閑話「ある日のMD。中の人などいない!(五か月目あたり)」
時間軸はバラバラです。
ゲームであるマテリアルドライブ(MD)としての描写なので、
本編中とは描写、設定に差異があります。
読まなくても問題ありません。
ファクトはこんな奴だ、スキルはこんな感じなんだ、という参考やお楽しみになれば幸いです。
ゲームとはデータである。
子供も大人も、男も女も、データの前では平等だ。
仮想現実でも持つ者、持たざる者が明確に出るのは、さびしくもあるが仕方のないことだ。
「ねー、聞いてるのー?」
故に、嫉妬や羨望、あるいは憧れというものはゲーム内でも当然のように存在する。
「ねーってばっ」
「ええいっ、少し黙ってろ、ペイン!」
人がせっかく高尚な思考をしていたというのに。
街中のため、ノックバックしか産まない俺の裏拳が、見た目は小学生低学年ほどの少女を数歩、吹き飛ばす。
腰まで届くツインテールに、キラキラ光る金髪、敏捷そうなしなやかな体格に、動きやすい軽装に加えてスパッツ、といういでたちだ。
「いったーい! 何するのさー」
耳に届く甲高い、少女特有のハイトーン。
「急にやってきて、無理難題を言うからだろ。というか、俺の前でそのロールは控えて欲しいんだけどな、中を知ってるだけに」
「中を知ってるだなんて、ファクトお兄ちゃんの、えっち!」
「……(ブチッ)」
無言で、俺は愛用の長剣を2本構え、ダメージは無いとわかっていても少女、表示名は違うがペインへと切りかかり、連続でひたすら切り込んでいく。
「わっ、ひっ、うわわっ。わかった! わかったからやめろって!」
「わかればいいんだ、わかれば」
剣を収め、いつもの場所に腰を下ろす。
ここは、自分の所属する王国の首都、その市場の隅だ。
「俺的にはこの姿でこの喋りのほうが辛いんだけど?」
「我慢しろ。プレイヤーを実際に知っていたら、微妙な気分になって仕方が無いんだ」
そう、この少女の別キャラであるペインのプレイヤーとは現実に出会ったことがあるのだ。
確か、レアアイテムの出る依頼の相談中、意外と近くに住んでることがわかったので1度飯でも、ということになったからだったはずだ。
引越し業者に勤めているかなり鍛えられた感じの好青年だった。
「それに、俺の脳内ではリアルの男性声に変換されるから問題ない」
言い放った俺に、ペインはため息をついて横に座る。
「オーケー。とりあえず、これでレイピアタイプを頼むわ」
と、放り投げられたのは武器素材になる金属塊。
チェックをした俺の手が止まる。
「ほー、聖属性込みのアダマンチウムじゃないか。これならもっと攻撃力重視の武器のほうでいいんじゃないのか?」
かなり堅く、たたきつけるタイプの鈍器や、しっかりとした剣タイプのほうが良いような気もする。
「いや、レイピアでいいんだ。実は、男アカのほう休止する予定で、こっちメインになるんだわ」
見た目は少女の癖に、妙に疲れた様子に思わず事情を聞いてしまう。
「珍しいじゃないか。『俺は最強のアタッカーになる!』とか言ってたのに」
作る武器のステータスの調整をしつつ、必要な情報メモをウィンドウに出していく。
「ああ、最近は高火力、高HPのボスが増えてきて、壁役が必須なんだよ」
ペインが言うには、アタッカーというより、壁役で呼ばれることが多くなったらしい。
「もちろん、そうじゃないと攻略できないからそれはいいんだけどよ。だからって、元の壁役をパーティーから外して、アタッカー募集されたら…ねえ?」
「なるほどね。ペインほどとなれば、どこに行っても同じような可能性が高いか」
ペインのメインキャラは前衛系、オーソドックスな剣士系統で、ひたすら力押しだ。
武器防具を状況に応じて、常に最大火力、最大耐久!というまさに戦闘馬鹿。
俺も素材集めなんかに良くお世話になっている。
「そうなんだよ。すこーし、名前が知られてるからトラブルを起こした後だとそのパーティーにも迷惑かけるしさあ」
「いきなり、タダで一式作れ!って言ってくるわけだ。アイテム移動でもして売り払っていくのは駄目なのか?」
ペインのメインキャラはキャップに近い状態のはずだ。新規キャラの初期投資金ぐらいはすぐに稼げそうだが……。
「あっちはログイン状態がすぐわかる相手が多いから、たくさんは持ち出せないんだよ。せめてと思ってこれだけはな」
指差すのは先ほどの塊。
「良くわかった。ちょっとそこで待ってろ。というか、一緒に来いよ」
ペインの手を取り、キャンプを起動、工房へと転移する。
「最近来てなかったが、相変わらず薄暗いな」
「ほっとけ。仕様なんだからさ。適当に座ってろよ」
中の人が男とわかっていても、女の子の声で否定的なことを言われると少しへこみそうだ。
「で、どんな感じにする?」
作成の準備をしながら、武器の希望を聞いてみる。
「おう、とにかく貫通力、んでもって耐久性、そして、魔法との親和性、で頼むわ」
ペインの言葉に、考えをまとめていく。
レイピア系統の特徴として、勝手に重量自体は軽くなる、というものがある。
それ以外には、武器そのもので与えるダメージは低目ということになるぐらいだ。
「高速戦闘で急所を連続襲撃、多少の無茶をしても折れず、魔法剣ならぬ魔法レイピア、と」
俺の答えに満足そうに頷くペインを見、作成に取り掛かる。
炉に塊をいれ、溶かしながら形を整える器に移し、器具を使って赤いままの塊を掴み取る。
武器生成-近距離S-《クリエイト・ウェポン》
俺の周囲に、金色のオーラのような光のラインが幾条も舞い、ハンマーと一緒にやわらかいままのソレに叩き込まれる。
何度も、何度も打ち込んで形を整え、効力を練りこんでいく。
(手ごたえアリ! これはいける!)
確実な手ごたえに、思わず表情も緩む。
「よいっしょっと!」
最後となる一発をたたきつけ、息を大きく吐く。
後に残るのは、荘厳な雰囲気を持った1本のレイピア。
刀身はルビーのように赤く染まっている。
持ち手部分は、比較的がっしりしたものにしてある。
「よし、さっそく装備してくれ」
ペインにレイピアを渡し、装備してもらう。
「おおう、いいじゃないか。完全に上位互換だぜ」
空気を切る音を立てて振り回されるレイピアに俺も満足し、片づけをすばやく済ませる。
「名前はどうすっかな、ファクト、何か良いのあるか?」
(名前ねえ…)
「うーん、ホーリー・コンビクテッドってとこでどうだ?」
聖属性だし、死を持って、断罪ってことで。
「よし、それで行こう。専用処理頼むわ」
頷き、レイピアに手を触れて武器のステータスを呼び出し、専用化の手順を踏む。
一定以上のスキルで作成した武具は、こうして名前と専用の使用者を決めることで、その性能を1割常時増すことが出来る。
ただ、専用化を解除する際には10%程度で消滅してしまうので、後で売り払おうという場合には注意が必要なのだ。
なお、店売りの武具はいつでも専用化が可能なので、ある程度までは店売り武具を専用化して過ごすのもベターな手段となっている。
嬉しそうなペインを見送り、次の狩場を探して、マップ情報などとにらめっこを開始する。
後日、タフで有名なユニークモンスターをソロで撃破した少女剣士がいるという話が耳に入ったが、ペインかどうかは確かめていない。
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○作成武器
ホーリー・コンビクテッド
タイプ:レイピア
付与効果
:不死特攻
:精神体接触(幽霊等、肉体を持たない相手を攻撃の対象に出来る)
:破壊無効(所有者の手に持っている限り、破壊されない)
:魔法武器(一定時間、武器に向けた魔法の効力が攻撃に宿る)
:貫通(強)(使用者のラックに応じて、防御無視効果が発生する)
作成武具が本編に遺物として出てくるかは、長く続けば…となります。