閑話「ある日のMD。ワニワニパニック(六か月目あたり)」
時間軸はバラバラです。
ゲームであるマテリアルドライブ(MD)としての描写なので、
本編中とは描写、設定に差異があります。
読まなくても問題ありません。
ファクトはこんな奴だ、スキルはこんな感じなんだ、という参考やお楽しみになれば幸いです。
「なんというかさ……器用だよな」
「ん? 何がだ? っと、次は斧か。武器生成B!」
横合いからかけられるスレインの声に答えながら、
視界にポップした相手、大木に顔がついたようなモンスターを生み出した斧で切りつける。
モンスターの名前は、ブラインウッド。
確か目潰しのように葉っぱや小枝を飛ばし、命中率低下のバッドステータスを与えてくるはずだ。
その上、アイテムが消滅するわけではないが、
一時的にそのツタのような手足で武器を絡めとり、
こちらの攻撃手段を減らしてくるいやらしい相手だ。
今も俺の攻撃に怒ったのか、すばやくツタを伸ばし俺の斧を奪い取る。
間合いを取った俺だが、無手になってしまう。
その隙にと襲い掛かる小枝から盾をかざすことで顔を守りながらも俺は構えをとかない。
元より俺はそのまままともに戦うつもりは無い。
「おっと。じゃあ次っと!」
叫んでスキルを実行、新しく虚空から斧を生み出し、今度は投げつける。
小気味良い音をたて、投げつけた斧は相手の中央付近に深々と突き刺さった。
本来の相手より若干弱いとされているこのフィールドで出現した相手は、
その一撃が致命傷となったのか、その体を硬直させ、崩れていく。
「お疲れ! 回収回収っと」
スレインがドロップをかき集め、整頓してくれるのがわかる。
2人がいるのはとある山中のフィールド。
特別クエストがあるわけでもなく、大きな街やダンジョンがあるわけでもない。
だが、ちょっとした特徴からある意味人気である。
世界各所に存在するこのフィールドは、
・パーティーの平均レベルまでのモンスター
・これまでにパーティーメンバーが討伐に参加し、成功したボスモンスター
以上2枠がランダムで出現するという性質を備えている。
つまり、最初に遭遇する本当の雑魚から、つい先日倒したボスまで、
と幅広いのである。
勿論、狙った相手が出るとは限らない。
その上、対処法もバラバラということになるので
効率よく狩るというのは難しい。
ダメージの通りやすい武器も違えば、魔法の相性も違う。
だが、無ければ作ってしまえば良いのだ。
「いやさ、相手に合わせてよくもまあ、変えれるなあと」
「そういうことか。まあ、鍛冶で作成するにはその武具を使えないといけないからな」
今度出てきたのは、序盤に出てくる強さのゴブリンだったので2人で瞬殺しながら会話を続ける。
MDにおける武具生成は、その武具種類を最低限使えないと作ることができない。
もう少し言えば、斧を作るには斧を扱うためのスキルをあげないといけないし、
初級の攻撃スキルを取得しないとバリエーションも少ない。
Sランクで作成を行おうと思えば、自身のレベル以外に該当する武具を
とりあえず装備可能、としておかないといけない。
現在、ほぼ全ての武具をSランクまで作成可能な俺は、
実際に駆使して戦えるか?は別としてほぼ全ての武器を使用可能なのである。
勿論、装備の中には特定のスキルが一定以上、つまりは
剣士系の前衛として強くなったプレイヤーでなければ装備できない魔剣であったり、
魔法を極めたタイプで無いと装備できない杖などは数多い。
簡単なところでは重過ぎて必要STRが高いものなどである。
「自分もいくつかの武器とスキルは必要に応じて使い分けるけど、ファクトほどじゃないなあ」
スレインは自らの手に持った蒼紋刀を構えなおしながら横に並ぶ。
「……これはまだ外に出してないんだが、どうも作成に補正があるっぽくてな。
武器生成B!、ホーミングアロー!!」
虚空にぬいぐるみほどの大きさの影が複数ポップしたのを見るや否や、
今度は弓を生み出し、上空へ向けて名称どおり誘導性能を持つ弓系統のスキルを放つ。
ピンク色の光の帯を伴い、いくつかの矢が様々な軌道を描いて敵、
フレイミングインプを射抜く。
「補正? お、魔眼の破片だ」
「調子いいな。よし、ちょっと戻るか」
レア扱いのアイテムがドロップしたことに満足した俺は、休憩を提案する。
「それで、補正って?」
俺のキャンプ内でドロップを広げていたとき、
スレインが聞いてくる。
「ああ……ほら、俺が好きな武器って長剣だろ? いつも長剣だけどうも
品質やら成功率が少し高い気がしてさ。ちょっと色々試してたんだよ」
腰に下げたままのお気に入りの長剣、パラライザーを鞘ごと撫でる。
「あー……一時期初心者セールとかいって何か大量に売ってたのはその結果?」
スレインは納得がいったのか、すっきりした顔でポンっと手をたたく。
そう、今言った事を試すために俺は100個単位で様々な武具を作り、
相場よりいくらか低め、かつ交渉ありで大々的に安売りしたのだ。
欲しいのは作成に伴う情報であったので、
顧客を掴むこともできて一石二鳥であった。
「そういうことだな。大体の鍛冶系統のプレイヤーはハンマーだとか、
STRの影響があまり無い武器を選ぶからな。わかりにくいと思うんだが」
「確かになぁ。大体は重量のある武器を振り回してる印象がある」
話しながら俺に必要な素材、スレインに必要な素材、とえり分けていく。
「影響があるっていっても、100回作って1,2回効いて来るか、ぐらいだけどな。
もっと突き詰めて条件を見ていけばよさそうな手ごたえがある」
「なるほどなあ……よし、行きますか」
整理が終わったところで、油断していたのか俺達は無造作にキャンプを解除した。
瞬間、咆哮。
同時に辺りを水しぶきが覆う。
「なんだぁ!?」
「なんてこった。全然違うフィールドの奴も出るのか」
慌てるスレインに対し、迷わずアイテムボックスから水耐性のある指輪を取り出して装備する俺。
まだ距離はあるが、視界に見えるのは巨大なワニ。
グランドイーター。
今回は取り巻きはいないようだが、とある沼地で
小さな子ワニを取り巻きに襲い掛かってくるボスモンスターだ。
その大きさは10メートルを超えるほど。
ドラゴンなどとは違う意味で食べられたくない相手にランクインする。
その理由は、ドラゴンらと比べて生々しいからである。
四肢欠損といった描写は無いが、視界いっぱいに刃の並んだ口が広がるのである。
サメの類も同じなので、できることなら直撃は食らいたくない。
「倒すだけなら余裕だが、アレは食らいたくないな」
「同感だ。スレイン、とどめは任せた」
正気を取り戻したスレインにそういい残し、
とめる声を背中に感じながら俺はあえて正面から挑む。
スレインがアレ、と表現したもの。
それはサメやワニなど、特定のモンスタータイプにあるスキル。
一撃必殺である、噛み砕き、だ。
これは成功すると残りHPにかかわらず即死扱いである。
相手とのレベル差があればあるほど成功率は変化する。
しかし、ゼロにはならないのでレベル的には余裕の
俺とスレインだが、食らえば即死する可能性があるのだ。
それでも俺は正面から突撃する。
誘うべきは、愚鈍なまでの大口を開けての攻撃。
目的どおり、俺を目標に定めたグランドイーターは一吼えしたかと思うと、
体格には似合わない速度で俺に迫ってくる。
チリチリと背中に走る再現された殺気とでも言うべき電子的な刺激を感じながら、
相手の瞳に写る景色すら見えるかと思うほどの距離になったとき、
俺がそのまま容易に入りそうな大きさの口が正面で開かれる。
「ここだ! 武器生成A!」
時間は減ってもかまわない。
大事なのはこの一撃でも噛み砕かれることのない性能。
伸ばした手の先、相手の大口のちょうど間になる位置に生み出される……両手剣。
ただし、長さはゲームならではの物で、
いわゆるトゥーハンデッドソードよりもさらに長く、太い。
ジェネラルブレード。
名前のとおり、NPCである国々の将軍達が標準的に装備しているものと同じものだ。
特別な性能は無いが、純粋に両手剣としては上級に位置する。
無論、長さや重さとあいまって本来は必要STRが非常に高いものだ。
だが、作り出すぐらいならば自由である。
つっかえ棒のように生み出された両手剣は相手の口に
予定通りに引っかかり、大口をあけたままグランドイーターは口を閉じられないでいる。
「そこだ! ファイヤーボール!」
俺はその隙を逃さず、無防備な体内へ向けて炎魔法を解き放つ。
鍛えようが無い内臓部分というボーナスを付与され、威力を増す俺の魔法。
それは相手の動きを完全に止めることに成功する。
「よっしゃ! いっきまーす! フライ・ハイ!」
背後から陽気なスレインの声が聞こえたかと思うと、
どこからか飛来したスレインがそのままグランドイーターの頭部へと舞い降り、
深々と蒼紋刀が突き刺さった。
フライ・ハイ。
特定の軌道を描いて上空から奇襲をかける攻撃スキルだ。
確か槍が本来の推奨スキルだったはず……。
威力はスキル難易度からすると非常に高いが、誘導や落下先の修正は無く、
体で覚えるというなんとも趣味的スキルだ。
システムの補助で、10メートルは軽々と飛ぶので
そういった意味では取得しているプレイヤーもそこそこいると聞いたことがある。
悲鳴、そして巨体を振るわせるグランドイーター。
地響きすら起こし、倒れた相手はその体を消滅させていく。
後に残るのはドロップアイテムたち。
「いやー、倒せるとわかっててもでかい奴はびびるな」
「この辺りはVRの面目躍如って奴だな」
そう、進化したグラフィック、体感はシステムとしての強さ以上に、
その見た目や音にプレイヤーが耐えられるかという問題も生み出している。
簡単に言えば、虫モンスターが嫌いなプレイヤーは多数いる、といった具合だ。
「もう少し狩っていきますか」
「了解だ」
スレインに提案に俺は頷き、再びポップしてくるランダムな相手との戦闘へと意識を向けていく。