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85「空を求めて-5」

巨木らの大きさだとかはどこかの腐海の底にあるアレを思い出すと

イメージしやすいかもしれません。


グリフォンとヒポグリフ。


どちらもモンスターといえばモンスターなのだが、

見た目は近いようで遠い。


体は確かグリフォンがライオンだったかで、

ヒポグリフは馬だったような気がする。


詳しくそこまで調べたことはなかったが、

いずれにしてもグリフォンと比べると、

ヒポグリフは若干細身というか、華奢に見えてくる。


『まもなくだ。つかまっていろ』


「ん? あ、ああ……」


数十頭のグリフォンやヒポグリフに囲まれながら、

森の中を歩いていた途中、そう声をかけられる。


周りを見るが、ただの森で特に里という雰囲気は見当たらない。


一体、と思って数歩歩いたところで雰囲気が一変する。


日向から急に日陰に入ったときのような、

明らかにそうとわかる、何かが変わった感覚。


だが目の前にはグリンヴェルの巨体だけがある……。


ふいに、そのグリンヴェルが体を動かしたとき、

俺の視界には森が広がっていた。


立ち並ぶのは高層ビルといい勝負ができそうな巨木たち。


太い枝1つ1つをみても、その大きさは目を見張るものがある。


「ここ……どこ?」


「こんな大きな木、外からじゃなかった……よね?」


横で呆然とつぶやかれる姉妹の言葉が、俺の気持ちを代弁していた。


そう、森の広さはともかく、こんな巨木があったかといえば、無かったはずだ。


いや、このパターンはどこかで……。


「……そうか、ドワーフと同じか」


俺のつぶやきに、きょとんした様子の2人に向け、

俺は自分の考えを伝える。


ここが普段の場所とは違う場所で、俺達は

何かを通って別の場所であるここに来たのだと。


『そうだ。我らの里は我らしか入れない。あるいは我らに触れているものだけだな』


グリンヴェルが肯定し、巨木の立ち並ぶ中、

広くなっている場所で立ち止まる。


『ようこそ。人間よ。歓迎しよう』


芝居がかった様子でグリンヴェルがそういうと、

一緒に入ってきたグリフォンやヒポグリフ以外に、

木々の根元からもグリフォンらが現れたのだった。




ヒポグリフの森。


名前のとおり、MDでは単にヒポグリフが多くいる森だった。


グリフォンとの比率はグリフォン2割、ヒポグリフ8割といったところだ。


だが、ここではその比率も半々ぐらいだし、

何よりこんな場所は無かった。


もっとも、俺のプレイできていた範囲でのデータでは、となるのかもしれないのだが。


ともあれ、案内された場所で周囲を見渡していると、あることに気がついた。


(グリフォンとヒポグリフ以外、動物がまったくいない?)


鳥の1羽も飛んでいないし、鳴いていないのだ。


『気がついたか。ここは人間の感覚で言ってもそうは広くない。

 そして、我々以外は入れず、我らもここだけでは暮らせない。

 意味はわかるか?』


「……つまり、食料となる動物がここにはいない」


ぽつりと俺が言うと、グリンヴェルが頷く。


説明によれば、ここは要は家であり、隠れるための基地なのだ。


子供はここで訓練し、育ってから外に出る。


いざとなればここに逃げる、ということだ。


それを証明するように、ここに入ってから迎えてくれた相手は

確かにどちらかといえば小柄で、若いように見える。


「ふわー……どのぐらい高さがあるのかなあ?」


「さあ? ちょっと上るのは遠慮したいわね」


座るように促された巨大な葉っぱを積み重ねた座布団のような物に座り、

人間3人で上ばかりを見上げる。


どこからか陽光が差し込み、森は決して暗くはない。


と、ふと視線を戻した先、

こちらからは通常サイズの木が規則的に並び、まるで

道のようになっているところから鞍を背負ったままのグリフォンが

もう1頭を連れて現れる。


グリフォンの兄妹の親……らしいグリフォンだ。


まだ足元がおぼつかないようだが、自力でこちらまで歩いてくる。


『無事だったか』


『子供と伴侶を残して先に逝く訳には……とはいえ、

 そこの人間がいなければ危なかったろうさ』


俺たちの目の前で、グリンヴェルと親グリフォンが会話する。


互いの声に混ざる感情、ここから導かれる答えは1つなのだが……。


「あんた、雌だったのか? それにしちゃ声がこう、あれなんだが」


半ば呆然と俺がつぶやくと、親グリフォン、ずっと声の感じから

雄だと思っていたが、雌だったらしい相手がこちらを向く。


『ああ。正確には我らは人語を話しているわけではないからな。

 ほれ、ちゃんとこちらが雌だと強く意識して聞いてみるがいい』


言われるがままに、馬鹿正直にこのグリフォンは雌、と思ってみる。


『どうだ?』


「……驚いたな。急に声が高くなった」


そう、先ほどまでの重厚な渋い声から一変し、

どこかハスキーではあるが、女性だと思える声に親グリフォンの声が変わったのだった。


「へー、古代魔法って面白いのね」


「そういえば、みんな名前ってあるの?」


親グリフォンは最後のミリーの質問に頷くようにしてこちらの

目の前までくると、じっとこちらを見た。


『ああ、あるぞ。本来なら契約のときぐらいにしか人間は知ることはない。

 ……もっとも、そこのでかいのはうっかり叫んだようだがな』


じろりと、親グリフォンはグリンヴェルをにらんだような気がした。


確かに、MDでもグリフォンはグリフォンだし、

ヒポグリフはヒポグリフであった。


ばつが悪そうなグリンヴェルをよそに、いつのまにか周囲には

宴会でもするように果物や肉などが集まってきた。


『コホン。諸君、ご苦労。知ってのとおり、我らを脅かしていた輩は退治された。

 ここにいる3人の人間の協力もあってだな。ゆえに、今日は祝おうと思う』


グリンヴェルの声に、周囲から歓声とわかる鳴き声が響くのだった。


音頭もそこそこに、宴が始まる……のだが。


「ちょっと生肉は辛いな。焼いてもいいか?」


『焼く、か。我々にはない考えだな。見せてもらえるか?』


グリフォンたちには人間のような手はなく、食べるときもくちばしで

つつく、噛み付くということになる。


つまり、料理という考えはないのだった。


俺はキャニーとミリーを見、頷きあって荷物から火起こしのセットを取り出す。


ただ単に燃やすだけなら初級の魔法を使えばいいが、

俺の制御では丁度いいような弱さの火というのは難しいのだ。


まずは、とバーベキューのセットのように木を組んでいく。


巨木以外の木も普通にこの場には生い茂っており、

その枯れ枝といったものもそれなりにあったのだった。


『ほう……』


周囲の喧騒の中、てきぱきとくみ上げていく姿に興味を引かれたのか、

グリンヴェルが覗き込んでくる。


「グリンヴェルは長く生きてるんだろう? このぐらいは見たことがないか?」


『我らは怪物と同じ。あまり人間の元にいることはないからな……』


少しさびしそうなグリンヴェルの答えに沈黙しながら、

俺は作業を続ける。


小一時間もしないうちに、専用のセットで起こされた火により、

赤々とした炎がヒポグリフの森の中に産まれた。






『そうか。エルフの……な』


「ああ。本当に何かが起こるとは思いたくはないが、な。

 それに、あいつのような化け物があちこちに出てくるようなら、

 1人の英雄じゃあ足りないからな」


グリンヴェルの何かを思うような声を気にしながらも、

俺は手の中の果物を遊ぶようにしながらも一口かじる。


味はレモンに近い、すっぱさを感じるものだった。


離れた場所でぱちぱちと木がはぜる音が森に溶け、

後には焼かれた肉の味に魅了されたグリフォンとヒポグリフの声が残る。


キャニーとミリーはせかされるように、そこで次々と肉を焼き、

どんどんと渡しながらもお気に入りらしいそのぬいぐるみのような

グリフォン達の感触を楽しみながら笑っている。


『ゆえにエルフの技を学ぶ、か。伝説でも作り出す気か?』


そちらに視線を向けていた俺の意識を戻すように、

親グリフォン、名前はチェイミーというらしい、がからかうようにつぶやいてくる。


「それもいいだろ?」


『大きく出た物だな。だがまあ、古代の技が人の手によってよみがえる、か。

 いや、お前にとっては蘇らせるのではなく、伝える、というところかな、ファクトよ』


ぴたりと、そのグリンヴェルの言葉に俺は口をあけたまま止まる。


彼らには自分のことはそこまで話していないはずである。


「……何故?」


『我らですら口伝でしか知らぬ技よ。それに、

 ファクトから感じる魂の波動は、今の時代の我らとはどこかが違う』


『だからといってどうというわけではない。が、礼をするのに気楽にはなったな』


緊張している俺に対し、グリフォン2頭はどこか陽気に答え、

それに続くようにどこからか小さな声が聞こえた。


そちらを見ると、鳥の巣をそのまま大きくしたかのような場所に、

グリフォンが一頭、座り込んでいた。


その姿は卵を温める親鳥のようだが、さて?


「グリフォンって卵生だったのか?」


『正確には卵生ではないがな。見てみよ』


疑問を浮かべながらも、言われるままにその巣に近づくと、

想像通りというべきか、車のタイヤほどもある大きさの卵が5個見えた。


だが、卵を温めているように見えたグリフォンだが、

イメージと違い、卵を抱えているような様子は無く、

まるでただ見守るだけのようにも見える。


卵の内1つは既にひび割れており、中から小さなグリフォンが顔を出していた。


その姿はいわゆる雛鳥のようなものではなく、

既に姿自体は成長したグリフォンのそれと代わりが無い。


その意味では卵生の物とは違う。


『1つ破片を手にとって見ろ。それでわかる』


「殻の破片を?……!?」


グリンヴェルに促されるままに破片を手に取った俺は、

虚空に浮かぶウィンドウの情報に驚愕する。


ただの卵の殻のように見えたそれは、強力な風属性を持った素材だった。


『精霊の加護と伝わっているそれはな、子供を産まれてすぐの害悪から守る壁であり、

 最初の食事として自らの中に吸収する物なのだ』


チェイミーのいうように、産まれてすぐのグリフォンが

まるで餌をついばむ小鳥のように、だがサイズ的にはかなり豪快に、

殻を一心不乱に食べていた。


「だが、俺がこれをもらうわけにはいかないだろう? この子の物だ」


俺がそっと破片を戻すと、グリフォンの子供はそれもすぐさま食べ、

満足したように動きを止め、眠りについた。


『心配はいらぬ。ほれ、その右端のは中身がおらん』


『元々余分に産むのだよ。たまに食欲旺盛な子もいるのでな』


グリフォンの口調が妙に芝居がかっているようなものなのは、

俺の意識の問題かもしれないが、とにかく声質が違うだけで

同じような口調で左右から言われ、半ば混乱しながら右端の卵に手を伸ばすと、

その冷たさに驚いた。


確かに、他のと比べれば一発だ。


巣にいたグリフォンはこちらが子供を害するつもりがないことを

わかっているのか、落ち着いた様子でこちらを見ている。


『それごともって行くがいい。ただの人間では使い道は無いが、

 ファクトならば何にでもなろう』


グリンヴェルの言葉に、思ったより軽い卵をそのまま両手で

持ち上げながら、俺はその情報に目を通していた。


かなり壊れやすく、気を抜けば割れてしまう強度しか持たない。


細かくなっても力は失われないようだが、そうとなれば武具には使いにくい。


「専用の容器に入れてアクセサリーがいいか」


俺はそう結論付け、グリフォンの卵を手に入れたのだった。








『本当はな。世界はもっと精霊にあふれていたのだ』


夜も更け、宴もほとんど終わり、いつの間にやら

キャニー達や若いグリフォン、ヒポグリフたちは

そこらで雑魚寝の状態になっていた。


「精霊戦争……か?」


『ああ……そして数百年前の事件だな』


グリンヴェルらが言うには、精霊戦争後、

やはり大きな戦争があったらしい。


古老の庵が産み出した武器を持った英雄を巻き込んだ戦争。


武器に飲まれた英雄が戦争を起こしたのか、

戦争があるから英雄が飲まれたのか。


それは今となってはわからないし、意味が無い。


ただ、モンスターと、人間と、どちらにも

付いていなかった勢力すら巻き込んだ戦いがあったのは事実なのだ。


そこには魔法が飛び交い、技が飛び交い、世界は消耗した。


いつしか担い手は討たれ、知識は失われたという。


『精霊はそう簡単には戻らなかった。理由は良くわからぬ。

 精霊が悲しんだのかも知れぬし、禁断の技が精霊を消したとも言われる』


『この世界はその意味では若いのだ。新しい時代の精霊が大地を満たし、

 空を舞い、万物を巡る。そういうことだな』


何歳生きているのか、を聞くでもなく、

朗々と語られる内容に俺は頷き、ぼんやりと上を見上げる。


木々の隙間に、時折見えるのは星。


「どうなるかわからないが、やっぱりさ、笑顔って大事だと思うんだ」


『ふん……我らの笑顔はわかりにくいぞ? ムグッ!?』


声の主はグリンヴェル。


終わりの声の理由は俺が黙って焼けている肉を口に放り込んだからだ。


さめてもなお、生肉とは違う感触にか、

満足そうに咀嚼した様子のグリンヴェル。


『……お前たちが行けばこれも無しか。寂しいものだな』


「なんだったらオブリーンに話を通してみようか?」


話せばわかりそうな相手だしな、と付け加える。


『我らが人の領域に踏み込んでいたのは事実。そう簡単にはいかないだろうが、

 申し出は受け取っておこう。だが、まずは契約だろうな』


横合いからのチェイミーの言葉に俺も目的を思い出し、頷く。





しばしの相談の末、結局契約相手となるのはグリフォンの兄妹であった。


兄、ジャルダン。そして妹分。


どちらかというと妹分は外での経験をつませたいようだった。


そして、空を飛ぶ朝がやってくる。

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