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114「南国の妖精-2」



「うわ~っ!」


「これが海……どこまでも続いてそう」


吹き抜ける風に髪を押さえたままで、

姉妹が感嘆の声を大きく上げる。


3人が乗せてもらっている船は、地球で言えば

エンジンを載せて海釣りに行きそうな20メートルぐらいのものだ。


だがこの世界にはエンジンなどなく、結構な大きさの帆があり、

器用に風を受けて膨らんでいる。


時には魔法により風を生み出すこともするのだとか。


「おーい! 少し遅くするからな。がくんっとくるぞ」


「わかった。何かにつかまってるよ」


運転席というか、目立つ場所にいる船の主である親父からの声に、

そばの手すりのようなものにつかまっていると、

ぐぐっと速度が下がるのがわかる。


帆が生き物のように向きを変え、また安定する。


「よしっと。今日の感じならこのままで大丈夫だな」


「この辺りは荒れるのか?」


言葉の中にあった、今日は運がいいというようなニュアンスに、

俺は言葉を選びながら聞いてみた。


半ば答えがわかっていても、聞かざるを得ない。


「まあ、な。神さんが出てこなきゃ、ってとこだなあ。

 ああは言ったけどよ、今日はたぶん出るだろうな」


親父の視線の先には、珍しいのだろう、海を騒ぎながら眺めている姉妹。


その服装はゼゼーニンが持たせてくれた物資の中になぜかあった、

冒険するには不釣合いで、それでいて派手過ぎない様子の服。


添えられていた手紙によれば、今ジェレミアの王都で

街のお嬢さん達に流行のいわゆるデート服らしい。


フリルが風にはためき、出しすぎず、隠しすぎるでもない肌の露出。


色合いも派手ではないが、いい材料を使っているのか

発色の鮮やかなものだった。


俺はファッションに詳しくないのでよくわからないが、

上はタートルネックのセーターのように、

首元を覆う物で、ジャケットのようなものを羽織っており、体型が良くわかる。


下はスカート……なのだが、ある意味いい仕事をしている。


船の上で強風だというのに、めくれ上がらない。


そういう仕組みなのか、魔法でも使っているのか。


ぎりぎりのところで中が見えないのである。


まあ、何も対策がないようだったら船の上で過ごすことが

難しかっただろうから良いと言えば言いのだが……。


ともあれ、自身も着替えた俺と並べば、

あら、今日はお楽しみなのね、どこに行くの?

と聞かれるような状態ということである。


何故、服が傷むような海上でわざわざこんな格好をしているかといえば、

この先で遭遇するだろうある相手が問題なのであった。


それは……。







──海に出る前


「愛を誓うってどういうこと? あれ、ここ教会なの?」


「お姉ちゃん、少しつっこみどころが違うよ?」


混乱からか、どこかずれたツッコミをするキャニーの声に、

少しずつ俺に思考が戻ってくる。


「となると、シーディアとウィンドスの話は本当なのか?」


「お、なんだ。やっぱり知ってるじゃないか。2人をだましたままで

 海に連れ出そうなんざ、兄ちゃんもワルだな」


豪快に笑う男性がバンバンと俺の背中を叩き、

俺は予想外の強さにたたらを踏むのだった。


「詳しくは知らないさ。ただ、実際に結婚、もしくは

 婚約にまで至っていない男女が同じところにいると、

 どこからかやってきて答え次第で嵐になるとは聞いたことがある」


そう、シーディアとウィンドスの夫婦……のような神様の話は

MDにもあるのだ。


例のポーションをゲットできる島等に行く際、別の

クエストを受けていると確率で発生するイベントで、

クエストを受けていなければ発生しないし、

必ずというわけでもないので解決させずに

すませてしまうプレイヤーも結構いたはずだ。


流れは簡単で、同じ船に恋人同士ではない男女が乗っていると、

どこからかでかいその2人の神様がやってきて、

男女の関係を聞いてくるのだ。


他人だ、とか答えてしまうと失敗で、突如嵐が発生し、

船ごと沈んでまた今度、という感じで街に戻される。


恋人同士です、とかそういった発言をしたらいいのか?となるわけだが、

ゲーム上、結婚やその類のシステム、もっと言えばプレイヤー同士では

手を繋いだりなどは出来ても、未成年に行うと問題になりそうな

各種行動は出来なかったので、大体は神様達はうそつきがっと怒ってしまう。


事実上、遭遇すると嵐によって街に戻されるイベントということだ。


一応、本来の回避方法はクエスト中に登場する

元夫婦が仲直りし、海上でその証を立てることで通過できる、という方法だが

噂によればそれ以外にも通過方法があったというが俺は知らない。


「ま、そんなだからよ。兄ちゃんとお嬢ちゃん達をみて、

 そうだろうなと思ったんだが、違うのか?」


違う、というのは簡単だがそうは出来なかった。


キャニーとミリーがこちらを見ていたというのもあるし、

俺もいい大人だというのがある。


そう、これまで一緒に冒険をして、こんなところにまで

文句を言わずに一緒にいる2人。


出会いは少々物騒だったが、この世界じゃそんなものだろう。


だから……。


「明日、神様の前で証明できるだろうさ」


「ファクト……」


「ん~、そこははっきり言って欲しかったな。じらしすぎ60点!」


ミリーの容赦ないつっこみが聞こえるが、

こっちも10代の若者ではないのであるからして勘弁して欲しい。


その後、早めに店を閉めたらしい女性がまだ外にいたままの

俺たちに声をかけ、宿である建物に案内してくれたのだった。


その夜、荷物の中に着替えとして服も入れたという

ゼゼーニンの言葉を思い出し、改めて中身を確認したところ、

冒険には不釣合いな衣装も出てきたということだ。





「あっ、何かはねた!」


「お魚さんがいっぱいだね~」


船から身を乗り出して、海面と、水中とを

飽きずにみているキャニーとミリー。


俺も、地球では味わったことの無い景色と風、

そして匂いを全身で味わっていた。


高すぎる天井に距離の感覚がわからなくなるような、そんな錯覚。


広い、広い海。


吹く風も今までのどれとも違う。


古来、人は自然の中に神様、超常の存在を感じていた。


人々の足元に、視線の先に、遥か頭上に。


そして、手の中に。


この世界でそれは、本当のことだ。


草原に立った時、山に登ったとき、

洞窟に潜ったとき、そして空を飛んだとき。


精霊はどこにでもいて、きっと誰のためでもなく、

世界のために巡っていることを俺は感じていた。


今日、この時も誰かの手の中で精霊は踊っている。


どこかまだおぼろげだった、世界への感覚がまた

引き締まっていくというか、鮮明になっている気がした。


と、気配がする。


正しくは、気配と呼ぶにも微妙な、

精霊の濃さというか、とにかく空気の何かが変わったのだ。


「おい、兄ちゃん。どうにも来そうだぜ」


「ああ、わかってる」


長年の漁師としてのカンなのか、親父は帆を操作しながら、

固い口調で警告してきた。


俺も短く答え、万一の戦闘に備え、気を引き締める。


もしかしたら、神と呼ばれる相手に一手仕掛ける必要があるかもしれないからな……。


数分もしないうちに、急に風がやみ、船の速度がみるみる落ちる。


周囲に島が見えるが、泳いでいくには遠い、そんな場所。


2人も状況に感じるものがあったのか、船の中央にいる俺の元へと近寄ってくる。


「何か、いるわね」


「うん、なんだろうなあ……嫌な感じはしないんだけど」


まゆをひそめるキャニーと、まだ戦闘モードになっていないミリー。


2人が何を言うでもなく、俺の左右にそれぞれ立っている。


その意味を、わからないほど俺は馬鹿なつもりも無かった。


そして、4人の視線の先で海が突如渦を巻き、

空中にそうとわかる濃さで魔力が渦巻く。


その正体を探る前に、10メートルはあろうかという人影が、

1つは海から、1つは空中に現れた。


「ようこそ人間よ。問おう、汝らは愛を誓いし者か?」


「やっぴー! 今日も愛し合ってるぅ?」


沈黙が、降りた。


それはもう、盛大に。


いや、盛大という言い方もおかしいな。


言い直そう。


その場は混乱に満ちた静寂に制圧された、と。


ちなみに先の発言が空からの相手、後者が海からの相手、である。


「えっと……その?」


「おい、なんだその挨拶は」


「アンタこそ何よ。今度は愛想良くやろうっていったじゃない」


呆然とした俺の呟きが聞こえていないのか、

2人の神様らしい相手はにらみ合った。


「なんだって? それは前々回だろう。今度は真面目に威厳のあるような

 硬い感じでいこうって決めただろう」


「はぁ? 何年前の話よ」


微妙にヒートアップしていきそうな気配を感じた俺は、

巻き込まれてもしょうがないと考え、とにかく話をきることにした。


戦闘するわけではないが、できるだけ魔力を膨らませ、

こちらの存在を感じてもらえるようにした状態で口を開く。


「なあ、シーディアとウィンドス……でいいんだよな?」


「はっ! ああ、そうだ。人間よ。我がウィンドスだ」


「はぅっ! ええ、そうよ。私がシーディア」


感じる力からは前の2人が神様と呼ばれるに相応しい相手だということはわかる。


まあ、その威厳はどうかというのは置いておいてだ。


精霊とも魔物とも違う、設定上いる各所の神様。


一説によれば精霊が世界に還らずに何かの形をとったものとも言われているが、

ゲーム上の設定が若干知られているだけで詳細は不明だ。


「じゃあその、通ってもいいか?」


俺がゆっくりとそういうと、2人とも頷きかけたが慌てて首を横に振った。


「それは駄目だな」


「ええ、駄目ですね」


ここは息ぴったりに、こちらの要望を却下する2人。


シーディアはゆったりとした、布を巻いただけのような

ローブ然とした服装に、水が滴っているのか、

魔力でそう見えているのかわからない何かのゆらめきを身にまとっている。


対するウィンドスは空に浮いたまま、こちらは人間の服装に近い、

狩人を思わせる物で背中には弓を背負っていた。


「ここを通るからには、証を示してもらわねば困る」


「ええ。古来より島の数を数える間に気持ちを決め、

 愛を告白する……そういう決まりの場所なのよ」


風はやんだまま、逃げれそうにも無い。


2人の存在感がそのプレッシャーを増し、いやおうでも視線を向けてしまう。


「そう、それが平民でも王でも関係ない。ましてやこの時代の人間でないとしてもな」


「ええ。例えこの世界の人間の誰よりも年上でもね。さ、見せて頂戴」


愛の証を、と2人は言外に言ってきた。


言ったわけでもないのに、自分のことを言い当ててきた相手の言葉に

衝撃を受けている間に、きゅっと左右の手がそれぞれ握られる。


思わず左右を見ると、キャニーとミリー2人ともが落ち着いた顔をしていた。


「ほら、後はファクトくんだけだよ。あ、先なのはお姉ちゃんね!」


「こういう時にってのはちょっと気になるけど。ほら!」


いざというときに女性のほうが肝が据わるとは誰がいったものだったか?


俺は背中を押されてから動き出した自分に自分勝手に怒りつつも、

覚悟を決めて動き出す。


握られていた手をゆっくりと上げればそっとキャニーがその手を離す。


そのままキャニーの背中に手を回し、抱き寄せる。


近くなり、俺からは見下ろし、キャニーからは見上げる形となった状態で

俺は口を開く。


「こんな俺だが、ついてきて欲しい。朝も夜も、インフェアルの果てまでも」


インフェアルの果て、それはこの世界独特の言葉だ。


いわゆる死ぬまで、あるいは死んでからもということで

精霊にまた戻ってもそばで過ごしたい、ということだ。


プロポーズとしてはありきたりで、それでいてストレートな言葉、らしい。


「勿論。今更よ」


照れているのか、短くキャニーはそう答え、ぐいっと体を伸ばしてくる。


俺はすぐそばのミリーの視線を感じながらも、

キャニーへと顔を近づけ、その唇と触れ合う。


「んっ……」


少々無理な姿勢だからだろうか?


目の前の口と鼻から漏れる息もこそばゆい。


10秒にも満たないキスは肌が触れ合った以外に、

何かを互いに交換したような気さえした。


そして離れた唇に当たる空気はなぜか妙に冷たく、

触れ合っていた相手の暖かさを再確認することになった。


「終わった? じゃあこっち!」


「おっと。えーっと、朝も夜もイン、むぐっ!?」


せかすようなミリーの声に、もう一度ミリーのために

誓いの言葉を言おうとしたところでぐいっと

頭の後ろに手が回され、気が付いたら抱き寄せられていた。


そのまま俺と触れ合うミリーの唇。


再びの何かを交換したような感覚の中、俺は右腕にも熱を感じていた。


「ふはっ……えへへー、2回目だけどやっぱり意識があるときがいいね!」


「2回目? いや、どういうことだ?」


満足そうなミリーの発言に、慌てて俺はつっこむが、

神様2人が許してくれなかった。


大きすぎるプレッシャーと共に、なぜか拍手が周囲を満たしたからだ。


「素晴らしい! 魔力の交換まで果たすとは。よほどの絆である」


「大事にね。悲しませたら、井戸の中からも出てきちゃうわよ?」


妙に感動しているウィンドスと、どうやら海というより

水系の神様だったらしいシーディアの祝福と共に、

俺は関門の1つを突破できたことを感じた。





「あれ? お姉ちゃん? ほら、しっかりしてよ」


「うふふ……ぎゅって、ちゅーってしてくれた……」


ちなみに……キャニーは、少しの間戻ってこなかった。


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