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93「緑の理(ことわり)-1」

最近寒くてたまりません。




再びの長の部屋。


周りを良く見れば、調度品の1つ1つが外の世界とはどこか違う造詣、

まるで木の壁に最初から埋め込まれているような動き続ける極彩色な鳥の模型。


使い道があるのかわからない食器類。


最初にここに来たときはよほど緊張していたのだと、

周りの物が目に入ってくるたびに思うのだった。


「独特の布尽くめの服装にくない、となればルミナスに間違いなかろう」


「やはり……最近現れなかったと聞いたが、

 次は来ないのか? こう、何か準備をしたほうが良いような気もするんだが」


今回出されたのは最初と違い、外の世界にあるものに近い、

紅茶のような風味のものだった。


だが、その色は青。


夏に食べるかき氷のような色をしており、

いまいち飲みたいとは思わない色だが、

味はまったく問題はない。


そのお茶を一口含む度、見た目とのギャップに新鮮さを感じながら、

俺は長へとそう返し、自分たちが何かをした方がいいかを問いかける。


男の言葉から、森にあいつらが入ってきた理由の1つに俺があるのは間違いない。


「必要なことは少し前にサフィーダがやってくれた。

 ルミナスからの入り口は場所を移すことになったのでな。

 ……これでまた100年単位で入ってくることは無かろう。

 もっとも、こっちからもどこに出るかがわからない以上、

 外に出たらどこかの川の中でした、ということもあるかもしれんな……」


長は一息にそう言って、お茶を飲み干すと自然な流れで

自分のカップにおかわりを注ぐ。


その姿は妙に洗練されており、お茶を注ぐ際も余計な音が立っていない。


「じゃあそれは解決したとして。二人は、男が使っていた小手が

 里から奪われたものだと言っていたんだが、そういう技術だとかが

 他にもあるってことでいいのか?」


俺自身が作れるものも、本気で良素材を使ったものは

外の人間にとっては規格外も規格外ではあるのだが、

あの男たちの小手は、俺の作るもの……プレイヤーメイドとは何かが違う気がした。


「外に出て行ったエルフや、先のような相手に誘拐されたエルフもいる以上、

 どんな形で外に残っているかは不明なままだ。

 ただ、その小手の件ははっきりしている。一度な、娘が迷い込んだのよ。

 もっとも、正確には迷い込んだフリをしていた、となるのかな」


長はカップを置き、向かいのソファに座る俺に視線を向けたまま、

その昔に起きたことを語りだす。


それは200年の昔。


過去に翁と、生み出された武具たちが巻き起こした戦争。


まだ世界にその爪あとが残る中、森に一人の娘が迷い込む。


各地で終わらない戦いを止める術を探して。


戦いを産んだのがエルフの技であるならば、止めることが出来るのもまた、

エルフの技であるかもしれない。


そう考えた長は、ルミナスのとある勢力の一人娘であったその娘に、

守りとしての小手の技を授けようとしたのだという。


だが、娘は最初から別の目的があった。


それはエルフの技術でもって、自らの家の勢力を拡大すること。


守りである小手以外にも、攻めとしての武器を欲する心があった。


もともとの素質なのか、準備をしてきていたのか。


娘がエルフの里でその本性を現すことは、ぎりぎりまで無かったのだという。


ある日、長がその心にある燃え盛る野望に気が付き、

里から娘を追い出そうとしたが、娘はそれを良しとしなかった。


追っ手をかいくぐりながら手元の小手と、自らの得た知識を持ち出したのだ。


有力な物を持ち帰ることが出来る。


そう判断されれば次は武力による制圧があるかもしれない。


そう考えた長はその入り口を今回のように変えたのだった。


これまでのエルフ狩りがありながらも、

娘に技を授けようとした長達が甘かったのか、

人間を信じたエルフを裏切る人間の欲望が悪いのか。


その答えは出ないまま、今に至るのだった。


「その時の小手が、今回の……」


「ああ。恐らくはバニッシャーと名づけてあるものだろう。

 所持者の魔力を糧に、自身以外のあらゆる魔力を含んだ物を寄せ付けない力を持つ。

 もっとも、エルフのように魔力が高くなければ、

 扱いきれる者は少ないことから、使い道は限られるのだがな……」


人間では、一般的な技量の範囲内では俺の間隔で言えば、

30分も持てば良いほうのようだ。


「いずれにしても回収しきれない。気にしても仕方の無いことだ。

 それよりもこれからのことだろう。少し騒動をはさんでしまったが、

 今日からしばらくは泊まるといい。さあ、特訓だ」


「……特訓? え? エルフ秘匿の知識が今ここに!……みたいなのじゃなく?」


長の言い放った言葉に思わず立ち上がりながらつっこみを入れた俺だったが、

返事は無く、横に音もなく近寄ってきた長にぽんっと肩に手を置かれただけだった。


「それもある。ま、見たほうが早いということが世の中にはあるだろう?」


ぐぐぐっと近づいてきた長の表情は、どう見ても怪しい笑顔だ。


部屋の片隅にある扉へと、誘導されるままに近づく。


「誇っていいぞ。人間でここで特訓されるのはファクトで3人目だ」


そう言いながら開け放たれた扉の向こうに見えるのは滝。


その周囲に広がるのは川原のように見える石や木々。


滝の轟音が扉のこちら側にいてもなお、聞こえてくる。


見た感じは特に危ない感じはしない。

……が、先ほどから妙に嫌な予感がしてならない。


MDのプレイヤーとしての予感なのか、色々とお約束を知っている、

ゲーマーとしての予感なのかはわからない。


「ちょっと用事を思い出したのでまた今度で……ぬぉ!?」


「いかんなぁ。男がそうと決めたことを途中で放り出しては」


すぐさま後ろを向き、部屋から出ようとした俺だったが、

数歩も行かないままに力強く両肩をつかまれ、動きが止まってしまう。


振り返れば、獲物を捕らえたといわんばかりの長の顔。


(あ……がんばろう)


なぜだか俺は、そんな風に思ったのだった。






「ファクト、大丈夫かな?」


「問題はないでしょう。長は教えるのが得意ですからな。

 自分も若いころは長に鍛えてもらったものです」


2人きりで話が続いているであろう、長の住む家を見ながら

キャニーは誰にでもなくつぶやいたのだが、それにサフィーダが答える。


キャニーはその言葉、内容にはじかれるように振り向く。


その表情には驚愕がありありと出ている。


「え? サフィーダさんって長より年下なの?」


ミリーの疑問ももっともなことで、キャニーとミリーからは、

サフィーダのほうがよっぽど老人に見えたからだ。


「ええ。もっとも、倍ほども違うわけではないですな。

 そうですな……人間の感覚で言えば、叔父と甥っ子ぐらいでしょうか」


サフィーダはそう言いながら、里の広場で、ござのように

敷かれた物の上に座り、手の中で水晶のようなものを動かしている。


「んんーっ、方向がうまく指示できないわね」


「こっちは動くけど、勢いがない気がするなあ」


「頑張ってくださいね。これが精霊を見る第一歩なんです」


サフィーダと同じような、テニスボールほどの大きさの水晶へと、

悩んだ顔で手をかざすキャニーとミリー。


そして片手で同じようなものを動かしているエメーナ。


今2人は、サフィーダとエメーナの指導として、

特別な水晶球を使っての訓練を受けているのであった。


「これが出来れば、魔法の詠唱前に種類だとか、

 狙いがわかるんならがんばらないと」


「ファクトは特にそうやって避けてる感じじゃなかったわよね?

 まだ何か隠してる技とかあるのかしら」


地球の人間が見れば、リモコンがないのに動くラジコン、

のように見える動きを水晶球が行う。


2人にはまだ見えていないが、水晶球には精霊が数体集まっており、

キャニーやミリーを見ながら、その指示に従うようにあちこちへと

水晶球を押して転がしているのだった。


「ファクトさんはまったく別の技と言うか、方法で防いでいるでしょうね。

 なにせ、ずっと大量の精霊が壁を作っているようなものですから」


「あれほどの物となると、天然、修練の末にしても

 この世界に100人いるかどうかですな」


ファクトのレベルによる体力、各防御力をそう評するエルフ二人。


実際、ファクトの肉体そのものの強度、筋肉量としては

この世界の冒険者や軍人と大差は無い。


ではどうして多くの攻撃を防ぎ、

ファイヤーボール等の魔法でダメージをほとんど受けないのか。


その正体は、あらゆる生き物を覆う精霊の膜であった。


ゲームキャラクターとしての能力を持っている都合上、

ファクトのソレは人間の寿命、生き方ではありえない次元の物となっていたのだった。


それは時に毒の霧を防ぎ、時に魔法の炎を防いでいたのだ。


「へー……あ、また逆に動いてしまったわ」


「わわっ、そんな急に動いちゃだめっ」


どこからか注ぐ陽光の中、2人の特訓は続く。








レベルとステータスを完全に発揮し、逃れようとする俺だったが、

長に腕を捕まれ、半ば引っ張られるように扉をくぐっていた。


俺を難なく引っ張っていく長のその姿に、内心ある仮説を立てていた。


(長って、ゲーム時代からいるNPCだったんじゃないか?)


詳しい数値は見えないが、確実に高レベルだ。


そうでなければこの腕力、そして魔力は恐ろしい。


腕力……にはまだ疑問が残るが、

それ以外の動きも見れば見るほど信じられない。


まるで最前線で稼いでいたトップレベルのプレイヤーを

数人合成したような物だからだ。


そうなると、長い長い時間を鍛錬と探求に費やせる

エルフならではの結果なのではないかと思ったのだ。


(滝……だな)


そんな思考の後、たどり着いたのは扉が開いたときから見えていた滝。


周囲にはやはり石ころたちと、木々が立ち並んでいる。


鳥などの声はなく、滝の落ちる大きい、しかしながら

何故かうるさくはない音が響く。


そして何故か、ぽつんと、鍛冶に使うような釜があった。


周りには金床など、使用するであろう道具もある。


「ここは……?」


「特訓と技術の伝達は喜んで行うと言っただろう? ここはそのための場所だ」


立ったまま疑問を口にする俺に対し、

長はなんでもないように答えて釜の前に立った。


そしておもむろに近くにあった手のひらほどの石、

良く見ればただの石ではなく、何らかの鉱石だと何故だかわかった。


「!? これは……ここは一体!?」


慌てて周囲を確認すると、目に入るものすべてが、

MDでいえば素材アイテムとして使える各種鉱石、そして木材達だった。


布、はさすがに無いが、武器防具を作るうえでは

布素材の比率は余り高くない。


「どれ……」


長は手元の鉱石と、釜の用を確かめると釜の脇にあった

小振りのハンマーを手にし、鉱石を無造作に釜の手前にあった

工具の様な台の上に乗せる。


「ふんっ!」


見た目より火力があるのか、すぐに鉱石が赤く溶け出し、

長はそれを見るなりハンマーを振り下ろした。


時に、やっとこの様なもので鉱石だったものをつまみ、

滝から流れ出る水が作る小川にいれ、熱を取ったところでまた釜へ。


数分も立たないうちに光とともに出来上がるのはナイフ。


「今のは……同じ?」


何と、とは俺も言わない。


それは長もわかってやっただろうからだ。


そう、俺の作成スキルたちと同じ光、同じ感覚。


だが何かが俺より増えている、そういう感覚。


「うむ。ファクトよ。幻の鍛錬場へようこそ」


そう宣言する長の手元で、ナイフは何故か光の粒子となって舞い散っていった。


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