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拾った石を投げるだけ

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/20

夜のコンビニは、いつ来ても同じ顔をしている。

白すぎる蛍光灯と、誰の感情も反射しない床。

彼は缶コーヒーを手に取り、棚の前で立ち止まっていた。


昼間、職場で聞いた会話が頭から離れなかった。

誰かが、どこかで読んだような言葉を、さも自分の体験から絞り出したかのように語っていた。

語尾の癖まで、ネット記事と同じだった。

それを聞いていた周囲も、どこかで見覚えのある相槌を打つ。


誰も悪気はない。

ただ、借りてきた言葉が、借り物だと気づいていないだけだ。


彼は思う。

この世界では、意見はもう「持つもの」じゃなくて「拾うもの」になったのだと。

落ちている言葉を拾い、磨かず、温度も測らず、そのまま口に放り込む。

それで会話は成立するし、孤立もしない。


それでも、と彼は考える。

なぜみんな、バレないと思うのだろう。


ネットが世界を覆い尽くした今、同じ言葉を見た人間は何万人もいる。

同じ表現、同じ比喩、同じ結論。

それを自分だけの考えだと言い切るには、この世界はもう狭すぎる。


レジの前で、前に並ぶ若者が友人に話している。

昨日バズっていた意見を、少しだけ言い換えて、胸を張って。

その顔は、操られていることにすら気づかない人形みたいだった。


自我のない傀儡。

彼は心の中でそう呼ぶ。

糸は見えないけれど、確かに引かれている。

怒るべき話題で怒り、笑うべき場所で笑う。

考えた「フリ」だけが上手くなって、本当に考ることは、どこかに置き忘れてきた。


会計を済ませ、外に出る。

夜風が、思ったより冷たい。

その冷たさが、唯一、自分の感覚だと感じられて、少し安心する。


彼は自分に問いかける。

自分の言葉は、本当に自分のものだろうか。

どこかで拾って、どこかで真似て、どこかで嘘をついてはいないだろうか。


完璧なオリジナルなんて、きっと存在しない。

それでも、自分の中で一度噛み砕いた言葉だけは、まだ信じてもいい気がした。


傀儡になるのは簡単だ。

糸を切るのは、痛みが伴う。

だからこそ彼は、今日も少しだけ考える。

誰かの意見ではなく、自分の違和感を。

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