Episode10 そして物語は歴史の中へと混ざり合う——— 中編
……———……
それはさかのぼる事二日前、俺達が恭介の対策を始めてすぐの事だった。
「…しっかし、俺はそいつと直接やってはいねーんだけどよぉ。人一人が全属性の魔法を使えるなんてことありえんのかよ。異界人だけにしか出来ないとかだったらずりーぞ?」
「いや、異界人だとしても全属性を持ち合わせるなんてことは長い歴史の中でも今のところは存在しない。…一応4属性持ち以上は記録にはあるのだけどな」
「もしくは…王証持ちであれば全属性を使える可能性はあるだろうが…正直言ってあの男がそんな王証持ちな風貌には感じられなかった」
「…そもそも祖人種の王証持ちはまだご存命だ。同じ人種で同じ王証が二つもあるなんてことは考えにくい。…あの男がそもそも祖人種でなく、他の人種の王証を持ってるとなると話が別だが」
「…まぁ、なんにせよ。こっちの結論としては…全属性魔法には何かしらのカラクリがあるって事でいいんだよな。そしてそのカラクリは俺が知ってるあいつの性格も含めて言わせてもらえば、多分背後には…オズランド帝国、いや…ラプスラストが糸を引いてると思ってる」
俺の言葉に皆が沈黙する。それもそうだ、唐突に突拍子もなくあいつの後ろにティストレイ連邦でなく、オズランド帝国の名前があがってきたら訳が分からないだろう。だが俺には確証…というほどのものではないが、きっと多分間違いないと思っている。
「…実は我々軍も同じ結論に辿り着いている。おそらくは既にあの男はオズランドの異界人兵としての細工が施されていると思われる。ただ他の異界人兵とは随分異なりかなり彼の人格や思考を残した状態で行動させているのが気になっている」
「おそらくは…ラプスラストが俺と接触したことがあり、恭介と俺が面識を持ってたから、わざわざそう言う事をしなかった…なんて、出来過ぎな話ですかね?」
そういうとイワンさんは考え込むような仕草を見せる。
「なぁミナヅキ!今はそんな事は後にして、そのカラクリってのが何なのか教えてくれよ!」
「落ち着けドレイク!何かカラクリはあるってだけで、どんなカラクリなんかは俺にだってわか…、…MRI…」
俺は今の今、ラプスラストの名を出した時からふとあることを思い出した。それは以前異界人特別拘置施設に入ってすぐの事、ラプスラストとの接触の際に体内の魔力を調べるために使った機械。通称魔波共振画像診断装置…これにより正確に本人の魔力状況を調べられたり、本人以外の魔力を検知するのにつかわれるのだ。
「まさか…イワンさん!もしかして、人の体の中に他人の魔力を、いや…他人の魔法を仕込んでおくことって!?」
「っはぁ!?」「うそ、そんな」「ミナヅキ、そんな馬鹿な事…」
「…そこまで気付くとはな。大正解だ。我々軍もあの男の戦いを専門チームで分析した結果、あの男は魔法を一切使っている形跡はないと判断したのだ」
「な、なにを言っている!?私達はちゃんと奴が魔法を使っているのをはっきりと見たんだぞ!!」
「ハッタリなんだよ!多分…恭介自身も気付いていない。あいつはただ自分が思った通りに魔法が使えると勘違いしたまま…自分がただの操り人形である事すらも気付いていなんだ」
自分で言ってても恐ろしくなってきた。もしあの日、俺がラプスラストの口車に乗せられ、オズランド帝国に行っていたら俺は一体どうなっていたか…いや、俺だけじゃない。もっと多くの異界人がこの世界に来ては拉致され、操り人形そのものの戦闘兵に仕立て上げられているなんて…、帝国の施設もあまり好きではなかったが、守られる国籍のない俺達にとってはかなり温情だったのだと気づかされる。
「…それで、そんな操り人形にどんな方法で立ち向かうつもりだ?」
「…、…今の話の中で試してみたいことが一つ出来た。あでもそのためには…」
「わーってるぜ!!俺達に出来る事なら何でも言ってくれ」
「あ、すまん。お前じゃないんだ」
自信満々に言うドレイクを横に、俺は後ろで話を聞いていたドロフィーとティラの肩をに手を乗せる。ドレイクは項垂れ、トモエは何やらにらみを利かせているが、とりあえず見えなかったことにする。
「頼む。二人の力を借りたい。…出来るかもわかんないんだけど、手伝ってくれないか?」
「勿論だよミナヅキ。…私だって、みんなの為に頑張りたいのだから」
「ん…、借りは…返す…」
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あれからイワンさんとも策の改良を重ねて編み出した秘策、必ず成功させなきゃならない…そのためには、条件が二つ。一つは当然ダメージ無効スキルを掻い潜る事。結局これが出来なきゃそもそも何も話にならない。とはいえそんなあまりにも完全無比な能力が存在していてもいいのか?きっとこれ自体も何かカラクリがあると思っている。俺はとにかく浮遊していられる時間をフルに使い、そのカラクリを見極める…完全に外部との接触を遮断するというのは、おそらくというか…今の恭介なら女性との好意的な接触のためにも完全遮断ではないと思う。
「…一か八か…」
俺は覚悟を決め、術の全てを、魔力の全てを出し切る気持ちで最後の特攻に出た。風魔法の空中移動力を高め、左右に揺さぶりながら、恭介の攻撃を土魔法で防ぐ。そして強力な光魔法を構え一気に距離を詰める。
「キャプテンの属性じゃぁ何したって、無駄だって、いってんだろっ!!」
「それを決めるのはお前じゃねぇ!!きょうすけええええぇ!!」
俺は強力な光魔法で目くらましをして、一瞬のスキを作る。恭介は別に失明するわけでもないからこの魔法を直視することが出来るだろうが、咄嗟に眩しい光が目に入ればいくら結果的には効果がなくとも、一瞬俺の姿が分からなくなるくらいは出来るはずだ!!そして俺はこの一瞬で、武器を捨て、術式が書かれたグローブも捨て、素手で恭介の頭を掴んだ!!間違いない、「攻撃」と認識されるものの中には、素手が含まれていなかったのだ!!ならばチャンスは今しかないっ
「『魔法術式を乱せ 思考に走り 雷撃よ』!!」
その瞬間、俺の腕に刻まれていた術式が作動し、同時に身体に取り付けていた装置が作動、内部の魔力を元に本来俺が使う事の出来ない『雷』の属性の魔法を発動させたのだ。その効果は…
「ひぎゅっ!?」
…逆流し俺にも相当な負荷がかかり、脳に直接ダメージが来たかのような感覚に襲われる。逆に恭介にはダメージが通っているようには思えない。とはいえ、効果はしっかり出ているようだ。
「…っんな!?」
俺も恭介も飛ぶ、というより浮いている力を失い、そのまま地面へと真っ逆さまに急降下し墜落したのだ。やはり思った通り、恭介も飛行能力は魔法由来のものだったのだ。あの魔法は魔法術式に強制終了の入力を書き加える…本来は緊急時のセーフティ魔法なのだ。とはいえ俺の持ってる属性ではその強制終了が出来ない為、こうして雷属性を持つ『ティラの魔法を仕込んでおいたのだ』。
その効果は絶大で、地面に落ちた恭介はすっかり呆気にとられぽかんとしている。それも当然、急に飛べなくなったり、俺が使えるはずもない4種類目の属性を使ったりと思考が追いついている様子ではなかった。
「はあぁぁ!!」
「戦場でぼーっとしてんじゃねぇ!!」
だが当然それを黙って見ている俺達でもない。トモエとドレイクは追撃に向かい。ドロフィーの土魔法が恭介の退路を断った。だが動けずにいる恭介への攻撃はやはり全て絶対防御のスキルに弾かれる。
「マスター!!そこの敵兵、どきなさいっ」
「私は、敵なんかじゃない!私はティア!私達、汽車で仲良くなった。貴女は…貴方はアラタ騎士団のバーケニーさんだよ!!」
「バーケニー…?その名はもう覚えてはいません。私は愛しのマスターをお守りするミスティ」
「…ふぅん、それでいいの?なら、ホントに大切な人、私が貰っちゃうね…?」
「…、…なにを、バカなことを…私は、マスターの…」
一方で片や二丁拳銃のバーケニーさんと片や二丁機関銃のティラの2人がお互いにガン=カタのファイトを繰り広げている。だがティラは元々昼はぼんやりとするくらい力が湧かないはずなのに、ティラの方が圧倒的優位に戦闘が進んでいる。ティラの言葉が聞いているのかバーケニーは苦悩の様子に表情をゆがませている。
「くそっ、くそぉ!!ミスティは何やってんだよ。さっさと助けに来いよぉお!!」
恭介は感情のままに魔法で爆発を起こさせると、猛攻をかけていた二人は離れざるを得なかった。俺も攻撃に参加したいが…先ほどの空中戦で殆ど魔力を消費しきってしまい、急性魔力欠乏すれすれでしばらくは動けそうもない。
「…ミナヅキ、頭が疲れているのは重々承知なのだが…次の策はどうする?」
「なんだよあのインチキは!ハンマーで叩いても何もないとこで弾かれて全然効かねぇじゃねーか」
二人の愚痴にも似たアドバイスを求める声に、俺は…辛い気持ちをグッと我慢しながら、唇をかみしめながら返答する。
「このままでいい、このまま…とにかく、ドロフィーの作った壁に押し当てながら、みんなで攻撃を打ち込み続けるんだ!!」
はあぁ!?と驚きと呆れのような声をあげる二人をよそに、俺達の後ろから無数の黒い闇の魔法弾を何発も何発も恭介目掛けて放ち続けた。
「…借りは…、返す…」
「ひっ、ひぃぃ…き、効かねぇって、言ってんだろうが!!」
恭介は魔法弾を絶対防御スキルに守られながら、手で弾くように腕を横薙ぎする仕草をする。その陰から二人がまた距離を詰めてラッシュを再開する。
「火の神よ魁ろ!タケダ流二剣抜刀法、朱雀三連斬!!」
「くっそぅ、こうなりゃヤケだ!!おらあぁ!!」
トモエが一本の刀を逆手持ちに二本の刀で何度も回転しながら三連打を叩き込み、ドレイクも負けじとハンマーで何度も叩きまくる。その2人の気迫に負けじとドロフィーもさらに二人の間から魔法を叩き込むが…何度やっても恭介の絶対防御スキルの前にすべて弾かれてしまう。だが…
「ひっ…や、やめ…やめてっ!やめてっ!」
防御スキルに守られていると分かっている筈なのに、恭介は辺りもしない攻撃に怯え、手で頭を覆うようにしてうずくまっている…そう、おそらく誰も攻撃が通らないからここまで何度も何度も攻撃を叩き込むことをしてこなかったのだろう。これこそが恭介への最大の攻撃…過去のトラウマを、呼び起こすことだ。
…正直俺だってこんな手は使いたくはなかったし、効果があるとは思ってなかった。それでも、それでも俺は…大事な人を取り返す。そして痛めつけられた仲間の痛みを…この俺の感情を恭介にぶつけないと気が済まないんだ。
「やめろっていってんだろおおおおがあああ!!!」
「っぐ、ああっ!!?」
「どはぁぁ!!」
恭介が怒りのままにもはや魔法とも呼べないような衝撃波のような力で周囲を吹き飛ばす。その余波でトモエとドレイクが吹き飛ばされるが、二人以上に恭介は苦痛に表情をゆがませ、疲弊しきっていた。俺はドロフィーに魔法攻撃を中断するようハンドサインを送る。
「はぁ…はぁ…くそっ、どいつもこいつも…なんで、俺の思う通りに…」
「…恭介。決着をつけよう。…『ゴールにぶち込む、バスケットボールとなれ、光の弾よ』」
一度外したグローブを付け直し、俺が呪文を唱えるとグローブの中の術式が起動し魔力が流れ込む、そしてグローブを付けた掌からバスケットボールサイズの光球を作り出す。そうこの魔法は俺専用にカスタマイズした魔法で、まさにバスケットボールのように跳ねる性質を持つ。
「『綺麗な足元を作り出せ、平らな地面を敷き、氷床よ』」
すかさずドロフィーも持っている杖を地面に突きつけると、俺と恭介の立つ地面に氷が張られ…足を擦るときゅっ、きゅっと程よく靴裏がスキール音を発する。まさにバスケをするのに最適な状態にしてくれた。
「小細工はなしだ。俺はこの魔法弾を…お前のミスティに3回ぶつけて解放させる。お前にも本気で守りたいものがあるなら…俺より強いって言うなら!俺から奪ってみろよ!!」
俺はゆっくり、ゆっくりとボールをドリブルしながらゆっくりとした足取りで恭介との距離を詰めていく…。だが恭介は真っ先に俺の周囲を爆炎で包んだ。ドオオンと爆音と爆炎で俺の姿を完全に見失う攻撃の中、俺は煙の中から一気に恭介との距離を縮めた。恭介は俺に驚きながらも、俺のボールを奪おうと手を伸ばすも、俺はくるりとターンを決めて恭介を抜き去り、そのまま走り抜けていった。
「まずっ!ひとつっ!!」
俺はボールを持って、二歩足を踏み出し三歩目でジャンプするとそのままボールを少し離れたバーケニー目掛けて投げる。バーケニーにとってティラと交戦しているとはいえ回避は容易なはずだったが、よけようとすることはせず直撃しボールはバーケニーを包み込む光となった。
「っく!」
バーケニーは光から脱出するように飛び上がると、恭介の後ろに回るように移動する。それを追ってティラも移動する。そしてこっちも再度バスケボール魔法を使い補充する。
「はぁ…はぁ…くそっ!!」
今度は恭介から一気に距離を詰めるように俺に向かって走り出した。俺は当然ドリブルするボールを自分の後ろに回しながら突破する様子をうかがう。
「はぁ…はぁ…、キャプテンの、得意分野だからって…勝てると思うなよ。俺はこの世界に来て、全能力が世界レベルの強さになったんだ!!今のキャプテン如き…」
「だったら、口先だけじゃなくて、俺からボールを奪ってみろよ!」
俺はステップの速度を上げる。細かく、鋭く、恭介が嫌がる攻めた足取りをして、触れないながらも身体を押し付けるようにギリギリを責める。そんな動きに対し恭介は明らかなへっぴり腰で腕だけを出して何とかしようとする。
「そんな動きで取れると思うな!!お前には教えたはずだろ!もっと足を意識しろ!ボールを取ることを意識するな、プレッシャーをかけるんだ!」
「くそっ…今になって、嫌な事ばかり思い出させやがってぇ!!」
恭介の我武者羅なプレイにも俺は間合いの主導権を掴んで動く。そして左右への揺さぶりをかけ…右へ距離を詰めるように動いて誘い込み、フェイントにつられた恭介を左側から大きく抜き去ることに成功した。
「これでふたつめっ!!」
「くそっ、よけろミスティ!!」
俺から放たれたボール状の魔法弾の軌道から外れるように動くバーケニー…だがその軌道上にティラが入った。
「はあああぁ!!」
ティラが両手の機関銃で魔法弾の軌道を曲げるように殴る。そのまま魔法弾はまたもバーケニーに直撃した。だが二発命中しても大したダメージではない様子を見せる。だが明らかな困惑、いや動揺を見せる。
「くそぅ…くそぅ!ちくしょおおおおお!!!」
感情を抑えられなくなったであろう恭介は、怒りのままに地面に腕を突き立てると、なんと地面に真っ黒な魔法陣が描かれ…その魔法陣はまるでおぞましく蠢きながら広がり、魔法陣からは黒い靄が溢れてきたと思えば不気味に光り輝き…中から数十人の人間が…10人程の女性達が現れたのだ。
「お前ら!!あいつを…あいつを殺せ!そしたら何でもしてやるから…あいつをぶっころせぇぇ!!」
「くっそぅ…あいつもう見境なくなってきやがった…」
召喚された女性達は少々困惑気味に武器を手に構える。流石に強さの分からない相手に、それもこちらは少々疲弊している三人と、かなり限界寸前の俺…人数不利を捲るだけの術は…
すると突如、風が俺達の背後から吹いた。それは恭介や恭介が呼び出した女性達の視界を覆いたくなるような強い突風…いや風魔法だ!その直後に複数の矢や苦無、水の魔法弾が降り注ぎ、命中した女性達の悲鳴が上がった。
「貴様らかぁ!!若様のかたきぃ!このキンジョー家に仕えし家臣が1人、元トオノ家のツヅリが若に代わって成敗致す!!」
「わりぃ団長、俺んとこの…いや、ホタルもか、汽車の時間までに準備間に合わなくて」
「むー…キヨミツもだって…」
「あ゛ーっ!面白いネタがぁぁ…自分が、自分がぁ…あとで全部1から10まできっちり話してください!!自分が本にして売りますからぁ~…」
「遅くなったぜミナヅキ!みんながぶっ倒れたって聞いたからいてもたってもいられず来ちまったぜ!!」
俺達の後ろに立っていたのは、ウルヴァ達拠点に置いてきた5人だった。5人は急ぎトモエ達3人と並び立つと敵の女性陣もまた意を決しゆっくりと走り出し突撃してきた。
「ミナヅキ!話はイワンって人から聞いている!お前は…あいつをぶっ飛ばしてこい!!」
ウルヴァが魔砲をぶっ放しながら女性人達の間に道を作る。そして俺よりも先を走りだしそれぞれが対峙する。後衛であるキヨミツやツヅリですら一人を抑えるために接敵し戦っている。真っすぐに空いたルートは一直線に恭介にへと続いていた。
「…本当なら、私がフェリスや二人の仇を討ちたかったが…任せたぞアラタ騎士団長ミナヅキ!!」
「私も…ごめんなさいって、言うから…頑張る!」
最前線の道を開けていたトモエとドロフィーの激励を背に、俺は残る二人の女性と恭介と向かい合う。
「さぁ、これで最後だ…最後くらい俺から奪って見せろ。それが出来ないなら…返してもらうぞ!!」
俺は三度ボールを生成しドリブルを始める。ぐらりと視界が歪む。これまで大量に魔力を消費しさらに体力も使ってきたため殆ど限界に近い状態だ…。前の世界でも味わったことのない限界の境地でも、何故かまだ意識ははっきりとしている。負けられない。負けたくない。負けるわけにはいかない。その思いが俺を支えてくれている。
「はあぁ!」「やあぁ!!」
女性達は俺の動きにお構いなしに、剣を突き立て、銃を発砲するが、その動きすらもまるでバスケをしている時のボールを奪う素人の動きにしか見えない。研ぎ澄まされた俺は全身の疲労感に耐えながらもドリブルしながら一気に二人に近寄る。武器なんてものは、懐に入れば何もできない。密着したままひらりと躱し抜き去る。そして…最後の一騎打ちだ。
「み、…ミナヅキィィアラタアアアアアアアアアァァァ!!!」
「きょうすけえええええええぇぇぇええ!!!」
それは一瞬の出来事。だが俺達にとってはまるで永い時間をかけた勝負にも思えた。俺は恭介を抜き去り、バーケニーの目の前まで走り付いた。そして最後の一球を…この想いを、バーケニーさんにぶつけたのだ。バーケニーさんは避けるでも、反撃してくるでもなく…ただ俺の想いを一身に受け止めていた。
「今だ、ティラ!!」
俺はすかさずティラを呼ぶと、機関銃を手離しその手でバーケニーの頭を直接掴むティラ。
「『魔法術式を乱せ 思考に走り 雷撃よ』!!」
それは先ほど俺が恭介に使った、術式を強制終了させる魔法だ。当然ではあるが俺とは違いティラに魔法が逆流するという事はなくバーケニーの頭に電撃のような魔法が走る。そしてティラがバーケニーから手を離すとその身体はゆっくりと崩れ落ちそうになるのを俺が急ぎ抱きかかえる。
「バーケニー!…バーケニー!!」
「…ん、ミ、ナ…ヅキ…」
バーケニーの口から俺の名前が聞けたことで、俺はようやく安堵する。帰ってきたんだ。取り返すことに成功したんだと…俺はグッと堪えてきた涙をポロリとバーケニーの上でこぼす。ティラも安心しきったのか一緒に抱き付いてボロボロ涙を溢していた。
「わりぃ…遅くなった。心配かけちまったよな」
「…心配なんて、していませんよ。…貴方ならきっと、必ず…私を助けてくれると、信じていましたから…」
優しく微笑むバーケニーを股ぎゅっと抱きしめる。
だが、そんな安息もつかの間…恭介は呆然と立ち尽くし、2人の女性に心配されてはいるが、他のみんなはまだ戦っているのだ。だがそれもこの一瞬だけだった。
「ころす…ころす…ころすころすころすころすころすぅううう!!」
もはや自我がしっかり残っているかも分からないほどの憎悪、恭介の心は完全に折れたはずなのに、恭介は抑えれんばかりの魔力を無駄に放出しながらゆっくりと俺の方に歩いてくる。…かく言う俺ももう魔力も気力も体力も精魂尽きてバーケニーを抱きとめるので精一杯の状態だ。もはやこれまでと言った状況…
「どうやら…もう出涸らし程度しか残っていないとは。少々寝過ぎたかもしれん」
上空から俺達と恭介の間に誰かが割って落ちてきた、砂煙の中から出てきたのは…なんとラセツだった。まだ完全に完治しきっていない筈だったがまるで完全回復しきったかのように余裕そうに重たい金棒を軽々と振り担ぐ。
すぐに二人の女性が攻撃を仕掛けようとするが、ラセツは動こうともしなかった。いや動く必要がなかったのだ。
「おうらよっとぉ!!」
「はあああぁぁぁ!!」
どこからともなく、いやおそらくラセツの陰から現れたビヨンドとフェリスが左右の女性達に隙をついた一撃を食らわせたのだ。二人の女性はぐるりと宙を舞い地面へと激突することとなった。二人もまだ傷は完全に癒えていないというのに。
「どいつも…こいつも…つかえねぇ無能ばかりぃぃ!!」
「…無能なのはお前だろ。そんな力に溺れ傲り、選ばれるという意味をはき違えただけの道化が」
「だまれぇ雑魚がああああ!!」
恭介がラセツに襲い掛かる。ラセツは軽く金棒で振り払い突き放そうとすると、その金棒は恭介の腹に命中し身体がくの字に曲がったのだ。
「…む?」
即座に金棒を振りぬくと恭介の身体は遠くに飛ばされ二回三回と横転し、その後起き上がった彼の姿はひどく打った後や擦り傷のような傷跡が出来ていた。
「…痛くも、かゆくもねぇよ……そんな攻撃…」
「…攻撃が通っているが、痛みだけはシャットアウトしているとは…もはやダメージ無効も哀れ、いや滑稽なものだな」
ラセツの言葉に、ビヨンドもフェリスも体をほぐしながらラセツに並び立つ。おそらく思いというか…恨みは同じだろう。そんな恭介を守ろうと女性二人が前に立つが、恐怖で震えているのが目に見てわかる。だがそんな女性達を突き飛ばして真っすぐ歩く恭介。
「っは、随分いい趣味してんじゃねーかよ」
「どこがよ…気色悪いだけよ」
「だが、自分から俺達のつのった思いを受け止めると言うなら…遠慮なく受け止めさせてもらおうではないか」
恭介が腕を振るえば爆炎に雷、豹や闇の弾など様々な魔法を重ねて放つが、三人はそれが素人による単調な攻撃にしか見えないのだろうひらりひらりと躱して見せ一気に距離を詰める。
「攻撃が当たるなら、こっちのもんだぁ!!」
真っ先に辿り着いたビヨンドが強靭な足で上空へと蹴り飛ばし、それを追うようにジャンプしてクラブで追い打ちするように叩く落とす。
「ソーン・オブ・ケージ ラッシュ!!」
叩き落とされた恭介にフェリスがすかさずコンパクトに折り畳んだアッパーカットを食らわせ無理やり身体を直立姿勢にすると、どてっぱらに猛ラッシュのパンチをお見舞いする。
「キンジョー流魔式、氷剛撃」
フェリスと切り替わるようにラセツが前に出ると、恭介の身体を凍り付かせそのまま金棒の強烈な一振りで叩き割った。その衝撃で恭介の身体は大きく弧を描くように吹き飛び、地面へと叩きつけられた。そんな一部始終を見届けた、もはや戦う気がなさそうな女性二人も怯えながら恭介の傍におそるおそる近寄る。
「…な…んで…、痛く…ねぇ……」
あれだけ激しい攻撃をくらいながらもなおすぐに起き上がる恭介の姿はスキルに守られているというより、まるで…人間というより、人形のように紐で引っ張り上げているみたいだった…。元々恭介を慕っていたであろう女性達ももはや彼に対する視線は畏怖の対象そのもののようだった。
「ミナヅキ、これがダメージ無効スキルというものの正体か?これではまるで…」
「…正確には、おそらくこれじゃない。…もう本人を呼び出すしかないな」
俺はバーケニーさんをティラに任せて、限界を迎えた体を無理やり立たせる。
「…ラプスラスト!見ているんだろう!!返事の一つでもしたらどうだ!!」
「…てめぇが…ラプラスの名を……軽々しく口に…、俺の女だぞ…」
「目を覚ませ恭介!…お前はあいつに利用されていただけなんだ!!」
「うるさい…お前は…いつもそうだ……元の世界でも…、…お前は、お前は!俺から結衣を奪ったんだ!!」
…そんな気がしていた。恭介がバスケ部に入部した本当の理由…それが同じ中学の結衣がバスケ部のマネージャーに入ったから、それを追って入部したのだ。つまり一方的な片思いだったのだ。そしてあの日俺の脳裏に焼き付いた…結衣と体育館裏の出来事。恭介が結衣に告白をしていたのだ。そして結衣に…フラれたんだ。そして俺と親し気に話す結衣の姿を見て…ずっと嫉妬していたんだ。
それを見透かされ…利用されたんだ。ラプスラストに。
…———ザザッ———…
『やっほー!ミナヅキ君ひさっしー!随分いー男になったじゃーん♡』
ラプスラストは特に動じることなく、指についたお菓子のあとを舐め紙で拭いて、コップの飲み物を口にする。
『やっぱ凄いねミナヅキ君って。正確には私の部下がほぼ24時間体制で監視して魔法を使いたそうなタイミングで遠隔で使用してるの。うちのスタッフって超ベテランだから異界人の魔法を使いタイミングってのがほぼだいたい手に取るようにわかるんだよ。んで本来なら私に依存させるように仕向けた後様々な危機管理セキュリティガッバガバにさせてから中毒にさせて自我をぶっ壊して何でも言う事を聞く異界人兵に仕上げて完成なんだけど…そいつ、何でも私の言う事信じて疑わないし、何よりミナヅキ君の知り合いだから折角だしなにも弄ってない状態で合わせてあげよってなったの♡あ、でも痛覚だけは無くさせたんだっけ?』
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
よっぱっぱ遅刻しました。新年会で遅刻しました申し訳ございません。よっていまう。
寄ったついでに、今回書きたかった内容としまして、ミナヅキが限界突破するやつとか、バンドクラブが音楽響かせて騎士団強化するとかの流れやりたかったけど全部お流れとなりました。やりたかったのは全部どこかでやろうと思ってます。今は・・無理、ぶっ倒れます。
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は1/31に、Episode10の後編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




