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89「緑の世界-3」

自分で設定しておいてなんですが、

エルフがラノベ的?エルフではないので、ご注意ください。

「ううーっ、1!」


「2……かな。なんかちっこいのがいるし」


俺がそういうと、目の前で少女エルフはショックを受けた様子で崩れ落ちた。


「古き者の勝利!」


老エルフの声を聞きながらの視線の先では、

魔力を感じるナイフから出てきた薄い光の精霊が2体。


1体はそこそこ大きいが、もう1体はまるでカプセル玩具のおもちゃのようだ。


精霊の子供とかいるんだろうか?


ともあれ、これで12人目。


まともに使えば強力な攻撃魔法を帯びた物から、

自身の破壊と引き換えに範囲内を無差別に治療する杖、

どういう目的か、同じ形、同じ属性の盾を強力に吸い寄せる、

魔力的磁石のような力を帯びた盾、

魔力を馬鹿食いするが、姿を一時的に消す効果を持ったマント等、

様々な武具が数当ての対象となった。


一応終わった後に触ることが出来たので、

武具の性能などがわかり、今後の参考になったのは幸いだった。


(ドワーフもエルフも森の中にいるんだ。確か仲が悪いという設定は、

 MDでは聞いたことが余りないな。勝手な思い込みか?)


そんなことを考えていると、

見た目からは予想も付かない力で、俺の右手は老エルフによって

勢い良く持ち上げられ、なぜか勝ち名乗りを上げなければ

いけないような状況に追い込まれていた。


「……この程度のエルフ、物の数ではない!」


びしっと指をエルフの長につきつけ、叫んだところで俺の正気が戻る。


(……何やってるんだ、俺)


反省材料は多いが、突き出した指をひっこめるわけにもいかない。


何より……。


「よかろう! ならば勝負!」


やる気十分の長が問題だった。


エルフの長はなぜか杖を横のエルフ女性に預けると、

力ある言葉とわかる何事かをつぶやいた。


一瞬目の錯覚かと思ったが、長がふわりと目の前に降り立ったとき、

それは錯覚ではなかったことがわかる。


先ほどまではゆったりとしたローブ然だった服が、

一瞬にして運動に適していると思われるものに変化したのだ。


殴るでもなく、蹴りに来るでもなく、ただ単に手を広げ、

俺に突進してくるエルフの長。


「ちょっと!?」


とっさに俺も両手を広げ、組み合う形になる。


ずしっと、重みを感じさせる力強さ。


なんとかいきなり倒されるということは回避したが、強い。


確かに俺はMDにおいて製造タイプゆえ、いわゆるDEXといった

ステータスに多くのポイントを費やしている。


ステータス的な意味での筋力は、余り高くない。


ただ、それはMD基準であってこの世界で言えば

低くはなく、そこそこあるはずなのだ。


少なくとも……。


「力押しで押し勝とうとするエルフがどこにいるんだっ」


「何を異な事を。魔力も力、ならばエルフが力自慢でなんの不思議があろうか!」


がっつり組み合ったまま、互いの毛穴までわかりそうな距離で

俺とエルフの長は一進一退、いや、これは試されている。


長は長年の経験と思われる何かで、俺のわずか上で調整しているように見える。


現に、じりじりと俺は押されている。


このまま力比べはジリ貧、だが魔法で何かをするというのも

どこまで効いてくれるかは怪しい。


と、視界に入るのは周囲で心配そうに見守るエルフたちと、

先ほどまでの精霊数当てで使われた武具達。


(これだ!)


「むうっ!?」


「魔力も力の内だったよな!? 盾生成B!(クリエイトシールド)


俺は組み合ったまま叫び、両者の膝より下辺りでとある属性の盾を作り出す。


その形は四角の何の変哲もない小盾。


だがその属性は土。


そして数当ての中にいた盾も土属性。


どんな力場が発生しているかは不明だが、

ふわりと浮いた俺の生み出した盾は長のすねに勢い良くぶつかる。


「痛くも痒くもないぞ!」


ぐいっと力をこめ、俺を押し倒そうとする長。


そう、何も脛に当たったら痛いですね、という目的で生み出したわけではない。


その答えはすぐにやってくる。


長の背後からの驚きの気配。


「ん? のわっ!?」


長がそれに気が付いたときには時既に遅し。


狙い通り、ひざかっくんの要領で例の盾が長の膝裏を襲い、

わずかではあるがバランスを崩すこととに成功した。


自分と同じものを吸い寄せる力を持つ盾だったようだが、

相手がこなければその力はどう働くのか?


答えは自分から近づいていく、だ。


「ここだっ!」


俺は器用に重心を調整し、長を転ばせる。


本当は投げ倒したいところだったが、

横に転がせるのが精一杯だった。


そんなに勢いはなかったはずだが、ごろごろと長は景気良く転がり、

大きな音を立てて隅の岩に頭をぶつけて止まった。


「……あれ、大丈夫か?」


「はい。たぶん自分が負けたほうが衝撃なんだと思いますから」


起き上がってこない長を見ながら女性エルフに問いかけると、

そんな嘆息交じりの返事が返ってきた。


その後はなにやらうやむやなままに高台へと案内され、キャニーたちとの対面を果たす。


「ファクト! 会いたかった!」


「ファクトくんなら助けてくれるって信じてたよ!」


「クェ!」


喜び勇んで駆け寄ってくる2人と1頭に、俺は頭が痛くなってきたが、

彼女らにも事情はあるのだろうと意識を切り替える。


ジャルダンは純粋に妹が無事で嬉しかったのか、

顔を互いの首元にうずめるように確かめている。


「それで? 噂のエルフが実は騒ぐのが大好きだからちょっかいかけただけでした、

 なんていうことはないんだよな?」


「半分は、当たってるんですけどね」


悪びれることなく、俺の皮肉の混じった問いかけに答えてくる女性エルフ。


その外見はささやかな胸元に、外からでは鍛えているとはわからない体躯。


丈夫そうなブーツに、ゆったりとした服の隙間から覗く山歩きの出来そうな

手足をガードする防具たち。


それらを帯びる服の上からではわからなかった肉体は、

隙間から見えるだけでも同じような人間の女性のそれとは違う。


どうやら先ほどの長の使った服を変化させる術も合わせて考えれば、

見た目から判断すると痛い目を見そうだった。


何より、こんな返しをしてくる時点で俺の思っていたエルフとは違う。


「続きは中で話そうではないか。古き者よ」


いつの間に復活してきたのか、背後からかけられた声に振り返れば長。


当然ながらダメージを負った様子はなく、どこかすっきりした様子だった。





「さて、まずは何から話そうかの」


「とりあえず、ここはエルフの里、で間違いはないんだよな?」


どこか東方の陶器を感じさせる器に注がれた液体、

これまた風味がいわゆるお茶に近いものを一口、

含んでその味に内心驚きながら俺はそう聞いてみた。


「特に名前は無い……が、エルフの里と言えばここぐらいなのも間違いはないな」


これがまじめな口調なのか、先ほどまでとは

雰囲気の違う様子の長を見ながら俺は姿勢を正した。


「外での結界だとか、キャニーたちが先になったのはまあ、

 色々あるだろうから今はいい。俺の目的は希少素材の確保、

 黒の王とそれに付随する奴らとの戦いに備えて、

 抵抗戦力のための技術習得、そんなところだ」


一気に言い放って、俺はテーブルの上へとハイミスリルの入った袋を置く。


MDではエルフの里が入手ルートの1つとされていた。


これが何か、中身を見ずとも力を感じるのだろう。


同席していた女性エルフと老エルフの雰囲気が変わるのがわかった。


「……術を得て、力を与え、どうするつもりだ?

 彼のように戦乱と、黒い英雄を産むだけかもしれんぞ?」


(……彼?)


長の言葉にまゆをひそめるが、すぐに答えに行き当たる。


「まさかっ!? 翁に、古老の庵に会ったことがあるのか?」


俺は勢い良く立ち上がってしまい、テーブルが揺れる。


その衝撃に俺の分のお茶がこぼれ、膝にかかることで我に帰った。


「……すまない。そうか、エルフは長寿。当然か」


「気にするな。……ああ、会って、教えた。

 最後に眠る場所の紹介も自分が行った。若いころの話だ」


長がまるで遠い思い出を語るように、いや文字通り遠い思い出なのだろう。


あごを撫ぜながらつぶやく長に俺は視線を向け続ける。


「2人に聞いたが、ファクト、古代の時代の人間だそうだな?」


「……ああ、少なくともこの時代には無い魔法、技術を持ってはいる。

 だが、俺は一人だ。軍隊じゃない」


ちらりと部屋の外、既に俺が普通の冒険者でないことを十分知っている

キャニーたちを一度見たあと、俺はそう告白する。


2人はグリフォンたちと一緒に、エルフたちと何か話しているのが聞こえる。


その中身は外の世界のことだったり、エルフの魔法に関してだったりと、

それなりに楽しんでいるようだった。


そんな話を耳にしながらもゲームの世界、という部分は伏せて、

なんらかの転移が起きたのだろうと理由を付け、

記憶にある限りの暦が700年代であること、

翁も同じ時代の人間だったはずだが何らかの理由で時期がずれて

この時代に現れたことなどを推測を交えて話す。


「……俄かには信じがたいことではあるが、精霊は嘘はつかん。

 何より……」


「何より?」


何故かそこで言葉を区切った長に向け、俺はオウム返しのように問いかける。


すぐさま俺はそれを後悔することになるのだが、

その時の俺は思わずそう聞いてしまったのだ。


「何、そのほうが浪漫があって面白いではないか!」


豪快に笑う長。


それを半ば冷ややかに見る女性エルフに老エルフ。


もしかしていつもこうなのだろうか?


俺はエルフが浪漫、ということを

口にしたことへの驚きも含め、動きを止めていた。


「長、話が進みません」


「ん? まあそうだな。さて、ファクトよ。

 特訓と技術の伝達は喜んで行おう。受け継ぐ者がいなければ意味が無いからな。

 時に技術と力が不幸を呼ぶことも承知しているが、

 最近の雲行きはどうも怪しい。手をこまねいているわけにもいくまい」


横合いからのつっこみに真面目な表情になった長は、

俺に向けてそう言うと老エルフを手招きした。


老エルフ、とはいうものの、人間で言えばおじさんとおじいさんの

中間ほどのすっきりした顔立ちのエルフである。


力より技で戦いそうなタイプだ。


「サフィーダ、ファクトを案内してやれ。エメーナもな」


「承りました。では古き者、いや、ファクト殿、こちらへ」


老エルフ、サフィーダが一礼すると俺を招くように手招きする。


その瞳は宝石を思わせる青。


「頼みに来たのはこちらなんだから、もっとざっくりした感じでもかまわないんだが」


どうにもエルフの見た目でこうされるとむずがゆいというか、落ち着かない。


「サフィーダの性分なんです」


女性エルフ、エメーナが緑の瞳を楽しそうに光らせながら答える。


ふと、二人の魔力というか、まとうオーラのようなものが

瞳と連動していることに気が付いた。


エルフの名前、瞳、魔力とは関係があるのかもしれない。


「了解した。個人的にはエメーナぐらいのほうが気楽なんだけどな」


「長年の習慣のようなものです」


なんでもないように言うサフィーダだが、長年というのが

文字通りだとわかっている俺は本人がそういうのならこれ以上は失礼だと考えた。


2人に促されるように部屋を出、キャニーとミリーにちょっと勉強してくると告げる。


「わかったわ。こっちは今からエルフと一緒に森に行くの。

 外でも生えてる薬草なんかを教えてくれるんだって」


「ついでに食べ物も採ってくるよー」


「ああ……んん?」


笑顔で答える姉妹の背後で、どこからか現れた子供のエルフの集団に、

ジャルダンら2頭がもみくちゃになっているのが見えた。


若干迷惑そうだが、彼らの秘める魔力を感じているのだろう。


ジャルダンは背中によじ登ったり、つついてくるエルフの

子供たちの思うがままにさせている。


(すまん……辛いならそう言ってくれ)


俺が脳内でそう念じると、肯定のイメージが帰ってくる。


どうやら嫌というわけではないようだった。


どう扱うのがいいのか、図りかねているのだろう。


姉妹に手を振って別れ、サフィーダに先導されて里を歩く。


時々向けられる視線は好意的というよりも好奇心で一杯だ。


「この里に部外者が入り込めるのは稀なので、はしゃいでいるのでしょう」


「……ただ単に隠れ住んでいる、というわけではなさそうだな?」


小さく答えた俺には答えず、サフィーダとエメーナは歩き続ける。


「ファクト殿ならばわかるでしょうが、力は魔物です。

 時にひきつけ、時におぼれさせる。

 鍛えた結果の肉体、魔力ならばまだいいでしょうが……」


唐突に、サフィーダがそう口を開き、その足が止まる。


目の前には巨木のうろの様な物。


「こちらへ」


促されるまま、俺や長では少しくぐるのに苦労しそうな場所をくぐると、

空気が変わるのがわかった。


「……ここは……あれは? 精霊か?……いや、何か違う」


俺の目の前に現れたのは、温室の様な場所。


狭さを感じさせない空間に、所狭しと生い茂る草花、

そして壁を覆い隠すような木々。


床は芝生のようで、もっと整った感じの緑が覆い、

そこに瞑想をするかのように座り込んだエルフたちが、

周囲に明らかにそうとわかる魔力をまとって目を閉じている。


周囲を舞うのは精霊なようで、少し違う。


俺が認識している精霊は、何かに宿っていたり、

魔力の中にあるそれそのもの、といった感じだ。


だが、今見えているのはそれらとは違う。


もっとはっきりと形を持っているというか、変化しているのだ。


「これ、何だかわかりますか?」


エメーナがそのうちの2人に歩み寄ると、

何事かを話した後、彼の前におかれていた、

一軒何の変哲も無い木の枝と、小石を手に戻ってくる。


「木の枝と小石?……だがこれは? まるで魔力の塊のような物になっている……」


俺は驚いて顔を上げ、その反応に笑みを浮かべるサフィーダとエメーナを見る。


「これがエルフの秘密の1つ。あらゆる物と精霊とを媒介し、繋ぐ力です」


魔石や、その類のレア素材という概念を打ち砕く、

驚愕の光景に俺は木の枝と石を手にしたまま、硬直していた。


意識の片隅に思い出されるのはMDでのエルフの設定、

森と精霊の申し子、という言葉だった。




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