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126「無限の鍛錬相手-4」



悪夢の呪い。


確か別に正式な名前があったような気がするのだが、

マイナーなバッドステータスというか状況なので

記憶に無いのが正直なところだ。


その状態になってしまう可能性はいくつかあるが、

特定のモンスターが使用してくる特殊なスキルを除くと、

とある方法しかない。


それは……ダンジョンなどにある宝箱で発動する罠。


古来よりダンジョンに付き物の財宝か、死か。


落ち着いて考えればなんでダンジョンみたいな場所に

罠をしかけた箱と、本当に財宝が入っているのかという

言ってはいけない疑問があるにはあるのだが、

お約束ということで流しておくのがゲーマーってもんだろう。


……たぶん。


それはともかく、俺が知る限り宝箱でこの罠が発動するのは、

確か、アンデッドのみで有名なダンジョン、クレイビングヘイム。


プレイヤーとしては出来ればこもりたくない、

VRのある種デメリットが最大限発揮される場所だ。


簡単に言えば、アトラクションなんて目じゃない形で

そこかしこでゾンビや骨、動く動物死体や

所謂リッチのような相手と戦うのだ。


その上で相手は即死するような攻撃方法ではなく、

基本的にはドレイン攻撃で攻めてくるので

余計に攻略にはプレイヤーを選ぶ。


他にもダンジョンとしてはあるにはあるが、

恐らくだがまともなこの世界の冒険者では

到達できないような位置や中身のダンジョンなので除外する。


「アイツの悪夢のことを知っているのか?」


「頼む! 何か知ってるなら教えてくれ!」


応急処置がされた防具を揺らし、人間の男性2人が

左右から俺の手を掴んで必死にそう言って来る。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。……ああ、知っている。

 確かアンバーコインの核から何か出して飲ませるんだろう?

 何回か治療に立ち会ったことはある」


その必死な姿に少し慌てつつ、そう言ってアイテムボックスから

1個だけその核を取り出す。


「おお……そいつだ」


「今、魔力を感じたぞ……遺物か」


テーブルに残る2人も、その核を見て驚きの声をあげる。


魔法使いらしい1人は俺のアイテムボックスの動きに

何かを感じたようだが今はその話ではないので互いにスルー。


「これはあげてもいい。アレは厄介だからな……」


目を輝かせる先頭の男にアンバーコインの核、

まるで飴玉のような茶色い半透明なそれを手渡し、

椅子に座りなおす。


悪夢の呪い、それは文字通り寝る時に訪れる。


呪いを受けた人間が寝る、意識を失うと

本人が苦手に思っている物、相手、現象等が夢に出るのだ。


それは未体験であっても関係なく、想像で現れる。


例えば……何故か兵士に追いかけられる夢。


あるいは例のGが足元から迫るような夢。


そして、見たことのないような話だけで聞いたモンスターに殺され続ける夢。


その悪夢は消耗を招き、いつしか疲労で意識を失ったりして

また悪夢を見る。


悪夢の内容は必ずしも強烈なものというわけでなく、

あくまでも寝られない、寝てると辛い、という中身なのだ。


というのも、この呪い、本来は装置を装着したまま

寝落ちするのを防ぐためのものなのだ。


確かゲームの機械側にも設定は出来、他の形で

防止策として作動する。


こんなものが実装された原因というのも、

一部ダンジョンなどにプレイヤーがこもりすぎたのだ。


行き来は確かに面倒だし、レアも出ればおいしい。


かといってチームで半数がそのまま定点狩りをし、

半数はプレイしたまま寝る、といった方法が定着する兆しが出ると

運営側は苦肉の策としてこれを導入したのだ。


普通にログアウトしていれば発動しない呪い。


もっとも、ログアウトのないこの世界でそんな呪いにかかれば、

人生終わりだ、といっても過言ではないだろう。


「死者たちをかいくぐって見つけた箱には希望と呪いが入っていたわけだな。

 それで、めどはついてるのか?」


俺の予想通り、彼らはクレイビングヘイムにいったらしい。


彼らのみではなく、同時期に複数の冒険者が

共同で挑んだ中、開錠役が呪いにかかり、脱出してきたのだという。


状況を考えれば、全員で脱出が出来ただけいいことというか、

凄いことだと思う。


「ああ、アイツが呪いにかかってからもう1週間。

 まだなんとか軽い夢だけみたいだが、戦いが出来るような状態ではない。

 だがここにアンバーコインが出現すると聞いた」


俺の質問に、リーダー格らしい男、ウィルが背中の大剣を触りながら頷く。


他の3人も口々に意思表明のように宣言してくる。


自分たちで少しでも集められるように

何か知っていれば教えてくれると助かる、と。


「ねえ、ファクト」


「ああ。そうだな」


キャニーが言葉少なくつぶやき、俺も頷く。


ミリーはいつだって付いて行くよとばかりにニコニコしたままだ。


4人が人任せにして解決しようと思ってるなら

もう少し考えが違うところだが、

この4人は自力で仲間を助ける気でいる。


怪我も治りきっておらず、武具も応急処置でしかないというのに。


「……もしかして」


「ああ、俺たちも協力しよう。俺達は核はいらない。

 その代わり、途中で何か出たらそっちをもらおうかな」


男たちもこの場所で何かが出るということが

多くないことは知っているはずで、俺の言葉の意味も

わかってくれたのだろう。


傷も痛むだろう状況の中、俺たちの手をとって

ありがとう、ありがとうと礼を言ってくる。


「まだお礼を言われるには早いと思うな~。ところで、

 今宿か何かにその呪いにかかった人1人なの?」


「いや、呪いにかかったのは1人だが、弟が一緒にいる。

 呪いにかかったのはそいつの姉でな。シャルとホルンというんだが、

 このままじゃ見守ってる弟、ホルンのほうも参ってしまいそうだから余計にな」


まずは様子を確認するべく全員で2人のいる場所へと向かうことになった。


そこで出会ったのはベッドで疲れきった様子で

ぼんやりと外を眺める少女と、その横に座る少年。


お互いに若い少年少女だが、俺は何も言わない。


大人だから子供だからという世界ではないと思ったからだ。


勿論、その覚悟と術があれば、だとは思うが。


場所を移し、俺は4人を案内していた。


どこに行くのかという4人に、まずは準備からだと言って引き連れている。


行き先は当然、あのドワーフ2人の工房である。


なにせ、相手はアンバーコインなのだ。


「よう」


「あれ? もう戻ってきちゃったの?」


俺の軽い挨拶に、ヘレンがからかうように答え、

対するグリードは立ち上がったかと思うと、

俺と姉妹をスルーして、戸惑うように後ろに立つ4人に向かい、

その身に着けた防具たちを触っている。


「それで? 7人で挑むのか」


「ああ、アンバーコインを狙いにな。噂じゃ上の8階層あたりに出るらしい。

 ただ、道中とアンバーコインを考えると準備が要るなと思ってな」


状況から目的をわかってくれたらしいグリードに端的に用件を伝える。


「アンバーコインってのはこんなコインなんだろ?

 準備って何が要るんだ?」


4人のうちの1人、槍をメインにしているらしい青年、

フリッツが手を使って大体の大きさを表現している。


そう、アンバーコインはコインなのだ。


おおよそお盆サイズの大きさで、太さというか厚みはばらばら。


普段は本当にノートぐらいの厚みだが、攻撃時や

魔法を使うときにはすごく厚みが増し、

まるで筒のようになる。


そして、こいつの核を取り出すにはその厚みのあるときに

うまく核以外にダメージを与えるのが大事なのだ。


簡単に言うと、斧とかで砕くとダメだ。


うまく槍で貫くか、剣などで外側を削るように戦うか、

魔法でしとめるか。


幸い、この編成なら大剣での攻撃時に注意してもらえばいいだろう。


そんなことを説明すると、4人は納得したようだった。


「というわけでコイツを使ってちょっとな」


俺がグリード達に振り返って差し出したのは小さな牙。


黄色く、ちょっと毒々しい様相のそれはとあるモンスターのものだ。


この地方では珍しい、砂漠に住むモンスターのそれである。


「これは……保険ということか」


「ファクト君もなかなかえげつないね」


2人のコメントが若干違うのはその牙を使ったアクセサリーの効果にある。


装備した状態で攻撃すると、麻痺効果を時折与えるというものになるのだ。


ゲーム的には3~5パーセントほど。


素材の形を生かしたその首飾りが生み出す効果に、

狙って出すものではないが出たらラッキーだなという意味でのグリードに、

麻痺した相手を確実にしとめようというえぐさにコメントするヘレンというところだ。


ちなみにだが……。


「お、おい。その牙まさか……」


「ただの偶然さ。たまたま持っていた」


この牙、近距離で戦うとよく麻痺にされるという

結構厄介な相手のものである。


(きっと、こっちで入手は大変だろうなあ)


俺は4人を適当にごまかし、武具の手入れをドワーフ2人に依頼する。


俺はその横で牙を加工することにした。


4人とキャニーたちには少しでも修復が早くなるよう、

手伝いをしてもらい数時間。


「しばらくならこれでいいだろう。終わったらまた来いよ」


「そうそう。一時的な補強だからね」


念を押してくる2人に礼をいい、7人で再び、砦跡に向かう。







「ん? 今度は大人数だな。狭い部屋に気をつけろよ」


人数を見るなり、そう助言してくれる門番に挨拶し、

道を進む。


なお、4人の怪我は冒険にありがちな程度だったので

特にポーションではなく、薬草からの傷薬を渡すぐらいにしている。


そして、大きな門の前。


「作戦を説明するぞ。倒す相手は最小限に。

 とにかくアンバーコインの出る8階を目指そう。

 こっちが出来るだけ支援するから、階段を

 見つけたら遠慮なく階段に行ってくれ」


本当は拘束の魔法や確実に麻痺させるようなものを

使えればいいのだがそういったものは使えない。


4人にもPT申請を送り、ぼかして説明してPTを組む。


これで最悪、どちらかが先行しても追いつくことが出来る。


「ああ。がんばろう」







そして7人が扉を開け、ゴブリンばかりの1階や2階をなんなく通り抜ける。


難易度のあるダンジョンに挑むメンバーらしく、

その戦いに危ない様子は無く、むしろ俺も学ぶところが多い。


そして3階へと上がったとき、そこには壁に追い詰められた5人ほどの冒険者と、

彼らを追い詰めたであろう牛の巨人が咆哮をあげていた。


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