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121「潮騒は騒動と共に-3」




(さすがは設定上、モンスターと同じだけあるな)


俺はマーマン達の回復度合いに一人、舌を巻いていた。


ポーションによるカビ取りという贅沢な行動により

マーマンのカビはほとんどが除去されていっている。


幸いにも、カビが発生したのはこの洞窟に上がってきてからということもあり、

背中などに全体的だが、ほとんどは表面で留まっていたのだ。


ポーションを浸された布で拭くことで、

マーマンの肌はカビを押し出し、取れてくるという具合である。


後は症状の重いマーマンと、元々の怪我の治癒を待つばかりだ。


だがそれも適切な処置さえ施せば一日とたたずに

回復できそうな具合であった。


となれば後はやれることは限られてくる。


クラーケンがここだけを襲うとも限らないので、

誰かに町への伝言を頼む必要があるのも確かだ。


その役目はスレイルにやってもらうことにした。


「じゃ、行って来る」


「スレイル、気をつけるんだよ」


母親との別れの挨拶をして、

スレイルはぼんやりと光る横穴を戻っていく。


ほかに穴は無かったし、

途中で襲われることなくロープで上に出ることが出来るだろう。


出来れば物資も欲しいところだ。


だが、恐らくは町への警戒の知らせ以外は間に合わないだろう。


俺の長年のゲームプレイヤーとしての、

所謂お約束への経験がそう訴えていた。


半数ほどのマーマンが回復したといっていいが、

相手がクラーケン、ノービスがつかないとなれば

その強さは侮れない。


地上で邪魔無しで戦えば勝てなくはないだろうが、

この場で普通の人やマーマンもいる状況では

どこまでカバーしきれることか。


何分、クラーケンにせよ、地上で言えばクモのようなタイプなど、

手数が多い相手というのは単純に厄介なのだ。


何かが人間とは違うのか、マーマンにポーションを直に使っても

なぜか効果は薄く、戦力として期待できるマーマンは半数ほど。


「ニンゲンヨ。タタカウノデアレバワレラモトモニ」


思案しながらうめく俺の横に、

傷がまだ痛むだろうにその両足でマズンが立ち、そう言って来る。


直接ステータスを見れるわけではないが、

マズンが他のマーマンより相応に強いことがわかる。


なんというか、オーラが違うのだ。


「ああ。だがまずはどうおびき寄せ、上に上げるかだ」


俺は天井を見上げながらそうつぶやく。


この洞窟そのものはかなり広い。


砂浜の穴からの位置関係を考えるとどう考えてもおかしい広さだ。


単純に考えると、ここは水の中のはずの高さというか深さなのだ。


恐らくだが、途中で少し地形が変わっている。


もしくは何かの力でほぼ水中だが、

水が入ってこないのかもしれないが……。


「アノヤリハマセキデモアル。ソノウチマリョクヲカンジテヤツハクル」


マズンが指差すのはシーキングの像。


その手にした武器は魔石を加工したものとのことで、

一族のピンチにその加護を与えるとかどうとか。


灯りが灯ったりと、そういうものなのだろう。


今はまだここは見つかっていないが、マーマンを見失った位置を

クラーケンが入念に探せばきっと見つけられるとのこと。


「なるほどな。じゃあ、こういうのはどうだろう」


俺はキャニーたちに海面を警戒してもらい、

町の人達とマーマンを集め、作戦会議を始める。


止めとなる攻撃は氷とした。


水に棲む相手には雷が一番効果的であるが、

何しろ自分たちも水辺にいるのだ。


あまり強力な物はこちらにも効果を及ぼしかねない。


俺は耐えれても、ほかがどうなるか。


「この中で銛を普段使う人は?」


「大体皆使ってるよ。よく潜るからね」


俺の問いに答えてくれるのはスレイルの母親。


見れば皆も頷いている。


「それは話が早い。えーっと……確か」


アイテムボックスの中から、一線級ではないが、

店売りしている中でも上等な部類に入る槍を何本も選び出す。


そのほとんどはドロップ品で、特定の場所にこもっていたときに

ドロップした性能も普通の槍達だ。


変換することで素材にもなるので、

いつの間にか溜め込んでいたのだ。


きっと俺じゃなくても、MMORPG経験者であればそうなったことがあると思う。


何かもったいなくて、すっきり整頓が出来ないのだ。


装備して使うなら問題だが、使い捨て同然に投げるのであれば

持ち上げる力があれば問題ない。


「マズンにはこれだ」


「ワレニハコレガ……ドウイウコトダ?」


俺がアイテムボックスからさらに取り出したのは、

自分では使い道の少ない短めの槍。


ただその姿は普通の槍ではなく、三叉の所謂トライデントだ。


3本の穂先が集まる根元には水色の宝石。


愛用だろう武器を手に、一度は辞退しようとしたマズンが手にそれを

握ったまま驚きの声をあげる。


余りにも手になじむからだろう。


「ちょっと他の土地で見つけてね。シーキングの伝承にもあるだろう?」


俺は少し茶目っ気を交えて笑いながらそういい、

それ以上の追求を拒んだ。


渡したトライデントは俺には装備できない。


要求されるのはステータス以外に、水辺、水中などと

判定されるフィールドで槍を一定以上使用した上で、

例のシーキングのクエストを一通り終えている必要があるのだ。


クエスト自体を俺は最後まで終わらせていない。


槍そのものも余り得意ではないのだ。


ともあれ、マーマンであればまさに専用武器といえる。


魔力を込めて振りぬくか投擲すると、氷属性の魔法が発動する武器だ。


水中では投げるぐらいしか意味が無いのが難点だが。


「これで動きを止めてみんなで槍を投げ、後はなんとかする……しかないか」


俺が戦闘スキルを獲得しているプレイヤーであったなら、

もっとストレートに、相手をなぎ倒すところだが

そうではない以上、こうして他の手を借りなければならない。


マズンは足の怪我を気にしていたが、

少しの間踏ん張るぐらいなら問題ないとの事なので、

十分な戦力となることだろう。


「ファクトくん、何か……来てる。あっちにいったりこっちにいったり。

 これかなぁ?」


最近気配察知に磨きがかかっているのか、

何の予兆も無い中、ミリーがそういってダガーとアイスコフィンを引き抜いた。


俺はまだ戦えないマーマンと、女性陣を出来るだけ壁際に下げてパラライザーを構える。


静かな水面。


何も少し前と変わらない光景だが、

ミリーにああいわれると不気味に見えるから

人間とは不思議なものである。


「ファクト! 来たわ!」


感じる気配。そしてキャニーの声に少し上に顔を向ければ、

海面から飛び出す小さな影。


「ちっ!」


空を飛魚のように跳ね、どうやって探知したのか

まだ壁際にいるマーマンに襲い掛かろうとする影をパラライザーで叩き落す。


小さいながらも妙に重い手ごたえのそれは

洞窟の岩にぶつかり動きを止めた。


なんといえばいいのだろう、とんがった貝殻に、イカのような下部分。


名前は知らないその姿は、姿だけなら

俺の知るイカそのものに近いが、れっきとしたモンスターだった。


単体での強さは大したことはなく、それこそ

MDプレイヤーであれば一桁でも倒せそうなほどだ。


だがその殻の先は武器そのもので、

一般人には十分な脅威だ。


そのイカもどきを皮切りに、海面が異様な空気に包まれる。


「キャニー! ミリー!」


「わかってる!」


「最初はけん制……本命はこの後」


俺は背後へ1匹も抜けさせることのないよう、

数歩前に出、迎え撃つべく気配を探る。


そのとき、まるで映像を巻き戻しているかのように、

海面からいくつもの影が飛び出してきた。


「いち、にっ、さんっ!」


威力はともかく、器用さには自信がある。


右、左、上、とばらばらに飛び出してくる相手に

次々とパラライザーで切りつける。


岩肌にたたきつけられたり、真っ二つになるそれらには目を向けず、

次なる相手をどんどんと迎撃していく。


盾生成C!(クリエイトシールド)


手が届かず、奥に行きそうな相手の前には

正面に適当な小盾を生み出して迎撃する。


甲高い音を立て、地面に落ちた相手をマーマンや

町の人たちが槍を突き刺してくれるのを見、

俺は迎撃により意識を向けた。


「! ファクト!」


「ああ、来たぞ!」


それは雑魚を何匹倒した頃だったか。


少々鼻に匂いがきつくなってきた頃、

海面にぽつんと、動かない細い何かがいた。


それはまるで海面に浮く木の棒であった。


だが、それはすぐに正体を現す。


水音を立て、現れた体躯は俺の2倍ほど。


予想よりかなり小さいが、赤いクラーケンだ。


「オオ! ヤツダ!」


マズンの叫びに答えるように、海面から出た巨体の目が

ぎょろりとこちらを見、どこからか咆哮が響く。


見た目はタコの頭にイカの下半身が近いだろうか。


ノービスクラーケンより小さいが、

そのレベルは恐らくかなり上。


短期決戦でなければ厄介な相手だろう。


「まだだ! まだ水中過ぎる!」


海面と相手の体の影からまだ雑魚が飛んでくる。


MDでこんな取り巻きを使う相手に覚えは無い。


大体はクラーケン種は単独なのだ。


姉妹とマーマンとで雑魚を迎撃する中、

町の人たちは初めて見るだろうクラーケンに硬直しているのがわかる。


無理も無い。


俺もMDである程度リアルな感触になれているとはいえ、

遠慮したい見た目なのは間違いないのだ。


見たことのあるパーツでも、その大きさが違うだけで

味わう恐怖感が段違いである。


と、その隙を縫うように1本の足、触手が鋭く迫る。


「くっ、重い!」


決して油断していたわけではないが、その一撃は

パラライザーを握る右手を一瞬しびれさせるほど重かった。


さすが全身筋肉というところか。


そんな俺の姿に満足したのか、クラーケンがゆっくりと近づいてくる。


その間にも雑魚は飛んでくる上、他の触手たちも襲い掛かってきていた。


世の中では触手やこういう手足の相手には

女性が捕らわれ、何気にエロイ事になるというのがお約束だ。


だが考えてみても欲しい。


相手はモンスター、その攻撃は死、そのものなのだ。


「グッ!」


「ちっ、下がれ!」


クラーケンの手に捕らわれ、マーマンの右腕が嫌な音を立てる。


幸いにもパラライザーの一撃が

そのクラーケンの手を切り裂くことに成功し、マーマンを脱出させる。


切られてもなお、跳ね回るクラーケンの手。


さらには……。


「また伸びた!?」


キャニーの叫びのとおり、人の腕ほど切り裂いたはずの

クラーケンの手が目の前で再生する。


ぼこぼことあわ立ち、気が付けば元の姿だ。


(思ったより動かないな……)


クラーケンはその射程を武器に、水面ぎりぎりからほとんど動いてこない。


ごり押しするしかないか、と思ったとき、


背後から予想外の光が洞窟を切り裂いた。


『ギイイイ!?』


まるでレーザーのように光ったその一撃の

方向を振り返ると、そこにあるのはシーキングの像。


上に向いていた右手がまっすぐクラーケンを向いている。


慌ててクラーケンに視線を戻せば、右目に刺さる小さな何か。


怒ったのか、でたらめに振り回される手。


あの像の攻撃に何か特殊な効果でもあったのか、

その動きに鋭さは無い。


「チャンス!」


ステータスの恩恵を最大限発揮し、

俺は一気にクラーケンとの間合いを詰め、

そのほぼ真横の位置でスキルを発動させる。


「パニッシャー・ウォール!」


ゲーム時代もよく使った相手の強制移動。


的確に当てればこのタイプのスキルはドラゴンすら動かすのだ。


水面からぎりぎり出て、いつでも逃げ出せるようにしていたであろう

クラーケンの巨体を一気に何メートルも洞窟内へと押し出すことに成功する。


「イマダ!」


マズンの叫びに従うように洞窟内の気温が急激に低下していく。


魔法の氷による無慈悲な力がクラーケンに叩き込まれたのだ。


「もういっちょ!」


キャニーとミリーもそれにあわせ、都合3つの氷の力が襲い掛かる。


きしむ音すら立て、クラーケンがその動きを止める。


だがそれそのものは致命打になった様子は無い。


ダメージはあるだろうがまだなのだ。


「オオオ!」


そんなクラーケンに、次々と投擲される槍、槍。


手に、胴体に、頭にと槍が突き刺さり、クラーケンが串刺しになっていく。


俺もそれに追いつき、スキルの一撃を与えようというところで異変が起こる。


「そんなっ!?」


俺たちの目の前で、クラーケンのむき出しになった体が黒く染まり、

膨張しだしたかと思うと異形の姿を現しだす。


魚とも爬虫類とも区別のつかない鱗のような肌、

動物に見える不気味な顔たち。


吸盤だけだった手に生える牙のような刃。


あっという間にそのプレッシャーを、

フィールドで遭遇するレアモンスターレベル程度から

ボスクラスにまで跳ね上げていく元クラーケン。


自分が時間を稼いで皆を逃がすしかないかと思ったとき、

人の走る音が耳に届く。



「みんなからはなれろおお!」


若い叫びと、青い光。


その正体がわかったとき、それはクラーケンの眉間に半ばまで

深々と突き刺さり、見事な一撃必殺となっていた。


暗闇を切り裂くように、洞窟の光を反射する青い刃。


それは武器というより、青い包丁であった。


見覚えのあるその包丁は蒼紋刀そのもの。


かつて友人に作り、多くの魚介類やその類のモンスターを

食材と化した一振り。


その力は失われていなかったのか、先ほどまで

暴力的な気配をまとっていたクラーケンは動きを止め、

静かに崩れ去っていく。


後に残るのは赤い宝玉と、どうみても食材な

イカっぽい白い物体と、タコの足のような何かだった。


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