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Episode2  やがて大きな衝撃へと変わる小さな波紋——— 中編

「お疲れ、どうだった?」


「ありがとうございますリーヴさん、これから大事に使わせていただきますね」


「ミナヅキ―、今度競争しようぜー」


「あー、私もー!」


「分かったから、もう少し使い慣れてからな」


 二人を嗜めつつブルームを持ったまま店員に預けていた荷物を返してもらいながら、さらにブルームの取扱説明やら保険やら保障などがみっちり書かれた書類の束まで受け取り、ひとしきり説明を受けて両手がふさがりながらリーヴさんのところに戻ると少し時計を見ながら落ち着かない様子だった。…おそらくだけど朝言っていたもう一つの用事に関することか、もしくはお昼の準備だろう


「遅くなってごめんなさい、俺このまま戻れないので買ったもの運びますよ」


「ごめんねぇ、それじゃあすぐ畑に向かいましょ」


 …?畑の方?一旦家に持っていくとか、それぞれの家に届けるとかじゃくて畑行くんだ…。そんなことを気にしながら駆け足で急ぐリーヴさんやランのお母さんを追いかけるようにお屋敷の広場から飛び出し、焦るあまり折角買ったブルームに乗ることなく息を切らしながら荷物を持って駆け足で追いかけ続けた。

 村の囲いを出るころには、今度はこっちにも人だかりが出来ているのが見えた。その殆どが農業グループのメンバーで、後は見覚えのない人がちらほら…そんな中に先ほど屋敷前では見なかったヴィレインさんの姿があった。そしてそんな人だかりと同じ頭数ほどの家畜竜…『アトネムイゴラグーン』がいた。

 アトネムイゴラグーンは俺がこの世界で初めて見た…と言うか嫌でも目にしてしまったドラゴンでこの村で数百匹ほど飼われているここでは最も数の多い家畜だ。高さは1.6m、全長は2m程もある翼がなく首と尻尾が長めな草食竜だ。俺も数日ほど手伝いでこいつらの面倒を見てきたことがあるが非常に大人しく人に慣れており、なんとなく牛みたいだったがこいつらは食用家畜ではない。こいつらは飼葉を喰わせるときに一緒に手頃な石を喰わせることでその石が時間をかけて『魔石』と呼ばれる魔力を持った石に変化し、それを〈回収〉するといい値段で買い取ってくれるとのことらしい、『魔石』はありとあらゆる道具につけられて人の魔力無しに様々な種類の便利な道具に使われるため帝国では大量に入手するために、近年でこのアトネムイゴラグーンの畜産が盛んになったって話だ。ちなみに俺は〈回収〉が嫌すぎて畑仕事中心で仕事をさせてもらっている。だって、触りたくねーんだもん、うn———……

 とまぁ少しだけこいつらの嫌なこと思い出しながらも荷物を持ったまま到着すると、マートンさんを含めた何人かのメンバーが俺に気付き近寄って、荷物を受け取ってくれた。


「すまねぇな。急いで荷物運んだだ。もっとゆっくり来ても良かったべぁ」


「い、いえ…それで、今これは何をしてるんですか?」


「んだべ、今日はこっつらのもう一つの稼ぎの日だべ。気ぃしっかり持ってみとけよ」


 すると先ほどまで俺達が今朝収穫をしていたピートを貪り食っていた一匹が、人だかりまで誘導される。人だかりの近くには明らかに気になりまくるの巨大な機械と、一回り小さな機械にタンクのようなものがセットで置いてある。その人達は書類を持ってひとしきりゴラグーンを調べると、なんと機械から伸びる一本の白い管を取り出し、その先端をゴラグーンに突き刺したのだ


「えっ、ちょ!えっっ!?」


 ピィィィっとゴラグーンの悲鳴が響き渡ると白い管は真っ赤に染まり、その管の先にあるタンクに…ゴラグーンの血が入っていってるのだ。


「おーい、大丈夫かミナヅキ。気持ち悪くなったら無理してここに居なくてもいいぞ?」


 ふと気付くとウルヴァが俺を心配しにわざわざ近寄ってきてくれていた。


「い、いや…大丈夫。てかあれって、血を抜いてるんだよな?」


「あぁ、こいつらの血が高く売れるんだってさ」


「へぇ…輸血に使うのか?」


「残念ながら、ゴラグーンの血には人間の数倍もの魔力が含まれているしそもそもゴラグーンの血はゴラグーンにしか輸血できない。人には適応しないんだ。これは著者マゴリル医学研究第一人者の論文『人間に輸血できる血を持つ家畜は存在しないのか?』で既に結論が出ているんだ。異界人さん」


 ウルヴァとの会話に割って入ってきたのは、明らかに俺達畑で仕事をしている人間ではない、少し装飾の有る濃い茶のローブを着た、上品な恰好をした俺達とだいたい同い年くらいの祖人種のそばかすの目立つ男だ。なにより、俺がそもそも一か月この村で生活してきた中で一度も見たことがないのだ。


「紹介するぜ、こいつは隣村クザミメの医者兼獣医のトーマス先生の息子のトレイスだ、トーマス先生はこの村の家畜の健康チェックしたり、獣害用の罠をセットしてくれた兵爵でもあるんだ。んでトレイス、こっちがさっき話していた異界から来たミナヅキだ。18歳って話だが向こうの世界では一年の長さが短いから多分俺達と同い年だぜ」


 ウルヴァの紹介をはさみトレイスと呼ばれた男はよろしくと手を差し出してきた。俺も当然こちらこそとガシッと手を握った。


「それで、このゴラグーンの血は結局ゴラグーン用の輸血として使われるのか?」


「いや、こいつらの血は燃料になるんだ」


「燃料…?」


 俺達が挨拶と会話を交わしている間に血抜きが終わったのか、真っ赤に染まった管の先が取り外されすぐさま止血が行われた。血を抜かれた個体は少しやつれたような様子で待っていたフィルさん達に誘導されゆっくりと歩き、おそらく先に抜かれていたであろう群れに加わりそこでゆっくりし始めた。

 一方で血が入っていたであろうタンクは規定量になったのか小さな機械から取り外され、大人数人が台車を使って運び、今度は大きな機械に取り付けられた。


「あの機械で採収した血をろ過した後に洗浄して固まらなくするのと循環しやすいようにするための混ぜ物を入れてよく混ぜ合わせるんだ」


「へぇ…てかその燃料って何に使うんだ?」


「主に乗り物に使うんだ。自動車や列車、原動機付バイクやブルームに飛空艇、とにかくどんな起動機付いてる乗り物になら使うぜ」


 なんて会話をしてるとヴィレインさんが俺に気付いたのか近づいてきた。というかヴィレインさんも畑だからかお洒落なヒールブーツでなく少し薄汚れた作業靴のようなものに作業手袋までつけていた。


「戻っていたんだなミナヅキ。何かいいもの買えたか?」


「えぇ、ちょっと…リーヴさんに無理言って、ブルームを」


「ほぅ!随分中々なものを強請ったものだな。正直欲の少ない奴と思っていたが隅に置けないな…っとそんなことは良いとして、折角だからお前に頼みたいことがある。いや、お前達に…だな」


 さっきまでからかっていたような態度から一変し真面目そうな口ぶりに俺達三人はヴィレインさんに視線を向ける。


「それと、最初に言っておかなければならない事なのだが…ミナヅキ、お前にこんなことを頼むのは本来ありえない…あってはいけない事なのだが、もしお前自身この村の一員と言う自覚であり我々に対して善意で協力してくれるのなら」


「…よく分かんないですが、じれったいですね。遠慮なく言ってくださいよ、俺に出来ることがあれば喜んで協力しますよ」


「…そうか、ありがとう。では本題だ。お前には村の外に行って周辺地域の調査を行って貰いたい」


「村の外の調査ですか?」


「あぁ、理由は主に二つだ。一つは今朝君が村の防護柵が一部破壊されていたのを確認したと聞いている。その時に破壊した野生動物の足跡の形を覚えているだろう、その足跡を探ってほしいのだ」


「わ、分かりました。でもそれなら俺だけでなくフィルさんも見ていますし、俺よりも慣れているんじゃ…」


「そうしたいのはやまやまだが、見ての通り今は人手が足りていない。それにこっちの仕事の方があの人の力が必要だからな」


「確かに…それじゃあもう一つは?」


「それについては彼からの依頼だ」


 ヴィレインさんが視線を逸らした先にはトレイスがいた。トレイスはきょとんとしていたが、ウルヴァが何か耳打ちをするとあぁ!と思いだしたかのようにはっとする。


「俺がっつーか、この村だけじゃなく俺達の村にも関係する話だが、『タツノイミコ』の追い払い作業だ。ばーっと駆除剤を撒いてくるんだ」


「…たつのいみこ?」


「なんだ、『タツノイミコ』も知らねーのか、タツノイミコってのは別名ユビキタスタイニーシンリューと言ってシン、もしくはシンリューの一種でこの世界では非常に一般的かつ生物学的に個体数を増やすために単純な作りへと進化していった生き物だ。こいつらは本来シンが持つ強力な蜃気楼を作り出す力が非常に弱くほとんど役に立たないんだが最近の研究では他のシンリューが後世期にまで残している能力がこいつらのみ蜃気楼を作り出すという自衛能力を捨てる事はまずありえないと考え、それが単なる必要がなくなったからの退化ではなく、他の種に依存する劣勢遺伝した雄が優秀なオスを出し抜いて子孫を残したからという説が」


「あー、あー、トレイス。お前が長々語るよりも、どうせ実物見る羽目になるんだ。あれがタツノイミコだぞって言えばわかるさ」


「ちぇ、ここからが面白い話なのに…まいーや。ウルヴァも言ったがこいつらは今めちゃくちゃ数が多くて、なによりさらに畑だけじゃなく村にまで被害を及ぼす。そのためにこの村や俺の村に来る前に対策するってわけだ」


「そんな村に被害及ぼす野生の生き物相手に危なくないか?」


「全然、まぁ見りゃわかるさ、まーこんなとこでしゃべってても仕方ねーし、さっさと行く準備しよーぜ」


 お前もついてくるのか?と思いながらもウルヴァと一緒に簡単な手荷物を準備し、あとついでに俺はブルームも持ち、他の人に軽く挨拶して抜け出す旨を伝え、トレイスの案内で畑を後にする。どうやらタツノイミコ用の駆除剤は既に乗り物に載せているので後は俺達も乗り込むだけみたいだ。

 んで歩いて数分、その乗り物ってのがさっき話にもでた『自動車』だった。いや正確には所謂海外映画とかに出てきそうなオフロードカーみたいなゴツゴツとした武骨な貨物自動車ってとこだろう。おそらくこの車でトレイスとお父さんが運転してこの村まで来たんだろうな。ところどころサビていたり傷やへこみが目立っていて随分年季が入っているのが気になるが…


「よし、じゃあ二人とも乗ってくれ」


「あぁ、乗るってのはこの箱の上に跨るって意味じゃねーからなミナヅキ」


「うるせー、分かるわ」


 からかってくるウルヴィを軽く小突き車のドアを開ける。後部席はなく後ろ側は殆どが荷物で埋め尽くされている。ウルヴァが俺に前座れと言い後ろの荷物の上に腰かける。俺は助手席に座ると反対のドアから回り込んできたトレイスが運転席に座る。


「…あれ、てか、この世界って運転するのに免許とかいらない、のか?」


「何言ってんだ、車を運転するのには免許は必要だろ。俺は10歳の時に一番近い都市の『ヴェリパドキノヴォ』でとりあえず取ってきたんだ。ホントは兵爵の試験も込みで取りたかったけどな」


 10歳って俺の元の世界基準で言ってもだいぶ早くに免許取ってることになるんだが…。そんな会話しているとトレイスが早速車を出発させた。いたって普通で安全運転そのものだった。道も村の出入り口も楽々くぐれる辺り、こういう乗り物を想定して作られているのがわかる。


「そういやミナヅキさぁ、結局買ったのってブルームだけか?」


「いや、雑誌も買ってもらったんだ」


 そう言うと俺は持ってきた手荷物の中に入れていたスポーツ雑誌を取り出した。


「へぇ~スポーツ系かぁ、そういやぁ前に言ってたな。元の世界じゃ学業と一緒にスポーツで活躍してたって」


「まぁな、だからこっちの世界にもスポーツがあるって思ったら思わず手に取っててさ」


「なぁ、こっちの世界でもスポーツの道に進むのか?」


「…」


「ミナヅキ?」


 俺はなんとなく答えが出なかった。ふと思い返されるあの地方大会準決勝…全国への切符が俺達の手から離れていったあの日…悔しかった、だけど悔いはなかった。俺達の出せる全てを出し切り、これまでの全てが詰まっていたあの日に…俺はバスケを終わりにして勉強に切り替え大学受験に向かい、社会人になって、きっともうバスケに情熱を注ぐ日は訪れないのだろうと…、そう思っていた。

 だけど俺はそんな未来が来ることなくこの世界に落っこちてきた。クザスの村のみんなが俺を快く受け入れてくれた一か月、そして今日俺はこの雑誌の…表紙の一面に映っているバスケのようなスポーツが目にはいり…俺は、もう一度スポーツの、バスケの世界に飛び込むチャンスを与えられたのかもしれない。


 だけど、本当にそうなのだろうか?


「…、…分からねぇ」


「分からん?」


「確かに俺はまだ、スポーツの道に戻れる…いや、戻りたいのかもしれない。だけど、そうじゃねぇのかもしれない。俺のスポーツ人生は幕を閉じたんだ。なのにまた開くような真似はさ…かっこ悪いじゃん」


「…ははっ、なんだよそれ」


「いやわりぃ、忘れてくれ。もしかしたらなんてチャンスがあるのが悪いんだ」


「別に悪くねぇだろ。俺達まだ13じゃねぇか。俺なんか兄貴たちと一緒にずっと畑の手伝いして暮らしてきたことしかねぇんだぞ」


「それにそもそもまだ兵爵取ってすらいねぇじゃねーか」


「そうだ、トレイスの言う通りだぜミナヅキ!スポーツするにもこの世界じゃ最低でも義勇兵爵を叙爵しなきゃならねぇんだ」


「えっ、スポーツするだけなのに兵爵にならなきゃならねぇのか!?」


「スポーツに限らず何をするにも兵爵にならねぇといけないんだ。兵爵ってのはこの帝国では個人や団体が自由に活動するために帝国の軍隊に提出する個人身分証明みたいなものだからな。勿論兵士として徴兵されることもあるぞ。滅多にないが」


「ってか、スポーツ関係ねぇわ。お前どっちにしても兵爵叙爵にいかねぇとやべぇわ」


「ヤバイ?」


「だってお前、今爵位ねーじゃん。犯罪に巻き込まれたら異界人保護する政策とか関係なく即逮捕されて処刑だぜ」


 そういえばそうだった。言ってしまえば俺は今温情[だけ]で村に住まわせてもらっている不法入国者そのものだ。俺が今後この帝国で暮らしていくためには身分が必要だ。ちなみに帝国以外の国に行って、悲惨じゃなさそうな国は殆どなさそうな感じだ。


「まー安心しろ、義勇兵爵の叙爵試験合宿が近々あるし、そん時に三人で一緒に行けば大丈夫だろ」


「ん?ウルヴァ、お前大丈夫なのか?金銭的にも、家族的にも」


「まぁな…じいちゃんもばあちゃんも亡くなったし、兄貴たちよりも俺が一番でいいってさ」


 さっきまで俺を弄るつもりで意気揚々としていたウルヴァの態度があからさまに落ち込んだ。俺がウルヴァから聞かされた話だとウルヴァの家は元々お兄さん二人と弟のエルヴァ、そして祖父母の6人で暮らしていて、両親はエルヴァを家に預けてから消息不明。もう何年も親と連絡を取り合っていなかった事。そしてもう一つ、俺がこの村に来る一か月前ほどに祖母が寿命で亡くなり、今では兄弟4人だけで暮らしていた事。そしてお兄さんたちよりもウルヴァが一番と言うのは…おそらくと言うか、きっと家を出て行く事だと思う。お兄さん二人でエルヴァの面倒を見なくちゃいけないからかもしれないし。


「そうか…、本当に大変だなお前の家は」


「気にすんなよ。…それよりもまだつかねーのか?いい加減尻が痛くなってきたぜ…」


「もうそろそろ着くぞ」


 村を出たばかりの頃は畑道を抜け草原の中にある広い整った道を走っていたがかれこれ30分くらいはずっと薄暗く荒れた森の中をさまようように走り続けていた。見通しもあまりよくないし、なによりさっきから気になるものが目に映る。

 そしてしばらく走り続けてきた車がついに止まり、俺達は車から降りる。ウルヴァは凝り固まった体をほぐしトレイスは後ろから色んな道具を取り出す。俺は辺りを見渡しつつ先ほど気になった、ぶよぶよとした白く丸い何かに近づく…そいつは言ってしまえば馬鹿みたいにでかいナメクジだ。しかも何匹もうようよといる。ざっと数えただけでも十数匹はいるだろう。


「おーい、あまりタツノイミコに近づくなよ。粘液ぶっかけられるぞ」


「こいつがタツノイミコか。思った以上に気持ち悪いな…粘液ぶっかけてくるってことは襲ってくるのか?」


「んー…近づいてくる、かもな。基本的に遅いし気をつければ怖くないぞ」


「へぇ~…こっちから攻撃とかするのは?」


「駄目だ。野生動物を狩猟していいのは兵爵のみだ。俺達が野生動物をむやみに攻撃したり、それこそ仕留めたのがばれたら密猟になるからな。だから駆除剤とはいえ駆逐は出来ないから追っ払うしか出来ねーんだ」


「なるほどね…兵爵がないと不便だな」


「まぁ都市で普通に生活していく分にはいらないんだけどな。兵爵のいない田舎特有の悩みだ」


 なんてぼやきながら俺達はトレイスの指示のもと車から駆除剤を袋ごと下ろし、手袋をつけて中身を周囲にばらまく作業を始めた。袋の中を見てわかったが駆除剤はまるで石灰の塊のようなものだった。タツノイミコに気をつけながらある程度撒いては車ですこし移動して、移動先でまた撒いてを繰り返した。時折遠くに他の野生動物を見かけるが大概はこっちが走っているのを遠目に眺める程度で襲ってくることはなかった。まぁ車だしな

 七割程だろう、詰んでいた袋も殆ど空になり作業にも慣れて話をしながら淡々とこなしていた。早速駆除剤がきいているのかさっきまでうじゃうじゃ見えていたタツノイミコは気が付いたらいつの間にか姿が全く見えなくなっていた。他の生き物も姿が見えないしなにより街の大人達の視線もない。俺達は休憩ついでにさぼり始めたのだ。


「へーい、ウルヴァパスパス」


「っうし」「げっ」


「おいウルヴァ、ボール取られてるじゃねーか」


「うっせ、ミナヅキが捕るのうめーんだよ」


「へへっ、まぁウルヴァの投げる球分かりやすくて簡単だからな。ほいトレイス」


「んだとー」「へいミナヅキ」


 俺達は車に乗せっぱなしになっていたボールでルールも適当にパス遊びしていた。他にも菓子をつまみながら俺の雑誌やトレイスの学術雑誌みたいなのを読んだりしてダラダラと時間を弄んだ。この短時間でトレイスともだいぶ打ち解けてきた。

 ちなみにパス遊びは当然だがバスケをやり込んでいた俺が一番上手だったが、意外にもトレイスも動きがよく俺の動きを真似て動けるしフェイントも仕掛けてくる。逆にウルヴァは俺達の中でガタイがよく力持ちではあるが少し反応が遅いというか、機敏に動くのが苦手みたいだった。

 …ウルヴァはゴール下で相手と競り合いをするのに向いてるかもしれない。トレイスは司令塔として全体を見ながら俺と連携して、んで俺がポイントゲッターとして二人のサポートを受けて勝利に導く。もしかしたら俺達いいチームになるかもしれない。二人とも…俺が無理言って誘えば、一緒に、バスケに限らず何かスポーツしてくれないかな…なんてふと妄想してしまった。考え事しながら投げた俺のボールはウルヴァの手に当たると高く跳ね上がり、森の奥へと飛んで行ってしまった。


「あっ、やっべぇ」


「わりぃ!俺がぼーっとしながら投げちまったから…俺が取ってくるよ」


「おい一人で大丈夫か?」


「まぁ野生動物も全然いる気配なさそうだし、ボール取ってくるくらい何も起きないだろ、んじゃ行ってくる」


「おいおい、危険なのは野生動物だけじゃなくって…ってもう行っちまった」


「んじゃぁ俺達で帰ってくるまでの間にこの辺りの散布済ませとこうぜ」


「そんなすぐには終わんねーだろ…」




 ボールにそんなに勢いがついていたのか…二人というか車からどんどん遠ざかっていく。それでもまだボールが全然見当たらない。確かにこっちの方に飛んで行ったはずなんだが。そう思いながらもう少し奥に行ってみる。するとずるっと足が滑ったかと思うと一気に体が宙に浮かび、声も上げる間もなく低い草木に飛び込み全身を枝でひっかきながら尻と背中が地面に衝突した。


「いてて…なんだ?崖か?」


 すぐに立ち上がって確認するとどうやら俺は3~4mくらいのちょっとした崖から転落したみたいだ。足元が見えにくかったからとはいえこれがもっと高所だったらと思うと不幸中の幸いだっただろう。それにこの程度の崖ならボルダリングできそうな気もする、それに迂回すればもっと楽に戻れる場所もあるだろうし、それならむしろこの辺りにボールが落っこちた可能性もあるしちょっと散策してみることにした。




 しばらくさらに奥に奥にとボールを探すが全く見つかる気配がなかった…多分絶対こんなにも奥まで行ってないだろうと思い、諦めて来た道を戻りながら再度探し直そう。そう思っていたその時


 ガサガサガサッ


 茂みが激しく揺れる音が響いた。明らかに自然の音じゃない、もしかして野生動物か!?そう思い俺は音のした方を注視しながら近くに落ちていた程よい木の枝を拾い上げた。ガサガサ…音がさらに大きくなると木々や茂みの間から影が見えた。人だ。その全身を小汚いローブで身を隠しているが間違いなく誰かが俺に向かって真っすぐ走ってきて…そして急に俺に抱き付いてきた!?


「あ、あの!!どこのどなたかご存じありませんが、助けてください!!」


 ローブの中はとても可愛らしい感じの女の子の顔で、俺の胸板に彼女のとても柔らかい両胸が押し付けられた。それに凄くいい香りだ…状況はよく分からないが男として反応しないわけにはいかないような状況に俺の頬が少しだけ緩んだ

 すると彼女を追いかけて来たかのように四人の半裸の男…じゃない、緑色の肌をした醜悪な顔の背の低い一本角の生えた、いわゆるゴブリンと言って差し支えない連中だろう。ゴブリンたちは手に木の棍棒のようなものを持ちまるで山賊かのような雰囲気、まぁとてもじゃないが友好的には見えない様子。そしてなにより彼女がとても怯えている様子で俺の陰に隠れるように後ろに回り込んだのだ。


「あいつらはゴブリンと言う野生のモンスターです。非常に危険で私ではどうにも…ですが、貴方なら…」


 …俺は何か違和感を感じた。だけどそんな悩んでいる間もなく一匹のゴブリンが俺に棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。俺はすぐに彼女を腕で離れさせると振り下ろされた棍棒を木の枝で咄嗟に受け止める。案外力がないのかあっさり受け止められて押し返し突き飛ばす。その様子を見たゴブリンたちは激昂したのか奇声を上げて興奮した様子で、次の一匹が襲い掛かってきた。その一匹を捌くとまた次の一匹が、その次もまたと繰り返す。


「凄い…これだけの数のゴブリン達の攻撃をいとも簡単にいなすなんて…頑張ってください!!」


 彼女の言葉に俺はもやもやとした感情が沸き上がった。俺は闇雲に突っ込んできたゴブリンの隙だらけの腹を思いっきり蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたゴブリンは大きく体が吹っ飛びゴロゴロと地面を転がった後、地面に突っ伏したままピクピクと小さく痙攣している様子だった。


「あ、貴方…もしかして、異世界からの転生者様ですか!?こんなとこでお会いできるなんて…」


 ゴブリンを蹴り飛ばした様子を見ていた彼女は感極まったかのように再度俺に抱きつき、背中に柔らかいものが当たるのを感じた。

 俺はこの瞬間、先ほど感じた興奮を一切感じる事はなく、ただひたすらに、俺の中の何かが警鐘を鳴らし続けていた。

 蹴り飛ばされたゴブリンの様子を見た他の連中は動揺をしたかのようにじりじりと俺を警戒したが、結局同じように俺に襲い掛かってきた。俺は木の棒で応戦した。なんとなくわかる明らかに隙が多い動きにきっと簡単に反撃をいれれるだろうが、俺はただひたすらにゴブリンの攻撃を受け流しては、次のゴブリンが襲ってくるのに対応するを繰り返した。


「転生者様の実力があれば、あのようなゴブリンなど相手になりません。すぐに蹴散らせますよ」


 抱き付いていた彼女はゆっくりと離れ、俺が動きやすいよう…戦いやすいように離れたんだと思う。これで動きやすくなった俺はゴブリンの攻撃を受け流し、そして次のゴブリンの攻撃が来るのを見計らってっ!!


「………えっ?」


 俺は彼女を盾にするように、彼女の背後に回り込んで前に突き出させたのだ。すると彼女を前にゴブリンは棍棒が彼女の目の前で止まり、棍棒を手離して先程とは比べ物にならないほど困惑の様子を見せていた。対してゴブリンを前にされたというのに彼女は慌てる様子は一切なく、むしろ明らかな平然が彼女の背中越しにも伝わってくる。


「…あ~らら~、こんなパターンは初めてかなー、てか女の子を盾にするなんて男としてどーなのよ」


「ははは…もし違っていたら一生後悔するところでしたね」

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


六月も半ばとなり暑さや梅雨らしい天気による体調管理の難しさ、そして仕事も繁忙期目前に迫ってきたこともあり最近全然書けていなかったのですが、Episode2の下書きは描き上げていたので何とか投稿することが出来ました。正直少しだけこの活動に疲れを感じており続けるのが心身共に不安になってきているのですが、やるからにはここまではやろうと考えているところまでは頑張るつもりです。

それでもやっぱり堪えるので、何かやる気に繋がる方法がないかと自分の方でも模索していますので…僭越ながら、皆さんの応援があると嬉しいです。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。

あ、それとEpisode1のキャラ設定集は次週半ばに投稿したいと思っています。ホントは今週投稿するつもりだったけど、忙しくてできなくてごめんなさいっ



また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は6/21にEpisode2の後編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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