表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/22

Episode1 それは始まりと呼ぶには早すぎる小さな物語———前編

———………———


——ここは…どこだろう………————


————身体が動かない……、…頭も回らない………——


—夢、なのかな…——……それとも、死んだのかな……———


誰か…いる気がする……——…見えそうなのに…——見えない…分からない………


………ダメだ…、……意識が…———


——………、……なんだろう……あかるく…———


——————


————


——



「………んんっ…」


 さっきまで朦朧としていた意識が次第にはっきりして、それと同時にさっきまで感じなかったずしっとした、体の重みらしい感覚を取り戻した。全身に体温の温かさを感じる。そして背中には柔らかい地面のような感覚、瞼の内側にも光の眩しさを感じた。ゆっくりと腕を上げ顔の上で光を遮って瞼を開ける。視界に広がる世界…いや見えたのは自分の服の袖だった。もう片腕で地面を押し上半身を起こすと眩しさを感じなくなった。腕を下ろして見えた世界は……木々が生い茂り、寝転がっていた地面は雑草まみれ、雑木林と言うべきかまるで森の中だった。


「…は?」


 かなり意識ははっきりとしてきたが思考は混乱しっぱなしだった。少なくとも『俺』はこんなとこに見覚えはないし、なんだったらこんなところで寝ているのもおかしな話だ。少し考えてふと疑問が脳裏をよぎる。もしかして俺は俺じゃなかった???いやいやそんなわけがないだろうという脳内1人ノリツッコミを妄想しながら身なりをチェックする。立ち上がり、ケツを手で払い、全身をペタペタと触りとりあえず傷がないか確かめる。そして上着を脱いで目立った汚れがないか確かめる。


「よし、とりあえず俺に異常はなさそうだな」


 上着は背中側が多少汚れてはいるがそれ以外は何も変哲のない、俺の学校の黒のブレザーだ。そして勿論胸ポケットには俺のブレザーだから俺の生徒手帳が入っている。取り出して中を確認する。『水無月 新』俺の名前で間違いない。野阜高校三年、バスケ部で…夏の地方選抜予選で準決勝敗退、俺達の夏が終わったんだっけ……、そういえばあれから確か9月になって夏休みが終わって、そろそろ受験勉強って時で、いつものように学校行って…それでどうしてこんな場所にいるのか、マジで記憶にない


「まぁ、こんなとこに居てもしかたねぇ。とりあえずスマホでマップアプリを…」


 俺はそう思いながら軽く周りを見まわし鞄を探す。……どこにもない。ん?俺は咄嗟にズボンのポケットを叩く。何も入ってない…おっとぉ??ブレザーのポケット全てに手を突っ込んで、さらにズボンの尻ポケットにも手を突っ込み、全身くまなく叩きまくり、ブレザーを着直して周りの雑草を踏みまわりながら辺りを探しまくる。


「………ない…」


 俺の学校鞄も、スマホも、ついでに財布まで、全部無い!!??おいおいおい嘘だろ!?え、俺まさか追い剥ぎにでもあったのか!?いやまだだ、まだ手ぶらで外出歩いた可能性がある!!でも家の鍵もねぇよなぁ!!?でもまだ可能性がある!!チャリだ!通学用のチャリ籠の中に鞄を入れっぱなしにしてる可能性!!チャリ籠の中に鞄入れっぱなしで無事だとは考えにくい、いやでもまだ一抹の可能性がある。無事でいてくれよ俺の財布の中の3万円と願いながら、とりあえずチャリを探すにこんなところにいても仕方ないから森だか雑木林だかを全力で駆け抜ける。バスケ部引退して久しぶりの全力ダッシュ。選抜予選で見せれなかったこのフットワークで華麗に木々を避けていく俺!多分そんなに早くないぜ!だけど視界の先に木々がなく開けた場所が見える。出口だ、この森から出れる。


「よし、とりあえず近くのコンビニなり入って場所確認してそれからチャリ探し…て………」


 森を抜けだして見え広がったその景色に唖然とした。今まで自分の見てきた景色は都心部って程ではないが見渡す限り人工物の建物に囲まれ、車や電車が走り、夜くらいしか静かな時間の無い現代の街並みしか知らなかった。だが今はどうだ。目の前に広がるのは地平線の遥か彼方まで見渡せるほどの緑、そして空を遮るものがない綺麗なまでの空の青の二色のグラデーション…絵にかいたような、テレビの中でしか見たことないような高原と言うべきか原っぱが広がっていた。俺はあまりの景色に何も考えれなかった。様々な感情が思考を妨げる。俺の知らない世界が今目の前に広がっているというこの状況。夢なのかと思った、だが森の中を走り抜けたこの動悸、乱れた呼吸、熱くなった体を冷ますこれまでに感じたことのない爽やかな風。今生きているという感覚がここが現実なのだという事実を脳に叩きつける。動揺と感動とぐちゃぐちゃになった感情で一歩、また一歩と足を進めながら乱れた呼吸が整っていく。呼吸が整ううちに少しずつ思考がクリアになっていく。


「…あ、街だ。いや村か?」


 冷静になったおかげで、ただだだっ広いと思っていただけの原っぱに建物らしきものを見つけた。いや、よく見たらその建物の近くは畑みたいになっているのがよく分かる。というか多分よく見なくても割と目立つのに、すっかりとこの光景に圧倒していたのだろう。ともかくあそこまで行けばここがどこか分かるかもしれない。と言うかここは本当にどこなのか分からない。もしかして日本ですら無いのかもしれないという不安はありつつも先ほどまで全速力で走ってちょっと疲れたので小走りで向かっていく。


「はぁ…はぁ…」


 いや、小走りと言うかランニングになってしまった。さっきは綺麗な青空だと思ったが、それは云わば太陽光を遮る雲一つ無い快晴そのもの、しかも明らかに日の位置はまだまだ高いところにある。そして俺の記憶では夏が終わったと言ってもまだ9月だったはず、つまり…


「あ…暑い……」


 しかもよりにもよって動きやすい運動着とかじゃなく制服、しかもブレザーである…てかなんでこんな暑いのにブレザー着てんだよ俺!?もしかして9月だと思っていたけどホントは10月だったりした!?とにかく暑いのでブレザーを脱ぎ建物までひたすら走り続ける。…結構距離があるな…


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ………」


 20分だろうか、30分だろうか…だいたい走り続けてそのくらい経ったくらいに畑の方に人がいるのが見える。体力に自信はあるし暑さも酷暑と言うほどではないにしろ格好も相まってかなりしんどいが俺は走りながら必死に腕を振って声を張る。


「お、おーーーい!!」


 何回か続けると気付いてくれたのか畑にいた二人ほどの男らしき人物が手を振り返しながら歩いて近づいてきてくれた。良かった。とりあえずここからはゆっくり歩いていこう。それとここがどこか聞く前に何か飲み物を貰いたいな…ってそういえばお金ないんだっけ…


 しかし、それにしても二人に近づけば近づくほどはっきり見えてくるんだけど、片方の男は肩幅がやたら広く、もう片方の男はなんか頭が大きく見えて、なんだかやたらガタイがいいように見える。そりゃあ畑仕事してる人のガタイは良いんだろうけど…それにしても何というか、まるで…


「……え?」


 だいぶはっきり見えてみた。いや、見えてしまったのだが…片方の男は、ガタイがいいどころでなくまるで背中に翼が生えているようにも見える。肩幅が広いんじゃなく翼の角が肩幅に見えていたのだ。そしてもう一人の方は…顔が大きいどころじゃなく、犬だ。犬の頭をしている…この人達、いやこいつら人間じゃねぇ!?俺は向かいつつある足を止めるが二人の男はゆっくりとこちらに向かい続けている。どうする俺、逃げ出すか?いや、いやでも…


 俺は観念したというか意を決して男?達に接触を図ることにする。二人の感じから取って食おうという感じでもなさそうだし多分。もしくは村総出でコスプレしてる可能性がある。俺は再びゆっくり歩き出し二人の元へ向かう。


「おーーーい、あんたぁ~」


「あ、えっと、お仕事中すみませんー!」


 もう100mくらいもなくある程度はっきり見えてくる程の距離で向こうから声をかけてもらった。言葉が通じる。どうやらわんちゃん日本のどっかの田舎のコスプレしてるだけの村説が濃厚になった。背中に翼がある人もわざわざ歩いて来てるし……いや、それはそれでいやだな。


「少しお伺いしたいことがありましてー!変なこと聞くかもしれませんが、ここってどこですかー?」


 まだ少し距離があるから声を張って叫ぶ。男二人はその内容に怪訝そうに何か話し合ってるようにみえる。変な人達に変な目でみられるとかなんか少し納得いかないが勿論ぐっとこらえてもう少し会話しやすいように接近する。


「どこって、ここはヴィレイン領爵主様のクザスの村だべさ」


「あんたこそ、どっからさ来ただ」


 普通の声量でも充分会話できるくらいの距離になるとはっきりとわかることがいくつかある。俺もバスケをしていたから身長はだいたい175㎝くらいだがそんな俺よりも身長も体躯もデカい。しかも腕っぷしもかなり太く筋肉質だ。さすが畑仕事してる人は違うな。犬の頭をしてる方の人の年齢は見ただけではまったく分からないが、翼が生えてる方の人を見る限りそんなに若いって感じでもなさそう。二人は中年男性くらいな気がする。いや、そんな事より…ヴィレイン領爵主様のクザスの村?聞いたことがないな。というか領主制度って日本にはないよな???やっぱりここは日本じゃないのか?


「えっと…それが、俺も何処から来たのかよく分からなくて…気が付いたらあっちの森みたいなところで気を失ってたみたいで…」


 俺が後方の森があった方を指さす。男達は森を見たり俺を見たりしながら話し始める。


「はぇ~、あんなとっからよう歩いてきたもんだ。んないいかっこで」


「…なぁ、やっぱ魔人種の奴と違んでねぇか?ほら、ヴィレイン様の言ってたやつ」


「あぁ~、異界人か。んだっけ?異界人はとっ捕まえておくんだっけか?領土外に追い出すんだっけか?」


「ちげぇよ、ヴィレイン様んとこにお連れするんだよ」


 俺のことはお構いなしに話が進んでいく中で気になる言葉があった。異界人。もしかして俺のことを言ってるのだとしたら…つまりここもまた俺からしたら異界ってことなのか?というかそんな事よりも、あんまり歓迎されなさそうな感じがしてきたな…


「あんた、ここに来るまでに俺ら以外に誰かと会ったか?」


「え、い、いや…誰とも会ってないですが…」


 そんな風に思っていると犬の頭の方の男がふいに俺に質問を投げかけて来たので咄嗟に答える。その男は獣の毛なのか髪の毛なのか後頭部をわしゃわしゃかきむしり


「まぁ、こんなとこで立ち話もなんだ。とりあえずヴィレイン様んとこさ行くからついてこい」


 そういうと二人の男は来た道を戻りながら進んでいく。俺もその後ろをついて歩く。道中これまであった話やたわいもない話を交わす。軽い自己紹介、とりあえず飲み物が欲しいこと、財布やスマホの入った鞄が見当たらないこと、そのせいで今無一文のこと、自分の事、家族の事や故郷の事…二人の男は俺の話を楽しそうに笑いながら、時に親身になって聞いてくれた。俺も二人のおかげでだいぶ不安が払拭してきた。見た目はあれだけどとてもいい人達だった。

 今度はここについての話ってところで村の入口にたどり着いた。いや、どちらかと言うと村から畑に行くための裏口って感じだ。その村の裏口の前で俺と犬の頭の男———マートンさんの二人で待ち、翼の生えた男———フィルさんがその領主さんと言う方に話を通しに行ってくれた。


「ミナヅキ、水持ってきたぞ」


「ありがとうございますマートンさん」


 そういって差し出されたいかにも鉄製のような入れ物を俺は村畑傍の荷物置き場の資材の上に座ったまま受け取った。見慣れない形に戸惑いながらもなんとなく上の突起部分の口っぽいところの蓋を廻しやすい方向に廻してみるときゅぽんと音を立てて外れた。軽く反対の手の上に傾けると水が出ることを確認し、我慢できずに俺は口の上でその水筒を逆さにして口から溢れる程に水を流しいれた。あ、これ硬水だ。不味くはないけど硬水だなこれ

 ゴクンと飲み干し、ふと村の方を見ると何人かの村人が集まってまじまじと俺の方を見ているのに気が付いた。子供からお年寄り、男女問わず文字通り色んな人がいる。普通の人がいる中で、異様に耳が横に尖っていたり、頭に猫耳のようなものがついていたり、額に細長い触角のようなものがついていたり、フィルさんとは違う色の翼のついた人、というかよく見たら完全に見た目が爬虫類っぽい人までいるんだけど!?


「あ、あの…マートンさん、そういえば聞きたいことがあるのですが…そ、その恰好…じゃなくてその姿ってここでは普通なのですか?」


「?」


「あ、い、いえ。えっと…さ、さっき俺を見て異界人とか何とか…」


「あぁ、そう言う事か。詳しいことは俺たちゃにゃよぅ分からんが、なんでもおめぇさんみたいによその国とかじゃなくてょ、よその世界ってのから来た奴らの事らしい。異界人を見分けるのは俺らには出来ねぇからヴィレイン様にチェックして、んで異界人だったらなんとかって国の政策で保護するだかとっ捕まえるだかして、この世界について勉強してもらうだかなんとか…」


「異界人炮烙措置懐柔策だ」


 女性の声で割り込んできた。村の方を見ると村人の間から男女含め10人程に囲まれた集団がこちらに歩み寄ってきた。後ろにはフィルさんも同行している。マートンさんは慌てた様子でその集団と俺の間から離れていく。さっきの声はおそらく一番前にいる、こう…高身長でナイスバディなお姉さんの声だろう。周りにいる人は村人たちより綺麗ではあるが仕事服っぽい中、1人だけ気品高い恰好をしている。だがそれ以上に気になるのは赤褐色な肌にかなり銀寄りな青白い髪に生える1対の角だ


「あ、はじめまし」


「うごくな!!」


 挨拶しようと立ち上がり一歩前に踏み出した瞬間、彼女の怒号のような一括で身じろいてしまった。まるで軍人、上官殿のように堂々と立ちこちらをじっと睨みつける。俺は正直怖さと緊張のあまり息すらも出来ずに動けないままだった。


「今から着ている物を全て脱いでもらう」


「はぁ!!??」


 彼女の言葉に絶句する。今ここで脱げと!?全部!?野外で全裸!?と思ってる俺のことを放っておいて彼女が右手を上げる。後ろにいた男女数名が俺の周りに近づき、慌てている俺をよそに俺の周りに4本の鉄支柱を立てる。1人のメイド服の女性が俺に布とスリッパのようなものを手渡す。訳も分からないままその布を受け取ると、男達が硬い鉄壁のようなものを立て支柱に固定する…真上が空いている鉄製の野外試着室のようなものが完成したのである。


「これなら安心して脱げるだろう。今受け取った物に着替えるように、今着ている物は全て上からこちらに渡してもらおう。」


 いきなりそんなことを言われても困惑するばかりだが、はぁ…と空返事をして仕方なく着てるものを全て脱ぎ、壁の上に放り投げ掛ける。すると向こう側からするりと引っ張られたのか消えていく。ズボンも、パンツも…靴は下から通りそうだったので下から。受け取った布の中にあったパンツから履き、あとは一着のワンピースのみだった。まぁ今だけのガマンだろうと思い下からくぐり着る。


「着替え終わりました」


 そういうとガタガタと音がしながらゆっくりと鉄壁が剥がされて、いや村の反対側の一枚だけだった。そこには指示を出したリーダーの女性と、俺に服を手渡したメイド服の女性の二人がいた。


「そのまま動かないように」


 メイド服の女性が手に持った鉄の輪っかのようなものに自分の手を重ね何やらぶつぶつと呟くとその輪っかと手が淡く光る、俺はそれに驚きつつも言われた通りじっと動かないようにした。彼女はゆっくりと淡く光る手を俺の体に近づけてかざす。ゆっくりとゆっくりと俺の身体を、まるで調べるように…、腕を上げたり回るように言われて全身くまなくチェックされると彼女は手を下ろしリーダーの女性を向いて頷く。リーダーの女性はふぅと溜息をはいて少しこわばった様子なのが解けたように感じた。


「すまなかった、随分と怖い思いをさせてしまったな。とりあえず今のところは問題なしという事にしよう」


「あ、ありがとうございます…」


 まだ大丈夫じゃないのかよという思いをぐっと奥に戻しつつ、俺も緊張が解けて固くなった身体が一気に軽くなった。それと同時に他の周りの鉄壁も支柱も撤去されていく。それと一緒に俺の着ていたものも一緒に持っていかれたみたいだ…、結局俺とリーダーの女性だけが残る形となった。


「あ、俺は水無月 新って言います。あの…色々聞きたいことはあるのですけど、それよりも俺の服は…」


「申し訳ないがまだ返すわけにはいかないのだ。不審物を持っていないのは分かったが君の着衣や靴に付着している抜け毛や繊維、土塊や汚れから我々の国以外の土地や人物のと接触がなかったか徹底的に調べなければならないからな。」


「そうですか…」


「まぁお詫びもかねて立ち話もなんだ。私の屋敷に招待しよう。それと自己紹介が遅れたな。私はこの村の領爵の爵主を務めている、ヴィレイン・アヴィレイナー・クザスだ。」


 そこまでしなくちゃならないのなら仕方ないと思いつつ、こっちだと案内されるがままにリーダーの女性———ヴィレインさんについて村の中に入っていく。村人の集団はヴィレインさんが通るためなのか俺が通るためなのかゆっくりと割れる。思ったより人がおり、パッと見ただけでだいたい50人くらいはいそうな感じだった。みんな俺をまじまじと見ながらひそひそ話をする。ただそれ以上はなく俺達が村人の集団を抜けると興味がなくなったかのようにバラバラと、おそらくそれぞれの仕事に戻っているようだった。ふと視界に入ったマートンさんとフィルさんも俺に向けてにこやかに手を上げていた。軽くお礼をすると二人も畑の方に戻っていった。

 村の中は綺麗と言うわけではないだろうが砂利や土で丁寧に舗装された道、いや道にしては2~3車線くらいありそうなでっかい田舎の車道のような道だな…。そのでっかい道に面して木造の家が広い庭がついてるくらいの間隔で並んでいる。さらにデカい道から細い道もありそこから内側に入っていけるような感じで結構入り組んでいる様子がわかる。なんというか広すぎずこじんまりとし過ぎていない丁度いい田舎村って感じだ。一つ気になるのは家が多いわりに商店みたいなのは見当たらない事くらいかな。そうこう思いながら村のおそらく反対側に近い場所まで歩き続けたら、一際大きなまるでコンクリートみたいな灰色の建物と、明らかな駐車スペースのような広い場所に辿り着いた。間違いなくここが目的の屋敷だろう、ヴィレインさんもその建物にまっすぐ向かっているし。

 俺達はそのまま建物に入るとフロントには受付嬢?さっき俺に服を渡したり全身チェックしたメイド服の女性が1人、立ち机を前に立っており、ヴィレインさんは手で合図し俺は軽く頭を下げる。その受付嬢さんは軽く微笑むだけだった。そんな彼女を横にフロントを抜けまっすぐ、階段を上り二階へと向かい。曲がりくねった廊下を進みとある部屋に通された。扉の隣に部屋の名前が書かれているが外国語みたいで読めなかった。中は机とソファーチェアが6つ程、そして壁にはぎっしりと本…と言うよりも資料みたいなのが敷き詰められている。おそらくここは会議室か談話室、いや応接室ってとこかな


「ここまでご苦労だったな。少し疲れたであろう、聞きたいこともあるだろうがまずはゆっくり休んでもいいぞ」


 確かにここまでずっと歩きっぱなしだったから、ここにきてどっと疲れが襲ってきた。俺はお言葉に甘え椅子の上に座る。うわ柔らか。全体重を椅子に預けてだらけきったように座る。ヴィレインさんは廊下にいる人に何やら話してから俺の対面席に座る。


「はぁ…疲れた。や、休みながらでもいいならすぐにでも話を聞きたいのですけど…」


「そうか、なら早速…」


 ヴィレインさんはコホンと軽くせきこみ、


「ようこそこの世界に、異界の者よ。無事我が国に来たことで『異界人炮烙措置懐柔策』によって君を歓迎しようと思う。慣れないことも多いだろうが我々もバックアップする。頑張りたまえ。」


「は、はぁ…あの…ここってやっぱり…本当に異世界なのですか?」


「まぁ、そう思うのは無理もないな。気が付いたらこれまで自分の生きていた世界とは全く異なる世界だったなんてな。ところで、こういう風に異世界にやってくると言うのはある程度認識があるか?」


「え、ま、まぁ…そういう漫画、えっとおとぎ話と言うか創作物ならちょっとだけ」


 ここまでの道すがらの話でも感じてはいたものの、やっぱりここは俺のいる世界とは全く違う世界なんだ。まだどこかでそんなわけないと思っていたが、こう断定して言われた以上そうとしか考えられなくなった…。ヴィレインさんは準備していたであろう机の書類を広げて俺に見せた。けど書かれた文字は読むことが出来ない…なんてことはなく全て日本語が書いてある!?異界の文字と思われる文字の上にちゃんと日本語の読みまでついている。そこに書かれた内容は、俺以外にも何人もの異世界から来た人にかんする内容だった。

「さて、まずはどこから話をしていくべきか…そうだな、まぁこれをみてもらうと分かるが、この世界にはすでにお前以外にも多くの異界人がいる。その数は年間50人以上…確認していないのも含めたら数百人にまで及ぶだろう」


 年間で100人!?そんなにもたくさん人が来てるってこの世界もはや異界人だけで溢れそうだな…


「そんなにも人がいる中で森からのスタートだなんて俺はついていないですね」


「はっはっは、私から言わせればここにアクセスしやすい場所からのスタートなんて超幸運だぞ。なにせ、異界人がどこにどういう形でこの世界に現れるのか予測不可能だからな」


「…へ?ま、まぁ…確かに?王道としては王様の目の前にって感じ」


「あぁ、即処刑対象だ」


「は?」


「国のトップの目の前に身元不明の人物が急に現れたのなら当然兵士に取り押さえられて、そのまま牢屋行きだ。最悪敵対国の暗殺者の可能性だってあるんだぞ。国のトップが呑気にお喋りするわけがないだろう」


「そ、それもそうですね…」


「ちなみにもっと言えば街中のどこででも唐突に見知らぬ人が何処からともなく現れたら、まず最初に異界人とか関係なく普通に通報されて同じく拘束される。歓迎されるなんて事はまずないぞ。中には異性の着衣所に忽然と現れ、拘束されるよりも早くボコボコな姿になってたって話もあるからな。しかも即刻処分までされたとさ。正直同情はするね」


「いやいやいや!あまりにも理不尽すぎません!?」


「そうだな、だけど…情状酌量の余地はなかった。当然だろう、異世界人には身元を保証する人物がいないのだからな、その上言ってしまえば君達は例外なくみな不法入国者集団だ。そしてこの世界に国籍を持たない君達に一体何が守ってくれるんだ?」


 俺は今自分の置かれている状況のヤバさに気が付いた。俺は今無一文どころで悲しんでいる場合じゃなかった。身を護る、守ってくれるものが何もないのだ…。俺は汗がとらなくなっていた


「それに確認していないだけでももっと多くの人がいるといったであろう。国内に限らず様々な国から情報を集めているが、それでも人数が増える仕組みはわかるか?さっきも言ったが異界人が現れる場所は予測不可能だ。例えば…下山不可能な標高の高い極寒の山の頂上、見渡す限り海しか見えない大海原のど真ん中、灼熱のマグマの真横、捕食する巨大野生生物の足元、戦火のど真ん中…文字通り何処に現れるか分からない。生きてることさえも奇跡だと思ってもらった方がいいだろう」


「………」


「だがそんな様々な不幸がある中で適切な場所に現れ、そして今や『異界人炮烙措置懐柔策』の厳しい監査を乗り越えればお前は晴れて我らの国で身元を約束され手厚く保護してもらえるってわけだ。これを超幸運と言わざるをえないだろうな」


「そういえばその、異界人ほうらくそちかいじゅうさく?ってのは?」


「さっきも言ったが異界人は身元が不明で処刑されやすい立場であった上、とある国では異界人を利用した…いや、異界人を中心に狙い連れ去り軍事人間兵器に仕立て上げる危険な国もあるのだ。そこでここ15年位前からだったか『帝国』は異界人を受け入れるための政策に乗り出したのだ。お前にも行った衣服や身体からその例の国に関する物質が発見されなければ収容し、この世界を知ってもらい、この国での身分を取得してもらうってわけだ」


「成程…ところでなんですが……、…元の世界に帰る方法とかは…」


 俺の言葉にヴィレインさんは少し困ったように言葉を紡ぐ


「あー…、残念ながら、なくはない。と言いたいが現状ほぼ可能性は0と考えてくれ。現在この世界の、いや『帝国』の技術力では異世界を行き来する方法はない。ただ時折異界人の中に自ら異なる世界を渡り歩く能力や道具を持ったものもこの世界にやってくるケースがある。だからおそらくそういう技術が存在しない不可能な話と言うわけではなさそうだが…今できる方法だと、死ぬしかない。と言うわけだ。勿論成功したかどうかなど誰にも分かるわけもない方法だがな」


 どうやら元の世界に戻れそうもないらしい。そうとわかると俺は一気に体が重くなった気がした。親や弟、同じ部活の仲間やクラスメートに心配させたのかな、気になる漫画の続き読めなくなったな、来月のライブチケット無駄になっちゃったな…まぁ色々元の世界に残してきたことを思っても仕方ないんだろうけど、すぐには割り切れない思いが押し寄せてきた。ただ、バスケは結局全国には行けなかったが引退まで走り切ったことだけは心残りにならなくてよかった。


「…分かりました。戻れないって事なら今は自分の身の為にもその異界人のための政策でいう事聞いてこの世界で頑張っていこうと思います」


「うむ、素直でよろしい。異界人がみなお前みたいに素直だったら良かったんだけどな…」


 多分かなり我儘を言ったか、もしくはしょっぱなからやらかした人来たんだろうなと、明らかに思い出して苦虫を嚙み潰したような不機嫌そうなしかめっ面を見せた。なんかこのまま放っておくと愚痴が飛び出してきそうな気がして話題を変えるためにも俺は適当に質問を考えた


「そ、そういえば、この村の住人って、その…何と言いますか、俺の世界で見ないような人ばかりなんですけど、この世界じゃ当たり前なんですか?」


「ん?あぁ、そうだな。すっかり忘れていた。そうだな…その話をする前に少しだけお前の元居た世界について一つ聞きたいことがある。」


「え、なんですか?」


「1年は何日ある?」


「は???」


「だから1年の長さだ、何日あるんだ?」


「さ、365日ですけど…」


「そうか」


 そんな返答をしている傍らでヴィレインさんは別の一冊を開く。そこには挿絵に俺の元の世界のような絵が書かれている。いや、よく見たらかなりある程度細かく色々書かれている。その中に一年が365日だという記述もあった。その部分で俺の元の世界が分かるものなのかよ…


「ふむ…お前の元居た世界の人間はおそらくこの世界でいう祖人種しかいないのだな。ならさぞかしこの村の住人は特殊なものに見えただろう。まぁ今後は何処に行っても様々な種族を拝めるからさっさと慣れておくことをお勧めするよ」


「あの…1年の長さだけでそんなことがわかるのですか?」

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。

今回から本編でありますこの少年を中心とした物語を描いていくつもりです。

正直かなり、説明文の多い内容ばかりなEpisode1となってしまっていて、少しでも楽しいと思える部分は描いてはいますが…それでもはっきり言ってEpisode0のような濃い戦いの物は描けなかった事を深くお詫び申し上げます!!でもでも、一応自分がこの世界に必要な世界観かなっと思っているので、その辺りは温かい目で長し読んでいただけると幸いです…


それと来週の半ばに設定資料集みたいなものも別作品枠で投稿する予定なので、多分本編と齟齬が無いとは思いますので参考に読んでいただけると本編で描き切れなかった部分にも触れられるかなと

また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は5/17にEpisode1の中編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ