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113「南国の妖精-1」



(……軽トラ何台分かはありそうだったな)


何度も俺の手を握り、頭を下げてくる商人らしき相手に

あいまいな笑みを返しながら俺はそう考えていた。


どこかのんびりとした俺の思考とは裏腹に、

部屋は喜びに満ちていた。


キリングドールを撃退……とは言いがたいあの夜。


空中から出てきた物は武具であり、

芸術作品っぽいものであったり、書物だったり、

銀貨であったり、宝石であったり様々だった。


その量や中身から想像がついたが、やはりこの街のものだけではなかったようで、

後日持ち主に連絡が行くとのことだった。


だがその中には当然といえば当然で、持ち主のはっきりしない物品もあった。


お金や宝石等に名前が書いてあるわけも無く、

それらは宙に浮くこととなった。


それ以外にも、由来のはっきりしない彫刻等、

誰のものかはっきりしない物もいくつかあった。


もしかしたらキリングドールが盗む以外で

集めていたものかもしれない、そんなお宝たち。


それらは夜のうちに、教会のクリスを通じて

ほとんどを国とギルドに受け渡すことになった。


館の主である商人、ゼゼーニンがこう言い出したのだ。


別に自分の力でこのぐらいは稼いで見せるのだ、と。


元々、こういった場合には裁量は発見者というか、

関係者が決めて文句の出ないものであるようで、

特に目立った反対意見もなく、お宝のほとんどは運ばれていった。


俺はいち早く、自分のものにするつもりは無いことを表明していたので、

それらの運び出しはスムーズに行ったようだった。


いくらかは持って行っていいとは言われたものの、

俺はどうにもお金が必要となれば元々MD時代に稼いでいた現金、

銀貨を適度に実体化させてしかるべきところに持ち込むだけでいいので、

余り執着はしなかった。


いくつか怪しい気配のするものの、持ち主のはっきりしない、

曰くのありそうなものはなんとかしてくれないかというような

空気に負け、引き取るようにして預かったがそれぐらいだ。


騒々しい夜の明けた翌日、怪盗を追い返したという表向きの理由で、

急遽開催された宴は、ゼゼーニン以外の、

怪盗に物を盗られていた面々を集めてのものだった。


費用は国とギルドに渡した残りからだという。


急な発案だったため、今回集まれたのはほとんどが

ガイストールの人間だけだったが、後日町々から

怪盗に物を盗られた人間が集まってくるだろうことは間違いない。


俺は頭を下げてくるその持ち主達に応対をしつつ、

そのうちに俺自身がいなくても宴が動いているのを見、

その場から静かに外に出る。


まだ日も高い中、聞こえてくる喧騒に俺は怪盗が盗っていたと言う

中身を思い出して、宴も開かれるか、と一人納得する。


詳しい価値はわからないが、クエストの対象になりそうな

芸実的な彫刻だとかがあった記憶がある。


俺は商人宅の中庭を眺めながら、右手で高級そうな酒の入ったグラスに口をつける。


作るための技術と手間を考えれば安くないだろうそういった酒が、

かなり気前良く出されていたところを見ると、盗られていた物たちは

やはり俺が思っている以上の価値があるものだったと改めて思った。


それだけに、警備もそれぞれ厳重だったに違いないが、

あっさりと奪われてしまっていたわけだ。


それだけあの怪盗、キリングドールが厄介だったということだが……。


グラスを傾けながら左手で日に当てるのはあの夜、

キリングドールの後から来たほうが残したカード。


「南……か」


と、背後に2つの気配が近寄ってくる。


慣れ親しんだそれは姉妹の物。


「ファクト、大体聞いてきたわよ」


「残念だけど、ここにいる人で海を渡ったって人はいなかったよ」


声に振り返ると、俺は声には出さなかったが内心驚いていた。


いつの間にか、普段の冒険者然とした格好から、恐らくは商人から譲ってもらった衣服へと

着替えている2人は、化粧をし、アクセサリーも身につけ、飾り立てられていた。


下品ではない程度に抑えられた露出箇所から見える肌は、

白く、鍛えられた体とあいまって独特の魅力を生み出している。


これまでにも似たような服装になっているキャニーを見たことはあるし、

俺自身、別に経験がないというわけではない。


だが、宴で商人たちの相手をしている間に、確かに2人の顔は見なかったが、

こんなことになっているとは……。


「お気に召しましたかな」


近くでそれを見ていたのか、笑みを浮かべてゼゼーニンが近づいてくる。


「安くないだろう、いいのか?」


俺の問いかけにも商人らしい笑みを崩さない、

元気一杯といった様子の男、ゼゼーニンはまるで王族にするかのように

仰々しく俺に頭を下げる。


「今回の自分の儲けを考えれば安いものですよ。

 貴方の噂を聞いたときはまさかと思いましたが、

 なかなかどうして、世の中噂が本当のこともあるものですな」


その言葉には商人ならば噂が噂でとどまらないよう、

様々に下調べをするものだという考えも含まれているように思えた。


「では今後も噂に恥じないようにしないとな。

 ところでだが、南、港町に知り合いはいないか?」


「南、ですか。それではやはり、行かれるのですか?」


残されたカードに記された文言はゼゼーニンにも伝えている。


そのため、すぐにキリングドールが戻ってくることはないだろうが、

俺が南に行かなければその限りではないことも伝わっただろう。


ゼゼーニンの問いかけもあくまでも確認、といった様子だ。


「ああ……呼ばれた以上はな。後は……恐らくだが、西方諸国に

 少なからず入り込むだろうからな。楽しみというのもある」


「なるほど。それではお礼がてらといってはなんですが、

 半日ほどお待ちいただけますかな? 旅の支度を支援させてください」


ちらりとキャニーたちに向けた俺の視線に、 

ゼゼーニンはしばし考え込んだ後、商人らしい笑みを浮かべて頷いた。


「ファクト、何か西方諸国にあるの?」


「何かたくらんでる感じがするよ……」


「後のお楽しみって奴さ」










数日後、俺達は空の上だった。


正しくは数日後も、だろうか。


あの後、ゼゼーニンから旅に必要な食料などを

受取った俺達は、街から出たところでグリフォンを呼び出した。


普通に馬車では何日かかるかも良くわからない行程だが、

入手した地図と、メニュー画面からのマップとで

方向を確認しながら、まっすぐに飛ぶ。


高さは200メートルといったところだろうか?


余り高く上がりすぎると長くは飛べないことを、

ジャルダンとの会話というか、なんとなくのリンクで感じた俺は、

山はその谷間を通るようにすることでほぼノンストップで南に向かうことに成功していた。


平原、山、川、と越えていく先で

ふと、空気が変わるのを感じた。


低空ゆえにはっきりとしないが地平線が光り、

遠くに小さく街だろう何かが見えてくる。


「そろそろか……」


鼻に感じる独特のにおいに、俺は地球にいた頃の

夏を思い出しながら、一緒に飛ぶキャニーたちに1度下に降りるように合図する。







「悪いな、いつも飛んでばかりで」


俺はジャルダンの首元を撫でながらそうねぎらうと、

小さく一鳴き、ジャルダンから気にするなという感覚が伝わってくる。


続けて伝わってくる感覚からは、住処以外を自由に飛ぶ楽しさに

興奮していることがわかった。


また呼んでくれ、といわんばかりの元気な姿を見せながら、

ジャルダンたちは送還用の魔法陣に体をくぐらせていった。


「さて、ここからは歩きだな」


姉妹に振り返りながら声をかけると、2人そろって微妙な表情をしていた。


「ねえ、何か変なにおいがしない?」


「ほんとだ。なんだろうこれ……」


不思議そうに姉妹は互いに鼻をひくひくとさせている。


ここからでも感じる独特のにおいを気にしているようだった。


「これが海の、潮の匂いさ。すぐに濃くなる」


見ればあたりの植物も、ガイストールや内陸とは大きく違ってきている。


俺は、公害と言った物が無いためか、さわやかさすら感じそうな

潮の香りに気持ちを高めながら、歩く。


飛んでいることに慣れたのか、少しふわふわとした足取りが

徐々に元の感覚を取り戻していくことを感じながら、数時間。


ついに目的地である町並みが見えてくる。


「あれがそうか」


「そうみたいね。ポルトスっていうんだっけ?」


「海のお魚が美味しいって言うよね。海のお魚ってどんなのかな?」


3人はそのまま、特に2人は初めて見るらしい

海というもの、その世界に期待が膨らんでいるようだった。


俺はそんな2人を見ながら、自身も久しぶりとなるだろう海に心が惹かれていた。







「なんというか、結構騒々しいのね」


「ああ、俺も驚いた」


「ふわー……」


ポルトスの町は、一言で言えば見事な港町だった。


漁業が盛んなのは間違いがないようで、

町の建物のあちこちに、漁に使うであろう漁具らしきものや、

干物が干されている。


時折通る馬車や、それらが止まる場所で人が集まっているかと思えば

そこでは漁から帰ってきたであろう漁師が

新鮮さのわかる魚を大きな声で売っているのが見えた。


行き交う人々にはいくつかパターンがあり、

恐らくは普段漁に出ている人かその関係者、普通に町に住む人、

冒険者や交易であろう商人らしき人間も見える。


「さて、ここは既にジェレミアじゃない。西方諸国の中だ。

 2人とも、気をつけるようにな」


俺は人通りの少なくなった表通りから外れた場所で、

周囲をうかがいながらそっと、そういった。


「え? 何かそういうの通ったっけ?」


「たぶん、空からだから通過してないんだと思うよ」


思い出すように悩むキャニーに、ミリーがずばりと正解を言う。


そう、グリフォンで空を飛ぶことで

俺は街道沿いのいわゆる関所のようなものをスルーしたのだ。


ただ、仮にそこを通らなかったからといって罰則は無い。


小国同士が互いを狙っている時代、といえば

ぎすぎすしていそうではあるが、実際にはそう簡単には他国を攻める、

というわけには行かないのが現実だ。


圧倒的な力量差があるならばともかく、相手を自分の中に

飲み込むとなれば、はいそうですか、とはいかないのが戦争であり、

国対国というものだ。


ましてや、一度は帝国として統一されてしまった国々のため、

末端に行けば行くほど、国の違いというものがあいまいになっていくのだった。


そのためか、関所は商人等が行き来の合図というか、

証明や休憩等を行う場所であり、厳しく入国を制限される場所ではなかった。


もっとも、冒険者は少し前までその限りではなく、

やはり根無し草としてそう簡単には行き来できなかったようだが……。


幸いにも先日のジェレミアの宣言は西方諸国にもある程度は

伝わっているようだったが、効力まで発揮してるとは思わないほうがいいだろう。


余分なところで時間を使いたくなかったのもあり、

大幅なショートカットの上でここにいるわけだ。







「海を渡りたい? なんだい、あんたらもプリンシアに行きたいのかい?」


とある目的を持って、俺が適当ににぎわっている露店の1つで

果物を買いながら海を渡ることのできる船について聞くと、

店番の女性はそう言って肩をすくめた。


「ん? ということは今、プリンシアは人でいっぱいなのか?」


俺はゲーム時代と名前の変わっていない様子の島に安堵しながらも、

女性の語る内容に不安も抱いていた。


あんたらも、ということはそういわれるだけの人数が

プリンシアを目指しているということになる。


だが……。


「逆さ、逆。今プリンシアに行っても、泉は無いよ。

 だからほとんど他の島に行ってるってわけさ。泉が無けりゃ、

 プリンシアじゃなくてもいいからね」


「なんだって!?」


プリンシアに泉が無い、というのは本命の用件ではないが、

無視できない内容だ。


プリンシアにある泉は、いつだったかオブリーンのマイン王に

使ったあの特別なポーション入手のための舞台なのだ。


もっとも、実際に入手するために訪れる泉は、

表向きに見える泉とは同じようで別のものなので、

入手しやすいというわけではないのだが……。


表の泉が枯れている、となればポーションの入手が出来ないということだ。


出来れば本命の目的と一緒に入手したかったところなのだが、仕方が無い。


「こっちとしてもあの綺麗な泉が枯れちゃってるのは残念なんだけどねえ。

 原因がわからないんじゃどうしようもないんだよ。

 あ、でも浜辺は綺麗なままだよ」


「そうか。それならいいんだ。で、船はありそうか?」


余り深くつっこんでも話がずれていくと感じた俺は、

話題を元に戻すと、女性は露店の脇で木箱に座っていた男性に顔を向ける。


「父ちゃん、いつ出せる?」


「ん? 行くだけなら明日にでも出せるさ」


そして俺のほうに向けられた女性の顔は、満面の笑みだった。


俺は笑みの中に含まれた女性の要求を感じ取り、

頷きながら事前に聞いていた相場より

少し多めに料金として銀貨を手渡した。


「まいど! 何なら泊っていけばいいよ。うちは宿もやってるんだ」


そういって指差すのは、女性が露店を開いていた向かいにある白塗りの家。


抜け目ないとはこのことだろうか?







「ねえファクトくん。お魚食べれるかな?」


「ちょっとミリー、そういう問題じゃないでしょ。

 ファクト、プリンシアだっけ? その島に何かあるの?」


荷物を置きに、建物に向けて歩き出した俺たちだったが、

そういって脇をつついてくるミリーと、そんな彼女の言葉につっこむキャニー。


「それはついてのお楽しみさ。とりあえずは例の人形に会いに行くのが

 第一の目標なんだが、それ以外にもな」


含みを持たせた俺の言葉に納得が言っていない様子の

キャニーだったが、なおも俺が何かを言おうとするより早く、

一緒に建物に向かっていた、船を出してくれるらしい男性が口を開いた。


「そういや、どっちと愛を誓うんだ? なんだ、2人まとめてか?」


「「はい???」」


そういえばそんな設定もあったな、と

俺はぼんやりと思い出している中、道の真ん中で時間が止まるのを感じた。


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