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over the sky  作者: ゆほ
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Thursday Physical Education  いつか超えてくるもの

これから体育だというのにしかも寒い中の1,000m走。


1,000mを完走するための体力を温存するべく、登校してからは疲れないように過ごしていたのに、更衣室に入った途端私の全ての気力が失われた。



「昨日宮本くん部活休んでたよね?藍沢さん一緒だったの?」


いつもは絡まない子が話しかけてきた。確かバスケ部の誰かのファンで欠かさず練習を見に行っている子だ。


「えーっバスケ部厳しいし確か試合も近いのに宮本くんも気合い入ってるね」


これも絡みのない子。気合いってなんですか?


「奈穂達どっか行ったの?」


そっちに回った?千佳が楽しそうに聞いてきた。まぁ千佳ならそうするだろうなぁ。


「いや、特には」


この発言を受けて叫ぶように会話に入ってきたのはどうやらさっきから聞き耳を立てていたらしい隣りのクラスの女子達。


「えーっだって明日まででしょ?お付き合い、っていうか明日まででいいの?」


「ほーんともったいないよ」


「あれ?確か途中で好きになったら続行だよね?」


体育って2クラス合同だから、更衣室に隣りのクラスの女子がいるのは当たり前なんだけど、昨日の話しを聞いただけの隣のクラスの子達までから、やいのやいのと言われ疲れきってしまった。




グラウンドに出ると男子の方は高跳びの用意をしていた。


女子の方は計測だから2人一組になる。二人の内の一人が一斉に走って、もう一人はゴールした時のタイムを確認しておく、次はその逆になる。


私は千佳と組んだ。そして先に走ることになった。


今日みたいに寒い日は走っている方が暖まりそうかな。


グランドの真ん中で、男子が順々に跳んでいる。その外側を女子が走っている。


走るって単調だから自然と男子の様子を見学してしまう。





あっ宮本の番だ。


宮本がこっちを見たから目が合ってしまった。


にこやかに片手をあげてきた宮本。


思わず顔をそむけてしまった。


私の近くを走っていた他の女子達が「キャー」と黄色い声を上げた。



何やってるの早く跳びなさい。


心の声が聞こえたわけではないだろうが、宮本が助走し始めた。



ゆっくりと、それでも高く跳べるように力を貯めて行くような走り。


勢い込めた最後の踏み込みで宮本が跳んだけど、バーが落ちてしまった。


超えられなかった。


私達がグラウンドを走っている間に宮本は何度かトライしているがいずれも失敗。


それにしてもあれ高さどれくらいあるんだ?


けっこう高いような気がするけど。



「奈穂っ」


千佳の声がしたけど私は残り1周を懸命に走った。


でも宮本からも目が離せなくなっていた。


苦しいけど次に宮本が跳ぶときあのバーを超えられるような気がしていて目がそらせなかった。


宮本の助走が始まった。


走り方はこれまでと同じ、でも今までの中で一番力が溜まって行くように感じた。


宮本が跳んだ。


彼の後ろには寒い冬の澄んだ青空だけが見えた。


綺麗だと思った。


こんなに綺麗なものはずっと見ていたいと思った。


今度はバーは落ちなかった。


彼は超えていった。


私もゴールした。




「奈穂っ何やってるの!?」


「えっ?」


ゴール地点で息を切らしていると千佳が叫びながら私のそばへやってきた。


「1周多く走ってるよ。」


「うそっ?」


まさか・・・でも絶対違うという自信もなかったりする。


「まさか宮本に見とれてたとか?」


「違うよぉ。本当に今がラストだと思ってたの」


宮本がクスクス笑いながらこっちを見ていた。どうやら千佳の声が聞こえたらしい。




彼はいつか何事も超えてしまう。




そう確信した。



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