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109-寄り道「変化の種」

短編風味、かなり説明多です。


それは短期的に見れば些細な変化。


何を今更、今までとやってることがほとんど変わらない。


そんな、少しのこと。


けれどもそれはいつしか、世界の標準を変えていく。








「ふーん、コボルト10匹で銀貨1枚ねえ……」


(銀貨の価値を考えれば高いのか? 安いのか?)


俺は定宿となっている部屋の中、

キャニーから渡された今朝の段階の依頼一覧の写しを眺めていた。


とある宣言の後、ガイストール等の街を中心に、

ある変化が世界に広がっていった。


それは、依頼の規格化。


簡単に言えばMDのようなゲームにおける、システム上のクエストのようなものだ。


これまでの依頼といえば、酒場を中心にその街ごとの物だった。


依頼の報酬もまちまちだし、情報が古いことだってある。


相互扶助組織として町々にあった登録所も、自分達が

勝手に言っているだけで真に組織とは言いがたい状態だったのだ。


それでも何もないよりはマシだし、モンスターという脅威は

尽きることは無く、なんだかんだでやれてきた、というのが実態のようだった。


そこに俺はメスを入れた。


詳細は実際にお金を扱う文官の人たちと相談したが、

クエストという名前も出して依頼の受注、達成、その報告と後処理、

といったものを整える流れを提案したのだ。


アドバイザーとして引退した冒険者といった相手を雇い入れ、

時に助言や訓練を施すといったことや、

現れたモンスターの弱点、特徴等を組織として共有するようにもした。


今はまだ、情報の伝達手段やその蓄積方法から、

利用できるのは大きな街を中心とした特定範囲、といったところに収まるだろう。


だが、少なくとも右も左もわからないままに初心者の冒険者が、

それを隠して背伸びした依頼を受けて行方不明に……依頼側も

脅威が取り除けずに被害を受ける、といったことは減ることだろう。


現に、このガイストールだけでも依頼の規格化は進み、

計画的な薬草類の採取、街周辺のモンスターの排除が行われているらしい。


そこには駆け出しの冒険者も多く、中堅以上の冒険者は

時にそれを助け、時に慕われながら上へと引き上げていく。


そんな循環が始まっているようだった。


勿論、ただそうするだけでは今まで利益を独占していたような冒険者からの不満は出る。


元より情報は財産である。


特定のモンスターの弱点や倒し方、

特定の場所での素材の採取具合などは貴重な情報だ。


俺は国の偉いさん方とクエスト周りのことを話すとき、

情報提出の強制はしないように組み込んでおいた。


逆に、知られていない情報を提供し、その利便性や

本当であることが証明された場合、協議の上で

報酬が出るようにしたのだ。


例えば知られていない薬草の群生地の提供なら銀貨何枚、といった具合だ。


特に素材の入手場所は、乱獲等による枯渇も防ぐことが出来るメリットがある。


その情報を知る人間が増えれば、一杯取ってやろうという人間も出てくるだろうが、

それを目撃するであろう冒険者も当然増えるからだ。


冒険者も様々だ。


そういった場所を確認、異常があればすぐ報告するといったことを

日々の仕事にする冒険者だって出てくることになる。


MDでもあった、特定の街への貢献具合、といったものがここにも効いてくる。


ともあれ、俺は例の怪しい魔法陣とポップするモンスター軍団との戦闘後、

ジェレミアの王、ウルフェリアから相談を受けたのだ。


出来ることなら国内や国外の冒険者と連携し、

今回や前のような襲撃に立ち向かいたいと。


かといって、冒険者を軍属にするといったようなことは、

現実的ではないこともわかっている。


何か、ないかとそういうことだった。


俺は前々から思って、暖めていたことをそのとき、提案したのだ。


水面下でオブリーンと連絡を取り、

ほぼ同盟という形での宣言を行うことまで。







「1人じゃそこそこ大金だけど、安全に行くなら何人かで行う依頼、

 大体の冒険者なら組んで戦うことを選ぶわよね」


「それで数人で街を歩く人が増えたんだね~」


俺を現実に戻すように、キャニーとミリーが

依頼を見ながらの感想を口に出す。


「ああ。これまでと違って、安定した収入になるからな」


俺も先ほどまで目を通していた依頼から他の依頼へと視線を向ける。


そこにも内容と、報酬が書かれている。


その報酬は基本的にどこでも同じだ。


これまでは依頼者が出せる金額、依頼の報酬はばらばらだった。


同じような依頼でも、はっきり言えば一般市民と

商人、といった立場が違えば額が違う。


自然と実入りの良い依頼は受領され、そうでない依頼は放置される。


そんな光景も当たり前だった。


だが、採取や討伐等の内、よくある依頼は常時依頼として共通化されたのだ。


コボルト討伐、鉄鉱石採取、といった具合だ。


依頼者がお金を用意すること自体は変わらないが、その負担は変わった。


直接依頼者から支払われるのではなく、

ギルドから支払われるという形にまず支払方法も変わった。


お金に関しては出せる人間、依頼者は多く出す、そうでない者は

最低限のお金を出す、ということになったのだ。


不足と思われる分は国が負担し、ギルドへと補填される。


民間の商人等、余分に出したものはギルド内部に保留され、

国の負担の変わりに不足分に当てられたり、何らかの支援が必要な

クエストといったときに物資の補助をしたりといったことに使われる。


そして、民間の高額出資者は名前が外に出る。


つまりはある意味でのスポンサーだ。


最近コボルトの被害が減ったのはお金出してるAさんのおかげだな!

今度の護衛はあのよくお金を出してるAさんのだろ?


そんな話を狙っているのである。


スムーズにクエストとして依頼が回れば、

モンスターであればその部位が素材として増え、

鉱石採取であれば安定して供給される。


自然と経済も回り、街も安全になり生活は豊かに……。


だいぶ楽観的な都合の良い考え方だが、

そういったことを狙ったのだ。


お金が出せない依頼者が、支援におんぶに抱っこだな、

といったような悪印象を受ける可能性はあるものの、

受ける際にはその依頼が補填を受けたものなのか、

といったことは表に出てこないからそう露骨なことも無いだろう。


WIN-WINなお話ではあるのだが、

これにはとある重要なことがある。


「なあ、ミリーはゴブリンの子供というか、赤ん坊ってみたことあるか?」


「それっぽいのはあるかな。でもほとんどどこかに隠れ住んでるんじゃないかな?」


「それがわかれば大きくなる前に襲撃しちゃえばいいのよねえ……」


なにやらキャニーが物騒なことを言っているが間違ってはいない。


そう、今回俺が提案し、実現されたこれらの話が維持される根本には、

脅威であるモンスターが人の手で絶滅させられないという話がないといけないのだ。


例えば、延々と実力のある冒険者が一地方のゴブリンを

倒し続け、死滅させることができるのか、できないのか。


恐らくは……出来ない。


もしくは一時的に死滅させた後、どこからかやってくるだろう。


亜人、動物種も子供がいることはわかっている。


だが、当然のことながら世の全てがそうであるという証明は出来ない。


あの魔法陣と術を見て俺はこんな予感に襲われるのだ。


今もどこかでモンスターが人知れずポップしているのだろう……と。


「それで、今日もファクトは武具作り?」


「ああ……あの中で、30本ほどな」


キャニーの視線の先には、俺が今日キャンプの空間内で作り上げた武器がある。


オーソドックスな鉄鉱石によるロングソードや短剣たちだ。


冒険者が依頼をこなすことが増えれば、

その修理や買い替えの需要も増える。


元々アイテムボックスに溜め込んであるMD時代の武具は、

下手に外に出すと付与効果などからあらぬ騒動を招く可能性もある。


ゆえに、改めて作っているのだ。


まあ、それでも恐らくはただの露店で手に入る品質を

越えているだろうからわかる人間にはわかるだろうが。


「変なの。別にお金には困ってないのに」


「いいじゃないお姉ちゃん。屋台の雰囲気、好きでしょ?」


わいわいと話し始める2人を見ながら、俺は1つの依頼に意識を向けていた。


──消える怪盗から壷を守って欲しい


とある商人からの依頼だった。



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