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131「白の夢、銀の願い-2」

「俺たちになんとかできることであれば、

 その依頼を受けることは問題ない。その前にいくつか確認させてくれ」


言いながらの俺の視線の先で、虚空に浮かぶウィンドウにマップが表示されている。


もっとも、地続きで移動していたジェレミアやオブリーンと違い、

グレーで塗りつぶされた一面の中、ぽつんと

僅かながら転移した場所から歩いてきたであろう部分だけがマップとして判明している。


遠くに見えた山々や状況からおおよそ、記憶から地名は引っ張り出せるが心許ないのも確かなのだ。


俺は女王と向かい合いながら、この土地のことや

代表的な山、ダンジョンなどの名前や位置を確認していく。


「不思議な方ですね。スノーホワイトが認めた以上、十分なお力はあると思っていましたが、

 まるで……そう、まるで私の母親よりも前からこの土地にいたよう……」


氷で出来た椅子に座り、優雅に首をかしげる女王は、

俺の知っているMDでのスノーフェアリーの女王ではない。


だが面影があり、知っている女王よりかなり若い様子からすると、

娘か、そういった関係の存在なのだろう。


MD時代の女王は、クールビューティーという単語が

そのまま具現化したような冷たくも美しい女性だった。


その声もどこかで聞いたことがあったので恐らくは有名な声優を起用し、

サンプリングしたものだろうが、恐ろしいほど見た目にはまっていた。


その彼女と比べれば、今の女王はキャラが違うともいえるが、

人目で女王とわかるだけの見事な銀髪姿ではあった。


ともあれ、彼女との話ですり合わせも終わる。


多少地形、川の流れは変わっているようだがMD時代のそれと大きくは違わない。


寒く、生き物が住むには厳しい分、変化も緩やかだったのだろう。


難易度から、余り突入したことは無い高難易度のダンジョンや、

気をつけるべきポイントはいくつも確認できた。


「それで、現地へは歩いていけばいいのか?

 確かこのあたりは暴風になりやすいし、あまり上に跳ぶと奴が出るかもしれないだろう?」


如何なグリフォンとて、雪の混じる暴風の中では

万一のときに対応しにくいのは間違いない。


そして、このあたりだけではないが、高い山の

上空へと飛びすぎると雲の上にいる龍が出てくる可能性もある。


正直、奴と出会うのは絶対に回避したい。


かといってあまり低空でも、起伏の激しいこの土地では

危険も増すことだろう。


「それに関してはスノーホワイトを数名、お供につけます。

 彼女たちに魔法をかけてもらってください」


「ランディングか。ありがたい」


女王の呼びかけに、背後に立っていた中から見た目の区別がつかないが

3人のスノーホワイトが前に出てくると、俺たちのほうに歩み寄ってくる。


「ファクト、ランディングって?」


「ああ。足元にかかる魔法でな、水や泥、雪の上でも歩きやすくなる魔法だ。

 確か少しだけ浮くんだ。そうだな、沈まない絨毯の上を歩くような感覚だな」


「そんな魔法があるんだ? 水の上……湖の上とか歩けるなんて不思議そう」


補助魔法の1つなのだが、俺はそれが使えるまでスキルをとっていないので、

使用することは出来ない。


前線で戦うプレイヤーは、余裕がある人はこのスキルを必須というぐらい覚えていた。


足場の確保というのはそれだけ重要なのだ。


「この土地であれば半日ほどかけ続けることができるでしょう。

 もっとも、異変の場所に近づくと難しいでしょうが……」


申し訳なさそうにする女王に首を振り、

詳細の打ち合わせに入る。


もっとも、報酬は単純に増えたバラをいくらかと、

この土地で探索をする際の協力、そしてアイテム群だ。


肝心の異変の具合は、女王の口から語られた。


「一番近い異変の場所はここからランディングをかけてしばらく行った先にあります。

 ただ、異変自体は何年も前から兆候はあったのです。

 何年かに一度、バラの出来が悪かったり、山に……温泉がわいている、といったような。

 それでも次の年には問題が無かったり、すぐに温泉も尽きてしまうといった具合でした」


そのほとんどは今思い返せば、といったレベルのもので、

人間のような寿命ではないスノーフェアリーや、

実質寿命の無いスノーホワイトにとっては

気にするほどのことではなかったようだった。


「異変がまさに異変となったのはこの数年でした。

 気が付けばバラ園の近くでは地面が見えてしまったり、

 洞窟で栽培をしていたスノーホワイトが洞窟ごと温泉に飲まれたりと、

 私たちにとっては悪夢のようなことが続いたのです」


キャニーとミリーはピンときていないようだが、

俺にはなんとなくその状態が想像ついた。


例えるなら、家の裏手の畑で

いきなり落ち葉が燃えて畑を焼くわ、

消化して大丈夫だろうと思ったところに

どこからか火の粉が飛んできて炎上する。


彼女らにとっては温泉というものはそのぐらいの恐怖なのだ。


とはいえ、疑問もある。


「凍らせていけばいいだろう?」


俺はその疑問を思わず口に出していた。


そう、スノーフェアリーとスノーホワイト、

彼女らなら多少の温泉や熱など、冷気や氷の魔法で

一発のようにも思える。


実際、女王の魔力は今もしっかり感じるほど強いし、

スノーホワイトも戦えば強力な氷魔法や、暴風雪とでもいうべき

風の魔法も使ってくるような相手だ。


だが、女王は首を横に振る。


「それが、ダメだったのです。確かに一時的には異変は収まるのですが、

 次の日には別の場所で同じ規模の現象が。

 時には凍らせたと思ったらその背後でまるで生き物のようにお湯が噴出したそうです」


勿論、一族の長である女王がそういった場所に直接赴くわけにも行かない。


全ては他のスノーフェアリーやスノーホワイトからの報告なのだろう。


自分で何とかできない悔しさが垣間見えた気がした。


(若いな……俺が言うのもなんだが)


ゲームと違いやり直しが効かないのだ。


組織の頭が危険を犯さない。そういった形も正しい。


「原因には心当たりがあるの?」


「そうだよね。例えば……ずっとお湯が出てる場所があるとか」


話を聞いていたキャニーとミリーがほぼ同時に口を開く。


そんな2人が、体を温めるようにしてこすっているのを見、

思ったよりこの場所が冷えていることを改めて感じた。


「はい。さすがにおかしいと思い、多くのスノーホワイトを

 探索に用いて、怪しいとにらんだ場所があるにはあるのです。

 ですが……」


女王の言葉からは正確にはイメージしにくかったが、

確かにおかしな場所があったのだという。


そこは火山というわけでもないのに妙に暑く、

山の谷間から温泉が延々と湧き出てきているのだという。


その多くは山の向こうへと流れていくが、

一部が向きをかえてブリザードキャッスルの方向、

バラ園の方へと流れてきているとの事だ。


(そうなるとそのお湯、ただのお湯じゃないな)


仮にこのあたりの火山が活性化し、温泉が吹き出るようになったとしても

ある程度距離があればどうやっても冷えた水になる。


ここはそういう雪国なのだ。


「何か、怖いわね」


「うん。普通じゃないよ」


姉妹も事の異常さにその体を寒さ以外の理由で震わせている。


「よくわかった。ひとまず確認に行って、

 なんとかなりそうならするが、無理なときは一度戻ってくるぞ?」


「勿論です。本当ならば自分たちのことは自分たちですべきことです。

 しかしながら、何か、変なのです。よろしくお願いいたします」


俺の知っている女王とは違い、妙に庶民のような

現女王の願いを聞き、俺達は雪山に繰り出すこととなる。





「よし、キャニー持って見てくれ」


「はーい……よっと、大丈夫みたいよ」


女王からの依頼は正式に受けたが、

すぐに出発というわけではない。


なにせ外はちょっと風が吹けば即効で凍えるような雪国なのだ。


なんとかなるアイテムに心当たりも、手持ちもあるがそれだけではない。


先に女王には帰ってもらい、

ついてくるというスノーホワイト3人と、

姉妹との6人で山小屋に今はいる。


目的はこの土地で出会うかもしれないモンスターに相応しい装備の作成だ。


とはいえ、スノーホワイトのいる場所で火を強くするわけにもいかないので、

裏技的にキャンプ内に入り、そこで目的である装備たちを作るのだ。


まずは寒さ対策用のアクセサリー群の確保、

次に有効な武器たちだ。


作ったのはハンマーとピックで、

俺だけでなく姉妹や場合によってはスノーホワイトでも

使えそうな物に絞って作っている。


単純に考えれば、こういった場所では炎属性の付いた武器が

凄く有効そうに思えるが、そうもいかない。


確かにダメージとしては有効だろう。


だが、氷のような相手を高温で切りつければ

同時に霧のように水蒸気も発生する。


あるいは氷の足場でそんな炎な武器を空振りしたらどうなるか。


ただ鋭いだけなら穴があくだけかもしれないが、

熱が伝わるとなれば足場が崩れるかもしれない。


そんな問題を解決するための武器がこれらだ。


比較的硬く、そして氷のように表面が滑りやすいような相手には

鋭さで刺し、砕く必要がある。


もしくは叩き潰せばいいのだ。


そんなわけでこれらの武器である。


特別すごいものではないが、用途がはっきりしている分、

この状況下では良い相性となることだろう。


「人間にしてはやるのです」


「わーい! これでむかつくアイツもやっちゃうぞー!」


「……フフッ」


武器を渡されたスノーホワイトの反応は様々だった。


というか人間臭かった。


1人はツン気味、1人はあほの子、1人はちょっとよくわからない。


それでも女王から指名を受けるだけあって力は強いようで、

戦力として不安は無かった。


(もう少しおとなしかったような気がするんだが、現実はこんなものか?)


スノーホワイトの人間臭さに、少々疑問を覚えながらも

ミリーに耐寒となる指輪を渡す。


「すごいね、この指輪。氷を触っててもあまり冷たくないよ?」


「逆に何かあっても感じにくいということでもある。

 現場じゃ注意してくれよ」


窓に張り付いた氷を手にし、感嘆の声をあげるミリーに忠告し、俺は自分用の装備を身につける。


所謂ショートソードの類だが、

多くの補正と特殊効果をつけた。


著名なユニーク武器とは比べるものではないが、

店で売ればかなりの値段がつくだろう。


その刀身は金より薄いがそれに近い色で光を反射している。


(ちょっと贅沢に行き過ぎたかもしれない)


やはり、宝物庫に生まれていたオリハルコンの小塊を使ったのは

贅沢すぎただろうか?


いや、命を守るものなのだから安いということは無いと思いなおす。




それぞれの準備を終えたと判断した俺は、

5人に声をかけて小屋を出る。


そしてスノーホワイトからランディングの魔法をかけてもらい、

目的の場所へと歩き出す。


空は青く澄み渡っていたが、何か嫌な予感を感じさせる妙な青さのような気がした。

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