The story of Seven Cities1 城塞都市の若き世代
帝国…正式名を《聖ルーマルコーランド帝都》建国から30年、長きにわたる『ティストレイ・トシヴェ連合国家』との戦争から解放され帝国領土として指定された小さな国々は時間と共に合併し合ったりして次第に帝都にも勝るとも劣らない7つの様々な特色を持つ都市として繁栄したのだった。
その中の一つ、《聖ルーマルコーランド帝都》より南西に約700㎞先に位置する都市《城塞都市ムルフィルテンジュ》、町全体が高い城壁に囲まれており街中もまるで迷路のように入り組んだ、戦うことを目的としたような都市だ。それもそのはずでこの街よりさらに西へ向かえばすぐに現在も続く戦争相手であるティストレイ・トシヴェ連合国家改め『ティストレイ連邦』との国境を超える事になるのだから。今でも多くの帝国の兵隊がこの街で隣国に睨みをきかせているのである。
だがそんな《城塞都市ムルフィルテンジュ》では戦争と言う緊迫した恐ろしい空気とは裏腹に、あたかも戦争と無縁な平和な街のように毎日多くの住民の賑やかな声や子供達の笑い声であふれている。
「もっと声出せー!!気を緩めるなー!!!」
「「「サーイエッサー!!」」」
しかしその日はそんな住民たちの声に混じって一際大きい声が町中に響き渡りながら、兵士のような軽装備をした様々な特徴の目立つ男女合わせ20人ほどの大人たちが街中を走り抜けていった。その集団の先頭を走っている体躯の大きい、いかにも階級の高そうな軍服を着た、足が蹴爪で洗朱色の長い髪の巨乳な翼人種の女性が後続の人達に叱咤とも激励ともとれる声をかけ続けていた。
「残り少しだ!訓練場についたら休憩とする!それまで踏ん張れ!!掛声忘れるな!!」
「「「さ、サーイエッサー!!」」」
イチニー、イチニーと弱弱しい声を全員でだしながら、全身を汗だらけにしながら街中を駆け抜け坂道を駆け上がると、その先にある一際大きな建物に併設されている広いグラウンドのような場所に向かって走り続け、全員がグラウンドに入ると徐々に走るのをやめだし、散開するようにゆっくり歩いたりその場に座り込んだりして各々休み始めた。
「よし、休憩は15分。その後は土嚢を抱えての運搬訓練を開始する」
軍服の女は顔色一つ変えないで他のメンバーにそう伝えつつクリップボードのようなものをじっと眺める。すると建物から軍服の女と同じような格好をした女性が大きな台車を押して運ぶと、他の者達は次の指示に不満そうな表情を見せながら、持ってきてくれた台車の中から水筒のようなものを手に取り皆口をつけて水分補給を行った。
「ガルディー工兵部隊隊長殿!伝言を預かっております」
ガルディーと呼ばれた軍服の女は顔を殆ど動かすことなく静かにクリップボードから、自分の隣で敬礼をしている建物から出てきた女性を睨みつけるように目線を向ける。
「総司令のご令孫様であるセブン・グリフィスアンバー様が帝都よりこちらにお越しになられました。ガルディー工兵部隊長殿に」
「断る」
女性の言葉を遮ってガルディーはまた視線をクリップボードに向ける。
「見ての通り私は今、今回の国衛兵爵叙爵者への講習中だ。それにあいつが私に会う用事など大した用ではない。さらに言えばあいつがここに来ると講習どころではなくなる。さっさと帝都に帰れと言ってやれ」
「はい、ですが自分の口からそのようなお言葉を言えば自分の首が飛んでしまいますので、いつも通り部隊長殿の部屋で休んでいただきますようお伝えしておきます」
「あぁ、その必要はないで~」
二人の会話に軽そうな口ぶりで混ざってきたのは、先ほど走り込んできた入り口側にいつの間にか突っ立っている。ここにいるメンバーとは明らかに異なる軽装備を身に纏い腰に二振りの剣を携えた、高身長で肉付きもがっしりした短髪で爽やかそうなカッコいい青年だった。そんな彼が休憩中のメンバーにも気が付かれるとメンバーの中の女性達がキャーセブンさーんと黄色い声を上げながら近寄り彼に戯れだした。ガルディーと呼ばれた女性に報告を行っていた女性はガルディーに軽く頭を下げ、セブンと思われるその青年に手を振り、セブンもまた手を振り返すと気分よく建物に戻っていった。だがそんな気分のいい周りとは裏腹に、ガルディーはその様子に呆れるようにクリップボードを持っていた腕をだらんと下ろし、かなり不機嫌な目でその男を睨みつけた。
「…このような前線基地までわざわざご足労いただきありがとうございますセブン特級遊撃部隊長殿、一体どのようなご用件でしょうか講習の邪魔だ、とッとと失せろガキ」
「えー、つれないこと言うなよガルディーさん。せっかく会いたくて来たのに」
ちぃぃっ、と明らかにわざとらしく大きな舌打ちのような声を出し、まるで形式上と言わんばかりの敬礼をしならがさらに睨みを強くする。そんな様子も意に介さず周りの女性達と戯れながらゆっくりとガルディーに接近する。二人が立ち並ぶと他の女性よりも明らかに頭二つ飛び出しているが、若干ガルディーの方が背が高く肉付きも分厚いのがわかる。そんな体格差のあったセブンがそっと腕を伸ばすのをさも大したことでもないという感じでガルディーは髪に優しく触れるのを許す。
「んでさ、そんな大変な講習の今回のメンバー、どんな感じ?」
「ふんっ…、男11名女8名の合計19名、内訳は貴爵の出兵参加者が2名、教会からの出兵隷爵が4人、隷爵からの志願が1名…残りは全員借金で連れてこられた隷爵だ。この時期にしては借金以外の連中がこれだけ集まるのも珍しいものだな…ま、珍しかろうがなんだろうが授爵試験に落ちる事の方が難しい。今いるメンバーに問題児もいないしな。このまま毎日訓練に励めばめでたく全員新卒兵だ」
髪をずっと触られている事に全く気にせず、持っていたクリップボードを再度確認しながら答える。セブンもまたガルディーの髪をさらに触り回す。そんな様子を見ている女性陣は距離を取ってひそひそと会話しながら小さくはしゃいでいる様子だった。ちなみに男性陣は休んだまま遠くから眺めているだけだった。
「ふぅーん…、じゃあさ一日くらい休みでも大丈夫だね。ってことでガルディーさんとデートしてる間は休みってことで」
「たわけ、私が見ていなくとも講習は休みにはせんぞ」
「ちぇー、まぁいいか。んじゃデートだけでもしよーぜ」
「っば!バカ!!そういう意味ではない!!おいコラ!!」
そう言うとセブンはガルディーの肩に腕を回して無理やり建物の方へと歩いて行った。ガルディーは抵抗しようとする意志は見せるものの明らかにされるがままに連れていかれている。他の女性達も後ろをついて行こうとするが、建物の入り口からとても筋肉質なマッチョの顔の濃ゆい男が出てきてセブンたちとすれ違うが、後ろをついて歩く女性達を制止させジェスチャーでグラウンドの方へと戻らさせられた。女性達はぶつくさと戻っていった。
「まぁ、セブン総司令令孫がこられたって事はこうなるだろうとは思っていたさ…、この後の講習はガルディー工兵部隊隊長に代わり、銃撃部隊隊長を務めさせていただいている、イワン・ハイランドが教官を引き継ぐ。早速だが休憩を終了しすぐに次の訓練の準備に取り掛かるように」
ガルディーとは違いゆっくりとした物言いで指示を出すと全員が飲み物を片付けきびきびと動き出し土嚢袋を運んでくる。するとメンバーの中で一際若い雰囲気の一人の男がイワンの元に駆け寄って敬礼をする。
「イワン銃撃部隊隊長殿。お聞きしたいことがあります。発言よろしいでしょうか」
「ん、なんだ?」
「先ほどの…セブン総司令令孫、殿と言うのは、一体何者なのでしょうか?」
「「「え———っ!!」」」
女性達が一斉に驚きの声を上げる、なんなら男性陣も呆れたような顔で質問した男を見る。イワンも困ったように頭を掻きむしりながら言葉選びに口籠る。
「信じらんない…」「セブン様知らないなんて」「常識なのに」「ねー」
「あー…、まぁ、そうだな。仕事ばかりな男の隷爵なら…雑誌とか興味ないのかもしれないしな…。……セブン総司令令孫、もしくは特級遊撃部隊長殿は現帝国軍総司令長を務めておられる、ヴァイルハン・グリフィスアンバー様のお孫様であり、アインス様の七男息子。そしてこの帝国領土全てを自由に防衛して回っている特級遊撃部隊の隊長を務めているお方だ」
「っそ、そうでしたか。大変失礼しました!!という事はファイブ副司令官殿の弟君ですか!?」
「まぁ腹違いの兄だがな。それとファイブ様は真面目で硬派なのに対して、セブン様はかなりの軟派で毎日のように夜遊びをしているとのことらしい。まぁそういうところも含めてセブン様が一番若い頃のヴァイルハン様によく似ていると言われている。…実力も含めて、な」
その瞬間、ドォォン!!と爆音と振動が響き渡る。その衝撃にグラウンドにいたメンバーだけでなく建物内にいた人達も一斉に慌てだし、中には「敵襲か!?」と厳戒態勢の準備に入るものもいたが、事情を知っているであろうイワンは落ち着いた様子で講習メンバー達を落ち着かせた。
「ほら、早速 《デート》が始まったぞ」
パラパラパラ…と柔らかい材質で出来た壁につけられた傷跡のようなところから緩衝材のようなものが零れ落ちる。埃も待っているおおよそ10m四方程の丈夫で広めの模擬戦闘に適したような部屋。その部屋の壁際に突っ立ってかすり傷や汗、汚れにまみれているガルディーと、部屋の中央で爽やかそうな顔で傷一つないセブンがいた
「んー…、運動した後のスッキリした顔ならいいんだけど、生々しい傷だらけのガルディーはあんま見たくないなぁ。そろそろ終わりにして普通のお部屋デートにしない?」
「ふん、お望みのお部屋デートも身体触れ合う運動もすでにしてるではないか、…今日こそ貴様を屈服させてやる」
鋭い眼光でセブンをとらえたまま、壁際から部屋の中央まで尋常じゃない速度で一気に距離を詰めると、鋭い右足の蹴爪を頭よりも高く蹴り上げるがセブンはその蹴りを半歩ひきながらスウェーで冷静にかわす。ガルディーも負けじと左足での片足立ちのまま何度も細かい蹴りを入れ続けるがセブンにその場で躱され続け、ついにはセブンの左手に足をつかまされてしまいお互いの動きが止まる。
「っく、貴様に足を掴まれるのには…もう慣れたわ!」
不安定な姿勢のまま踏ん張れない左パンチを打ち込むが、セブンの空いていた右手で止められてしまう。…だが左手を止められたガルディーは不敵な笑みを見せて左手でセブンの右手を掴むと、右足と左腕に体重がかかると支えていた左足が浮かび上がり、身体を回りながらセブンの顔面目掛けて下から左足の蹴爪が迫った。
「これでどうだっ!!」
「いっっ!?っぶ、ねっ!!」
セブンは咄嗟に足を掴んでいた左手を離し身体を大きく逸らして避け、浮かび上がっているガルディーの身体を掴んでいる左腕だけで後ろにぶん投げた。ガルディーは空中で体勢を整え直し華麗に着地する。
「ふっ、ホントならその生意気な面を切り裂いてやりたかったがな」
「勘弁してくれよガルディー、こっちも捌くだけでいっぱいいっぱいなんだからさぁ」
「だったら…、貴様も攻撃してきたらどうだ!」
ガルディーは腰につけていた鞭を手に取ると勢いよくしならせて、数m離れているセブンの近くの地面をけたたましい衝撃音を発しながら一切の隙が無いほど何度も叩きつける。一本の鞭の筈がまるで無数に打ち付けているかのようなその攻撃であまりの衝撃に部屋の空気が振動しセブンも迂闊には動けない状態になっていた。
「うっひぃ…相変わらずこえーなぁお前の得意技は」
「何を眠たい事を!これだけをもってしてもお前ひとりを抑えておくにはまだ未熟だと解からされた屈辱を!!貴様が忘れたとは言わさんぞ!!」
「ははっ、俺がガルディーとの思い出を忘れたりなんかしねぇ…って」
セブンはゆらりと身体を揺らすと次の瞬間には目にもとまらぬ速さで駆け出し、予測不能な鞭の軌道を完全に躱しながらガルディーとの距離を一気に近づけようとする。ガルディーは即座に鞭を攻撃から防御に転じるように、自身の周囲を無差別に鞭の壁で叩きつけまくり壁のようにするがセブンはその暴れる鞭の壁をするすると高速で走り抜けついにはセブンの胸板がガルディーの胸を軽く押しつぶすまでの零距離にまで到達する。
即座にガルディーが足蹴しようとするがすぐにセブンの足がガルディーの膝を抑え込み、鞭を振るう手も近すぎて振るう事が出来なくなった。
「ほらこれで手も足も封じたし…最後は唇でフィニッシュかな?」
「…ヨガるなぁ!!」
すぐにガルディーは鞭から手を放し今度は掌底打ちで仕掛けてきたのをセブンは同じように掌底打ちで応戦し組み合う。二人の素早いはお互いの攻撃を防いで躱し、時に膝打ちを仕込むがそれも掌底で弾かれ、他の武器が入る隙間もない距離ですれすれの攻防が続く
「だいぶこういう戦い方も上手くなったなガルディー」
「ふん、貴様に嫌というほど仕込まれたおかげでな。…上のレベルに行けば行くほど、知らぬ出来ぬが通用しない世界、例え一芸特化だとしてもあらゆる想定外に対し一人で対処するだけの策を持っていなければ居座れぬ世界だとな!!」
「そうそう、それでこそだぜガルディー」
セブンの掌底打ちを見切ったガルディーがセブンの腕をつかむと今度は仕返しとばかりに綺麗な一本背負いをお見舞いする。呆気にとられたのかセブンはそのまま宙に浮きドスンと背中から叩きつけられる。咄嗟に受け身を取ったであろうが痛みに表情が歪んでいる間にガルディーは腕を拘束したまま蹴爪でセブンの胸を踏みつけ爪を立てる
「っふ、はは…ははは!どうだ、どうだセブン、ついに今日こそ私の勝ちだ!!」
「いやーマジですげぇな。85点ってとこだけどな」
セブンはすぐに空いてる手で踏みつける足を掴み、身体に密着させたままそのまま体を捩じると、ガルディーは足から体を捻らされてぐるりと一回転してしまいうつ伏せで倒れ込む。その際拘束を解除してしまったためこの隙にセブンは抜け出し、すぐさま左脇側から背後に覆いかぶさり、左手でガルディーの左腕を捩じりながら締め上げて拘束し、もう片手で首元を抑え、事前に取り出しておいたナイフの峰部分を首に当てる。
「っくっっ…」
ガルディーはもがくように腕を動かそうとするが左腕は動かせないのは当然として、右腕も背中に体重がかかっているかと思うかのように動かせず、下半身も足をじたばたさせるだけで何も出来ない。そして窮めつけに首元に当てられたナイフの峰をとんとんと何度も首に当て続けた。そしてついに暴れる力が弱まり完全に脱力し、右手だけはドンっと思いっきり地面に叩きつけた。
「くそっ、私の負けだ!!」
「いやいや結構いい線いってたぜガルディー、ま、これで14勝1敗、何でも言うこと聞く権8つになったってことで」
セブンとガルディーが体勢を崩していると、部屋に全身を重甲冑に身を包んだ、どことなく顔つきがセブンにも似ているような大人しそうな男が入ってきた。
「ん?ガルディーさんはセブンに勝ったことあったのか?」
「…、…ただじゃんけんで一回勝てただけであり私はそんなものを勝ったことには含めておりません。ファイブ副指令殿」
「よぉファイブの兄貴、一月ぶりだな。例のやつ机の上に置いといたが読んだか?」
セブンは床に座ったまま立とうとしていたガルディーを引き寄せて隣に無理やり座らせ、腕を彼女の肩の上を通り抜け胸を揉んだ。ファイブと呼ばれた重甲冑の男は部屋の入口に立ったまま手に持っている雑誌に目をやった。
「…、『季刊誌ルーヴル 祝50号記念、帝国春のランキング特集』か?まだ発売前のものじゃないかこれ」
「あー、そっちじゃねぇけど…まぁそっちもだな。まぁそっちは兄貴よりもガルティーの方が興味あるか。初版の第一刷だからな。じっちゃんから貰ったぜ」
ファイブがあきれた様子で手に持っていた雑誌をとあるページまで一気に開く。ガルディーは揉まれていることも気にせずその雑誌に視線が釘付けであった。
「…国衛兵爵最強ランキング、相変わらず爺様はこういう仕事が好きだな…」
『季刊誌ルーブル』それは今帝国領土内で最も人気を博している雑誌の一つであり、出版している義勇兵爵騎士団が各都市に飛び回り、帝国内におけるおおよそ100万人以上の全ての兵爵をリサーチし、その中でも注目の高い兵爵を記事に取り上げ年に四回に分けて出版している。その記事の中でも特に注目が集めている内容が、年に一度だけ掲載される兵爵最強ランキングである。これは様々な権限を与えられ自由な活動を許可されながら兵職にも勤しむ『義勇兵爵』、帝国軍として所属し国を守るために様々な活動を強いられる『国衛兵爵』、それぞれで去年一年の活躍を集約しさらに兵爵の代表とも呼べるヴァイルハン・グリフィスアンバー帝国軍総司令が監修を行い、その実績や実力から優秀な兵爵を上位100人、義勇国衛の二項目で分け200人のみに絞りランク付けされる。このランキングに載ることはいわば総司令お墨付きの実力者と言う箔が付くことなのだ。ちなみに他にも様々なランキングはあるようだ。
「爺様方、かつて王と共に戦ったレジェンド達は殿堂入りって事でランキングから除外はされているとして…最上位層は顔ぶれが全く変わらないな、お前も含めてな」
「まねー、今期も7位ランキングキープ。ま、これ以上上を目指すのは実力以上に政治っつーか…軍内部のパワーバランスに関わるから親父とかじっちゃんに言ってうまいこと調整しねーといけねーのが面倒くせぇんだ」
そう言いながらセブンはガルディーの胸をまさぐり、彼女の胸ポケットから小さな紙の箱を取り出すと中から煙草のようなものを一本取り出し口に咥える。するとガルディーは別のポケットから小型の着火装置を取り出しセブンの煙草に火をつける。その一連はとても自然な動きで手馴れた様子だった。
「…ん?俺が12位まで上がってるな…少し過大評価ではないか?」
「そうか?順当にそんなもんだろ、兄貴はくさってもスタッド指令の教えの賜物そのものだ、俺だって兄貴とヤる時は入念に準備しなきゃ勝てないからな」
「その割には俺はお前に善戦した記憶すらないぞ」
「へへっ、やっぱスタッドのおっさんはそう言う星の元だって為にも負けるわけにはいかねぇからよ。そんな事よりどんどん読み進めてくれよ」
セブンは上機嫌に煙草の煙を吹かし、ファイブは釈然としなさそうな表情でさらに読み進める。
「…《城塞都市ムルフィルテンジュ》に常在している人だと…18位アシャー・エヴァンス前線部隊隊長、25位イワン・ハイランド銃撃部隊隊長。多少上下してるがこの辺りも変わりないか…お、あったぞ。40位ガルディー・グリ…んんっ、ガルディー工兵部隊長」
その一言にガルディーはビクンと反応し目を見開き、セブンの腕を払いのけて焦ったように立ち上がるとファイブの前に立ち敬礼する。
「ファイブ副指令殿、自分に、是非記事の内容の確認を!」
「まぁ待てガルディー、そいつはまだ一般販売前の情報だ。これ以上の内容は発売日までのお楽しみってことで」
後を追うようにセブンも立ち上がると自分が吸っている途中の煙草をガルディーの口に突っ込む。ガルディーは明らかに不貞腐れたような顔で煙草を一気に吸い込む。そしてセブンに引かれながらファイブの横を通り抜け一緒に扉に向かっていく。
「さてと、軽く汗を流したらちょっと休んで、夜は貸し切ったお店に俺のつれをみんな呼んでパーッとやるか」
「なら私はもう付き合ってやる理由などないな。兵爵講習の指導に戻るからな」
「えー、大丈夫だって。入れ替わりでイワンさん行ってくれたみたいだったしさ。一日くらい」
「待てセブン、お前の言ったそっちじゃない方の話が残ってるだろ」
ファイブの一言に扉の前で足を止める。ファイブの持っていた雑誌の下にあった書類束と入れ替える。
「…セブン、お前と…国衛兵爵ランキング1位である、サエカ・アシェイデル・イノウエ前線部隊員との正式な決闘を許可する内容だが…悪いが、今の段階では」
「分かってる。…戦争だろ」
「あぁ。かつて我らが帝都を治める祖人種の王証を持つアーテュール・コーランド聖帝と共に戦った爺様を含む13人の戦士達が築いた帝都及び七大都市建国、その一つ《城塞都市ムルフィルテンジュ》の存在意義…それは100年以上にもわたるティストレイ連邦との戦争の前線基地であった。この国が出来て数年の間もまだ激しい戦が永く続いたが、ここ20年近くは小規模な小競合いばかり続き死傷者がこの20年でまだ3桁ほどだ…これはお互いの国家が力を蓄えていると言われている。実際帝国軍も前線兵ではないもののついに100万をも超えるだけの人材が集まった」
「民間徴兵無しによくこれだけの数を集めたもんだと思うぜ。ま、隷爵の人達が自分のやりたい仕事のために兵士としての身分を獲得するための義勇兵爵制度、生活に必要最低限以外のものに高い税金かけて一部の金銭管理出来ないやつが借金に陥りやすいマッチポンプ政策、貴爵の子供兄弟の内から最低一人の出兵の義務に身寄りのない子供を教会で引き取りそのうちの半数が出兵するような教育方針…こうでもしないと平和な国から兵をかき集めれないからな…」
「…それもこれも、今はこの永きにわたる戦争に終止符をうつためのものだ。それが今年かもしれないというそんな大事なタイミングで、帝国内で最強と謳われる彼女と、俺達総司令の直系13兄弟の中で一番強いお前の二人…どちらも何かあっては困るのだ」
「分かってるさ…だけど、俺から言わせてもらえば、今しかねぇんだ」
「…獣人種の王との衝突で、どちらかが命を」
「っは、そんな心配はしてねぇ。俺も、アイツだって…死んだりなんか、ぜったいするもんか」
ファイブからはセブンが背中越しに話しているからどんな表情か分からない。だけどセブンの肩は小刻みに震え、そして強く握りこぶしを作る。隣にいるガルディーもこれまで見せたことがないような弱気な横顔が見えながら黙ったままそっとセブンの拳を両手で握りしめる。
「…会議には通そう。お前のことだからきっと帝都の本部にも同じ内容で申請しているだろうな。すぐには返事は帰ってこないだろうが」
「サンキューだぜ兄貴!」
「…それにしても、前までサエカ前線部隊員に対して随分冷たく当たっていたが、ここ最近妙にアプローチが増えてきたかと思えば今度は決闘の申込とは…一体どういう風の吹き回しだ?」
「へへっ、まー大したことじゃねーよ。…異界人ってのも案外悪くねーなって、気付けただけさ」
するとセブンは不意に腕をガルディーの腰に腕を回し、首を後ろに回してニカッと笑いながらグーサインを送り、二人一緒に出ていく。一人残されたファイブもやれやれといった様子で間をおいてから部屋を後にする。
「ファイブ様ーっ!!」
それは部屋を出てすぐの事だった。セブン達が向かった廊下とは別の方向から同じ制服を着た男が全速力で走ってきた。
「ティストレイへの潜入部隊が帰ってきました!っそ、それによりますと…軍の、連邦軍の動きが!全軍がいつでも突撃できる状態にまで準備が整ったとの事!!」
「…そうか、了解だ。詳しい内容は紙面で回せ。戻っていいぞ」
男は敬礼をするとすぐさま来た道を走って戻る。ファイブは再度手に握っている書類束…正式な決闘の申込書類をじっと眺める。そして西の窓から差し込む真っ赤な夕焼けに釣られ外を見る。
「…どうやら、お前の願いは叶えられそうになさそうだ…セブン」
ファイブの視線の先には何もない広野が広がって見える。だがこの建物より先には、正確には国境線が見えている筈なのだ。そしてその国境線の先に…脅威が今まさにこの帝国を、玄関口ともいえるこの都市に襲い掛かってくる。もうそのカウントダウンはだれにも止められなくなってきたのだった……———
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
こちらでの投稿はもう一か月近い間隔があいてしまい申し訳ありませんでした、ですがその間も執筆活動及び投稿は行っていました。自分の作品としての強みをしっかり引き出そうという事でやり始めた短編集です!もしよかったらこちらから移動してみてください。
https://ncode.syosetu.com/n2336lt/
こちらでは特定の主人公というものをとりあえず設定せずに、その登場する全ての人物が主人公として活躍する、というのを出来るだけ頑張ってみようと思い筆を執った次第であります。決してこの世界の中心となる人間ではないが、それぞれがこの帝都でドラマがある…というのをちゃんと描く目的で始めてみました。
それでこっちでの投稿はとりあえず閑話休題といいますか、とりあえず短編集をある程度投稿するまでに次の物語を描くまでにやりたかった視点を中心に描いていきたいと思っていますので、頻度としましては月一くらいのペースとなることをご了承ください。
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は3/28に投稿を予定しております。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。よければ、ブックマーク・お気に入り登録をお願いいたします。本編及び短編集や設定資料もよろしくお願いします。




