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マテリアルドライブ  作者: ユーリアル
閑話群(設定にあるゲーム時代の小話です)
14/292

閑話「ある日のMD。果て無き追いかけっこ(六か月目あたり)」

別キャラのときは表記が難しいものです。


時間軸はバラバラです。


ゲームであるマテリアルドライブ(MD)としての描写なので、

本編中とは描写、設定に差異があります。

読まなくても問題ありません。


ファクトはこんな奴だ、スキルはこんな感じなんだ、という参考やお楽しみになれば幸いです。


その日、俺達は追われていた。


あれ? 前にもあったな。


いや、それはどうでもいい、とにもかくにも……。


「走れぇぇぇえええ!!」


「とっくの昔にフルスロットルよおおお!!」


いつぞやと同じ構図で俺はひたすら走っていた。


場所は火山。


といっても中堅プレイヤーでも行けるような場所ではない。


難易度が高い意味で、なかなか訪れることのない場所だ。


名前をムスペル火山という。


防具を炎耐性特化で固めて、さらに各種準備を徹底してようやくという場所に

俺のような製造タイプが何故いるかといえば、出発前の朝にさかのぼる。









――町の一角


「ムスペル火山~? 俺に行けってのは難儀すぎる話だと思うんだが」


その日、俺は注文を受けていたとあるギルドからの防具を作成していた。


なんでも加入した初心者達に支給する装備らしい。


俺自身は無償配布はどうかな?とは思うところもあるが、

やり方は人それぞれなので楽しんでくれればそれでいい。


ともあれ、ほとんど作成が終わり、数を数えていたところに

知り合いであるペインがやってくるなり、ムスペル火山に行こうと言い出したのだ。


「そんなこと言わないでさ~、行こうよ~」


甘えるような少女の声、目の前の姿は以前作ったレイピアを腰に下げたツインテールの少女だ。


この体格では巨大なモンスターが相手のときに間合いが取りにくいと思うのだが、なんとかしているのだろう。


今日は俺の知らないメンバーがPTにいるせいか、口調もキャラのままだ。


「リム、無理強いするものじゃないわ。それに、この方は製造タイプのようだし、無理じゃないの?」


ペイン改め、現在はリムの傍らに立っていた如何にも姉御!と言った様子の女性戦士がなおも迫ろうとするリムの肩を掴む。


極上、とまでは行かないようだが見てわかる上位素材よる赤色の多い防具一式、武器も青色の多いハンマー。


詳細は触ってみないとわからないが、行こうというからには十分な準備はしているようだった。


「え~? フェシアだってアレ、彼ぐらいじゃないと手に入らないって言ってたじゃん」


耳に届く声と目の前のリムの姿に、一瞬中身を想像しそうになるが、なんとか直前で押しとどめる。


なおも言い合う2人。


話の中身からすると、どうやら火山には何かアイテムか素材でもある様子。


それにはただの戦闘メンバーでは難しい条件でもあるようだった。


「はぁ、二人とも、だったらこんな戦闘力ない人じゃなくて条件を満たしてる戦闘タイプを探しましょう」


横合いから、気になる言葉を発したのはこれまで口を閉じていた1名。


装備からして、回復役を担うタイプなのだろう。


手に持った杖には覚えがある。


確かあれは……。


「ダメだよ、ゲイル君。こんな、なんていっちゃ」


リムがたしなめるように言うが、ゲイルの視線は俺をあざけるようなもののままだった。


「でも役に立たないのは確かでしょう?」


さすがにムカッと来たぞ……リム、というかペインが仲間にしている以上、普段はこんな言動ではないのだろう。


「リム、パーティーくれ」


「え? あ、うん」


かすかな音とともに、パーティー勧誘のアイコンが表示され、俺は許諾を示す。


瞬間、3人の頭上に表示されるHPなどのバー。


俺はパーティーに入ったことを確認したところで、ゲイルの杖をあっさりと奪う。


「え? 今何をっ」


突然手の中にあった重みがなくなったのだ。焦った様子でゲイルが俺の手元をにらむ。


単純に、片方の手で杖を持った手をはたき、緩んだところで引き抜いたのだ。


製造特化の都合上、俺の器用さは戦闘タイプからすれば有り得ない値だ。


手品の1つや2つ、余裕である。


「ふーん、かなり前のだな。まだこのランクに慣れてない頃のだ」


「一体何をっ!? というか何でペナルティがないんですか!」


杖の具合を確かめた俺は、思ったとおりに自分が以前作ったものであることを確認できた。


数はそう多くなく、マニアックな補助効果をつけてあるので利用者は限られる。


彼に直接売った覚えはないので、自動販売中だったか、転売か。


「なんだ、ゲイルは知らないのか? パーティーメンバーの間では貸し借りを行うことも推奨されている都合上、ルート扱いにはならないんだ」


目の前で起こったことにさして動揺した様子もなく、姉御肌の女性が説明してくれる。


「フェシアのいう通りよ。パーティー以外だと投げるとか、地面において、とか。トレード機能をちゃんと使う、ってぐらいよね」


リムがそう続ける。


MDにおいて、所謂ルートは制限を設けられている。


装備するアイテム、つまり武具やアクセサリ類は1時間以上あれこれ弄らないとルート出来ない、という強烈なものだ。


プレイヤーキラー、PK自体は戦闘可能な場所であればどこでも可能だし、装備するタイプではないアイテムやお金等は比較的容易にルートできる。


それらの制限がパーティーメンバーにはないのだ。


「そういうこと。で、これ作ったの俺ね」


杖を返しながらそういうと、ゲイルは唖然とした表情になる。


「え? ああ……本当ですね」


杖のステータスの隅のほう。なぜか目立たない位置にある作成者の名前を見たのか、彼は頷いた。


「んで、こいつはそれのアップデート版。エフェクトが派手になってる。これでも役立たずかい?」


アイテムボックスから取り出した1本の杖はゲイルの持ったそれに良く似ている。


基本性能は当然上位。ついているスキルネタ具合も同じ系統だ。


「貴方は……このランクで何作ってるんですか?」


ゲイルは無造作に渡された杖の、一線級の性能と付与スキルのアンバランスさにあきれたようだった。


かと思うと、真面目な顔になって頭を下げてきた。


「先ほどは失礼しました。以前組んだ製造タイプがたまたま寄生当然!な方々だったもので、気が立ってしまいました」


丁寧にそうされればこちらも相応に返さねばならない。


握手ひとつ、解決である。


「よーし! じゃあ作戦会議だぁ~!」


少し気の抜けそうなリムの叫びを合図に、俺も詳しく話を聞くことにした。






「じゃあ、あの辺りにその巣がある、と」


「うん、そのはずなんだ」


再現された熱気はたとえるなら真夏のオフィス街。


じっとしているだけで汗が擬似的に噴出してくる。


この感覚自体はゲームが再現した電気信号でそう感じでいるだけというが、すごいものだ。


「へー、で、さすがに倒せないんだよね?」


前衛らしく、周囲を警戒しながらフェシアが不満そうに言う。


「いやいや、私たちだけでは無理ですよ、ここのドラゴンは」


ゲイルは額の汗を拭きながらそう答える。


そう、このムスペル火山は火山フィールドの中でも難易度的には上から数えたほうが早い。


登場するモンスターは雑魚扱いの奴らですらかなりの強敵だ。


俺ではアイテムをかなり消費してようやく1匹、といったところか。


となればフィールドの主であるドラゴンクラスになればさらにとんでもない。


なにせ……。


「そうよねー、復活するんだもんねー」


ここのドラゴン、名前はレッドドラゴンだが中身は極悪だ。


一度倒しても10分もしないうちにゾンビとして復活する。


その上でレアドロップはゾンビ状態で無いと出てこないという噂だ。


リムのレイピア、ホーリー・コンビクテッドは以前作った不死特攻付の高性能武器ではあるが、それでも有効打、でしかない。


まともに倒すなら10人以上は必要だろう。


だが、今回の目的はレッドドラゴンのレア、ではない。


もしそうであるならば、ゲイルのいうように俺はさすがに足手まといになる。


その巣にとある素材とアイテムがあるのだという。


「ゆっくりと戦闘を回避しつつ、フィールド周回の隙に潜入、だな」


「そうそう! フェシアもゲイルもよろしく!」


魔力消費を条件にモンスターに発見されにくくなる指輪を発動し、4人は火山の奥へと進む。






「マップ的にはこの次ですね」


ゲイルが手元のアイコンを操作し、マップを確認している。


俺はといえばすぐそばの発掘ポイントで鉱石を集めている。


さすが高難易度のフィールドである。


良い素材がいくつも確保できた。


俺自身の戦闘能力はここでは余り役に立たないので、アイテムによる補助やこうしたアイテム集めに専念している。


「ファクト、いよいよ出番だ。任せる」


「勿論、そのために来たんだからな」


俺は笑って、採取に使う道具、小さいノミとハンマーを持つ。


「じゃー、ドラゴンがいたらファクト君以外が囮になって逃げる。いなかったら4人で潜入!で」


リムの合図とともに、4人がフィールドに突入する。






結論から言えば、目の前にいた。


正確には、暗いなあと思って見上げたらなぜかいた。


しかも2匹。


片方は赤い、片方はどす黒い。


つまり、生きてるほうとゾンビなほうと、両方ということだ。


「なっ」


叫ぼうとしたゲイルの口をふさぎ、フィールド移動直後の無敵時間を利用して慌てて一度戻る。


フィールド移動後、息苦しさを誤魔化すように大きく息を吐く。


「こいつは……まずいな」


「まさか2匹同時とは。そんな報告ありましたっけ?」


レッドドラゴンは人気のモンスターだ。


勿論、危険度も高いがメリットも多い。


放置されることは少ないはずで、特にゾンビとなっている状態で

長く放置された例は聞いたことが無い。


一応、次の固体が発生する条件自体は生きているほうが倒されることだから

状況的には有り得る、のだが、なかなかの偶然だ。


「私の知る限りではないね。リム、どうしたの?」


既に疲労困憊の様子のゲイルに、苦渋の表情のフェシア、そして……。


「た、戦いたい!」


なぜかテカテカした様子で笑顔のリムであった。


そういえばいつも強敵と戦いたいっていっていたなあ……。


ただ、それはそれ、である。


「それはまた今度ね。今日はどうしましょ」


「無敵の間に可能な限り走って移動……の後は分散ですかねえ?」


「それしかないよな……」


なおも戦いたそうなリムは置いておき、3人の意見は一致した。


俺は目的地である巣がある場所を頭に叩き込み、駆け出す準備をする。


そして、フィールド移動。




悲しいことに、巣は別の場所にあるようだった。


「走れぇぇぇえええ!!」


「とっくの昔にフルスロットルよおおお!!」


突入後、予定通りに分散した俺達はなんとか2匹の攻撃を回避し、俺自身は無事に巣のあるはずの場所に到達していた。


だが、そこは確かに巣だった、というだけで何も無かった。


特別公開されているわけではないが、巣が移動しないという保証は確かにどこにもなかった。


本来の流れは失敗したのは間違いない。


巣が移動していることに衝撃を受けたゲイルとフェシアは動きを止めてしまったすぐにドラゴン2匹の攻撃をそれぞれ受けて戦闘不能になっている。


今頃、拠点に戻るかどうかのメニューが出ているはずだ。


(このままじゃ全滅する。かといってどうする!?)


リムと2人、必死にフィールド内部を走り続けながら、俺は打開策を探る。


武器生成をしている暇はない、せいぜいがアイテムを使うぐらいか。


それにしたって一撃でドラゴンが倒せるようなものはあるはずがない。


「ファクトっ、左前方でっかい柱の上!」


リムの声にちらりと向けば、鍾乳石を途中で切り取ったような太い柱の上にいかにもな塊。


ドラゴンの巣だ!


駆け上がれる高さでもなければ、そちらに向かえば2匹もより苛烈に追いかけてくるだろうからそのまま向かうことは得策ではない。


これは無理っと思ったところで視界に入る斜めになった壁。


今の速度なら思わず駆け上りそうな……これだ!


「右奥の壁を駆け上がる! んでもって背後に着地して作った武器でそれぞれに攻撃!」


「おっけぇぇーーーー!!」


覚悟を決めた俺とリムは速度を上げ、普段ならどうしようもない壁を駆け上がる!


ぎりぎりまで来たところでジャンプ、空中でぐるりと回転するように大きく舞い上がる。


さかさまになった視界で2匹のドラゴンが壁にぶつかり、ゾンビ側が腐肉を撒き散らして吼えるのが聞こえる。


武器生成-近距離S-(クリエイト・ウェポン)!!」


着地と衝撃、痺れるような感覚に顔をしかめながら、手早くスキルを実行。


今回は耐久も威力も度外視、必要な能力はたった1つ。

その能力のために性能を調整する。


出来上がったナイフをリムに渡し、体勢を整えつつある2匹にほぼ2人同時に切りかかる。


根元まで刺さったところで甲高い音を立て、2本とも砕けてしまうが、

2匹を覆うピンク色のエフェクトに俺は効果を確信した。


今回の狙いは、魅了。


一定時間プレイヤーではなく近くのモンスターを戦闘対象にする効果がある。


この場にいるのは2匹のドラゴンのみ。


怪獣決戦のごとき戦いが始まり、空間に轟音が響くことになる。


「今のうちに、上へ!」


叫び、巣がある柱へと駆け寄ってなんとか昇っていく。


「よいしょっと……あった!」


2人の視線の先には、大きな卵とたくさんの巣材、その端に光る延べ棒のような何か。


それに触れると表示される発掘条件。


どうやら通常の素材と違い、はい発掘ね、というわけには行かないようだった。


ただ、条件自体は製造関係のいくつかが一定Lv以上であること、

魔力を相応に消費する、ということだけだった。


確かに俺のような製造タイプであれば条件は満たせるが、ここに到達するのは難しい。


「それでも俺はここにいる」


「そ、頼むよ」


2匹の魅了効果が消えないか、警戒しているリムの声を背後に聞きながら、俺はその中にある信頼感を感じていた。


無言で発掘を開始、あっさりと入手に成功する。


入手素材はオリハルコン。そして炎属性付。


詳しくは帰ってみないとわからないが、きっと品質もかなりのものだろう。


「よし、帰るぞ!」


振り返れば、大きなぬいぐるみを抱える小学生のように、

大きな卵を抱えたリム。


「これもアイテムだからな、もったいない!」


少し地が出た口調でリムは笑い、落として割らないようになんとか柱から降りる。


思ったより時間がかかってしまった。


「2人は……帰ってるな。行こう」


「うんうん。……うん?」


フェシアとゲイルの状態を確認した俺が帰還を促した時、リムがあげた声に俺は振り返る。


覗く影。


「「あっ」」


魅了の切れた2匹が、目の前にいた。




「最後のっ、最後までっ!」


「ネットゲームとは、走り続けることと見つけたりぃぃぃいい!!」


フィールドの境目までの逃走劇で今回の冒険は幕となった。



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