回避に成功しているようだった。


そばには同じくスノーホワイトがいる。


地面に突き刺さるのは、槍。


しかもただの槍ではない。


持ち手にすら霜の降りた、明らかに冷気で満ちた物だ。


「誰だっ!」


答えは来ないだろうと思いつつ、スノーホワイトを背後にかばい、

ショートソードを抜き放つ。


少々絵的には格好がつかないが、それはそれだ。


キャニーとミリーも、同じようにシャドウダガーを手にしている。


ピックらはいざというときの切り札予定なのだろう。


返答の代わりに次の攻撃が迫る。


それはまるでツララを横向きにしたような氷の槍であり、

それが天井や部屋の奥、壁からと無数に迫る。


「エアスラスト!」


全てを切るのは無理と判断し、前方へと大きく空気の壁を生み出すことで迎撃する。


多くはその勢いに負けたのか、あらぬ方向へと飛んでいくが

いくつかは勢いは落ちたが、まだ命を奪う刃となって迫ってきていた。


うめきながら、手にしたショートソードで

大根を空中で切り裂くような手ごたえと共に迎撃していく。


姉妹も同様にそれぞれにダガーで迎撃に成功していた。


あたりに散らばる砕かれたツララ。


それらが直撃していたことのことは、余り考えたくはない。


「直接来ないのか? ならっ!」


敢えて気配を隠さず、俺は前に出ることを大げさに宣言する。


動揺の気配が、後ろと前から伝わる。


無謀な、とキャニーたちは感じたことだろう。


一息に10メートル近くを走りぬけ、まるで居合抜きでもするかのように、

ショートソードを左腰に納め、ぐぐっと姿勢をかがめて

ショートソードの特殊効果を2つ発動させながら勢いをつけて振りぬく。


直接切るには相手も見えない状況。


だがその振り抜いた先で、自分の魔力が暴風となった。


ダメージはほぼないが、いわゆるファーストアタックを取れる

前方広範囲の範囲攻撃。


そして、もう1つの効果はマーキング。


よくあるマップに表示されるアレだ。


まるで大雨が風に乗って降り注いだように、

俺の予感を確かめるように前方の空間を衝撃が突き抜ける。


「5……6……8か」


姿を現したその正体に、俺は内心驚きながらもなんでもないように言って、

再びじりじりと後退してショートソードを構える。


「やるな。人間に破られるとは思っていなかったぞ」


聞こえる声は正しく人語。


だがどこかくぐもったような声を発した主は……。


「な、なんでリザードマンがここに!?」


「馬鹿ね、人間。リザードマンがいるわけないでしょ、あれはきっと幻影よ」


キャニーの叫びにつっこみを入れるスノーホワイトだが

その顔色はよくない。


それは、彼女も幻影ではなさそうだとわかっているからだ。


だが、そんな彼女もおびえているわけではないようだった。


その理由はすぐにわかることとなる。


「あはっ、今日は妹たちの……仇の日だね」


「フフ……生きたまま刻まれる気持ち、返してあげる」


言葉と共に、流れ込むスノーホワイトの負の感情。


これはマナリンクのデメリットの1つ。


それは、互いの感情が大まかにだが伝わること。


その感情の高ぶり具合によってはそちらに引っ張られるのだ。


ぐっと、流れ込んでくる怒りを押し留め、

スノーホワイトに見せ付けるように武器を構えなおす。


「こんな雪の地で出会うことが出来るとは。

 ここの管理者か? もしそうなら、どいて欲しいんだが」


「そうもいかん。色々とな。

 それに、後ろの小娘達は問答無用のようだぞ」


先頭にいたリザードマン、まるで象牙のように

白い鱗が全身を覆う1人がからかうようにそういい、

視線を自分の後ろに向ける。


「トカゲはトカゲらしく眠ってなさい! 行くわよ、トゥアル、ミュエル!」


「うん。イシュベル!」


「フフ……ちょっと借りるわよ」


何を、と止める前に魔力を吸われる感覚。


マナリンクによるメリットの1つ、

魔力の共有が効果を発揮したのだ。


スノーホワイト3人が使おうとする魔法のために、

俺からミュエルへと自動的に魔力が流れていっているのだ。


足元から吹き上がる風、雪、冷気。


十分な対策をしているはずの自分ですら、

凍りつきそうなその魔法の前兆にも、リザードマンは余裕そうだった。


「「「スノー・ファンタジア!!!」」」


3人の手から繰り出される魔法。


それは合体魔法とでも呼ぶべき強力なものだった。


目視できるほどの魔力の青い渦が、氷と風に満たされて突き進む。


風の中には魔力で光るツララが無数に飛び交い、相当な威力だとわかる。


……当たれば。


「ぼんやりしてるなっ!」


リザードマン達が何か盾のようなものを構えたことを見て取った自分は、

その後に起こるだろうことを感じ取り、

大技を放った状態で息の上がっているスノーホワイト、

ミュエルを抱えてそれから逃れる。


僅かに遅れてキャニーとミリーも同じ行動をしている。


そんな6人をあざ笑うかのように、

6人がいた場所を貫く無数の氷の刃と風。


そう、先ほど3人が放ったばかりの魔法だ。


「なんなのあれ……」


「名前は忘れた。確か対応属性の魔法を反射する厄介なやつだ。

 まあ、属性は氷だろうな。だが、なんとかなる」


呆然としたキャニーの声に答え、ミュエルを下してその前に立つ。


先ほどの魔法は、見た目は風も含まれていると思うが、元の属性は氷なのだ。


「……これ以上はやらせない」


そばにいるスノーホワイト、トゥアルの感情が流れ込んできているのか、

いつもより少しばかり暑い様子のミリーに頷き、

こちらの様子を伺っているリザードマンに向き直る。


「人間よ、何故戦う。雪の小娘どものことだ。半ば無理やりだろう?

 こちらこそ、ここで手を引いてくれるならありがたいのだがな」


知性を感じさせる声。


モンスターのそんな姿に驚きながらも、俺は無言で首を振る。


「そうはいかないな。これも依頼だ。……何より、大きな理由がある」


「理由?」


俺は静かにつぶやきながらも、流れ込む感情、

そして伝わってくるミュエルの悲しみに改めて覚悟を決めていた。


横を見ればキャニーとミリーも頷いている。


「ああ、そうだ。どんな御託を並べたってな、逃げる女の子を

 後ろから襲い掛かって殺すなんてことをする奴は……気に入らない」


宣戦布告代わりにさらに魔力を高め、気迫を全身からみなぎらせる。


マナリンクから伝わってくる感情には、その原因の情景も含まれていた。


「悪いな、聞く前にわかってしまった」


「フフ……優しいのね。でも、マナリンクを使った時点で

 そうなるかもと思っていたわ」


覗き見てしまったようなことになってしまったことに、

謝罪する俺に対して、傍らでつぶやくように言うミュエル。


その顔はどこかすっきりしていた。


彼女たちが隠していた物の1つ。


それはスノーホワイトたちの探索の際の事件。


女王は例えば温泉のお湯にスノーホワイトが巻き込まれていたりしたといっていた。


それも正解である。


だが、実際はそれだけではなかった。


こうして怪しい場所や、フィールドでスノーホワイト達は

このリザードマンらと遭遇していたのだ。


おぼろげながら、その情景が伝わってきていた。


彼女らも出来れば見られたくは無かっただろう。


魔法が通じないとなるとすぐに逃げる彼女たちに追いつき、

その手を、足を槍で貫くだけならまだしも、

敢えてとどめを刺さずに仲間を誘い込み、次の獲物を狙う。


正しい。


それはある種、正しい。


だが、俺にとってそれは正しさではない。


笑いながら、遠くに逃げるスノーホワイトの背中に

無慈悲に槍を突き立てるようなやり方を、認めるわけにはいかないのだ。


それは俺の勝手な思い込みで、自分勝手な感情かもしれない。


「敵は敵だ。それだけのことだ」


「だろうな」


冷たく言い放つリザードマンに同じく冷たく答え、

俺は正面からリザードマンに突撃する。


横合いから先頭のリザードマンと、俺との間に

もう1人のリザードマンが割り込んでくる。


その顔は明らかに俺を侮っている。


たかが人間、たかがショートソードということだろう。


だが……。


ぞぶりと、肉を貫く感触と共に、白い地面が赤く染まる。


「なんだと……貴様!」


口から血をあふれさせながら、リザードマンはそうつぶやいて力尽きる。


(単純なんだよ。絶対そう来ると思ったぜ)


予想通りの乱入者に、心の中でそうつぶやいて既に息をしていないその体から

光り輝くロングソードの刃を抜く。


瞬きの間に、それはまたショートソードに戻る。


ショートソードのメイン素材には、お約束のアレを使ったが、

そのほかにいくつかの素材を混ぜ込んで特殊効果を色々つけた。


そのうちの1つ、マギテック・ソード。


ただし、無詠唱。


ゲームでは無駄すぎるその機能も、この世界では無駄ではない。


(まずは一人)


「部下を一撃だと? 貴様、ただの人間ではないな!」


あっさりと1人殺されたというのに、余り動揺はなく、

槍ではなく片手に持った蛮刀のようなもので切りかかってくる

リザードマンの攻撃をショートソードのままで受け止める。


「ただの人間な鍛冶職人さ! ただなっ!」


ぐぐっと、力を込めつつも自分の力は入れやすく、

相手は力を入れにくい、そんな姿勢に持って行きながら叫ぶ。


「誰であろうと悲しみの涙は材料にはならないんだよ!」


蛮刀をはじき、戦いやすい場所へと間合いを取る。


そして自分自身が発した言葉に、自分で笑みを浮かべる。


(ははっ、恥ずかしい台詞。ちょっとがんばらないといけないな)


そう思い、俺は苦戦するだろうリザードマンたちに向かい、

出来るだけ獰猛に見えるようにして笑みを浮かべた。



文字数の割りに話が進んでいませんでした。


次回戦闘メイン。

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