閑話「ある日のMD。無限の時間(七か月目あたり)」
かなり短いです。
時間軸はバラバラです。
ゲームであるマテリアルドライブ(MD)としての描写なので、
本編中とは描写、設定に差異があります。
読まなくても問題ありません。
ファクトはこんな奴だ、スキルはこんな感じなんだ、という参考やお楽しみになれば幸いです。
「これで2500っと」
「2499じゃないかしら?」
崩れゆく塊を前につぶやいた言葉に、横合いからつっこみが入る。
俺はメニューから討伐数を確認し、狩り始めからのカウントは2499匹である事を確認する。
「みたいだな。とりあえず次で終わるか」
再び湧き出た相手に機械的に攻撃を開始し、ペア相手もそれに追従する。
「これとこれはちょうど半分っと。あ、こいつは?」
「私は使わないから一つ余分にどうぞ」
とある街の一角。
狩から戻った俺と相方、同じ鍛冶職人系統をある程度選んでいる相手だ。
いつもというわけではなく、時折連絡を取って狩りにでている。
「悪いな、スミス」
「いいのよー。一対一じゃどうにも難儀な相手だしね」
そういって彼女は微笑み、自分の取り分を手早くアイテムボックスに収納していく。
そう、スミスとかいう名前の割りに彼女、なのだ。
最初に名前の理由について聞いたとき、
何でそれぞれ男女に似合った名前じゃないといけないの?といわれたときには
思わずなるほど、と納得したものだ。
「そうだな。強くは無いが、2回に1回は麻痺してくるというのはめんどくさい」
先ほどまで俺と彼女が相手をしていたのは、
サボテンのような形をした植物モンスターだ。
攻撃を受けた際、もしくは攻撃してきたときに
その体から針が飛び、当たると50%ほどの確率で麻痺になるのだ。
一人でやれなくもない相手だが、こうして2人以上であればその効率は上がる。
また、その経験量やドロップ内容的には自分達のような立場でなければ旨みが少ないのだ。
「にしてもさ、ファクトもレアだよね。ずっとこれなんでしょ?」
「これって育成方向のことだろ? ああ、生活費にもなるからな」
手のひらでアイテムを掴んでなにやら感触を確かめていたところにかかった声。
俺が主な受注をゲーム内でのやり取りから外部サイトに移してからしばらく。
一人暮らしの身としてはなんとか暮らしていけるだけの収入がある。
基本、電気料金以外は出歩かないのでほぼ食費だけだ。
ゲームがいつまで運営されるのか、という懸念を考えれば
不安定な生活であるというのはわかっているのだが
少ないわけではないこれまでの貯蓄と、他のゲームでも同じようにすごせば良いという
どこか自堕落、そして甘い考えが俺をゲームに熱中させる原因の1つかもしれない。
「ふーん、そっか。でも増えたよね、プロゲーマー」
「俺には傭兵暮らしはちょっと厳しいけどな」
彼女、スミスの外見はざっくりと短く切られた赤色のショートカット、
ダメージジーンズのようなホットパンツにTシャツ、革ジャンとラフなものだ。
アクセサリーなのかこだわりなのか、所々包帯がまかれている。
「私も、ここまであげたけどこっから先はゆっくりかな。必要経験も多いしさ」
そういう彼女は既に700Lvを超えている。
俺ほど鍛冶系統に集中せず、戦闘技能もそれなりに取得している彼女は
臨時のパーティーを探す上でも俺よりは遥かにマシだろう。
「それはそれでいいと思う。俺は生活がかかってるからな。このままあれこれがんばるさ」
俺自身の価値は、対応できる装備の種類にその性能だからだ。
中には友人のように関係なく頼んでくれる人物もそれなりにいるが、
多くはトップクラスの自分が作る武具でアドバンテージを持ちたいのだ。
俺自体はそのことは嫌いではない。
ゲームなのだからそれは当然のことなのだ。
ただ、時折いる横柄な態度で、ゲーム内だとしても
お金さえ積めばなんでも許されるという形で
横入りをしようとしてくる相手はいただけない。
仮に初心者からの小さな依頼でも、そんな相手の大口よりは大事だ。
第一、そこまで時間はかからないのだから大人しく待ってれば
すぐに順番は来るのだ。
「それで? 今日はもう作成に入るの?」
アイテムの整理が終わったのか、そうスミスが聞いてくる。
言葉ではそういうものの、顔には別の要求を貼り付けている。
「いや、もう1セットはやろうかな」
「やった! そうじゃなくっちゃ!」
俺の返事に喜んだ様子のスミス。
その様子に気をよくして俺も立ち上がり、足は狩場に向かう。
「よりにもよって今日だったね」
「ああ……」
だが、2人そろって今はその行動をある種後悔していた。
しゃべりながらも互いの武器を振るう手は止まらない。
止めても大きな問題があるわけではないが、もったいない。
小さな谷を水が流れるかのように押し寄せる姿。
2人が先ほどから切り裂いているのは黄金色のねずみだ。
ねずみといっても大きさは犬ほどもあるので足元を抜けられる心配は無い。
勿論見た目もモンスター仕様なので心が痛むことも無い。
問題は、こいつがあと3時間は沸き続けることだ。
突発クエスト、黄金の稲穂。
この地方で1週間に1度、どこかのタイミングで発生するものだ。
特定のフィールドにいるプレイヤーは強制的に転移され、こうしてねずみを駆逐することになる。
失敗のデメリットはないが、メリットは大きい。
倒しきると、少なくないどころか、かなりの大金が手に入る。
ただし、1匹でも逃してはいけない。
しかも、どのタイミングで発生するかはランダムなので
人海戦術というわけには行かない。
時折、そのときに当たったらラッキー、な形で集団を見かけることもあるがその程度だ。
だが、俺とスミスにはなんとかなる一手があった。
「やーねー、本当につっこんでくるんだーっと、武器生成!」
スミスが叫び、再び狭くなっている谷底に槍が何本も生み出されて地面に固定されていく。
そこへねずみが突撃し、突き刺さっては消滅していく。
周囲に無数とも言える武器を同じように設置し、
もれそうになる相手は直接切りつける。
武器が消える前に再生成。
この繰り返しだ。
2人がこの場所を見つけたのは本当に偶然だ。
以前、このクエストに遭遇したときにはクエストをわざと失敗させるつもりで
最終防衛ラインとなる場所から横へと抜け、観察するつもりだった。
すると、とあることがわかったのだ。
――あくまでプレイヤーのほうに走り出しつつ抜ける事を目指すことに
つまり、一定のルートを必ず通るのではなく、
プレイヤーが動けばそちらへと移動して正面から抜けようとしてくるのだ。
そのときはいきなりねずみ達はルートを変え、2人を飲み込んでどこかへと走り去った。
その結果を見た2人は相談の結果、こうして相手をする数が少なくなる地形へと
わざと誘い込んだのである。
「手ごたえはともかく、鳴き声がうるさい!」
「まったくだよ!」
俺が叫ぶと、同感とばかりにスミスも声を張り上げる。
無限とも思える時間は確かに過ぎていき、
耳にねずみ達の声が延々と響く。
だがそれも実際には長くは続かず、ついにカウントが赤くなる。
そして……。
【クエストが達成されました。これで農家の人々も平和に過ごせることでしょう】
小さなインフォメーションと共に、クエスト報酬を受け取る画面がポップしてくる。
「……お疲れ。やれたけど疲れるね」
「間違いないな」
耳にまだ残る声の残響を振り払うように
お互い空中のウィンドウを操作し、報酬を受け取る。
(農家、か。そういやNPCも結構しゃべるよな)
達成感とけだるさとが同居する中、俺はマテリアルドライブでの
NPCと会話を思い浮かべる。
形式的な受け答えをするほか、セクハラのような発言をすれば
叫ばれ、衛兵が呼ばれるのを何度も見ている。
中には特定の女性NPCの声が有名な声優だとかで
そこだけによく通うプレイヤーもいるとかいないとか。
「帰りましょっか……」
「そうだな……」
入った金でどの素材を買い込むか、そんな事をきっと考えているのだと
思いながら2人そろって足は街へと向かう。
世界はおおむね、平和だった。
うまく日常を楽しく書きたいものです。