Episode10 そして物語は歴史の中へと混ざり合う——— 前編
「あ、あの…1年情報学科の桐谷恭介って言います。バスケの経験はないですけど…レギュラーになれるよう一生懸命頑張るので、よろしくお願いします」
俺の中のあいつの第一印象は、まだ初々しい高校デビューも出来てなさそうな気弱な少年だった。身長だって俺ですら強豪と渡り合うにはもう少し欲しいと思うが彼はそんな俺よりも背が低かった。依田君も未経験な上決して背が高いとは言えないがそれでも持ち前のセンスが光り試合で活躍することだって多々あった。彼もまた磨けばきっと輝ける逸材になれるかもしれない。それはきっと彼の努力次第だ。俺はそんな彼の頑張りを応援したいと思い…彼に手を差し伸べた。
「俺は水無月新。きっとレギュラーになれるさ、一緒に頑張ろう」
1年は雑用が多いのは俺も去年さんざんこき使われたから分かる。うちは全国に行けたり行けなかったりといまいち成績が安定しないが一応強豪校ではあったせいで上下関は厳しかった。3年のレギュラー陣はコート1枚使って試合を模したシュミレート練習をしている傍ら1年は体育館外の通路で体力作りなんて当然、コート磨きだって部材手入れだって1年の仕事だ…。1年全員が文句を垂れながら、こんなんじゃいつまでたってもレギュラー入りできないと嘆いている姿は去年の俺達と一緒だ。だから俺達が1年だった頃は3年生やレギュラーメンバーが帰った後、補欠メンバーの2年生先輩と一緒にこっそり練習したものだ…。依田君も愚痴をこぼしながらも一緒に頑張ったおかげでみるみる上達していった。だから彼…恭介君もきっと元々素人でも一気に上達する、そう思っていた。
「それじゃ、先輩。お疲れ様でした」
「え?もう帰るのか…?」
「えぇ、だって、部活終わりましたし」
恭介は1年がこなす片付けを済ませたら、早急に帰ってしまったのだ。その日だけではなかった。毎日彼は部活終わりで帰っていった…、結局居残って練習する1年の中には恭介の姿はなかった。…もしかして隠れて練習したりしてるのかな?それとも家が貧しいとか、のっぴきならない理由でもあったりするのかな…?
「別にあいつ、そんな特別な理由とかないですよ先輩」
恭介と中学が同じだったという新しく入ってくれたマネージャーの『向井 結衣』が教えてくれた。彼女はバスケ自体あまり詳しくないがとても献身的に部のマネージャーとしてサポートをしてくれた。わざわざいなくてもいい居残りにも参加して後片付けの手伝いもしてくれた。一応交代で登板の多い俺を気遣ってくれているのが俺の中での印象に強く残っている。
俺は恭介に居残り練習に参加しないかと誘ってみるが、結局来ることはなかった。そうこうしているうちに夏が来て、俺達は全国の舞台に上がり…そして日本一が遠い夢半ばで先輩たちは涙を流しながら部を去ることとなった。
次のキャプテンとして俺が任命されることとなった。キャプテンの仕事は大変だった。エースとして練習に集中すればいいわけではなくチーム全体をちゃんと見ないといけない。レギュラーメンバーの事も、交代要員の役割の事、次世代の育成…そして恭介の事も。
マネージャー達もマネージャー業をしながら俺の仕事を手伝ってくれたりもしたが、やはり一番よく覚えているのが結衣だろう。彼女とは他校の情報収集で何度も一緒に遠征をした仲だ。…彼女とも相談をしたことがあるが出来ればこういう業務までキャプテンがするものなのかとは考えたことがある。例えば…恭介にお願いするとか…
そんなこんなで幾日もたった頃、俺はすっかり結衣をあてにしきっていて結衣を探していた時、体育館裏から結衣が走ってくるのと同時に、結衣が来た方向の先に恭介がいたのを覚えている。
「あっ、結衣こんなとこにいたのか。ってかこんなとこで何を…」
「先輩っ、なんでもないですよ~。秋大会のスタメンですか?」
「あ、あぁ…他に用があるなら後でもいいんだけど」
「別に何もないですよ。早く行きましょ先輩!」
あの日、あの場所で俺は二人が何をしていたのか分からなかったが…俺の中では、何故かあの二人の事がずっと頭から離れなかった。
それから秋大会が始まった。地区予選は辛くも順調に駒を進めた。まだ荒れ削りなチームではあるが、選手それぞれの個性を活かしつつ、時に俺自身がチームの潤滑油として卒なくこなすことで選手全員の能力を最大限発揮させ勝利をもぎ取る。時に1年も起用し経験と適度な緊張を体に教え込む。俺達が引退した後の為にも…勝ち進みながらもほぼ全員の1年が試合に参加することが出来た。ただ一人…恭介を除いて…。
恭介はちゃんとしっかり成長をしていた。それは分かっている。だがそれは元々素人同然だったのが、多少バスケのノウハウをしっかり身に着け試合についていける程度であって…正直大会という舞台で戦うには…いっては何だが…彼を起用するという事が出来なかった。彼を否定するつもりはないが…俺には恭介がわからなかった。レギュラーになりたいと言っていた恭介がどうしたいのかが…
秋大会ではベスト8まで昇り詰めることが出来たものの準々決勝でその時の優勝校と当たってしまい、ほぼ全員をフル投入。俺も試合の大半を出てなんとか試合に喰らいつくも…結局5点の差が埋められないままお互いのシーソーゲームが続き敗退となった。なによりチームとしての全力を出し切れたかというと、この時の一つ前の試合にて強気のパスが相手の得点につながったことを恐れた今回のバックパスという俺自身のミスが敗因に繋がっているという事だ。勿論監督もチームメンバーも俺自身を責めたりはしなかった。それだけの力量差を肌で感じ取ったみんなは俺を励ますが…やはり俺自身堪えるものがあった。
「キャプテン…」
みんなが気遣ってなのか部室で一人になっている俺に、恭介がやってきたのだ。とはいえ憔悴しきった俺には恭介の今後のヴィジョンの相談とかとてもしてやれる状態ではなかった。…だがそんな時に彼はとんでもないことを口にしたのだ。
「キャプテン…なんで俺を試合に出してくれなかったんですか?この大会中一度も出ていないですよ。体力は有り余っていましたから俺だったらあんなミスしなかったですよ」
直後、俺は恭介の胸ぐらをつかみ、その身体をロッカーに叩きつけていた。その時の驚きと怯え困惑するような表情に俺ははっとして手を放す。手が離れると恭介の身体は床に崩れ落ちる。
「…、…っわ、わりぃ…」
恭介は怯え慌ててそのまま逃げるように部室から出ていった。俺自身自分がどうしてあんなことをしたのか…、…いや分からないわけがない。ただそれでも、恭介にそんなことを言われるとは思ってもみなかった…。
世界という舞台の為にどんなことでもしてきた俺が、あんな奴に未熟と言われた。
それからしばらくして、恭介はバスケ部を辞めていった。結衣からは詳しい事情を聞くことが出来なかったが、噂ではどうも虐め絡みらしい。俺も部室での件があってから会うことを避けていたためあの後恭介がどういう生活を送っているのかは知る由もなかった…。だけど、まさか…
まさか、こっちの世界で…あいつを見ることになるとは…
「…、…んっ…ここは…」
「———っ!!——、——————!!」
「——、———っ——…キ…——おぃ——へん…を———ヅキく———」
気がついた…というか、なんだか永い間自分が自分でなかったかのような、ふわふわした感覚から、まるで鉛の入れ物に押し込まれたような感覚、まるで戻ったかのように思える…というか周りが騒がしい。どうやら俺を呼ぶような声が聞こえる。俺は意識や感覚を徐々に取り戻しながら周囲を確認する。どうやら軍の医療室だろうベッドの上に横たわり、俺の周りを主治医だか女医だか白衣を着た人が取り囲んでいる…。
「んっ…いてて…、…ここは…」
「あっ、君!!まだ起き上がってはいかん!」
「…いや、もう大丈夫ですよ。さっきの戦闘なら、大した怪我は…そうだ、みんなは!?」
「何を言っとる!君はまる2日昏睡状態だったのだぞ!!外傷に問題がなくとも何か重大なダメージを負っておるに違いない!!」
「ま、丸2日も意識なかったの俺!?」
「君の仲間達なら大丈夫だ。外傷はひどいが君よりかは意識がある。とにかく君は今日1日は絶対安静だ」
みんなはとりあえず無事…それだけ聞いたら安堵からかベッドに身体を投げ出した。まさかあれから丸2日もぶっ倒れていたとは思いもしなかった。俺は別にどこも怠くない体を無理やりベッドに倒すが、じっとしているというのがどうにも我慢できない。
そんな状況に耐えていると、医療室にイワンさんがやってきた。
「おはようミナヅキ騎士団長。気分はどうだい」
「イワンさん、あの…恭介、じゃなくて…襲撃してきた男は?」
「問題ない、私が対処した。とはいえ空を飛んで全魔法に、おまけに攻撃が通らないとなるとこっちもお手上げだったがな。とりあえず追い返すことは出来た」
一体どうやって追い返すことが出来たのか分からないが、追い返すことが出来るからこそのランキング上位の実力なんだろうと勝手に納得することにした。だがイワンさんがここに来たのは、そのことを俺に伝えに来たわけではないのは分かっている。
「…意識が戻った君に、こんなことを聞くのは大変だと思うが…」
「分かっています…、恭介の事ですよね。おそらくイワンさんはもう既に、俺が異界人だという事も」
「あぁ、施設に問い合わせて確認させてもらった。それにしても施設を出てから最短記録で義勇兵爵になって、そのうえ騎士団をつくるとは…この話だけで本を売り出せば一気に人気者になれるかもな」
「出来れば騎士団として人気を出したいですね。…恭介は、桐谷恭介は俺がいた元の世界での一つ歳が下の、同じ学校同じ部活道での後輩でした。俺はその部活動でキャプテンを任されていたのですが…俺はあいつを理解できないまま1年と続かず部活動を去っていってしまったのです」
その後の詳しい話を俺はイワンさんに話した。俺が知っている限りの性格も、部活動での姿勢も、俺とのかかわりも…だけど俺の口から話せることで詳しい内容が言うことが出来なかった。それでもイワンさんは納得した顔で聞いてくれた。
「成程、一応軍法会議で君の発言を取り扱わせてもらうが…まぁ問題ないとなるだろう」
「あの…こんな説明で大丈夫でしたか?」
「心配ない。犯罪者の故郷は皆犯罪者なのか?そんな事はない。ただたまたま同郷の異界人だったって話だ。ご協力ありがとう」
「あ、それと俺からも一つ聞きたいことが…結局最前線部隊を襲った人って」
「あぁ…サラ嬢の事か」
立ち去ろうとしていたイワンさんは難しい顔をして、頭をポリポリ掻きながら答える。
「サラ嬢の事ならよく知っている。なにせ元々この城塞都市の将軍家系の名門貴爵の令嬢でな…昔の兵爵ランキングでは確か30位ぐらいだったかまで昇り詰めたかなりの実力者だ。それがその…オズランド帝国のとある魔人種の男に、引き抜かれてしまってな。それゆえに亡命扱いとなったのだ」
「引き抜かれたって…一体何をされたのですか?」
「あー…、…駆け落ちだ」
「…カケオチ?」
「あぁ、後に彼女を調査した際には特に何も魔法的な反応も精神的に操作されたなどの痕跡が発見されなかった。…まぁ、とにかく彼女に関しての情報はすでに撤退したと聞いている。今は考えなくていい」
「今はってことは…」
「あぁ、派遣チームからの情報で例の異界人がまだティストレイ連邦軍に駐在していることが判明している。今はまだ動きがないが…おそらく再度攻撃を仕掛けるはずだ」
「…分かりました。ありがとうございます」
俺がベッドから立ち上がろうとするとすかさず主治医が止めに入る。だがその主治医はイワンに止められる。…とんだ偶然、運命の女神の悪戯なのか…俺はこの世界で恭介と出会った以上、きっとまた戦うことになると確信している。ならばこんなベッドの上で寝ている暇など無いのだ。
「ミナヅキ騎士団長、勝算は?何か策はあるのか」
「…ありません。けど、だけど…もう、黙って見ているだけでいるわけにはいきません。…だからイワンさん、あいつへの勝ち方を教えてください!」
「…、…構わないがいつ襲撃が来るか分からない。時間がないからな、君の持つすべてで出来る限りを考えないとな」
「あ、ありがとうございます!!」
イワンさんに深々と頭を下げ、ついて来いと医療室から出るイワンさんの後を追って歩く。医療室の外も人混みで溢れている。無理もない…防壁が壊れるほどの攻撃がこの都市を襲ったのだ。住民に被害がなくとも多くの兵爵が傷の手当てを受けている。イワンさんは俺がいた医療室とは別の医療室に入っていった。
「…っ!みんな!!」
そこにはなんとラセツ達アラタ騎士団やフェリス達テトフルクバンドのメンバーがだいたい揃っていた。いやその殆どがベッドに横たわったまま眠っている。ダメージの深いラセツやカトレナ、フェリスは呼吸器をつけた形で眠っており、ビヨンド、マアダ、トレイス、イヴ、フィラーレ、それとルミナとククルーがベットで眠っており、フェリスの傍に傷だらけのトモエと殆ど怪我のないティラ、そしてカトレナの隣にドロフィーが座っていた。
「っミナヅキ!」
ティラが俺が入ってきたことにすぐに気がつき、トモエと共に近寄ってきたがドロフィーは俯いたまま動かない。いやそもそも俺にまだ気づいていない可能性まである。
「よかった…目が覚めたんだね」
「随分永いお眠りだったな」
「心配かけてゴメン…他のみんなも大丈夫、なんだよね」
「…あぁ、とはいえまだ動けない状態だがな。…そんな動けない仲間からも心配されていたお前が一番情けないと思え」
「あぁ、次は負けない」
俺の返事に驚いたのかきょとんとするトモエと、安堵なのか微笑むティラ。俺はその2人の間を通り、まっすぐドロフィーのいるカトレナのベッドの横の椅子に座る。カトレナの横にある机には彼女のインクペンが置かれていた。
「…カトレナのペン、ずっとお前が持ってたんだな…どうして隠していたんだ?」
「…」
「そんなにもこのペンが欲しかったのか?」
「…」
相変わらず返事は帰ってこないが、ボロボロと涙を流しながら首を横に振るその意思表示には、いつもの周りに流されるだけのドロフィーと明らかに違った。
「そっか…じゃあ、どうしてもカトレナに嫌がらせしたかった…なんて訳ないか。じゃあ…んー…」
そんな風に少しずつドロフィーの事を紐解こうとしていたが…驚くことに、少し間が空いたがドロフィーがこくりと、頷いたのだ。つまりこれこそドロフィーの明確な意志であった。だけど何故?と焦る気持ちを抑えてゆっくりとドロフィーに投げかける。
「…そうか、でもどうしてカトレナに嫌がらせなんかしたかったんだ…?」
「…、…わかんない…、でも、地元の学童院でも…失くし物した、同級生が…騒いで、他の子が、私を守ってくれたから…だから、また、おんなじことになれば…みんなが、私に優しくしてくれるって…」
…なるほどな、実際合宿時代の頃まさにカトレナの1件から俺達同じグループはすっかりドロフィーの味方をするようになったのは事実。ただ、当然悪い事ではあるがここまで一応一緒に頑張ったドロフィーを強く叱咤するのは、俺には出来そうもない。口ぶりからしてもおそらくドロフィーにとって唯一の、精一杯のアクションの方法なんだと思う。それを否定するのは…何というか今の俺ではなんとなく出来なかった。それにそもそもカトレナだってペンを見つけて真っ先にドロフィーを責めなかったのに、そんなカトレナよりも先に、気を失っているうちに責めてしまったら何を思うのだろうか。俺は机に置かれたペンを取ると、ドロフィーに握らせた。
「とりあえずカトレナから借りたもんは全部返そう。あの時命がけで庇ってくれた分、それを俺達を襲ったあいつにぶつけてやって。それから…改めてお前の口から、カトレナのペンを返してやるんだ。だからそれまでは、まだもう少しだけお前が持っておくんだ。返すためにな」
…そうだ、俺もあいつから…恭介から、大事な人を返してもらわなきゃならないんだ。そのためにも俺はくじけるわけにはいかない。そしてドロフィーも、俺から受け取ったペンをぎゅっと握りしめると、涙を堪え、立ち上がり、今まで見たことないようなまっすぐな眼で答えた。
「…あの男への借りは私達だってあるんだ。フェリスやみんなをこんな目に合わせたって借りがな」
俺達の話が済んだタイミングでトモエが口を開く。ティラもすっかり供にすると言わんばかりの様子だ。
「…ラセツといったな。同じ鬼人種でありながら力が発揮できない夜だとしても猛々しく戦っているというのに、私は力が発揮できないという理由なだけで後衛に移り、アラタ騎士団の面々に守られていたなんて…もう一度私にも戦うチャンスが欲しいのだ!」
「短い間だったかもしれないけどイヴさんやフィラーレさんとは汽車の中でも楽しくお喋りしたり、一緒に戦った仲なのに…少し離れただけで、こんなことになるなんて…私も悔しいの。私だって、仲間の為に借りを返したい!!」
…トモエもティラも、同じ気持ち…いや同じ目的を持っていた。
「俺も一緒だぜダンチョー!!」
「うわっ、ドレイク!?」
突如にゅっと現れた緑の鱗に全員が驚いた。部屋にあったベッドは全部埋まってるし、一体いつの間に部屋に入ってきたのか…
「俺も大怪我って程じゃねーってのに出撃を止められて、そしたらみんなぶっ倒れて運ばれてくるしよぉ!!俺が居りゃあ…俺が居りゃあこんな事には!!」
「分かった、分かったから…お前の傷は大丈夫なのか?」
「うるせーっ!今度という今度こそは絶対出撃するぞ!!あ゛っ…ててて…」
「五月蠅い騒ぐな。みんな起きるだろ…」
まだ傷の痛みで自然と大人しくなるドレイクを含めた、俺達5人…今はこれだけしか残らなかったが、俺にとっては心強い最高の仲間達だ。イワンさんも俺達をじっくりと見渡す。
「…お前達、俺からもう一度最後に聞く。お前達が戦おうとしている男は、我々の常識を遥かに凌ぐ規格外の相手だ。それを知ってもなお、立ち向かうと」
俺達全員の意志にもう迷いはなかった。たった5人しかもういないが、それでも5人もいれば戦えると、そのつもりでイワンさんを見返す。イワンさんはもうそれ以上何も言う事はなくただ黙って俺達を、会議室へと案内したのだ…。
ッドオオオォォォ————ンンッッッ……
俺が目を覚ましてから2日後の昼、ついに恭介がまた防壁への攻撃を開始したとの知らせが届いた。いやそんな知らせがなくとも俺達は先ほどの爆音と衝撃ですぐに駆け付けた。俺達5人の前には、あの時と変わらない恭介の姿がそこにはあった。黒いローブの様なものに身を包み、宙に浮いて空から俺達を見下ろすその姿は何も変わっちゃいなかった。
「あぁ、5日ぶりですね先輩。勝手に落ちぶれてるかと思ってたんですけど、性懲りもなく俺の前に来れるとか、さすが根性だけはあるってやつですかね」
「…バーケニーはどこだ」
「バーケニー?あぁ…こいつの事ね」
そう言うと恭介は指を鳴らす。地上に黒く禍々しい魔法陣の様なものが現れるとその中から…バーケニーさんが現れた。だがその姿は露出が多いミニスカメイド服にされ、さらに長かった金髪はバッサリと切られショートカットヘアにさせられていた。見た目だけだとまるで他人のように思えるその風貌でも俺は一目見て彼女がバーケニーだと気づいた。
「彼女の名前はミスティって呼ぶことにしたんだ。バーケニー?だっけ、そんな名前だと可哀そうだと思ってさ。こっちの方が絶対可愛いだろ」
「はい、マスターから新しく与えられた名前、凄く素敵です。これからはミスティとして精一杯マスターのサポートをしていきます」
バーケニーさんの言葉に俺はまるで全身の毛が逆立つかのような感覚に襲われ、また怒りのままに恭介に襲い掛かろうとする怒りの感情をグッと堪えつける。…人をなんだと思っている。バーケニーさんの、何を知ってこんな姿にさせているのか。今すぐにでも、元のバーケニーさんに戻してあげないといけない。そのもどかしさから手が震える。
「ミナヅキ!」「ダンチョー…」
「大丈夫だ、分かってる…。…まずは第一の策を成功させる。まずはそこからだ。ドレイク、頼むぞ!!」
「おう、任せとけ」
俺は事前に決めておいた動きで4人が構える。トモエは最前線、ドレイクがその後ろで、残りの俺とティラ、ドロフィーの3人が最後尾に並ぶ。だがそんな様子も恭介たちには意にも介さず退屈そうにあくびをかましてきた。
「またそんなごちゃごちゃ無駄なことして…もう見飽きたんでさっさと失せてくーださーい」
相変わらずの無詠唱魔法、恭介が眼前に巨大な岩を生成しそれを俺達目掛けて飛ばす。物凄い速度で迫る岩を、まるで日本刀のような刀を二刀流で構えるトモエが向かい立つ。
「タケダ流二剣抜刀法…白虎山衝」
二本の刀を反転させ、右手の刀は上段から、左手の刀は下段からまるで挟み込むように…さながら虎が得物に食らいつくかのように、峰で飛んできた岩を叩き…その衝撃を以て岩が粉々に砕け散った。そんな様子を見ても相変わらず恭介は眉一つ動かさない。
「よし、もういっちょ!!」
トモエの後ろでは、いつも使っているものとは異なる、丁度人が乗れるほどのサイズの先端のハンマーを構えたドレイクと、そのハンマーの上にはティラが乗っていた。そしてその形状通りティラを乗せたままドレイクは大きく振り上げるとティラは空高く上空へと飛び上がった。しかも上空には既に…俺も飛び上がっており、今にでも恭介に手が届きそうな場所まで来ていた。
「っは、馬鹿の一つ覚えにしても芸がなさすぎませんか?」
「『この身を浮き上がらせろ 身体に纏い 疾風よ』」
前とは違う。俺は恭介に襲い掛かる事はせず呪文を唱えると、俺の身体は風の魔法に包まれまるで浮くように、かなりゆっくりな降下になった。それに空中でもかなり自由に動けるようになった。とはいえ上に飛べる魔法ではなくただ滑空に近い状態になってるだけだし、なによりも肌がピリピリする。使い続ければ魔力だって消耗するし、あまり悠長にはしていられない。それでも恭介に襲い掛かることはなかった。
「はあぁっ!」
俺の近くを飛んでいるティラは魔法もなしにゆっくりと降下しており、手にした弓から放たれた矢は恭介に真っすぐ飛ぶが、恭介の目の前でピタリと止まり、そのまま矢は勢いを失い地面へと落っこちる。やはり本当にダメージは与えられないのだろうか。…いやそんなことはない。
そんな風に思考を巡らせていると、ドンドンッと銃声音が聞こえ、直後俺の身体に銃弾が掠る。その銃弾は地上から射出されたもので…バーケニーさんの手には見慣れない拳銃らしき武器が握られていた。
「僭越ながらサポートいたしますマスター」
「…バーケニーさん」
あのバーケニーが俺に銃を撃つことに一切の躊躇がなかったことに胸が痛くなるのをぐっと堪え、俺は土魔法で自身のガードを固める。とにかくまずは恭介を地面に落とす。それからこの怒りをあいつにぶつける!
「ミナヅキ!バーケニーさんは、私が!!」
ティアは標的を恭介からバーケニーに変え、ゆっくりと降下したまま武器を弓から二丁の機関銃に切り替え上空から乱射をする。その弾幕の殆どはバーケニーには命中せずバーケニーさんに対する牽制のようなものだった。
「バーケニーバーケニー…って、彼女の名前はミスティって言っただろ!」
恭介がイライラしている態度を見せながら両手でそれぞれ火と闇の魔法を作り出して射出する。火は地上に残っているトモエ達三人に、そして闇の魔法弾はティラに襲い掛かる。だが勿論そんなことはさせない。俺が魔法の間に割って入り剣で防ぎ斬り払う。
「お前の相手は…俺だろ!」
俺はお返しにと数発の光の魔法弾を発射するが、やはり恭介に届く前に弾かれてしまう。だが急に恭介の態度が一変しイラつく様子を見せていたのがいきなり余裕そうな表情を見せた。
「はーん…キャプテンの魔法は、風と、土と、そして光…この三つしかないって事ですよね。まぁ、どれもこれも、大したことなさそうだし俺の絶対防御スキルの相手じゃなかったってわけですよ。まだ分からないんですかキャプテン。頭悪いんですか?」
…どうやらそのくらいの分析能力はしっかり持ち合わせてくれていたみたいだ。そして、元居た世界と変わっていないその慢心的な性格も。だからこそ出来る…俺達の『秘策』が。
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
一応今年初めてとなる本編投稿ですが、今回は記念すべき二桁話数の投稿という事で一応かなり力を入れて熱意創作をしてきました。とはいえ自分の技量の成長などは投稿開始当時からあまり変わっていないと思うのですが、それでもこのストーリーは可能な限り全力を尽くしたと思いますので、皆様に読んでいただければ幸いです。
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は1/24に、Episode10の中編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




