表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/292

128「無限の鍛錬相手-6」

薄暗い、天井の見えない不思議な部屋。


ちょっとした講堂はありそうな部屋はまるでステンドグラスでも

壁にはめ込まれたように一面、どこか見覚えのあるような模様が広がっている。


どこからか光が差し込み、浮遊するアンバーコインたちが怪しく光る。


「ライティング!」


奥まで見渡すには心伴い暗さを、俺の使う魔法の灯りが一気に塗り替えていく。


そうして見えてくる全体像はやはりこのダンジョンが特殊で、

外からの姿がそのまま建物の大きさではないことを示す。


まあ、でかいのだ。要するに。


「来るぞ!」


背後から聞こえるウィルの声。


その声が指し示すとおり、広いその空間に無数……は言いすぎだが、

多く浮いていたアンバーコインが一気に加速しだす。


角度の問題からこちらにくる数はまだ少なく、

当たれば普通であれば無視できない痛みとダメージをたたき出す彼らだが、

今はただの……獲物である。


立て続けに俺の範囲攻撃用スキル、もしくはダルニアの魔法へと

まるで誘蛾灯にぶつかる虫のように次々と衝突する。


漏れる相手を細かくしとめることも忘れない。


時折しびれるように震える相手はアクセサリーにより

麻痺しているのだろう。


半数以上は残念ながらそのまま体力が尽きたのか、消滅してしまう。


それでも部屋に浮いていたアンバーコインはかなりの数で、

結果、ほとんどその場から動くことなく俺達はアンバーコインを

核の取れそうな状態で多く倒すことに成功する。


「教会で手に入れようと思ったらこれ1個で銀貨何枚もするのにな……ははっ」


「数えるのも億劫ですねえこれは」


後に残る核を手にし、そんなことを言うウィルにアレスティアが弓を背負いなおしながら答える。


(そうか。薬草なんかと同じ扱いか)


俺も核を拾い集めながら、その手の中の価値を考えていた。


今俺たちが倒した数はおおよそ100。


俺にしか見えない虚空のメニューには所謂モンスター図鑑というか、

それに近いものが表示されている。


ほとんどは名前ぐらいで、詳細なデータは

実際にこの世界で倒してから埋まっているようだったが……。


できればその隅にある強烈な奴らとは出会いたくないものだ。


ともあれ、そこには討伐数もカウントされているのでほぼ間違いないだろう。


「んー? となるとまた獲りに来たら大もうけ?」


ランディールが自身も布袋に核を放り込みながらそう笑う。


だが俺はそれに首を振る。


確かに一時的には儲かるかもしれない。


だけれども……たぶん難しい。


「それは無理じゃないか。この核を使うのは悪夢の呪いだけだろう?

 まあ、世の中には他にも効く病気だとかがあるかもしれないが……。

 普通に過ごしてたり、冒険者でもあの呪いはそうそうかかるものじゃない。

 いくら核が手に入っても使い道が少なければあっという間に値下がりだ。

 1つや2つならともかく、大量には教会も受け入れにくいだろう」


「確かに。だからこそ教会も治す方法は知っていても

 備蓄も無ければ、やったことのある人間がほとんどいない……のではないかな」


俺の言葉をダルニアが引き継ぎ、核を入れ終わったらしい布袋の口を閉める。


「とりあえず戻りましょうか。もういいんじゃない?」


キャニーのそんな提案に全員が同意し、帰りに事故に会わないよう、

慎重かつ一気に走り抜ける。


帰りはやはり不思議なもので、1階層につき3回も扉をくぐれば

何故か下り階段が出てくるのであった。






そして、2人の泊っている場所へ。


バタンと大きな音を立て、ウィルを先頭に4人が部屋になだれ込む。


「シャル、ホルン! 核を手に入れてきたぞ!」


瞬間、若い歓声が2つ部屋にこだまし、続けて4人の笑い声も響く。


俺とキャニー、ミリーも抱き合う彼らの姿に満足し、頷きあうのだった。


「あ、あの! 貴方達が協力してくださったんですよね?」


そこに疲れの残る足取りで小学生ぐらいに見える少年が歩み寄ってくる。


恐らく一緒にほとんど寝ていないのだろう。クマが出ている。


「ああ、一応な。お姉さんを大事にしろよ?」


思わず別の属性に目覚めてしまいそうな、

さらさらとした金髪を何故か背中ぐらいまで伸ばした状態の

中世的な少年に俺は内心の動揺を押し隠すようにして言う。


正直、服装以外は姉のほうを小さくしただけにしか見えないのだ。


このぐらいの歳限定の上目使いに、その頭をくしゃくしゃと

撫でてしまうのはお約束だ。


今は疲労して少しやつれているようだが、彼も、

ベッドで安堵の笑みを浮かべている姉、シャルがベッドで体を起こした状態で

頭をこちらに下げてくるのがわかる。


まだまだ歳若い2人が命の危険のあるダンジョンへと

冒険者として赴く。


そしてそんな彼らを実力のある冒険者が仲間にしている。


ただの町の子供には出来ない上品な仕草。


ちょっとどころじゃない裏がありそうだが、

踏み込みすぎるのもよくないのは世の中である。


「ウィル達はこれからどうするんだ? 治療に行くんだよな?」


「ああ。その予定だ。その後は東、オブリーンのほうへ行こうと思っている。

 最近、賑わっているというスピキュールにも足を運んでみたいな」


俺はウィルの語る内容に頷きながら思考をめぐらせる。


「そうか。最近特殊な効果のある装備を職人が作ってるらしいからな。

 手に入れたら楽になるんじゃないか? 後、オブリーンにいくなら

 ちょっと頼みたいことがあるんだ」


助けてくれたお礼だ、なんでもいってくれという6人に対し、

俺はオブリーンで手紙を渡して欲しいんだと言い、

出発前に渡すからそのときにいってくれ、ということにして6人と別れる。


6人と分かれ、自身の宿を取った俺は

部屋でさらさらとメッセージを書く。


中身はアルスたちへの近況の報告と、

これを持ってきた6人は訳有りみたいだが悪い奴らじゃなさそうなので、

もし何かあったら助けてやってくれないかというお願いだ。


勿論、手紙の中身は伏せて渡してもらおうと思っている。


俺の名前を書いておけば、アルスたちのことだ。


すぐに帰すようなことはせずにお茶の1つでもとなることだろう。


翌朝、早くも6人は出発するというので、

手紙を託して旅立つ彼らを見送った。


まったくの余談だが、そんな彼らとアルス達が

予想以上の反応を起こし、西と東の意外な交流が始まると知ったのは

かなり後のことだった。








「はー、アンバーコインだっけ? 綺麗だったねえ。怖いけど」


「うんうん。宝石みたいだったね」


3人では少々手狭に思える宿の部屋で、キャニーたちはそんなことを言い出す。


「怪物にはそうやって何かに化けて人や知能のある相手の気を引き、

 近づいたところを……って奴らも結構いるからな。

 これなんかもそうだな」


俺はそういってアイテムボックスから1本のきのこを取り出す。


見た目は普通のきのこだが、俺がアイテムとして持っているのだ。


その意味では普通のはずが無い。


「きの……こ?」


不思議そうな顔をして手元を覗き込むミリーに頷く。


「ああ。きのこだ。ただこいつ、もう死んでるけどな。噛み付いて来るんだ」


死んでいてもその仕組みは生きているので、両手でばかっと

ちょうどしいたけのようなそのかさの部分が二つに分かれるさまを見せる。


「わっ!?」


その中に生えた牙が予想外の量だったのだろう。


キャニーとミリー2人ともが後ずさる。


「数はいないし。ぽつんと洞窟の中や草原の真ん中とかにいるから怪しいと思うだろう。

 目にするのは冒険者ぐらいだが、食べ物だーっと慌てて手にすると

 ばくっとやられるわけだ。もっとも、この牙、切れ味よくないから

 猟師の罠にはまった、ぐらいの痛みで死にはしないけどな」


へーっと感心する2人に満足してきのこもどきをしまいこむ。


「今日はゆっくりしよう。明日からのことは又明日だな」


俺はそう宣言し、3人でのんびりと食事をして夜がふける。





そして、真夜中過ぎに俺は1人、コンテニオン伯爵の砦のそばに潜んでいた。


(見張りは門番が2人。通常通りか)


音を立てないよう、ゆっくりと暗闇を移動する。


彼らも別に独占するべく門番をしているのではない。


特殊ではあるとはいえ、死ぬこともある場所なのだ。


出来るだけそういう犠牲者が出ないように、

無茶な突入を回避するためのチェックなのだろう。


見つからないように注意しながら進み、途中からは走り出す。


門番を突破してしまえばもう阻むものは無い。


しばらくして夜の砦が見えてくる。


妙に明るい月明かりが不気味に砦を照らす。


「さて、行くか」


俺は砦のそばでアイテムボックスからいくつかの装備とアイテムを取り出し、

今の装備と交換する。


移動速度上昇、自動回復、知覚強化等等。


簡単に言えば盗賊が得意とする潜入や、

単独での行動に適した装備群だ。


その分、武具の性能としては落ちたものだがしょうがない。


すぐに使えるようにポーション類も装備した状態にして、

俺は砦の扉を開け放ち、走る。


目標は、最上階。


すぐさま、何かの灯りで照らされた室内で

ゴブリンが襲い掛かってくるが、全てをスルーして次の扉を開け放つ。


続けて迫るグレイウルフの牙を剣で叩き折り、また次へ。


どうしてもという相手のみ倒すことにし、

そのほかは全てスルーする形で多少のダメージは気にせずに突き進む。


どうせというと身も蓋も無いが、

恐らくはボスクラスやユニークモンスターでなければ

今の俺は致命傷を受けない。


正確には、目や頭、そういった致命傷を受ける箇所への

攻撃をどうにかして回避することが出来るのだ。


嫌な予感をフラグに、それを回避するべく動けるというべきか。


不思議なものだが、恐らくは両手足をがっつり縛られ、

頭も何かで固定されてようやく……といったところだろうか。


これはゲームで得たステータス、HPという数値が示す超人性なのだろう。


レッドドラゴンのような相手であれば確かに怪我をするし、死にそうだが

ゴブリン程度ならそのまま立っていても恐らく死ねない。


肌もこの程度のグレイウルフの牙が刺さるような防御ではない。


とはいえ、怖いものは怖いのだ。


痛みが無いわけではないのもある。


「っと、これで12……か。だいぶ厄介なのが増えてきたな」


敵に魔法生物の石像や、リザードマンが混ざり始めると

そうそう簡単には抜けなくなる。


倒さずに、という条件がつくが。


ここは長くいても中級者用だ。


例の牛のように、正面きって戦うには辛い相手がいるのも確かだが、

それすらもあくまで腕力で倒すには辛い、のであって一人で

人目を気にしないのであれば手段はいくつもある。


攻撃を空振りさせ、その間に相手の手足を攻撃し、

能力を低下させた隙に駆け抜ける。


長いような短いような連戦を終えて、ついに最後の階段を上る。


そこは玉座が1つ。


そして壁に立ち並ぶ甲冑騎士。


だがこいつらが動くことは無い。


所謂リビングアーマーのようなモンスターではなく、

ただの飾りだと俺は知っている。


部屋の本命は正面の玉座に、静かに座っている。


そして、その主の気配が動き、静かに声が響く。


「ほう、ここに人が来るとは何年ぶりだろうな。表に出ていなかった時期を考えると……」


「500年は硬そうだな。……元気そうで何よりだフォルティア」


相対するのはいわゆるワーウルフの姿をした銀色の人影。


その体躯は見事なもので、普通フィールドで出会うことのできる

ワーウルフの3割増しといったところか。


その上で速度は群を抜く。


その牙、爪、器用に振るう手の剣は林檎を12分割もお手の物のはずだ。


この砦、地上は物理、速度の試練で地下は魔法、知恵の試練なのだ。


「む? その名を伝えたことがあるのは精霊戦争の彼らぐらいだが……ほう。

 時も面白いことをするものだ。まさか人間が1000歳を越えるとは、世の中の不思議というものか」


わかりやすく、魔力を高めた俺と装備からあふれる精霊を目にし、

その姿に色々とわかってくれたのだろう。


フォルティアは玉座から立ち上がると、懐かしむようにつぶやく。


「いや、残念ながらせいぜい30年さ。ちょっとな」


思ったとおり、彼は今を自覚している。


ただのモンスターではなく、プレイヤーを導く存在として。


彼は何度も挑む中、倒すまでアドバイスを送ってくれるのだ。


地下のボスもそういったことをしてくれるが、

どちらかというと本人の資質というか、知識で

クリアできる地下の試練と違い、こちらはゲーム的に

装備、ステータスを高上させて挑むタイプなのだ。


そんな中、彼は世情を絡めてのアドバイスになる。


時には世間は○○の作成が盛んなようだ目を通してみてはどうだ、といった具合に。


つまり、俺を倒すにはこれこれこうして装備を整えてみたらどうだ、というわけだ。


勿論、上級者でここをクリアしていないプレイヤーと

一緒に来たら楽勝なのは間違いない。


その手法も否定はしないのだが、できれば自力でやるのが楽しいだろう。


もっとも、俺はそのどちらでもないので強くは言えないのだが……。


「ふむ? 我は魔物の身なれど、人間に利すると決めた。

 その人間が何かをしようというのならば協力しよう。

 さて、今日もこれが目的なのだろう? 時間も惜しい、はじめよう」


フォルティアがそういって自分の剣、爪、牙、と指を指し、

最後に音を立ててその剣を構える。


様々な互いの感情を混ぜ込んだ気配が部屋に満ち、そしてぶつかり合う。


そうして俺は何本かのシルバーソードと、銀狼の素材を手にするのだった。




フォルティアとの戦闘はその他の話を含めて次に短くまとめます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ