表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/292

124「無限の鍛錬相手-2」

ちょっと区切りが悪いです。

「それではここで。何か御用があれば声をかけてくださいね」


ポルトスからこの場所へと商売のために物資を運んでいたという

商人たちと別れ、俺達は集落の入り口そばの広間にいた。


そこかしこに何かが入っていたであろう木箱が積み上げられ、

他の人間も思うままに腰掛けたりしている。


冒険者と思わしき集団や、

先ほどの商人と同じように、ここに物を運んできたであろう

馬車などが繋がれている。


それらを護衛する人間もいることから、結構な賑わいだ。


「何か、思ったのと違うわね」


「そうだね~。もっとこう、大変そうな感じかなって」


キャニーのつぶやきに、ミリーがうんうんと頷く。


2人ともじっと俺のほうを見つめている。


俺がどうするかを待っているのだろう。


「ちょっと歩いてみるか」


とはいえ、俺もこの状況では情報が少なすぎる。


既に1つの村、町のようになっているこの場所の

状況を探ることにするのだった。






道中、目に入る建物の多くは最近建てられたものだとわかる。


明らかに新しく、その多くが急造なのが丸わかりなのだ。


ただ、大きな嵐等が来ない限りはそれでも十分だろうことがわかる。


そうなると、それだけここに腰をすえる価値のある何かがなければならない。


建物の中身はというと、民家というよりは

休憩場所のように質素な作りになっている。


そこかしこから聞こえる会話から、冒険者が多いことがわかった。


そしてその冒険者の生活を支える人間の多さも。


屋台として食事を提供するものや、

狩の報酬であろう毛皮を買い取っている商人まで見える。


(この集落を拠点に狩に出ている? いや、それでは無理がありすぎる)


やはり、ポイントは募集内容にもあった、湧き出る相手ということだろう。


そのうち、少し町外れのように集落から離れた位置にある、

黒い煙を吐き出す大き目の建物が目に入った。


鼻に届く独特のにおい。


「あそこだ。行こう」


「何か変なにおい」


テンションの上がった俺と違い、微妙に気だるそうな姉妹をせかすようにして

俺はその建物に向かう。





「ん? お客さんかい?」


「そうなるかも、だな」


特に鍵もかかっておらず、開け放たれたままの

入り口から中に入ると、家の主であろう存在から声がかけられる。


少々ハスキーだが、女性の声。


日の光で明るい外と比べ、

若干くらい感じのする室内で視線をめぐらすと、

壁際の赤い炎を上げる炉のそばで

男女が座っているのがわかった。


「ならば新顔か。武器の修理が必要なのか?」


すくっと、見た目と違ってスマートに立ち上がる男、

ドワーフである。


もう1人の女性のほうも、久しぶりにみた女性のドワーフだ。


筋肉質というよりも、ぽっちゃりといえそうな

手足の太さ。


だが、太っているというよりはがっしりしているといえるだろう。


少なくとも、普通の人間の成人男性では何人かで挑んでも

返り討ちにあいそうだ。


「いや、今はまだ必要ない。ちょっとこの場所の様子を聞きに来たのと、

 勉強になるかと思ってな」


言いながら俺はアイテムボックスから、

この世界にきてから作成のときに良く使っている

金属製の小さなハンマーを手にし、笑う。


ちなみにキャニーとミリーはこういう場所が

やはり珍しいのか、邪魔にならないような場所で

きょろきょろと室内を見渡している。


「ふーん……なんだい、そんな格好して。

 思ったよりやりそうじゃないか。

 じゃ、手伝ってもらおうかな」


「手伝う?」


俺に近づき、ぺたぺたとあちこちを触っていた

女性のドワーフがなんでもないようにそういい、

俺の手をとる。


答えの代わりに笑いながら、男女揃って壁の一角を指差した。


そこにあるのは刃こぼれした剣、

凹んだ盾、肩口の割れた鎧等等。


「手伝う代わりに色々教える。それでいいだろう?」


願っても無い申し出に、俺も笑いながら、了承した。





「ファクト~、これは?」


「それはこの後だからこっちだ。ヘレン、

この石炭、じゃないブラッカーはこっちでいいのか?」


─ブラッカー、艶のある黒い石のような物だ。


石炭のようでちょっと違う物で、

以前手に持ったときに植物の果て、と名前の出たアイテムのことを

この地方ではそう呼ぶらしい。


どうやら近くの平地でこれが掘るほど取れる場所があるのだとか。


ただ燃やすのではなく、魔力を込めると

炭の様に長く、安定して熱を出すので

鍛冶には欠かせないらしかった。


「ああ、そこでいいさ。しっかし、ファクトだっけ。

 あんた、その腕でなんで流しの冒険者なんてしてるんだい?」


玉の様な汗をぬぐいながら、女性のドワーフ、ヘレンが聞いてくる。


「……人のことは俺たちだって言えねえさ。里から刺激を求めて出てきてるんだからな」


どういおうかと悩んだところで、横合いから予想外の助け舟。


男性のドワーフ、グリードだ。


手伝い始めて既に半日。


日も落ちようかというところだった。


姉妹には訓練ついでとして、必要な物を外の倉庫のような場所から

運んだり、水を汲んできたりしてもらっている。


その間に聞いたところによれば、2人とも

ここからそう遠くは無い里に住んでいたドワーフなのだという。


ある日、人間の発想に興味を抱き、

自分たちの技術に取り入れようとこうして人間の集まる場所で

様々に経験をつんでいるのだそうだ。


「ま、そりゃそうか。こっちは依頼も早く片付く、勉強になる。

 ファクトも情報が聞けるし、学べる。それでいっか」


うんうんと自己完結したヘレンはまた金床に向かい、

冒険者や兵士からの依頼らしい武器の修理に取り掛かる。


俺も2人に倣うように、壁にかけてあった刃こぼれした斧、

メモのようなものが依頼内容として貼ってあるそれを手にし、

メモに従って素材を選び、修復を始める。


そのほとんどはプラスの無い普通の装備で、

悪くは無いが短期間に負荷がかかったのか、

新しさを感じつつも壊れているのがわかる。


「……その斧、何を叩いたらそんなになるの?」


水を汲んできたキャニーが俺の手元を少し

離れた場所から覗き込み、そういってくる。


「大方、ロックゴーレムを何体も相手にしたんだろうさ。

 あのぐらいなら叩けばなんとかなるけど、傷みも激しいからね」


さすがに依頼を受けた側だけあってか、

こちらを見ることなくヘレンがそういってくる。


「最近の冒険者は無理をしすぎる。いくら直してもすぐ壊してくる。

 もっとも、もらう物をもらっているのだから文句はないのだがな」


ぼそっと、グリードも自身の手は止めるにそういってくる。


(ロックゴーレムを何体も? 他のモンスターを

 相手にもするとはいえ、こんな場所にそんなにたくさん?)


俺は壁に残っている武具達を見ながら、

それだけ消耗するだけの相手がこの周囲にいるという事実に

疑問を隠せないでいた。


「そんなに怪物がいたらここも怖いよね?

 でもそんなにみんな、怖がってる感じじゃないよね。

 ダンジョンでもあるのかな?」


同じように水瓶に汲んできた水を入れたミリーがそういうと、

ドワーフの2人が手を止める。


「やっぱりそう思うよねえ。じゃあ種明かしだ」


半日手伝いながら、肝心のところを

今の今まで聞かなかったのには一応理由がある。


1つはミリーがいったように、今にでもモンスターが襲ってくる!

というような緊迫した状態ではなかったことと、

仮に普通のモンスターを倒したにしてはやり取りされている素材が

随分と偏っているように思えたからだ。


グレイウルフがいたとして、その素材は

毛皮のみならず、牙であり爪であり、

しっぽだってアクセサリーにすることもある。


だが、見えた限りでは毛皮は出回っているが、

牙や尻尾は見当たらなかった。


「ここから半日も要らない場所に、廃墟があるのさ。

 ここじゃトゥリンクル砦って呼んでるけどね。

 大きな門が1つ、小さな門がいくつか。

 だけど、ただの砦跡じゃあなかったのさ」


まるで怪談を話すかのように、ヘレンは

大げさに身振り手振りで砦跡の大きさを表現している。


俺も手を止め、その話に聞き入っていた。


「最初はウェスタリア軍の数人が発見して、まあ、偵察したんだね。

 そしたら中にはあちこちの部屋にいるゴブリン!……退治して、報告さ。

 そうなったら念のため、として部隊がくる。そうしたらどうなっていたと思う?」


「どうって、倒したんでしょ? だったら転がる死体、静かな砦跡、じゃないの?」


もったいぶった言い方のヘレンにキャニーが素直に答え、

ヘレンは普通はそう思うよね、と頷く。


「……倒したはずの相手が全部また出てきたとか?」


ぽそりと、ミリーがそうつぶやくとグリードが静かに頷いた。


「ああ。20人ぐらいか、ウェスタリア軍の部隊が見たものは、

 倒したはずのゴブリンがまた部屋にうろうろしているところだった。

 しかも、倒して先に進むとまたゴブリン、次の部屋には若いグレイウルフ、

 と砦跡にいるにしては不自然な集団だったそうだ。

 なおも倒してなんとか先に進むと、兵士達は気が付いたのだ。

 明らかに歩いた距離が外から見える砦跡の大きさ以上だということにな」


グリードは話しながら、そのとき測定された距離と、

砦跡の大きさの違いを黒板のような壁に図で書いてくれる。


おおよそ1.3倍ほどのようだった。


「これも、軍が進めた距離ってだけで行き止まりじゃなかったらしいよ。

 しかも、上に行く階段、下に行く階段とがいくつもあるみたいでね。

 このままでは大変だと考えた軍は一度引き上げ、再度挑んだのさ。

 すると……そこにはまた怪物たちがいた」


この辺りでウェスタリア軍も何かがおかしいと気が付き、

遺物や遺跡を疑い、軍にいる魔法使いに確認を依頼したのだという。


結果、砦跡全体が何かしらの古代遺跡であり、下に行くほど

魔力のような何かを強く感じるらしいことがわかった。


また、何度かの突入の結果、怪物の死体はほとんど残らず、

素材として使える部位は限られ、例えばグレイウルフなどは

尻尾を切ろうとすると、崩れ去るのだという。


「すぐに外に出てくる気配はないとはいえ、

 いつ外に出てくるかわからない怪物をほうっておくわけにもいかないだろう?

 そこで軍は考えた。経験は積める、一応倒しただけ素材も確保できる。

 これは冒険者への依頼になるんじゃないか、とね」


幸いにも、怪物から手に入る素材はあればあっただけ有用な物で、

倒されて回収された分だけ利益になる。


また、当然ながら相手も倒されるばかりではなく、

返り討ちにあう冒険者も少なくないとのことだ。


「それでも、確実に儲ける相手と出会う場所だってね、

 ちょっとした人気の場所になってるってわけだ」


そうヘレンは話を締めくくり、どう?とばかりに顔を向けてくる。


(確かに、普通の依頼を受けるよりは確実か)


通常依頼に出るゴブリン退治、だとかは

自然発生的な物で、中身も安定していない。


だが、今回の話はある意味自分たちのペースで

無難な戦いが出来る場所、ということになる。








「でも、そんな場所に何組も冒険者がいったら取り合いになるんじゃないの?」


「そうそう。ここは俺たちの部屋だー!とかありそう」


キャニーたちのもっともな疑問に、ヘレンはにやりとする。


「そう思うよね。でも、不思議なことに門をくぐった先は決まってないのさ。

 勿論、先に入った相手とかち合うこともあるけどね。

 続けて門をくぐっても、なぜか同じ場所に出るのは大体10回に1回ぐらい。

 後は全然別の場所なのさ。そのくせ、逃げようって時に部屋の扉をくぐっていくと、

 いつの間にか外に出れる。まったく、不思議なもんさ」


(随分とやさしいダンジョンだな。いや、往復を考えないといけないという点では

 厳しさを教えてくれるともいえるのか?)


俺はそう考えながら、なおも話を聞いていく。


・倒せば倒すほどなぜか次の部屋、次の場所での数が増える

・たまに色の違うのがいる

・階段で移動すると相手ががらりと変わる

・倒して得られる素材は大体一種類

・稀に部屋に似つかわしくない宝箱のような箱が部屋に出る


といったことがわかった。


そうした話を聞くにつれ、俺の中では誰かがこの国というか

地方を滅ぼすために作った罠ではなく、

遺跡全体が遺物なのではないか、と考えるようになっていた。


いくつか心当たりがあったのである。


そのうちの1つが……期間限定のイベントダンジョンである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ