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88「緑の世界-2」

途中からシリアスさんは旅に出てしまったようです。





2人と1頭が消えた朝靄の中。


俺はジャルダンとはぐれないよう、その体に手を触れながら

周囲の気配を探っていた。


だがそれは思うような成果は挙げられず、

周囲にのっぺりとした何かの気配が漂うことしかわからなかった。


少なくとも、普通ではない。


だが、何がどうおかしいのかがわからない。


「ぐ……変わらず……か」


試しにもう1本、件のポーションを飲み干してみるが、

一時的に感覚は変わるものの、すぐに何かに覆われているような感覚が襲ってくる。


(つまり、抜けたと思っていた場所そのものはまだ効果範囲の中だったということだ)


自身のステータスの影響か、あるいは別の原因か。


少なくとも俺と姉妹とでは何かが違い、はぐれたのだった。


恐らくは特定の場所に近づけば近づくほど、この空間の効力は強くなるに違いない。


「一体どこに……まてよ?」


脳裏に走る1つの思考。


こちらを向くジャルダンの首元に手をやり、

安心させるように撫でながら俺は思考をめぐらせる。


ついこの間、同じようなことがあったはずだ。


そう、あの鉱山の中で。


「ユーミ、いるか?」


なぜ忘れていたのか。


すっかり存在がなぜか抜け落ちていた彼女に虚空へと声をかける。


程なく、右肩に現れる影。


『やっぱりわかった?』


「ああ……クエストかどうかは別として、エルフの仕業なんだろう?」


申し訳なそうな顔をしてこちらに問いかけてくるユーミに、

自身の考えが正しいことを確認できた俺は、

更なる確信を得るためにそう聞き返した。


『……私は世界を見てきた辞典のようなもの。

 問われれば大体のことはわかるし、導くことも出来る。

 でもそれって、行き過ぎればゲームでチート行為をするようなものに等しいわ。

 だから……』


俺はそこで手をあげ、ユーミの声をさえぎるようにする。


ユーミの言っている事は、彼女が同行すると決まったときに、

自分でも考えていたことだ。


言ってしまえば、応対の出来る攻略wikiがそばにいるようなものだ。


しかも最適な用件の検索付き。


クエスト中にずっと解説と攻略のヒントが出るような状況では

自身が成長する機会を逃すことと同じことだと思う。


ゲームと違い、命に限りがあるであろうこの状況では、

使えるものは何でも使うべきであり、俺の考えは甘いのかもしれない。


「いいさ。ヒントはもらうかもしれないが、やれることは自分でやりたいからな。

 ユーミが警告しなかったってことは、命を奪うような何かじゃない。

 そういうことだろ? エルフの目的って奴を俺が考えなくちゃいけないわけだ」


俺はそれだけ言って、アイテムボックスの中から

いくつかのアイテムを取り出す。


そのうちの1つはハイミスリルだ。


鉱山でのクエスト、ドロウプニルの宝石庫を攻略した報酬の1つ、

ランダム産出の魔石の中にいたのだ。


適当な布袋に紐を通し、それにハイミスリルを入れて首にかける。


『ええ、それは間違いないわ』


「なら、いいさ」


俺はそう言って、晴れる様子の無い靄をにらむ。


ああは言ったものの、どう突破すべきか。


(魔力を探るか? いや、俺は魔法使いなタイプじゃないしな……)


各種魔法系統のスキルを持つプレイヤーは、

なんでもないような魔力の流れすら視覚で捉えることが出来る、

と聞いたことはあるが俺のスキル構成はそのレベルには至っていない。


となれば出来ることは限られる。


鉱脈探知(マテリアルサーチ)


つぶやきに従い、視界に光が混じる。


周囲の光景が素材としての反応を含んだものへと切り替わり、

虚空のマップにも光点が数多く現れた。


素材、つまりは精霊は数多く、その意味では非常に豊かな場所のようだった。


お約束のようなぽっかりと精霊のいない道、

といったものはなく、回り一面精霊だらけだ。


「うーむ?」


じっと、ゆっくりと動く光点を眺めていると、なんとなく法則が見えてきた。


途中、何度か鉱脈探知をかけなおし、視界を維持する。


いくらかの精霊が、何かを通るように動いているのがわかったのだ。


そう、まるで川を流れる水のように。


「……行って見るか」


俺はジャルダンにつかまりながら歩き出す合図を送り、前に進んだ。


精霊の流れに沿うように、鉱脈探知の結果と照らし合わせながら進む。


途中、ヒポグリフの森で見たように、妙に整った木々の間を進むと

一瞬にして視界が切り替わることもあった。


正解かどうかはわからないが、何か意味のあるルートではあるようだった。


道を進むうち、幾度となく脳裏に浮かぶ、戻らなければ、

という思考をポーションと、自分を殴ったりすることで押しとどめ、

奥へ奥へと目指して歩き続ける。


足元で踏み潰された草が音を立てるが、

動物が出てくる様子も、虫が飛ぶ様子も無い。


この木々や草花は本当に正常な姿で成長しているのだろうか?


俺はゲームの地形のように、整えられた感覚を強く感じた。


1時間もたっていないだろう後、視界が一変する。


妙に澄んだ空気、それに加えての鉱脈探知の恐ろしいほどの光点。


シダ植物のような物が生い茂っているかと思えば、

まるで人面樹のような幹、枝をした木々が並んだりもしている。


「ケェーーッ!」


突然のジャルダンの叫びに顔をそちらに向ければ、

高台に動く複数の影。


それらは何かを手に持っている……弓だ!


「来るか!? ええい、複・盾生成C(クリエイトシールド)!!」


どれだけの数が来るかはわからないので、武器ではじくというのは難しい。


かといってエア・スラストのような魔法では、恐らくはエルフの里であろう

この場所に余計な被害を与えてしまう。


この後の事を考えれば、それは余り良い手とはいえない。


俺の考えが正しければ、この動きはこちらを殺害する目的ではないが、

それでもあちこち木々が倒れたような場所では話し合いをするというのは難しいだろう。


俺の考えを証明するように、いくつも生み出された大盾が

俺とジャルダンの間に立ち並び、何かとぶつかり合っていくつもの音を立てる。


その音は軽く、盾に当たった何かがあっさりと地面に落ちるのがわかった。


盾の隙間から見ると、それは矢じりの部分にキャップのようなものがはまった矢だった。


これでは直撃しても目であるとか、特定の場所に当たらなければ

ろくなダメージにもならない。


こちらを試す物にしても、俺の予想以上に手が抜かれている。


(どういうことだ? 殺気のような物も感じないが……)


雨のように降り注いだ矢はいつの間にか終わり、

俺は右手にパパライザーを構え、左側にジャルダンという配置で

高台を向く。


そこにいるのは、陽光らしき光をバックに、

シルエットだけの10数名の影。


エルフか?と俺が問いかけようとしたとき、影のほうが先手を打った。


集団の中央にいた影が数歩前に歩み出るのがわかったのだ。


何が来るか、と身構えた俺の目の前で、予想外の出来事が発生する。


「ふはははははは! 良くぞ我々の攻撃を打ち破ったな、古き者よ!」


おおよそ多くのゲーマーが持つエルフという考えを打ち砕く、

妙に野太い声が周囲に響き渡ったのだった。








「……はっ!?」


余りの出来事に思考が停止したのはどのぐらいだったか。


相手からの反応がないところを見ると、本当に数秒だろう。


目をこらして高台の上、先ほどの声の主を見ると、

突き出た耳、ウェーブのかかった髪。


自然との調和を感じさせるローブにも似た衣服。


ティアラのような、宝石のはまったアクセサリーを身につけ、

堂々と金属の光沢を持つ杖を構える人物。


すべての特徴は俺の知るMDでのエルフのそれと合致していた。


……その鍛えられた体躯を除いて。


「エルフ……でいいのか?」


「む? それ以外の何に見えるというのだ? そうか、初めてエルフを見るのであれば、

 戸惑うのも無理はないか。うむ、恥ずかしがる必要はないぞ!」


俺の問いかけに、豪快かつなにやら斜めにずれた様子で返答してくるエルフ。


立ち位置や周囲の態度からは彼がリーダー格であることは間違いないようなのだが……。


(おさ)(おさ)。そうじゃないでしょう?」


横合いから、こちらはまさにイメージそのまま!なエルフの女性が、

つんつんと長と呼ばれたエルフの脇をつつく。


声を抑えているようだが、妙に静まり返ったこの空間では、

こちらまでぎりぎり聞こえていた。


「おお?……おお! ふははははは! 古き者よ、見るがいい!」


長の合図で高台の上に現れた磔のような太い木。


そこに縄で縛りつけられていたのは、はぐれたはずのキャニーとミリー、

そしてなぜか妹グリフォンだった。


「きゃーたすけてー」


「私たち何も知らないんですー」


「クェー!」


棒読み。


この言葉がこれほど似合うシーンに俺はこれまで遭遇したことがない。


というかグリフォンまで付き合ってるのか?


「???」


「いいんだ、大丈夫だ」


動揺し、俺の横で首をかしげるジャルダンに、俺はそうため息混じりに声をかけ、

なんとか意識を取り直して顔を高台に向ける。


「くそっ! 俺の仲間をどうするつもりだ!」


精一杯、演技をして必死そうな表情と声で叫ぶ。


なにやら長の横にいた件の女性エルフがぺこぺこと

こちらに頭を下げている気がした。


「ふふふ……それはお主が試練を突破できるかどうかにかかっている!

 さあ! 彼らを打ち破ってここまでたどり着いてみせよ!」


長の合図に従ってか、高台の左右から10名ほどの人影が

整った足取りで俺の前に歩み出てきた。


男女の若い見た目のエルフたち。


その手には明らかに魔法が宿っているとわかる、

剣、槍、弓、杖などなど。


「この数……厳しいな!」


必死な表情のエルフたちに、俺はこの光景が茶番なのか、

実は本気でやらなければならない試練なのか、

判断をつけれないまま戦闘に供え武器を構えた。


槍を構えた一人目が間合いに入るというところで先手必勝とばかりに、

一息に踏み込もうと俺が意識したときだった。


なぜかエルフは槍を地面に突き刺し、1歩下がったのだ。


「……え?」


「精霊数当て勝負! 1本目!」


俺がそんな声を上げた瞬間、俺とエルフの中央、

何かのスポーツの試合で言えば主審がいるような位置に、

唐突に一人の老エルフが出現し、地面に突き刺さった槍を手にし、

そんなことを言ってなにやら叫んだかと思うと槍を突き上げた。


途端、槍が輝きだして中から精霊が飛び出てくる。


その姿は光の強いものから弱いものまで、

ざっと見ただけでも40ぐらいはいる。


「さあ、如何に!」


かと思うと、老エルフはなにやら問いかけるように

俺と若いエルフを交互に見る。


(え? 数を言えばいいのか?)


「15ぐらいだ!」


俺が戸惑う間に、若いエルフがそう叫び、真剣な面持ちでじっとこちらを見る。


「いやいや、40はいたと思うんだが」


思わず俺は視線を受け止めながらそう答えていた。


確かに光の強い奴なら15ぐらいだったと思う。


「古き者の勝利!」


なにやら旗のようなものを老エルフがこちらにあげ、

若いエルフはその場に崩れ落ちた。


「2本目! 前へ!」


老エルフの声とともに、次は長剣を手にしたエルフが前に歩みでたかと思うと、

また地面に突き刺した。


「え、何なんだ、これ」


俺の問いかけに答えてくれる相手はおらず、

可笑しな勝負を止める術のないまま、俺は巻き込まれていくのだった。

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