Wednesday Lunchtime お試し期間は金曜まで
春なのに冬のお話書きました。お楽しみいただけたら幸いです。
高1の3学期、嬉しいことに窓際の席をゲットした。しかも後ろから2番目。親友の千佳は昼休みは隣りのクラスの彼氏と一緒に過ごすことにしていて、私は他の友達と一緒に食べているが、昼休みの後半は大抵音楽を聴いて過ごしている。
高校生になって合格入学祝いに携帯を持たせてもらったけど、携帯電話にパソコンからCDの音楽データを移すことが出来るから、昼休みに限らず登下校の時なんかも、お気に入りの曲を携帯で聴いている。
今日も昼食を終え、音楽を聴こうとイヤホンを携帯に取り付けていたら、急に自分の上に影が出来た気がして私は上を向いた。
私の前に立ちはだかっていたのは校内でもイケメンで有名な同じクラスの宮本圭祐だった。
「藍沢話しあるんだけど、ちょっといい?」
話ってなんだろう、10月の体育祭のことかな、あんまりクラスの得点稼ぐ役に立てなかったし、宮本は体育祭の実行委員だったから、それにしても年が明けてから苦情ってどういうことよ?
「いいよ。ここで話しちゃってよ」
そんな嫌な話しは早く終わらせて音楽聴きたいしね。
「いや、ここじゃ」
妙に歯切れの悪い宮本、よく知っているわけではないが、らしくないなぁと思った。
「構わないよ」
用意しかけた音楽を早く聴きたいのに。宮本が肝心の話しをしてくれない。
「そうじゃなくて」
「何?」
宮本と同じバスケ部所属のクラスの男子が何故かこちらをニヤニヤ見ている気がした。なんだ?
宮本も男子の方をチラッとだけ見て、それから少し考えるような顔をした。
どうやら過ぎた体育祭の苦情ではないらしい。
「付き合ってくれ」
「えっ?それは無理」
突然言われて、とっさに断った。あれ、でも付き合ってくれって宮本が私に告白するわけないから違う意味だよね。ってちょっと冷静になった。
だって宮本って週に1回以上は告白されているんだよ。正門で余所の高校の子が待ち伏せていることもたまにあるしね。
その上私とは入学してからほとんどしゃべったことないんだから。
マジの告白なんてありえない、ありえない。
「なんで?彼氏とかいるのか?」
予想を大きく覆して、宮本は引き下がらなかった。
「・・い、いないけど」
やっぱ告白なのか?宮本が?私に?なんだか腑に落ちないから嘘でもいると言った方が良かったかなぁ?
「だったらとにかく一度俺と付き合ってくれ!」
「どう、して・・・?」
「どうしてって、藍沢と親しくなりたいって思っても、お前帰宅部だし委員会とか入んないし、挙げ句登下校で声かけようとしたらいつもイヤホンして俺が声かけても全然気がつかないじゃないかっ!」
「いやっ、それは・・・」
しゃべったことないのは私が音楽聴いてばっかりだったから?申し訳なかったと言ったら、お付き合い?いやそれはどうにも・・・
「試しに1ヶ月とかでいいから俺と付き合ってくれ」
「1ヶ月!?」長いよ〜
「じゃあどれくらいならいいんだ?」
出来たら土日は避けたい。出来たらその前までで、
「こ、今週いっぱいってのは?」
私がそう言ったら教室中から「短すぎ〜」とブーイングの嵐。いつの間にかクラス中が私と宮本のやり取りを注目していたらしい。
なんでみんな聞き耳立ててるのよ!
宮本が眉間にしわを寄せて黙っている。確かに今日は水曜日、今週いっぱいなら3日もないのだ。短いと言えば短い。私ってばやなやつってことで諦めてくれるかな。
「分かった。今週いっぱい付き合ってくれ。」
うそっ!
「金曜までに俺と付き合ってもいいって思えるようにしてみせる!」
その前向きな姿勢はなに??
ちょっと自虐的だけど、私にそれほどの意気込みを見せる価値があるとは考えにくいですが・・・
「その代わり金曜までに俺のこといいって思ったら正直に言えよ」
「わ、分かった」
完全に圧倒されてしまった。現実的に考えたら、金曜までに宮本の方にその気がなくなると思うんだけど。
「じゃあ今から宜しくな!」
宮本はなんだか楽しいことをしているような嬉しそうな顔で私の頭を撫でて、友達のところへ戻って行った。
男子が「良かったな」とか「頑張れよ」とか言ってる。
宮本もどういうわけがガッツポーズしている。
女子の方も宮本に告られてなんで即OKしないのぉと言いつつも興味津々て感じ。
どういうわけかクラス全体の雰囲気は完全に宮本応援体制だ。
何も知らない千佳が慌てて戻ってきたときチャイムが鳴った。
結局、一曲も聴けなかったよ。