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132「白の夢、銀の願い-3」

「次の岩を右です」


「よし」


傍らをすべるように進むスノーホワイトの1人から道を教えてもらいながら、

6人はまるで固い地面を全力疾走するように走る。


足元はパウダースノーが舞い、

まるでスノーモービルが通っているかのようですらある。


それがランディングの効力だ。


どんな悪路だろうと、足場は崩れない。


その魔法には場と使い手の属性が大きく影響し、

水辺では水に適応した種族か、水系統の魔法が

得意なプレイヤーが使わないと効力は薄いし、

泥であれば水と土が得意である必要がある。


スキルの制約上、そろえるのが難しいプレイヤーと違い、

その制約を受けないのがモンスター側だ。


当然、その土地に出てくる相手はその土地に適応した

種族であることが多いわけで、ランディングを使う相手は非常に厄介だ。


そう、フィールドで敵として出会うスノーホワイトのような存在は。


「フフ……女王の命が無ければここで3人とも氷の彫刻ですね。

 いえいえ、冗談ですよ冗談。人間は緊張するのでしょう?」


考えが顔に出ていたのか、傍らを進むスノーホワイトがそんなことをいう。


「さてな。できれば平和に過ごしたいのは間違いないさ」


俺も軽く返しながら、洞窟などのダンジョンが

あった記憶の無い方向へのルート選択に、マップとにらめっこしていた。


「もうすぐよっ!」


「え?」


急に叫ぶのはキャニーのそばにいるツン気味のスノーホワイト。


見るからに警戒してます、という

雰囲気をまといながらある方向をにらんでいる。


つられてそちらを見れば、木々と谷間の間に見える僅かな煙。


言われてみれば、鼻にも先ほどまでとは違う何かの匂いが届いている。


「……わからないけど、何かいる」


「あはっ、あいつらに決まってるです!」


既に戦闘モードに入ったミリーに対し、明るいながらもちょっと怖い感じのスノーホワイト。


あれか? ヤンデレってやつなのか? デレてないけど。


ミリーに後ろを任せ、先頭は俺という形で進む。


何の変哲も無い雪山の姿の中、

丘のような場所を登りきったとき、そこには異様な姿が広がっていた。





「なるほどな。これはおかしいな」


「まるで川ね」


丘の上からの眺めは、一見すばらしいものだった。


雪山を切り裂くように、流れるのは水。


恐らくはお湯というか温泉なのだろう。


時々しか湯気があがっていないところから、

温度自体はそこそこ下がっているようだ。


女王からの話を聞いたときにも思ったが、

もし火山などが活発になり、温泉が出現しました、

というだけならそう大きな話ではない。


だが、これは……。


「ランディングはきっておいてくれ」


俺はそういって、緩やかな斜面を半ばすべるようにして降り、

川というかただの水の流れのそばまでくる。


この感覚はなんといえばいいだろうか。


魔力を感じるなどということの無い、元の世界の感覚で言えば

音は聞こえないが何か重低音の出ているスピーカーのそばといえばいいだろうか、

あるいは何かいるかもしれないと思いながら近寄る水場というべきか。


何か、この水はおかしい。


念のために作ったばかりのショートソードではなく、

スカーレットホーンの切っ先を水につける。


特に何か起こる様子は無い。


そのまま俺は剣を持ち上げ、剣を伝う水に指を触れる。


匂いは既に周囲が硫黄臭いのでわからないが、

触ってはっきりとわかったことがある。


「あの水、全部が魔力を帯びている」


「あれ全部!? じゃあ女王が見せてくれたあの小瓶も」


「……あれは普通のだった。2種類ある?」


俺の報告にキャニーとミリーが驚き、

スノーホワイト達は押し黙った。


(……やはり、何か違うな)


スノーホワイト3人の様子が、俺の思っているスノーホワイトのそれと違うことは

出発前からある意味わかっていた。


「話せるようになったら話してくれ。あれだ、女王のためなんだろう?」


俺は敢えてはっきりさせず、それだけを3人にいって、

水の流れる大元へと歩き出す。


流れる水、温泉がただの温泉ではなく、

魔力を帯びているとなれば色々と話はかわってくる。


俺にはそんなスキルがないのではっきりしないが、

恐らくはただ魔力を帯びているわけではない。


もっと、重大な何か。


しばらく歩くと、温泉の流れ出る洞窟が見えてきた。


それは元々は地下水の流れる川だったのだろうか?


丁度良く左右に獣道のように歩ける場所がある洞窟だった。


人の手は入ってるようには見えないが、歩ける場所があるのは都合がよすぎる。


(もしかしたらダンジョン予定だった場所なのかもしれないな)


この世界がMDベースとはいえ、俺もまだいったことの無いダンジョン、

設定はあるが実装はされていなかったものも多くあるはずだ。


「このあたりは暖かいわね。スノーホワイト達は大丈夫なの?」


「こ、このぐらい平気よ!」


「湯だったお湯をざぶん!ってかぶるぐらいじゃなきゃ大丈夫ですよ」


「フフ……鍛えてるから」


キャニーの問いかけに、三者三様の答え。


どうでもいいが、見た目は三つ子という感じなので、

どうも違和感があるな。


ショートソードを抜き放ち、その剣先に

灯りの魔法をともして6人は進む。


天井には湿気からか、水滴が目立つ中、

ぬかるむ足元に注意し、確実に前に進む。


前に進むほど空間は広くなり、そのうちに電車でも通りそうな大きな物となっていった。


流れる温泉も冷える前なのか、だんだんと湯気が目立ってくる。


(ちょっと面倒だな。この湯気に隠れて敵が出てこないとも限らない)


俺がそう考えていると、スノーホワイトたちが立ち止まり、

何かを頷き合っている。


「ん? どうした?」


俺が問いかけると、スノーホワイトのうち、

ちょっと不思議な感じの一人が歩み寄ってきたかと思うと、

右手の人差し指をついっと差し出してきた。


俺は思わず同じように人差し指でつついてみると、

急に彼女との魔力的なリンクが生まれたのがわかった。


「っと。これ……もしかしてマナリンクか?」


「フフ……知ってると思ってた」


いたずらを成功させた子供のようにスノーホワイトが笑うと、

まるで自分の世界を広げるように寒くない程度に冷気が広がっていく。


視線の先では、キャニーとミリーも同じようにマナリンクを行い、

3人ともが魔法を使ったようだった。


「ファクト、これは?」


「マナリンク。そうだな、スノーホワイトみたいな

 集団で過ごす種族のスキルだ。属性を共有し、魔力も互いに補正しあう。

 今だと、人間の暑さに対する耐性と、スノーホワイトの寒さに対する耐性が

 良いとこ取りになる感じだな」


このマナリンク、とある道具を装備しないとプレイヤーには使えないのだ。


ある意味では便利すぎるのもあるし、使いどころが難しい。


プレイヤーには事実上、熱さ寒さには個人差以外、大きな差は無いこともある。


最初からやってくれればアクセサリーなどは不要だったのだが、

不便なところもあるので仕方が無い。


ともあれ、今の状況ではスノーホワイトが熱さでどうにかなることも減るし、

俺たちが寒さに震えることも減る。


さらには互いの魔力残量も感じられるので、

戦術が立てやすいということもあるのだ。


「……あれ、何?」


ミリーの静かな声の先、洞窟の穴の1つに何かがある。


「障壁だな。うん? なんだこれ」


障壁にはMDでは2種類あった。


1つは目に見えない侵入不可ゾーン。


未実装だったり、イベントが始まっていない場所などが主にそうだ。


もう1つは何か鍵を解除しないといけないパターン。


それは敵の殲滅だったり、アイテムを使うなど、条件がある。


この障壁は後者だった。


「火、水、風、土。4属性とは贅沢ね。私たちスノーホワイトじゃ水と風だけ……。

 べ、別に負けを認めたわけじゃないんだから!」


「まぁまぁ。そう言っても私もアイスコフィンだけだしね」


6人の前に広がっていたのは、

まるで虹のように色を様々に変える障壁であった。


障壁は半透明で、向こう側に何か光っているのが見える。


何故か温泉は障壁を素通りし、そのまま流れている。


試しに手を触れてみるが、当然のことながら向こうにはいけない。


どう考えてもこの先が異常の元だが……。


「人間、ぶち破れないです?」


「やってみるか? たぶん障壁ごとここが崩れるが」


俺はいくつかそういった物理的に破壊できそうな心当たりに

虚空のアイテムボックスを操作して答える。


「あははっ、きっと綺麗に突破したほうがあいつらは驚くよね」


「フフ……同意するわ」


俺はキャニーとミリーに周囲の警戒を頼み、

スノーホワイトに言われたように一度障壁を確認する。


接触してダメージが発生したり、

警報が鳴らないところを見ると、侵入自体はあまり想定していなさそうだ。


管理者がたまたま不在、もしくは元々いないか。


あるいは……見逃されているか。


考えすぎても仕方が無いので、周囲の確認をしていくと

魔石の様なオブジェを4つ発見した。


「ふむ……これは厄介だな」


俺のつぶやきにスノーホワイトの顔に不安そうな色が浮かぶ。


だが、俺が厄介だとつぶやいたのは、障壁の難易度にではない。


これが、モンスターが使うような物ではないことがわかったからだ。


例えばダンジョンにあるようなお約束の障壁や、

一定のルールによって作られる特有のモンスターによる障壁であれば、

それ自体は何の問題もない。


だが、これには思考による工夫の跡が見える。


決して、MDに出ているようなモンスターが出来ることではない。


あるいはこの世界でモンスターが経験をつんで改良したか?


それにしては人間的過ぎる。


では人間の国の、何らかの陰謀か。


これも考えにくい。


なにせ、スノーホワイトやスノーフェアリーは強力な種族で、

もう自然の一部だ。


下手に手を出せば、寒波が街を襲い全滅することだってありうる。


もっとも、今の女王がそこまでするかはわからないが。


正体の見えない黒い予感ばかりが膨らむが、

判断材料の足りない今の状況ではここまでか。


「少し離れていてくれ」


俺はそういい、アイテムボックスから適当に

属性を帯びた魔石を取り出し、

既存のレシピを組み合わせて4本の鍵を作る。


そう、使い道の無い属性を帯びたただの鍵。


それらは音も無くオブジェに開いていた鍵穴に収まり、

カチリと小さく音を立てる。


そして消え去る障壁。


俺はその結果に喜ぶわけでもなく、苦々しい表情をしているだろう。


(どういうことだ? ここに教官でもいるっていうのか?)


先ほど解除した障壁。


あれはMDでの魔法のチュートリアルにもあった

属性習得のための練習用障壁の仕組みだ。


チュートリアルの空間でのみ使える初級魔法を元に、

属性に合った行動を学ぶ最終的な試験として用意されていた障壁にそっくりなのだ。


もっとも、必要な魔力等は桁違いだったが。


俺はすんなりと解除したが、キャニーたちでは魔力が足りない。


コーラルやアルス、シンシアクラスであれば魔力は足りる。


だが、今度は属性が難しい。


障壁に触っても特に問題なかったことから、

障壁の設置者は後から誰か来ることは想定していないのだろう。


たまたまあそこに来て、4属性を一定魔力以上で

行使し、さらに必要な物を生成する、

というのは条件としては難しい。


こんな雪山ではその心配もないというところか。


警戒は解かず、無言で歩く6人が出たのは洞窟とは思えない広い場所であった。


足元はぬかるみ、温泉がまるで源泉垂れ流しといった様子で

あふれて流れを作っている。


そのお湯の源には……。


「やっぱり、コキュートスハート」


「待っててください。女王様」


「フフ……あれを開放したら全部元通り」


この距離でもわかる強力な氷属性を帯びた、

魔石と呼ぶのは恐れ多いほどの巨大な塊。


どこからかあふれるお湯の中央に、

妙に機械臭い容器に浮かぶ青い宝石を前に、

スノーホワイトたちの呟きがお湯の流れる音に溶けていった。


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