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Episode2  やがて大きな衝撃へと変わる小さな波紋——— 前編

 12月半ば、季節は秋…俺がこの世界にやってきてからだいたいひと月半ほどの月日が経った。案外月日が流れるのはあっという間だった。そのあいだ俺がこの村でどう過ごしてきたかざっくりと紹介しようと思う。

 と言っても普段の生活は殆どが毎日代わり映えがなく、朝は早くからウルヴァと共にマートンさんやフィルさん達の畑仕事や力仕事の手伝いをして、リーヴさんがもってきてくれた朝食を食べて午前中いっぱい働く。午後からはご飯を食べてからヴィレインさんの元で子供達と一緒に勉強会…この村に学校というものはなく本当は大都市にある学童院に行かせたいのだが、通わせるだけの資金は村にはなく、住み込みするにも子供たち全員を受け入れてくれる場所は見つからず、結局ヴィレインさんの屋敷で勉強する形しかできないそうだ。まぁこの世界では最低限の読み書きとお金の計算、あとは法律と社交性さえあれば生きていくのに困らないし、お金が貯まり大都市に引っ越しさえすれば勉強のできる場所がたくさんある、らしいから…そう悲観的な話ではないみたいだ。ともかく午後の勉強後はリーヴさんの家事の手伝いとか子供達の面倒を見たりとかして、それから家でゆっくりして一日が終わる…という感じだ。

 最初こそは不安でいっぱいな毎日だったがここでの生活は苦も無くと言ったところ。村や仕事の事はウルヴァがいてくれるおかげで困った時にはあれこれ教えてくれるし、俺が一緒に住むことを許可してくれたリーヴさんには頭が上がらないのにそんな俺に気疲れしないような配慮も色々してくださって本当にありがたかった。…ただこうして余裕が出来てくると今度は元の世界の事を考えるようになった。家族や友達にもう会えないと思うと寂しい気持ちな夜を過ごすこともあった。だけどそのたびに生きていたらいつか帰れるきっかけが見つかるかもと無理やり思い込み考えないようにしていた…

 それとこの世界の食事だが、初日の昼に食べたあの海鮮野菜スープが脳裏をよぎり警戒を強めたが、その日リーヴさんが振舞ってくれた晩御飯はとても、とても普通の食事だった。茶碗一杯のご飯に汁物、鳥の丸焼きに焼いた小魚、サラダと豪勢で家庭的な料理に俺は感動しちまった。リーヴさんは大した物は出せなくて申し訳ないと言っていたが全然そんなことはなく、今でもシルクも含め三人で楽しく食事している。まぁしいて言うならこの世界のご飯…この世界で〈バクシャリ〉と呼ばれているものはこの世界で主流のご飯ものなのだが正直米っぽくなく、ちょっとだけ元の世界の米が恋しく感じてしまうのだ…。あ、ちなみにヴィレインさんが出してくれた初日の昼の料理、リーヴさんの話ではこの村の郷土料理として売り出しているとのことだった。ぶっちゃけうまくいってないらしい。

 そんなこんなで想うことあったりもするがなんとかうまくやってきていたのだが…今日はそんな毎日とは何かが違う…ようなそんな気もしなくもない一日がやってきた。まぁ実際今日はいつもと違い行事も多い忙しい一日になるのだから間違いないだろう。俺は朝日は登ってきたがそれでも肌寒いくらいの早い時間に、村郊外の畑の大外をぐるっと見回っているのだった。ある程度舗装されて歩きやすい道の脇には簡単な柵に有刺鉄線が巻かれており、その上には光る文字が浮かんでいた。ある一か所を除いて


「おぉーい、そっちはどうだ~?」


「こっちの方の魔法陣消えてましたー!多分この辺りです~」


「んだ、すぐ行く~」


 俺が空に向かって返事をすると、空からフィルさんが背中の翼でゆっくりと降下してくる。俺は近くに降りたフィルさんに近くの光る文字もなく痛んだ柵のところに案内する。


「うーん、間違いねぇな…ここから侵入しようとしたさこりゃ。けんどま修繕さいらんやろ。とりあえず陣だけ書き直しておくべ」


 柵の様子を確認したフィルさんは、以前ランが使っていたマジックネイルと魔導書を取り出し、片手で魔導書を読みながらマジックネイルで光る文字を宙に書いていく。まぁ言ってしまえば魔法式電気柵ってところだ。魔力と言う電池が切れるまで永続的に使えるタイプらしい


「柵から離れてろ、陣繋げるぞ」


  俺は柵から離れるとバチリと火花を上げて光る文字がさらに光度を増した。文字を書き終えたフィルさんが道具を鞄にしまいながら足元を小さな光源で照らしながら地べたをじっと眺めた。


「ん~…こっちにゃ足跡がねぇだ。こりゃ柵にビビって逃げってったんだな」


「そうですか、何が来たか分かりますか?」


「んだ、鳥っこさ。飛べねぇやつ。足でがぁんやって逃げってったんだべ。まぁ逃げられちゃしょうがねぇしこれ以上兵爵様だこねぇと何も出来ねぇ、しかたねぇで帰るべ」


 そう言いながら二人で町の方に戻っていく、村入口の近くではウルヴァ、ラン、マートンさん、リーヴさんの四人が資材に腰かけてゆっくりしていた。四人の真ん中には鉄の鍋のようなものの中で火を焚いて複数へこみの有る小さな鉄板の様なものを温めながら暖を取っていた。俺達も寒さから凍え切った手を火の方に突き出し温まった。


「んだ、どうだった?」


「やっぱり柵さやられてたべ…そろそろこの辺りの現地調査さやってくんねぇと困るべさ」


「まぁまぁ二人とも、とりあえず朝ごはんにしましょう」


 そういうとリーヴさんは持ってきたバスケットから袋を取り出し、袋の中からかなり大きめな氷の塊のようなものを取り出すと、火の上にある鉄板みたいなもののへこみの中に入れる。氷は熱された容器の中で一気に解け温まると中の具材も溶け出て…一杯分のインスタント麺が完成したのである。


「まさか異世界でインスタントを食べれるとはなぁ…しかもスープごと凍らせて保管って、俺がいた世界では多分ないと思うぜ」


「へぇ、そうなのか。まぁヌゥメンは古い時代に異界人が持ち込んだ技術をこっちの世界でアレンジした感じらしい」


 ふぅんと聞き流しながらリーヴさんが容器から器に移し替えてくれたものを次々と回していく。ランも同じようにおかずを詰めたであろう鉄製の小さい弁当箱のようなものを数分回す。おそらくフィルさんの奥さんが作ってくれたものだろう。


「んだ、みんな回っただ。いただくとすっけ」


 みんなで朝ご飯を食べ始める。俺もヌゥメンと呼ばれたインスタント麺を口に運ぶ。うん旨い。なによりまだ肌寒く凍えた体に温まったスープが内側から身体をあっためてくれる。それだけで嬉しい。ランが持ってきた弁当の中はウインナーみたいなものやマッシュドポテトサラダのようなもの、葉物のお浸しのようなものが色とりどりに敷き詰められていた。凄く失礼かもしれないがぶっちゃけあのヤンキーダークエルフお母さんからは想像つかないくらい手の込んだお手製弁当に最初見たときは驚いたものだ。しかもよそ者である俺も含めて人数分作ってくれるという…まぁこうやって朝ごはん作ったり届けてくれたりするのは農業をやっているフィルさんマートンさんを中心とした20人程のグループのママさんメンバーで交代してだから毎日大変ってわけでもないらしい。今日はフィルさんの奥さんとリーヴさんだったってわけだ。…あぁそれとリーヴさんって母子家庭だったけど、このグループにはママさん繋がりで加わったって話らしい。


 そんなこんな事を思いながらみんなで楽しく談笑しながら食べていると、すぐ近くの畑の麦のような作物がガサガサと揺れる、その様子に全員の視線が集まる。すると作物をかき分けて30㎝弱程度のそれぞれが赤毛と青毛の小さな羽毛のようなものが生えた立派な足を持つトカゲのような生き物が二匹、ひょっこりと顔を出しすんすんと匂いを嗅ぐしぐさをしながらこっちに近づいてきた。


「んだ、ミーコ、キュー、こっちに美味しいおにくあるだよ~」


「おいぼかぁ、こいつらに変なもんあたえんな」


 ミーコとキューと呼ばれた二匹のトカゲのような生き物は赤毛の方はマートンさんの傍に行くとマートンさんの差し出した手に頭を擦り付け、もう片方の青毛がランに近寄るとランはいやそうな顔で食器を地面に置くと両手で顔を鷲掴みにする。


「キュー、こっちくんな。おめぇはミナヅキのとこ行ってこい」


「あんまりいじめるなよ。可哀そうだろ」


 明らかな嫌がらせをして追い返そうとするランだがキューと呼ばれたトカゲみたいな子はじゃれているつもりなのか離れる気配がない。一方ミーコと呼ばれた子はいつの間にかマートンさんの膝の上で猫のように丸まっていた。

 こいつらは『ワイルレッグ・カティスゴラグーン』という種類で俺がこの世界にきて二番目に見たドラゴンだ。いや正確にはゴラドンと呼ばれているらしい。ゴラドンと言うのは〈ゴラ〉が[動き回る]、〈ドン〉が[牙、もしくは歯]を意味している言葉らしい。つまり動き回る牙こそゴラドンと言う、そしてゴラグーンの〈グーン〉が[雇われ者、もしくは家畜]を意味する言葉であり、言ってしまえばゴラグーンは家畜化したゴラドンというわけだ。

 んでこいつらミーコとキューの二匹は、ただ愛想を振りまくだけのペットではなくて畑の中で侵入する鳥や小動物を狩るのがお仕事だ。こいつらはまるで猫のようにすばしっこくてさらにジャンプ力も高い…というかドラゴンの皮を被った猫だろとは何度思ったことか。

 そうこうしているうちにみんなの容器が空になり、リーヴさんが簡単に後片付けをしながらゆっくりと食後を過ごす。


「さてミナヅキ、今日はウルヴァと一緒にピートの収穫を頼むだ、今日はたんといるから出来るだけたくさん急いで収穫しておいてくれ」


「おいマートン、その前に飼料の運搬が先だろ。今日はたくさん食わせてやらねぇといけねぇからな」


「んだけどよぉ、餌ば運ぶくらい誰だってできるだべ…それよりもピートの選別の方が」


「何言ってるだ。早く食わせねぇと吐き戻ししちまうだろ。充分な消化の時間も必要だ」


「まぁまぁ二人とも、今日はミナヅキくんの為にもう一つ大事な用事がありますから、程々でお願いしますね」


 フィルさんとマートンさんの会話にリーヴさんが遮ると二人は何かを思い出したかのようにはっとして、先ほどよりも深く考え相談を続けた。俺はウルヴァにこそっと聞こえる位置まで体を屈めた。


「なぁ…今日ってなんかあるのか?やたらと餌の仕事とか、あとリーヴさんの言う大事な仕事とか…」


「まぁな、かなりハードスケジュールになりそうだぜ。ま、何があるかは楽しみにしとけっての。あ、あと朝の仕事は二時間ほどで仕事切り上げていいからな。俺達であとやっておくから」


「え、いいのか?」


「いいってもんよ、まぁもしかしたら多分面白いもんあるかもだし楽しんで来いよ」


 ウルヴァは良い笑顔で俺に肩に腕を伸ばしなれなれしく叩く。結局何があるのかは分からないままだったが俺は苦笑いして頷く。そんな話をしているうちにフィルさん達の話も決まったのか俺達に仕事を始めるぞと催促して動き出す。ランは食事が済んだからかうとうとした目を擦りながらぼーっとした様子のままリーヴさんと一緒に荷物を纏めて街の方へと戻っていく形で俺達とは別れた。

 それから俺はウルヴァと一緒に先ほど話にもあった、ピートと呼ばれていた野菜の収穫を始めた。このピートってのは言っちゃえばトマトみたいで木になる紫色の野菜だが食感は大根と言うか株っぽい。そして何を隠そうこいつは俺がこの村に来た日の昼にヴィレインさんから出された料理の中に入ってる具材の一つで…味ははっきり言って美味しくない。人が食べる野菜の中で不人気ナンバーワンの、いわゆる超健康野菜なのだ。だがそんな不人気野菜にだって使い道はある。とりあえず俺達は畑の一区画にあるピート畑に入りしっかりと熟したピートを三箱分木箱一杯に収穫を済ませた。


「これだけ取れれば十分か?」


「多分とりあえずはな、にしてもお前も慣れたもんだな。だいたい二時間もかからずに済ませれるようになったじゃん」


「まぁな、でもまだみんなほど早いわけじゃないけどな」


「いーんだよ、俺達とお前とじゃやってきた経験値が違うんだし…っと、来たぜ」


 軽い休憩がてらの立ち話をしているとウルヴァの言う方を見ると、畑沿いの道を枯れ藁のようなものを山のように積んだ大きな二輪のリアカーのようなものを引いて歩くマートンさんの姿が見えた。俺達の近くまで持ってくると持ち手から手を離して息を整える。


「んじゃぁお前等、収穫したやつを後ろに積んでこいつを畜舎まで運んどいてくれ」


「分かりました。…飼葉が多すぎて置くスペースが…」


「ちょっとどかして何とか置けるだろ」


 そうして俺達の収穫したピートと合わせて、いわば家畜達用の餌を二人掛かりで動かし始め…はじめ……重たすぎて全然動かねぇ!前で持ち手を押す俺、後ろから荷台を押すウルヴァ、二人で息を合わせて一気に全力で押すと車輪がゆっくりと回転を始めて進みだした。動き出すと大して力をいれなくても大丈夫だった。その様子を見届けたマートンさんは頼んだぞと手を振り来た道を戻って、二杯目を取りに行くそうだ。

 早朝は肌寒く薄暗かった畑も、朝ご飯を食べ2時間ほど収穫をしていれば日はすっかり登り始め、温かい日差しが動いた体と相まって程よい心地よさになった。カラッとした防ぐ壁のない畑を吹き抜ける秋風が飼葉をかさかさと鳴らす。俺が来た時には生い茂っていた畑は今ではその2/3が役目を終えた何も植わっていない土地になっていた。

 そんな広く快適だが少し寂しい道を二人で家畜達の餌を運ぶこと30分、遠くからも見えていた村入口の近くにそびえ立つ赤く大きな屋根の低い建物に到着した。今度は止めるにも一度ついた慣性で止めるにも力ずくで抑え、止まったのを確認して荷台を離す。


「うし、ここまで運べれば問題ないし…ミナヅキ!そろそろ領爵主様のお屋敷前行って来いよ。後は俺が下ろしておくだけだから任せろよな」


「悪いなウルヴァ、じゃあ後は頼むぜ」


 俺はそう言い残して村の方へとゆっくりと歩いて行った。




 街へと戻りヴィレインさんのお屋敷にやってくるとお屋敷の前には何十人かの村人と、まるで漆塗りしているかのような黒い光沢のある豪勢な馬車のような巨大な四輪の箱が3台ほど置いてあった。ということはどうやらあれが…、なんて見ていたら人集りのなかからリーヴさんが俺に気付き手を振った。近くにはシルクも、ランもそれとフィルさんの奥さんもいた。


「ごくろうさま、丁度いいタイミングで来てくれたわね」


「リーヴさん、その、結局お楽しみって言ってた…あれ、なんですか?」


「ふふっ、すごいでしょ?あれはね帝国からの移動販売車なの、前回が丁度ミナヅキくんが来た数日前に帰っちゃったからしばらく来てなかったけど、帝国の流行りの物や最近人気になった商品、帝国でしか買えない珍しいものをこうやって一気に運んできてくれるのよ」


「あれ、でも帝国の商品はこの村で採れた農作物を売った帰りに仕入れてくるって」


「それは生活に必要な日用品の補充程度なの、そういうのって帝国内では殆ど税金がかかってなくて安いし、そもそも誰かが必要だからお使いとして買ってくるんだけど、こういう時に来るのは殆どが嗜好品ばかりで帝国とかでしか作ることが難しいし、それに税金もだいぶかかってるからどれもこれもって買えるわけじゃないからこの村じゃ出回らないものばかりなの」


 …そういえばこの村に来てから色んな雑貨や食材売りの店を見るがどれも生活をするのに必要な道具ばかりでお洒落なインテリアなどは殆ど見たことないし、俺が未成年だから気にもしなかったがお酒や煙草が売ってるお店は見たことないのに飲んだり吸ったりしてる大人は見たことがあった。という事はつまりこのタイミングで買ってるってわけだったか…。実は俺は小遣いを貰えてなかったけど、俺が余所者だったからとかじゃなくて、単純にこういう機会でしか使う必要がなかったってわけか。


「勿論お金のことは気にしなくて大丈夫よ。いつもお仕事頑張ってるからね、おばさんが出してあげるから遠慮しないで言って頂戴」


「ありがとうございます!」


 なんて会話していると移動販売車の横にいた、この村では見かけたことがないだろうおそらく店員さん三名が車体横を開く。中にはずらっとというかぎっちぎちにまで商品らしきものが詰め込まれており、酒や煙草のようなもの、菓子箱のようなものや即席麺、お洒落な服にアクセサリーなどの装飾品、雑誌にインテリア、アウトドア雑貨に玩具らしきものや用途不明な水晶玉のようなものまで多種にわたってずらっと並んでいる。


「さぁさぁ、開店としますので皆さん押し合わないように譲り合い代わり合ってお選びくださーい」


 店員の声に待っていた人たちがゆっくりと移動販売車の前に向かいまじまじと品定めを始めた。かく言うリーヴさんも持っていた大きなバスケットの中からメモ用紙を取り出しすぐにお酒のコーナーを眺めはじめた。フィルさんの奥さんは煙草のようなものの売り場を吟味していた。


「あ、あの…リーヴさん?」


「あ、ごめんなさいね。今畑で働いている男の人達の分も私達で買ってくるように頼まれているの。よさそうなものとか好きに探してていいからね」


 そう言いながらリーヴさんは次にお洒落な作業着みたいな男性用ジャケットを吟味し始めた。俺は仕方なく他を見て回ろうにも人の壁が厚すぎて全然商品のある所までたどり着くにも一苦労だった。こんな状態でランもシルクも大丈夫かと思ったが…二人は自分の翼で飛んで上から見に行ってるじゃないか!羨ましすぎるだろ!!なんとか人の波を搔い潜り販売車の前までたどり着く。そこには雑誌がずらりと並んでいた。


「よぉ、ミナヅキじゃねーか」


 そう言うと俺の真上にはランが飛んでおり、俺の肩に肩車するように無理やり乗っかってきた。こいつは最初にあった日助けた一件があってからというもの、やたらと俺に馴れ馴れしく絡んでくるようになった。…まぁ気に入られないよりかはましだし弟みたいで可愛いもんだ。


「ミナヅキ!あれ取れ、あれ」


 訂正、クソ生意気でウザい。とまぁ仕方なく言われるがままランの姿勢に気を付けて一冊の雑誌を手に取る。『月刊カートリッジ』表紙を見ただけで分かる漫画雑誌感。


「お前…おやつ禁止だけど雑誌ならオッケーってわけじゃないだろ」


「へへっちげーし、ミナヅキが買ったのを俺が読むんだよ」


 俺は雑誌を元ある場所に戻した。頭の上でランが騒ぐ。やっぱこのクソガキ嫌いだわ。しかし売られている雑誌を眺めると…ファッション雑誌に経済雑誌、料理雑誌に婚活雑誌にスポーツ雑誌に芸能雑誌?いやこれは…演劇雑誌、なのかな?とにかく様々な雑誌が並んでいてこう言っては何だが、意外と異世界と言うよりも現代っぽさを感じた。俺は色々見定めながら結局一冊のスポーツ雑誌を手に取った。その雑誌に以外にもランも興味を示した。まぁこいつも子供とはいえ男だからな、スポーツの話題には惹かれるのも当然だな。


「ごめんねミナヅキくん、色々買ってたら遅くなっちゃった。気になったものはあった?」


 そんなに時間は経っていなかったはずだが、バスケットに入りきらず両手に大量の荷物を持ったリーヴさんとランのお母さんが人混みをゆっくりとかき分けながら寄ってきた。ランのお母さんがギロッと睨んだかと思うとランはバツが悪くなったかのように俺の肩から離れ何も持ってないアピールをする。俺は持っていた雑誌を器用に指で挟んで持ちながらリーヴさんの荷物の半分を持ってあげた。


「え、えと…じゃあこの雑誌だけ買ってもらえたら…」


「えっ、ダメよ。遠慮しなくてもいいのよ。いつもいつもこっちの方がお世話になっちゃってるしお仕事も頑張ってるんだから、その分のお金だってあるんだしもっといろいろ買わないと、次までなんてまた1か月以上先になるわよ?」


「ずりーなーミナヅキ」


「そー言うんだったらあんたも親の荷物持ってやるとかしたらどーなんだい。馬鹿たれが」


「いってーな、蹴んなよ」


 ランのお母さんがランに脛蹴りをくらわせているのをよそに手が空いたリーヴさんは楽しそうにいろんな品物を物色し始めた。若い男性向けの上着やら靴やらアクセサリーやら…正直ちょっとだけ恥ずかしい。すると服を動かした隙間から何か棒状のようなものが見えた。俺の立ち位置からは見えにくかったのか服の影に隠れていたのか、とにかく人混みを出てぐるりと移動販売車を回り込むと、そこには三本ほどの箒が…箒?があった。柄の部分に自転車のようなサドルもハンドルもある箒だ…あとなんか先っぽに金属?の半円の取り付いている二本の紐も垂れ下がっている。


「…なんだこれ」


「なにって、ブルームじゃねーか…もしかしてこれ買うのか?」


「ぶるーむ?」


「なんだよ知らねーのか、これに跨って自分で空飛んで移動するんだよ。まー、ここらじゃ自転車使えばいいだけだし、大人も趣味で使う奴少ないけど帝国では乗れねぇと生活が大変だったり仕事も少なくなるらしいぜ?」


 やっぱりと言うか、そうだよな、これは空飛ぶ箒なんだもんな。ランの言いぶりからして多分それなりに普及してるみたいだ。まぁ自転車みたいなサドルついてるもんな。なんてランと会話しているとリーヴさん達も気付いてこっちに寄ってきた。


「それじゃあリーヴさん、これいいですか?乗ったことがないので…あ、でももしかして結構…じゃないな、すごい高価だなこれ、やっぱやめときます」


 それもそのはず、ブルームについている値札を見れば俺が他に見ていたものよりも明らかに桁が一つ、いや二つ多い。5000Fもする価格がついているのだ。リーヴさんの手伝いしてるが分かるが一日三人分の食費はだいたい100F前後で豪華なおかず付きだ。まぁそれだけの価値の物だろうから当然っちゃ当然か。…あ、F(フーロ)ってのがこの世界の『帝国』でのお金の単位らしい。だいたい感覚的に1F=15~20円くらいって感じ


「いいわよいいわよ、そんな事気にしないで♪ミナヅキ君いつも素直でいっぱい手伝ってくれるんだもん、ちょっとくらいの我儘言ってくれた方がこっちだって嬉しいもの♪」


 そう言いながらリーヴさんはお店の人にブルームと、さらに雑誌の値段を支払ってくれた。ありがたいっちゃありがたいのだが…ちょっと怖くなってきたな。お店の人が売り棚からブルームを持ってきて、俺の手に持っていた荷物を預かり代わりに俺にブルームを手渡してくれた。ブルームは箒として使うにはずしっと重くなによりハンドル部分を振り回してしまうだろうから箒にはならなそうだ。無論そんな使い方をするのは金額的にも勿体ないし、俺はさっそく移動販売車や人混みから少し離れてブルームに跨ってみる。

 乗り方はだいたい自転車と同じだろうと思いサドルを股に、ハンドルを両手に持ってみる。するとさっき気になった半円のついている二本の紐が丁度足の所に落ちてきているので分かった。こいつが所謂ペダル…と言うよりも馬とか乗る時に使う鐙みたいなものだ。多分そうだろう。俺は足をその半円に通してみるが少し遊びはあるがしっくり来ている気がする。すると他の店員さんが俺の鐙の紐の長さを弛んでいる状態から少し膝が曲がる程度にまで短く調節した。


「…ところで、これってどう飛ぶの?専用の呪文ってかスペルワードとかいる感じ?」


「基本的には持ち主が決められた防犯ロック方法を開錠すればそのまま運転出来ます。勿論購入されたばかりですので今は一番簡単なロックのみとなっています。ハンドル中央部に手をかざしてください」


 店員に言われるがままに右手をハンドルから離し、ハンドルとブルーム本体の繋がっている部分に手を振ると、ふぉんっと魔法陣のようなものが浮かび上がった。驚きながらもその魔法陣に改めて手をかざすと、ほんの少し体が浮かび上がった感覚がした。急いでハンドルを握り、足を地面から離してその感覚のままにこれで自由に空へ…飛ぶことはなく、ふわっと浮いて前に進んではまた足が地面につき、地面から足が離れてはふわっと前に進んでまた足に地面が付く…思っていたのと違う!?


 「もっとブルームに魔力を込めれば飛べるわよ」


 言われるがままに俺は力むようにブルームに力を込めようとすると、身体から体力を吸われるような感覚と同時にゆっくり、ゆっくりと高く飛び上がり続けた。


「おぉ!行けた行けた!!すげー」


 一度飛び始めると勢いがついているからかあまり体力を使わずすいすいと進めて、自分一人の力で空を飛んでいる感覚に満足していると、下で見ていたのかランとシルクが追いかけるように飛んできた。


「ミナヅキー!ブルーム買ったんだー」


「おい、もっとスピード出せれるぞ、もっとトバせよ~」


「いきなりそんな飛ばしたりしねーよ、いいんだよこんなもんで」


 地上では買い物をしていた村の人や店員さん達が俺達に注目している中でひとしきり風を感じるように飛び回り、途中でホバリングするみたいに止まってみたりと楽しむ。しばらく飛び続けると少し疲れてきたし、二人も息が上がってきていたのでゆっくりと地面へと降下し、足を痛めないように気をつけながら跳ねるように少しずつブレーキをかける。飛んでみてわかったが感覚的にマジで自転車みたいに扱える。そして自転車よりも体力…と言うよりも魔力の疲弊を感じる。大人になったら自転車じゃなくて車で移動するようになると考えると、まぁ…大人になると乗らなくなるのも分からなくもないなって感じた。


本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


今回からEpisode2が始まりました。相も変わらずあまり慣れない文章と世界観説明ばかりで、これでいいのかなとか考えながらも今回はEpisode1よりも面白いものをお届けできる三部作になったかなと思っています。

それと設定資料集の方にも新たな投稿もしていきますし、Episode1のキャラ紹介も投稿していくつもりなので気長に待っていてくださると助かります。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は6/14にEpisode2の中編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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