大好きな人 〜 彼がくれた幸せの物語 〜
初めての短編恋愛小説です。
大好きな人に会えない寂しさや、誕生日に訪れる幸せを「凛」の目線で描きました。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
「最近、大ちゃんと全然会えてないなぁ…」
私はスマホの画面を見ながら、ため息を吐いた。
迷いながら、彼に電話してみる。
すると、3コールで聴き慣れた低めの声が受話器の向こうから聞こえた。
「もしもし、凛?」
「もしもし、大ちゃん?今日もバイト?」
「うん…今日は午後の授業が休講になってさ、バイト先の人から変わって欲しいって、ちょうど連絡入ったから。」
「そうだったんだ。 今、休憩中?」
「うん、凛は?今家?」
「うん、休めなくなっちゃうね。切るね。」
大輔の声を聞いて安心したのと同時に、彼の姿を思い出しながら、胸の奥に小さな不安を感じた。会いたいよ…その言葉を飲み込んだ。
「そっか、ごめんな、じゃあまた連絡する」
「うん」
私は電話を切った後に大輔の少し掠れた声を思い出し、悲しい想像がふわふわと浮かんでくる。ーー彼は疲れてた?それとも私のこと面倒くさい?考えるほど、ぐるぐると不安な気持ちが駆け巡っていく。
私と大輔は、友達の紹介で付き合い始めた。大輔は大学生で私はフリーター、付き合ってもうすぐ1年。
私の恋愛経験は少なくて、大輔の前に付き合った人は1人だけ。比べるわけではないけれど、大輔は前の彼氏と違ってすごく大人だと思った。
一緒にいると、”好きだよ”とか”凛は可愛い”とか、素直な愛情表現をたくさんしてくれる。だからというわけではないけど、私自身も大輔の前だとすごく素直でいられた。
映画を見に行った時、私が「アイスホッケーって、この映画で初めて見たけど、本当の試合見に行ったらもっとすごいのかなぁ!?」と話すと、アイスホッケーのチケットを買って、「一緒に見にいこう」とすぐに連れて行ってくれた。
私の好きなものや、興味があることは一緒に好きになりたいし、楽しみたいんだといってくれる。
どんどん、好きになっていく。私の気持ちばかりが大きくなっていく…
今日は久しぶりの、大ちゃんとのデートだ。私は身支度を整えた後、何度もスマホの時間を確認してしまう。
「大ちゃん、そろそろ着くかな」
迎えの時間の5分前になると、待ちきれずに玄関の外に出た。
そして待ち合わせの時間より少し前に、大ちゃんの車が到着した。
「お待たせ!」
「ううん!待ちきれなくて、早く出てきちゃっただけだから!」
私は車に乗り込むと、やっと会えた喜びから彼の顔をじっと見つめてしまう。
「少し、痩せた?」
「んーどうかなぁ。変わってないと思うけど」
「そっか。疲れたら言ってね。」
「ありがと。大丈夫だよ」
そう言って、優しく私の頭を撫でてくれた。
「じゃあ、出発するか!」
彼がちょっと子供っぽい表情で無邪気に言った。
一重なのに、何故かぱっちりした目を細めながら。
「うん!」
私たちは、海沿いをドライブして、途中のレストランで食事を済ませた。彼はまた少し、車を走らせ、景色が綺麗に見える場所まで移動する。
すると、少し真剣な表情で、彼が話し始めた。
「凛、最近あんまりゆっくり会えなくてごめんな。」
「うん…何か、あったの?」
「俺考えたんだけど、凛と一緒に暮らしたいんだ。」
「え…?」
突然のことに、少し驚いた。それより、嬉しかった。嬉しすぎて、なんと返事をしていいかわからないと、言葉に詰まった。
また彼が話し始めた。
「だけど、そのためにはやっぱり、暮らし始めるには金がいるから。最低100万くらいは貯めようと思ってる。だから今、ちょっと無理してでもバイト増やして金貯めてるんだ。だから、これからもまだ寂しい思いさせちゃうと思うんだけど…」
「うん…」
「でも、凛とは同じ家に帰りたいんだ。会って、ご飯を食べて、じゃあバイバイ、じゃなくて。一緒に家に帰って、朝はおはようって言って、俺が朝ご飯を作る。帰ってきたら、凛がおかえりって言ってくれる。――そんな毎日にしたい。凛は、どう思う?」
「それがいい…私もデートした後、大ちゃんと違う家に帰るの寂しいから。」
「じゃあ、凛も寂しくても我慢できる?俺は凛と暮らすためだったら頑張れるよ」
「うん、頑張る」
「ん…じゃあ、今日は帰るか。俺も明日大学もバイトもあるし。」
「うん!」
私は返事をした後、胸が苦しくなるほど幸せな気持ちでいっぱいになった。
それからの彼は、本当に忙しい毎日を送っていた。元々バイトしてた飲食店以外にも、引っ越し屋のバイトの掛け持ち、大学にも行っていた。
会えるのは、彼がバイトに行く前の数時間とか、バイトの後に少しだけ。そんな短い時間でも、私は大ちゃんに会えることが嬉しかった。
ある日の夜、彼がバイト帰りに「ちょっとだけ顔出すよ」と私の家まで迎えに来てくれた。
「眠くない?」と聞くと「大丈夫、大丈夫」って笑ってくれたけど、車の中で話しているうちに、彼のまぶたがだんだん重そうに下がっていった。
「大ちゃん…寝ていいよ」
そう小声で言った瞬間、彼は私の肩にもたれてコトンと眠ってしまった。
穏やかな寝息を感じながら、胸の奥がきゅっと温かくなる。(無理…させちゃってるなぁ…)
ほんの十数分の時間だったけど、その寝顔を見守っているだけで、彼がどれだけ私のことを大切にしてくれているかが伝わってきた。
たまにバイトの休みがあっても、疲れている彼のためにあまり長い時間引き止めたりはできなかった。私は空いた時間にお弁当を作って、彼のバイト先に届けたりして、少しでも支えになろうとした。
食費の節約にもなるし、自分も無駄遣いしないように貯金を増やして、彼と協力していこうと心に決めた。
そんな日々の中、ある日部屋でふとカレンダーを見る。6月…。6月は私の誕生日。
今年は付き合って初めて迎える誕生日だ。できれば一緒に過ごしたかったけど…
ちょっと寂しい気持ちと、自分と暮らすためにと頑張りすぎている彼を心配になる気持ちを抱えながら迎えた誕生日前日。
トゥルルルルー、トゥルルルルー
スマホの画面を見ると、彼からの着信だった。少し期待してしまう。
「はい、もしもし」
「凛、あんまり連絡できなくてごめんな。」
「ううん、どうしたの?」
「凛、明日会える? バイト、休みなんだ。」
「うん!私も明日、バイト休みなんだ。土曜日だけど…休みなの!」
「うん、明日の朝9時に迎えに行く。ちょっと早い?」
「ううん。早くない!待ってるね。」
誕生日に大輔と会える。私は電話を切った後、スマホのカレンダーの予定表に書き加えた。
6月14日 朝9時〜大輔とデート。私の誕生日。
覚えていてくれたんだ…
ー 誕生日当日 ー
「凛、誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
私たちは笑い合った後、車に乗り込んだ。
「まずは、遊園地に向かいまーす!」
「えぇー!うん!たのしみぃ!」
私たちは遊園地に向かった。
午前中は人もそんなに多くなく、乗りたかったアトラクションをいくつか堪能した後、フードコートでジュースやポップコーンにフルーツパフェ。
私が好きな、ちょっとジャンキーな食べ物で軽くお腹を満たした。
午後はゆっくりジェットコースターの待ち時間も会えなかった時を埋めるように、お互いのバイトの話や、大輔の大学の面白い講義をしてくれる先生の話をしたり、私には十分過ぎるほど最高の時間だった。
辺りが暗くなり始めた頃、彼が言った。
「凛、そろそろお腹すかない?」
「うん…何か食べる?近くになんかお店あったっけ?」
「実は…今日はお店予約してるんだよね」
彼が得意げな笑みを浮かべながら、握っていた手をぎゅっと握りしめた。
「えぇー!予約!?嬉しい!どんなお店?」
「着いてからのお楽しみ」
大輔がまた得意げに笑いながら、握っていた手をプラプラ少し揺らしながら駐車場を指差した。
遊園地を出て、20分くらい車を走らせると、テラス席のあるレストランが見えてきた。
「あそこの店だよ。」
「へぇーなんか、おしゃれだね」
「行くか。」
「うん」
店の中に入ると、アジアンテイストでおしゃれな雰囲気の店内だった。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
「はい、予約した後藤です。」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
窓際の”RESERVED”と札のある席に案内された。
私が窓際の席に座ろうとした時、「凛」と腕を引かれ窓際ではなく、通路側の席に座るよう目で合図された。
少し不思議に思いながら私が席に着くと、大輔も同じように通路側に座った。
すると店員さんが、にこやかに笑いながら私に呟いた。
「彼氏さん、さすがですね。」
「え…」
「こちら側からだと、綺麗な夜景がよく見えますから。」
「あ…はぃ」
そういうことだったんだ…大ちゃんかっこよすぎだよ…
感心しながらふと、席から見える外の景色に目をやると、水辺に映る月明かりが輝いて、その後ろには高層ビルの明かりや、大きな観覧車の電飾が色を変えながら光っていた。
「わぁ…綺麗だね…」
思わず、声を上げて大輔の方に顔を向けると。
「気に入った? 凛と一緒に来てみたかったんだ。この店」
そう言って、にっこり笑ってくれた。
その後メニューを見て二人で気になる料理を注文して、分け合いながら楽しく食事をした。
料理に満足して、私が一人水辺を眺めながら余韻に浸っていると、
「ちょっと、お手洗い行ってくるね。」
大輔が席を立った。
しばらくして席に戻った大輔が、食後に紅茶かコーヒーを飲もうと注文した。
飲み物を待っていると、少しして女性と男性の声が聞こえてきた。
ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー
……………ハッピバースデーディア 「凛」ハッピバースデートゥーユー
元々暗めだった店内に、店員さんの運んできてくれるホールケーキに灯っているろうそくがキラキラ揺れていた。
私たちの席にケーキが到着し、歌が終わった頃には、店内の他のお客さんまで一緒に手を叩いて、口々におめでとうと声を上げてくれていた。
私は恥ずかしいやら、嬉しいやらで半泣きしながらろうそくの火を吹き消した。
「お誕生日おめでとうございます。ケーキをお切りしてまいりますので少々お待ちくださいませ。」
そう言ってもう一度店員さんがケーキを持ってカウンターに向かって行った。
「はぁ…びっくり…大ちゃんありがとう」
「凛、誕生日おめでとう。来年の誕生日も一緒にお祝いしような」
「大ちゃん、私.…すっっっごい幸せっ」
切り分けてもらったケーキを食べた後、ケーキのサプライズを用意してくれた店員さんたちにお礼を言って、にこやかにお店を出た。
「さぁ、じゃあ最後に!近くの公園、夜景も綺麗に見えるから散歩しに行こうか。」
「うん。」
かっこいい性格に似合わない、少し小柄な背中を見つめながら、大輔の後を歩いた。
「あそこのベンチに座ろう。」
「うん」
「店で渡そうと思ってたんだけど、これ誕生日プレゼント」
「え…今日こんなにたくさんしてもらったのに誕生日プレゼントまで…ありがとう…」
「開けてみて」
「うん」
手のひらサイズの包みを丁寧に剥がして、箱を開けてみると、ハート型の飾りがついたネックレスだった。
「そんな高いやつじゃないけどね…」
「可愛いね!嬉しい。ずっとつけとく」
「これからはバイト、今ほどハードにはしないよ。誕生日にたくさん凛を喜ばせたかったから、ちょっとやりすぎた。」
「え…じゃあ、今日のためにあんなにバイト増やしてたの?」
「まぁ…思いつくこと全部してやりたかったから。でも今のままだと、全然凛と会えなくなって、俺も耐えられそうにないしね」
「うん…ありがとう。でも…それ聞いて少し安心した。すごい心配だったの…私もバイト頑張るから、ゆっくり準備しよう。」
「そうだな。」
私の肩を抱き寄せて、私の頭の上に顔を乗せると、
「大好きだよ。凛。」
と囁くように言ってくれた。
彼は、私の大好きな人。
ずっと一緒にいられますように…
この物語は彼氏目線でも描いています。後日、別作品として投稿予定ですので、合わせてお楽しみいただけたら嬉しいです。