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102「人の力-2」


読んでもいいか?とは問わない。


読んではいけないのなら、目の前に積まれ、

中身の記述について聞かれはしないからだ。


思ったより丈夫そうとはいえ、明らかに年月による

染みともいえるかなり茶色く変色した冊子を1冊、手にする。


一つ一つの文字を追っている時間はなさそうなので、

ぱらぱらと、まるで情報雑誌を

流し読みするかのようにめくっていく。


結論から言えば、それらは単純な情報の羅列と、日記だった。


ただ、そのほとんどはなぜか日本語で書かれている。


割合にして9割以上は日本語で書かれていたのだ。


そんな日本語による記述の中、思い出したように

この世界の言語と思わしき記号の記載が混ざり、

その意味を俺に伝えてくる。


「どこでこれを?」


俺はそんな冊子の中の1冊を手に王に問いかける。


恐らくはジェレミアの関係者が研究を重ねたのだろう。

一緒に冊子の厚みに倍する量の紙が添えられている1冊。


その表紙、中身は日本語ではない言葉で書かれている。


ほとんどが日本語で書かれている他の冊子と違い、

これだけはこの世界の言語で多く記載された物だ。


だが俺には読める。


これまでの街中で見かけたものとも少し違うが、

明らかにこの世界の、MDの影響下にある言葉だ。


「これは何だ、とは聞かぬか。それはこの国にずっと保管されていたものだ。

 代々の文官が研究を重ねたが、ほとんどは解読できぬ。

 いくらかの物を除けば、まったく違う言葉だということぐらいしかわからん」


「……すぐに全部に答えるのは難しい。だが専用化、についてであれば

 答えれると思うが……意味があるかといえば、微妙なところだ」


俺は恐らくジェレミア王が求めている専用化という言葉と、

冊子に書かれている内容から期待している結果と、

実際の結果を考え、言葉を濁す。


だが、王はその俺の態度にあからさまに不機嫌な空気をにじませてくる。


まあ、無理も無いだろう。


なにせ、冊子の中にはこうある。


──専用化の力は国を救う、と。


この部分はこの世界の言葉で書かれているので、

研究の結果、文官も問題なく解読できたのだろう。


だが、日本語で注釈とも言える言葉が続いている。


それは……。


「なぜなら、専用化の力は既にそこにあるからですよ、王よ」


俺がそういって指差すのは、先ほどジェレミア王が手に取った大剣。


武器名はわからないが、間違いない。


(あれは既に専用化が施されている)


俺はそう確信しながら王と、剣と、そして周囲の騎士に視線を向ける。


騎士達の表情には動揺が隠せていない。


あっさりと冊子を読めることを示した俺の言葉の意味すること、

そして真実かはわからないだろうが、俺が王の問いかけに答えを出したこと。


どちらも驚くのも無理も無い。


だが、それはただの騎士にはふさわしくない驚き方だった。


(やはりか……)


「なんだって?」


王の横にいるフィルは俺が何を言っているのかわからないという顔をする。


フィルも専用化の話自体は聞いた事があるようで、

その反応は非常に大きなものだ。


対する王は平然と、いや……違うな。


面白いものを見つけた目だ。


俺は内心、騎士達の正体にあたりをつけながら、王の視線を受け止める。


「ほう? 確かにこれは王となるときに父より受け継いだもの。

 これは既に専用化の術がかかっていると?」


「ああ。その剣、正式な王の継承者でなければ、なぜか使えず、

 先ほどの気迫を産む技も使えないはずだ。だが、一度受け継がれれば

 それが嘘のようになじんだはず」


俺は王の視線を正面から受け止めてそう言い放つ。


そう、専用化はMDにおいて、店売りの武具か、

一定以上のスキルで作成されたもので可能な行為だ。


単純に性能を強化するほか、専用化の使用者以外は仮にルートに成功しても

単に自身の所有アイテムとなるだけで、そのままでは装備できないという効果がある。


所有者以外が専用化を解除するのにはかなりのデメリットがある。


通常、所有者が専用化を解除するときに

武具が直接消滅する確率は1割ほど。


対して所有者以外が行った場合、消滅する率が物によるが3割から6割となる。


そんな専用化だが、所有者が1割のリスクを乗り越えて

誰でも装備できる元の状態に戻すほか、

ゲームの演出的な効果を含んで、譲渡する方法がある。


それが継承、だ。


MDにそれが存在した背景には、

ベースとなるのがいわゆる中世ファンタジーがあり、

ギルドというものがあり、中古品が生じるゲームという特性からだったのだと思う。


そんなに面倒ではないが、特徴あるクエストを2人以上でクリアすると、

専用化したアイテムを片方に譲渡できたのだ。


それは先輩から後輩へ。


あるいはリーダーから次代のリーダーへ。


そのシチュエーションに応じるためか、同じ効果のクエストは

いくつかのパターンを持ち存在していた。


プレイヤーは必要であれば、自身の状況に似合うクエストを選び、

専用化されたアイテムをプレイヤー間で移動させていた。


だがそれには共通の条件がある。


同じギルドに一定期間所属していること、である。


MDにおいてはギルド、となっていたこの部分だが、

恐らくはこの世界では国家やその他の集団も含んでいるのだろう。


「フィルよ。王位を継ぐ際の儀式をこの者に話したことはあるのか?」


「いえ? そんな話をしたことはありませんよ」


出会ってから初めての、ジェレミア王の驚いた表情と、

楽しそうに笑みを浮かべるフィルの表情とが、

ある種対照的に俺の視線の先で広がる。


「専用化はある意味手軽で強力だ。やろうと思えばその王専用といえる

 剣の様にそこの騎士の剣だって専用化できる。

 だがそれゆえに、軍隊全員には余り意味が無い。

 他の人間には使えない武具を、兵隊の人数分だけ作るのか?

 俺は万人を率いたことは無いが、かなりの負担のはずだ」


専用化の際の具体的な消耗についてはあえて触れずに、

俺は専用化、つまり今のジェレミア王が剣を継承したときに

生じたはずの物について言外に問いかける。


視線の先で、ジェレミア王が渋面になるのがわかる。


横にいるフィルもある程度知っているのか、俺の発言で

悩んでいるようにも見える。


クリスは……正直わからない。


「まさかとは思うが、鉄の剣1本にも1万もの純ゴルド銀貨がいるというのか?」


(1万……ランクBの製作品か……まあ、そんなものか)


俺は王の口から出た金額に、安堵の息を心の中ではいていた。


王の持つ剣、大げさに作られてはいるが、物凄く高性能、というわけではない。


恐らく武器そのものとしての性能は見た目ほど良くは無い。


それはこの冊子達を残した本人と、当時のジェレミア王の目的からも明らかだ。


それゆえの、ランクB相当品。


これがもし、AやSランクだったならば、費用は1万どころではなかっただろう。


(ま、俺にとっちゃそう高い金額でもないが)


ネットゲームを大なり小なりやったことがある人間ならわかるだろうが、

何かをする際に消耗するものには各種アイテムのほか、

ゲーム通貨がある。


時にはNPCに渡す何かしらのお金という形を取っているが、

渡す相手も特にいないのに、システム上、お金が消えることがある。


専用化に関する行為にもそれがあるのだ。


「いや、書物によれば物によるとある。そうだな……そこの剣ぐらいなら、

 500ゴルド銀貨ぐらいでいいんじゃないか?」


俺は実際に注釈にあった文言を読みながら、

王達を安心させるように言ったのだが、

なぜか俺の言葉は場をざわめかせたのだった。


(ん? どういうことだ?)


「……ファクト、ファクト。細かいことは知らないけど、

 今って純ゴルド銀貨って1枚でもお宝なのよ」


「……なんだって?」


横合いからのキャニーのささやきに、俺は思わず声を上げ、

正面のフィルとクリスを見る。


フィルは難しい顔をしたまま、クリスはなぜか笑いながら頷いた。


「なるほどな。専用化についての問題は良くわかった。

 だがそれは部隊長などの限られた人間にのみとすればいい。

 国を救うとは、そういうことなのだな」


王はそんな騒ぎの中、何かを悟ったように深く頷きながら、

そういって右手に剣を握る。


その剣に込められた何かを感じるように持ち手を

何度も握る姿は、王にふさわしい風格を持っていた。


「書物にもそうある。国の象徴となり、兵の目標となるだろうと。

 何、専用化の術自体は銀貨以外は大したことじゃない。

 何なら手法は後ですぐにでも書いて渡せる」


俺はその姿に元一般人として、まるで映画の撮影を

生で見たかのように感動し、そう口に出したのだが

何故だかそれは再び場を騒がせることになった。


(? ああ……それもそうか……)


何かしら想定していそうなフィルやクリス、

そして王はともかく、周囲の騎士(?)達は

俺のことは運良く王に出会えた冒険者ぐらいにしか

思っていなかったはずだ。


そんな相手が、あっさりと話についてくるわ、

自分が教えちゃうぜ?なんていってしまう。


驚かずにどうするというのだ。


「……もう言っちゃう?」


俺の正体、古代の人間であるということを伝えたほうがいいのではないか?

というミリーの苦笑に満ちた言葉に、俺はうなずきかけながらも様子を伺う。


最初のほうからなんとなくだがわかっていたこと。


護衛としたとしても、ただの騎士が

これだけ国家の秘密にかかわるような会話がされる場所に何人もいるのはおかしい。


ジェレミアという国柄、騎士1人1人が持つ独特の雰囲気というか、

形容しがたい気配。


それらが導く答えは限られている。


「対価次第だが、この場にいる将軍や団長分ぐらいは

 俺がすぐやっても構わないが、どうする?」


「……ほう」


俺の発言に、ざわめきだっていた周囲の騎士達の視線が集まる。


(当たり……か)


さすがに国の中枢丸ごとをつれてきたということはないだろうが、

視線の鋭さ、隠さなくなった物腰からして、

この地方の軍の上層部といったところか。


ガイストールという街のことを考えれば、

その中でも相応に信用を置いている人員なのだろう。


少しばかり先のことを含めて話すなら、

俺はそのときは、そう確信していた。


そう、そのときは。


「もういいのではないですか? 元々別の用事のために来たのですし」


「ふん。結局、人の子かどうかも怪しいことがわかったぐらいだがな」


「それで十分でしょう。後は宴の際に聞けば良いことです」


じわりと、中身は一般庶民である俺の胃を責める空気が

場を支配し始めたころ、フィルのそんな言葉を始まりに

王、クリスと続き、場が収まる。


俺と姉妹がその流れに追いつけないまま、

何故だかどこからかメイド達が入ってきたかと思うと、

あっという間にテーブルの位置が変更され、

さらには料理が大量に運び込まれ、

目の前が立食パーティーのような光景になる。


「なあ、さっきまで真面目な感じだったと思うんだが?」


「至って真面目さ。この国の軍で重要視されるものに、

 戦いのための武以外にもう1つある。何だと思う?」


近寄ってきたフィルに、本気で問いかけると、

そんな答えが返ってきた。


「……男のこういうときっていったらあれよね。お酒?」


「お見事!」


キャニーの呆れるようなつっこみへと、フィルが答えるとのほぼ同時。


部屋の奥で堂々とした姿で杯を持つジェレミア王の声が響き渡る。


「皆、杯は持ったな? いつもどおり1人3本は飲むように。

 最後まで立っていた者には、誉れを与えようではないか!」


乾杯!と響く声。


俺が抗議の声を上げるまもなく、場は喧騒に包まれた。


その声の多さに驚いて振り返れば

いつの間にか、部屋の扉は開け放たれ、

多くの兵士が杯を手にしていた。


(いつの間に……)


その統一された空気に俺は驚きを隠せない。


事前に聞いていた、ジェレミアの貴族は互いを出し抜こうと思っているという

情報が嘘だったかのような光景だ。


よくよく考えればこの場に貴族は……いない?


(いや、違う……!)


俺はあることに気が付いた。


部屋にいた将軍や団長クラスだろう人間達が、

いわゆる貴族的なものに従うだろうか?


もっと言えば、目の前のジェレミア王のような気質の人間が、

貴族貴族した人間が国に絡んでくることをよしとするだろうか?


……するわけがない。


確かにグランモールで遭遇しかけた貴族のような存在もいるにはいるのだろう。


だが、よくあるような、姦計を持って互いを出し抜こうと

思っている人間が多い、ということではないのだ。


機会さえあれば己の武を、あるいは己の凄さを示したい。

それがジェレミアの貴族、つまりは将達なのだ。


貴族という呼び方に勝手に俺は思い込んでいたのだ。


軍隊の上層部と貴族はその意味では別だと。


だが国が変われば中身も変わる。


即ち、視界に広がる光景の中にいる、

軍の上層部らしい騎士達は、イコールこの国の貴族!


「恐るべし、ジェレミア……!」


俺は自分でも良くわからない感想を漏らしながら、

いつしか注がれるアルコールを断ることも出来ず、

その酔いに身を沈めていくのだった。

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