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Episode8Ex 新たなる僕らの日常、アラタ騎士団——— 番外編

  拝啓、お母様…私はもう兵爵としてやっていけません。明日実家に帰ります。


 私はネム・ブンゲム。一年前に都会の生活に憧れてブンゲムの村から帝都に上京したどこにでもいそうな祖人種で領爵の女だ。お洒落な騎士団に入団して華やかしく頑張ろうと意気込んで合宿に参加…何とか堪えに堪えて叙爵は出来たが街の女の子の話題について行けずに虐められてはないが周りから腫れもの扱い。みんなで打ち上げやるって時に逃げるように合宿所から卒業。以後は色んな騎士団に入団しては周りと馴染めなかったり、合宿所で一緒になった人が居たからと理由を付けて何度も退団を繰り返すうちに…色んな騎士団から厄介者回し者扱いされついには入れる騎士団が殆どなくなり、今ではフリーの兵爵として軍からの依頼をこなす生活をするようになった…。フリーの兵爵をしている人は別に珍しくはないため、私は数少ないフリー兵爵の先輩に付き添い、心身ともに疲弊しているがなんとか細々と生活できてはいた。

 先月、その先輩が結婚した。相手は先輩以外にも多くの家内を囲っている方で…先輩からよかったら私もその人と結婚しないかと誘われたが、断った。断ってしまった。先輩がその相手方の話をしている時に、私に見せたことのない嬉しそうな顔を見て…なんだか私は胸が締め付けられ、素直になれなかった。

 それからというもの、私には頼れる人が居なくなりただ生きるために軍からの危険な依頼をこなすばかり…もうこんな孤独で誰にも辛さを言えない生活に耐えられない。今回の依頼を最後に私は実家があるブンゲムの村に帰ろう…そう心に誓った…。


 私は依頼出発の為乗り込んだ軍が用意してくれているバスには、同じ依頼に参加するメンバーが揃っていた。その中でも一際目を引いたのは…金髪の鬼人種を筆頭にした6人組だ。様々な種族で構成されたメンバーで集まって談笑している様子を見るに…騎士団かもしくはグループで活動している人達なのだろう。私は少し胸がざわつく感覚に震える。なんだか私の方を見て話をしているようにも見える…きっとこれも私の思い込みの所為なんだろう。


「お待たせしました。今回の依頼メンバー総勢8人全員集まりましたのでこれより出発します。お忘れ物なきようご注意ください」


「っげぇ、8人かよ…」「大丈夫ですかね…」「まぁ、ラセツいるし…」


 バスのアナウンスに6人組の人達がざわざわとどよめくのが聞こえた。私自身も少数依頼では失敗した経験もあり、今回もうまくいかないのかな、最後って決めたのに、と…不安な気持ちのままバスに揺られていた。


「およよよ、お隣…失礼しますよっと」


 すると突然6人組のうちの一人が運転中なのに私の隣の席に座る。私は驚きながらもぺこりと頭を下げる。


「いやー、自分とこのメンバーがお騒がせしてしまって申し訳ない。あ、自分アラタ騎士団で情報収集担当をしているコノハと申します。以後お見知りおきを~」


「は、はぁ…」


 やっぱり騎士団の人達だった。私の嫌な予感はよく当たる…


「いやー、そんな暗い顔しないでください。確かに今回の依頼に差し当たって少々心配にお思いではございますが、一応我らも真新しい騎士団とはいえ一端の騎士団、ちゃんと成功させるためにリードしていく所存ですよ。それにもう一人野良の方で参加されていますお方は兵爵ランキングには載った経験はありませんがランキング外でも非常に安定した実績を持つ経験豊富なベテラン兵爵であるキーウ氏34歳、我々に足りない知識を補って頂きこちらも騎士団としての連携と力で依頼達成は難しくはないです。そこに貴女の助力もいただきたいと思って要りましてですね…それで、えっと…失礼ですがお名前をお聞きしても?」


「…えっ、あっ。ね、ネム・ブンゲム…18歳、クラージー、後衛職です…」


 コノハという人が1人でべらべら喋るのをぼうっと聞いていただけに名前と聞かれただけできょどってしまった。するとコノハは持っていたメモ帳に何か書き、そして後ろからボロボロになった数冊の雑誌を取り出し何かを探している。きっと私の事を調べようとしているかもしれないが、私みたいな底辺の兵爵なんかが雑誌に取り上げられた経験など無い。分かるはずなど無いのだ…


「およっ、年上の方でしたかこれは失敬。ふむふむネム殿ですね…うーん」


「…私なんかが雑誌に取り上げられたことなんてないよ…」


「いえいえそんなことは…ほら、この…、…いや、私の見間違いでした。ではでは、それでしたら是非ネム殿の能力の程を」


「あてにしなくていいよ…ただ攻撃系の魔法が少し使える程度だから」


「ふむふむ…分かりました。いえいえこちらも今回前衛に厚いメンバーを揃えての参加ですので後衛職は何人いても助かりますからね。出来ればもう少し」


「おいコノハ、程々にしてやれよ」


 コノハがぐいぐいと私に話を振るのを他の席に座っている他の騎士団メンバーらしき男達に呼び戻される。その後も何やら騒いでいるように聞こえるが、私には何も聞こえない…いや聞こえないふりをしている。帝都ではそうやって生きてきたから…。けどそれもこれで最後だから…。

 そうこうぼーっとしていると、バスは遠くに渓谷の見える未開拓エリアの山道付近で止まる。私達はバスから降りるとバスの近くにある駐屯地にいる軍の人が集まってきた。


「皆さん。よくお集まりくださいました…えー、今回の依頼内容は概要に書いた通り…海外勢力の制圧とのことで…不法に入国している他国の勢力を鎮圧化させるとの事なのだが、概要に書けていない内容ではあるのだが、相手はグレート・ウィンチェストローズの私掠船…つまり海賊なわけなのだが」


「ちょっ、ちょっと待て!『グレート・ウィンチェストローズ』って現在帝国と冷戦状態であって、下手に戦闘を吹っ掛けたら国際的な問題になるんじゃ」


「…グレート・ウィンチェストローズの私掠船は国家が黙認している秘密裏の活動、そもそも本来グレート・ウィンチェストローズ側も我々帝都に対し何かすれば冷戦状態が解除しかねない。故にお互いに私掠船をどこの国にも属していない海賊と呼ぶことにし、グレート・ウィンチェストローズ側から帝国軍に対し略奪行為を行い、帝国側も海賊に対し攻撃することが可能なのだ…」


「それでその私掠船がこの渓谷を根城に潜んでいることが判明している…と」


「あぁ、その通りだ…。それでその制圧というのが海賊の生け捕り、もしくはこの渓谷から追い出す事だ。お互いの国が関与しないこととするとはいえ彼らを殺すようなことは…出来れば避けてほしい」


「…海賊の規模は」


「あぁ、調査隊の調べによると20人もいないほどとのことだ。…リーダーは赤毛のぼさっとした髪の…おそらく13歳くらいの少女で、おそらく彼女が最年長。メンバーの半数が大人の腰ほどしかない身長の子供で構成されているのだ」


「ガキしかいねーじゃねーか!!」


「…仕方がないのだ、グレート・ウィンチェストローズの私掠船というのは貴族の娯楽…スラムに住む身寄りのない貧民層を連行し貴族が船を買い与えて海賊行為をさせる事こそ国家の美化と貢献、そして貴族間の話題作りになるというものなのだ…」


「…胸糞わりぃな。スラムの人口が減るなら子供でもお構いなしってか?」


「そりゃぁ…そんなガキ相手にデッドオアアライブなんてしちゃ可哀そうだな」


「帝都で保護とかは出来ないんですかね」


「残念ながら…とはいえ、他で長年私掠船をやっていて帝国と一応内通しているベテラングループがある。…まぁそのグループも私掠船だしベテランな分帝国の軍には手を焼かされっぱなしだが…、他の私掠船の面倒も見たりするし、取り押さえた後はいつもそっちに引き渡してはいる。…とにかく、制圧依頼をよろしく頼むよ」


 ここまで騎士団と軍で概要を話したのが終わったのか、それぞれが散り散りに行動を始める。するとさっき私の隣に座ってきた…コノハさん?が同じ団員と思われる女の子を連れてまたやってきたのだ。


「ネム殿!我々女性陣営も作戦会議ですよ~、あ、こちらは自分達アラタ騎士団の後衛魔法担当のドロフィーです。同じクラージー同士気が合うと思うのですよ。是非仲良くしてあげて欲しいです」


 そんな説明を受け連れてこられた子がぺこりと頭を下げる。ドロフィーと呼ばれた子は大人しそうで、ぼーっとしているような、…周りにも自分にも関心がないような、まるで自分を見ているような…そういう子に私は感じた。その時ふと私は…そんな事、どうでもいいか…と無関心になっていた。


「という訳で、おふた方にはおふた方なりのコミュニケーションとか取れそーな予感がするので、自分は作戦会議に戻るので後はよっろしく~」


 そう言い残しコノハさんはみんなの元に戻っていってしまった。とは言っても私にはそんなことが出来るだけのコミュ力があるわけでもない…そして彼女もそんなことを望んでいるわけでもなさそう、な気がする。

 私達はお互い喋ることなく20~30分くらいぼーっとしていると、他のみんなは作戦が決まったのか騎士団の人達と、それから私以外のもう一人の参加者が出発の準備を終え、私達も後ろをついて行く形で渓谷を出発した。


「…未開拓地で足場が少ない。獣道だか誰かが通った道だかは分からないが、通れそうな場所があって助かるな」


「なぁ、沢の方から行かねーか?」


「やめとけ、今の季節の寒さだと水に浸かれば凍傷するぞ。いやそもそも川が凍ってると近くも滑りやすくて危ないしな」


 険しい道なりを男手を借りながら突き進む。すると先頭を歩いていた今回のリーダーを務めている鬼人種の男が進行を止めさせた。そして静かに思いっきり薪の様なものを投げると、遠くで何かにぶつかり上から石礫が降ってきた。


「…この辺りは奴らにとっても進行を想定される場所。トラップもぬかりなさそうだな」


「逆を言えばこの先にとっ捕まえるべきガキどもがいるってわけだ。トラップなんて壊してさっさといこーぜ!」


「まーまー、ここは自分にお任せくださいな」


 そう言い残しコノハさんは背中の黒く大きな翼を広げ、木々の少ない沢付近から上空へと飛び上がった。しばらく上空を飛び回ってから戻ってくると、


「少々迂回しますし危険ではありますが、上の岩場をぐるっと通れば罠の少ない場所を通れそうですけど…」


 するとみんなの視線が私達に集まる気配を感じた。


     足手まといがいるしな…


 この空気は私がよく知っている。どこの誰とも分からない私なんかが参加しているせいで、みんなのしたい案が出来なくなるこの感じ…きっとみんなそんな風に思ったに違いない。そう私が思ったから私は自然と視線を逸らす。


「よし、少々無茶だがそっちのルートを使おう」


「りょーかいでありますラセツ殿~、ネム殿は…少々やらしーかもしれませんがモテないーズがサポートしますから」


「おいこらコノハ」「変な括りで呼ぶな」


「なぁキーウさん、勝手にこっちで策を出したがよかったか?」


「あぁ、問題ないよ」


 …私がいてもお構いなく険しい道で進むことに決めたみたいだ。きっとどうせうまくいかないと思うが…、だけど私からは言う事はない。言ったって変わらないからだ。


「ドロフィー、登れる岩場の近くまで持ち上げてくれ。…ドロフィー」


「ほらドロフィー、私達の足元に土塊の魔法ですよ」


 私に似た子はぼんやりしながら杖を地面につくと、8人全員が乗れるサイズの土塊が生成され地面が持ち上がり、険しい急斜面の岩場ルートをラセツと呼ばれた男が先行する。


「よし、こっちに通れそうな道がある。コノハ、通れそうなルートまで飛行して案内してくれ。ウルヴァとドレイクは後衛の女二人を、殿はトレイス、危険だと判断したらすぐ引き返す」


「オッケー」「りょーかい!」「おう、任せろ!」


 ラセツの指示でそれぞれが動く。私のサポートについたのは…緑の鱗に覆われた龍人種の男…確かドレイクって呼ばれた人だ。ちょっとニタニタしているようで、あまり関わりたくないと感じた。だけどドレイクが腕を力いっぱいに引っ張り身体を持ち上げたりして険しい道も順調に進めた。ドロフィーもウルヴァと呼ばれた祖人種の男にエスコートされ順調に進む。後ろの2人も私達のペースに合わせて進む。ラセツもなるべく私達が歩きやすい道を選んでいるようにも思える。…でもきっとここまでだ、最初だけ足並み揃えてくれても…戦いとなれば私の事を気にもしない。それはそう、戦いだもの…むしろ私の方が足手まといの役立たずなんだから。


「待て、…隠れていると思われる地点の真上の近くに着いた。コノハは戻って来い」


 ラセツの指示で行軍する私達の足が止まった。コノハさんも静かに私達の元にやってきた。この下に今回の依頼相手が潜んでいる…私も手にしている杖をぎゅっと握る。


「ここから先は部隊を半分にして、俺とウルヴァ、ドレイク…それとキーウで先行して下の様子を見に行く。残ったメンバーは最悪上から援護できるよう準備しておいてくれ」


 全員が了承し、4人はそれぞれ岩場をまっすぐ降りて行った。残ったドロフィーにコノハさん…それとトレイスと呼ばれた男の4人で待機している。


「ささっ、ネム殿…こちらもこちらで作戦会議第二弾としましょう!」


「コノハ…そろそろそっとしておいてやれよ。見てるこっちも鬱陶しがられてるようにしか思えんぞ」


「ぬぅ…」


 コノハさんもついに咎められるのが堪えて来たのかあまり詮索をしに来なくなった。トレイスさんは持ってきた本を読み始める。


「ったく、ドロフィーもそうだけど…どうしてこうちょっとした意思疎通ってのが上手くできないもんなんだろうか」


「およよよ、それはもしや自分にも言っているのですか?それと、ドロフィーは喋ることすらも億劫なくらいめんどくさがりなだけでちゃんと私には色々意思疎通をしてくれますよ!」


「…お前それ通訳に使われてるって自覚あるか?」


 なんて他愛もない会話を二人がしていると、近くで茂みの揺れる音が聞こえた。トレイスさんとコノハさんはすぐに剣やナイフを取り出し静かに構える。


「…コノハ、いざとなったら二人を連れて離脱しろ」


「残念ながら一般女性体型の私では二人どころか一人も連れて飛べる力がなければ、本来使うべきルートを使わなかったせいで足場が悪くて走って連れていけるような道もありませんねぇ」


「つまりなんとかしろってか。とにかく突いて何が出るか…」


 恐る恐るトレイスさんが私達から離れ、剣が届く距離まで迫ると…思い切り剣を茂みにへと突き立てる。だが何の反応もない。そのまま剣で茂みを払いながら周囲を警戒するが、何も見つかっていない様子…

 だがその瞬間、視界の外からばさりと何かが覆いかぶさり全身が思うように動けなくなった。網だ。縄で作られた網が身動きが取れないくらいに引き締まって捕まってしまいドロフィーと二人一緒に囚われたのだ。咄嗟の事で私達を背にしていたコノハさんとトレイスさんは反応が遅れてしまい、私達を捉えた網はそのまま宙を飛び一気に対岸の岩場まで連れ攫われてしまったのだ。


「っしまった!さっきのは囮…いや、そもそも根城にしている場所すらもおとりだったか?」


「自分が追います!ラセツ殿に報告を」




 あれから身動きが取れないまま引っ張り回されて、しばらくしたら小さな洞窟のようなアジト?に連れ込まれた。そこには何人かの子供達と、そして一際背の大きな女性が待ち構えていた。その姿は継ぎ接ぎの布を縫い合わせたような恰好をしており、髪もぼさぼさで頬は痩せこけている。おまけに酷い匂いだ。


「ふぅん…こいつらが帝国から派遣された兵士か?随分…気弱そうだが、まぁいい。とにかく身ぐるみをはぐのは後回しだ。こいつらを人質に早くここから脱出するんだ」


「キャプテン…船はどーするんですか?」


「船は見捨てるって言っただろ!いいか、これ以上こんなところで略奪してても次飯にありつけるチャンスが巡ってくる保障なんかない!あの頃みたいにくさったどぶ川から残飯を探したりゴミを売ったりしてた生活になんか戻れないんだ。帝国の奴らに殺されるか、野垂れ死ぬしかないんだぞ」


 キャプテンと呼ばれた彼女の言葉には誰も口を挟めなかった。子供達はみなひどく痩せ細っていたのが何よりその言葉を事実たらしめていた。


「こいつらを人質にここを脱出し、それから近くの村を襲撃する。今後はその村を根城にして村の奴らに飯を作らせるんだ」


「でも、あの男は帝国軍の物資を…」


「あんなクソ貴族共のいう事を鵜吞みにするから、こんなことになってんだ…もとより私達を送り出した時点であいつらはもう私達に一切興味なんてなかったんだ!けど、私には…私は、国とかどうでもいい!お前らの方が大事なんだ。…分かったらさっさと出発準備だ!」


 彼女の声が静かになると、子供達は各々で準備が始まった。物資を運び出す準備、中には倒れて動けない子供を抱えて歩く子供の姿すらあった。そんな様子を見ていたら…私の中で黒い感情が生まれだした。


 もしかして、今まで私が頑張ってきたことは全て…この子供達の為に…?


 そんな訳もないという正しい思考は、これまで私が周りとうまくやってこれなかった、周りは私を求めていないという負の思い出が、自分が持つ自分への価値が…私の命なんかよりも、今この一瞬を一生懸命生きている子供達のために使われた方が…有意義…幸せなのではないか…


「…ねぇ…」


 ふと聞き覚えのない声がすぐ近くから聞こえた。同じ網の中に囚われているドロフィーからだった。


「…どうするの…」


「えっ…どうするって…、私に言われても…」


 私なんか助かることを考えずに、ここにいる子供達の事を考えていたって言うのに…けどまずはこの状況をなんとかすることを考える方が普通だよね。そういうところも人とずれているんだと思うと、また自分が嫌になる。とはいえ…網の中は狭くそもそも身動きが取れない。だったら魔法で…


「おっと、勝手な真似はするんじゃないぞ。お前達は人質とはいえ場合によっては…、身の振り方には注意しておくことだな」


 キャプテンと呼ばれた彼女のドスのきいた声が静かな洞窟に鈍く響く。私は目を合わせれず視線を逸らす…だがその直後、一人の少年が走ってきた。


「きゃ、キャプテン!!そいつらの仲間が!もう対岸から来やがった!!」


 その報告に周りにもどよめきが広がり、各々でナイフにラッパ銃を手に戦闘態勢に入る。だが騒ぎが落ち着く間もなく一迅の黒い風が子供達の上空を突き抜け、キャプテンの持つカトラスナイフのような武器と刃が交わる。


「遅くなって申し訳ありませんお二人方、まだ何もされてないですかね?」


「随分…早いじゃねーか。だがお前ひとりで何が!」


「およよ、遅くなったと言ったではありませんかお船の船長殿…人質とお友達、どっちが大事か考えた方がいいですよ?」


 コノハがナイフで払い飛ばすと、キャプテンは体勢を立て直し網の隙間からナイフを私に突きつけ


「ならお前達も!こいつがどうなってもいいというのなら」


「そうはさせないと言っているのですよ!!」


 ようとしたその刹那、コノハの素早い身のこなしで間合いを詰めると、キャプテンのナイフを持っている腕を押さえつけ、もう片手でナイフを突き立てるが、キャプテンもまた反対の手でナイフを防ぐ。取っ組み合いは洞窟内の壁や荷物に何度もぶつかりながら、コノハが優勢に動き人質である二人から徐々に引きはがすことに成功した。


「っく、くそっ!みんなっ、さっきまでいたはずなのに…」


「あぁ、ですから…そちらに関しましては今出入り口にいます自分の仲間の対応に当たっているかと」




 その頃洞窟の入り口付近では、キャプテンを除く20人弱の子供達を相手に、ラセツ達5人が奮闘をしていた。子供とはいえ殺傷能力のある武器を所持しているためきわめて危険な相手である事には変わらない。中には高校生ほどに肉体的成熟を遂げた子供もいる。そんな相手に5人は…


「コノハの奴、うまく二人を助けれただろうか…」


「いってる場合かよ!!目の前の相手に集中しねぇと、こっちがのされちまうぞ!!」


 トレイスは刺突による剣術と魔法を絡めた戦い方を披露し子供達を手札の多さで上回り、ドレイクはデカい体躯によく似合う大きなハンマーを振り回して子供達を寄せ付けないパワーを披露した、そしてウルヴァは


「新型毒ガス魔法弾、くらえっ!!」


 両手で支える魔砲から毒霧状と化した毒魔法が勢いよく発砲され、濃い霧がまっすぐ子供達に降りかかる。即効性の高い攻撃ではないが次々と武器を手離し膝が崩れる姿はまさに効果絶大だった。だが…


「ウルヴァ!ダメだ、威力高すぎる!!こいつら相手にそれは使うな!!」


「うぇっ…マジかよ。せっかくの自信作だったのに…」


 ラセツの一喝が響き渡る。ラセツもまた使い慣れた金棒は子供達の武器を防ぐ時くらいでしか使うことはなく、足蹴や肘打ちなどで相手している。それだけでも十分対処が出来ているのだ。


「…おかしいですね。海賊にしてはあまりにも…」


 キーウさんも盾で防ぎながらこれだけの人数差すらも圧倒出来てしまう力量の差に少し疑問を抱いている。ドレイクがひとたびハンマーを振るえば子供は簡単に吹き飛び、トレイスの手数で子供達数人の牽制が出来る。とはいえ襲い掛かる子供達の決意は本物だ…あまりにも子供達の能力と行動の乖離に戸惑う五人。


「とはいえ、俺達の目的はこいつらの鎮圧。全員無力化ののちに捕縛しないといけない…とにかくさっさと頭をとっ捕まえないとな」


「そりゃ、私のこと言ってるのかい!」


 すると奥から一人の女性が走りラセツに襲い掛かる。振り下ろしたカトラスナイフを金棒で受け止め、軽々とはじき返す。


「船まで捨てて、人質まで取ったってのに奪い返されて…そのうえで私達全員をしょっ引かれてちゃたまったもんじゃねぇ!!こいつらは、誰一人も連れて行かせるもんか!!」


「…威勢だけで、大事なもんは守れねぇんだよ」


「うるせぇ!!知った口開くんじゃねぇよ!!」


 彼女は闇雲に、力任せにカトラスを振り回すがラセツは受け止めることなくひらりひらりとその太刀筋を見て躱す。そして大振りした隙をついて裏拳を叩き込むと、彼女の身体は大きく後ろに吹き飛び壁に激突した。


「きゃ、キャプテン!!」


「来るなてめぇら!!」


 周りの子供達の助けを制止し、持っていたラッパ銃を発砲するがその弾も金棒で地面に弾き落とされた。それでもキャプテンと呼ばれた彼女はカトラスを構えて突き刺すように走るが、ラセツはそれすらも容易く受け止め、カトラスを奪って再度壁に叩きつけるようにどつき飛ばす。


「はぁ…はぁ…くそっ、こんな、こんなところで…死んでたまるか…」


 もはや反撃をする体力も残されておらず、ずるずると背中が壁を擦りながら地面に座り込む。ラッパ銃も引き金を引けどカチンカチンと打ち金を鳴らすだけだった。銃を投げ捨てる彼女の姿を見ている子供達はもはや戦意が消失し、それでも彼女に歩み寄るラセツを離れた場所から見ていることしか出来なかった。


「…これも仕事なんでな」


 目の前に迫り立つラセツ…するとその二人の間に、割って入った。


「っま、待ってください!!」


 それは私だった。自分でも何してるか分からなかった。キャプテンと呼ばれた彼女が私達を捉えている網とは反対方向に走り出し、コノハさんが私達を網から解放するや否や…私も彼女を追って走っていた。そして、彼女の前に立つラセツさんの姿を見て…私は、止めないといけないと…無我夢中だった。


「こ、こ、子供達は!お腹が、お腹が空いているんです!!」


 私の声が壁に反響して響いている。それ以上に私自身がここまで大きな声で叫んだのは…もはや人生で指の数より少ない程度しかないと思っている。それくらい、私には今この一瞬が、本気だった。


「お腹が空いているだけなんです!!も、元の国でも、お腹が空いて、こっちに来ても、お腹が空いてて…だからえっと…」


 だけどそもそもそんな事に本気になったところで、一体なんだという話だ。ただ仕事の邪魔でしかない。相手の情に流されて、それで自分が勝手に思い上がって、結局…何も変わらない。こんなんだから私は…私は…

 私は恐る恐る目の前を見上げると、ラセツさんの手がまっすぐ私に向かって伸びてきているのが見えた。私は怖くなって目をつぶる…




「…安心しろ、とっ捕まえた後にちゃんと飯を食わせる。好きなだけ食えるし、つか別に処刑するわけじゃねーのは依頼前に話しただろ」


 私の肩を掴んでぐいっとどかす、そして唖然としているキャプテンを床から立ち上がらせて、軽く拘束する。


「なるほどな…ここにある食料は全て食い尽くした後だったってわけか。ほら、ここにいる全員に帝国に着いたら飯が食えると伝えろ」


「っほ、ホントか…?ぜ、全員!武器を手離せ、飯を貰える約束だぞ!!」


 それからは驚くほどトントン拍子に話が進んだ。子供達の拘束は簡単なもので済み、私達は一度トレイスさんとコノハさんを除く全員で歩いて駐屯地へと向かった。軍の人に事情を話せば駐屯地内にあった全ての食料が出されて、子供達は拘束されたままだというのに無我夢中で食事を食べ始めた。


「あーーー…見てるだけで俺達も腹減ってきた…、しかも仕事終わりなせいで余計に…」


 そんな子供達を眺めているとコノハさんとトレイスさんも戻ってきた。


「こいつらが略奪したという物資の中を調べてきたが…その殆どが一般生活用品の子道具ばかりが入ったもので食料物資じゃなかったんだ」


「おそらく殆どろくに教えずにつれてこられた子供達ですね…船も調べたのですがメンテナンスをしている形跡が一つもなかったですね。ホントに酷い扱いです。それはそうと、そ・れ・に・し・て・も~」


 そう言いながらコノハさんがくるりと私の方に近づいて


「いやぁ~、ネム殿。大手柄ではございませんか~。今回の決定打!私掠船のキャプテンから海賊の危機を聞き出し、仲裁の材料にするとともに解決につながるその行動力。まさにMVPものではございませんか~」


「そ、そんなことないです!!わたしなんか、仕事の邪魔ばかり…」


「謙遜すんなって」「俺達戦う事しか考えてなかったもんな」「ナイスナイス!」


 …騎士団のみんなが、私を慰め…違う。ほめてくれている。認められている。凄く嬉しい気分になった。こんなことは偶然で、次同じことは出来ないだろうけど…それでも、次もこんな風に、認められたらな…なんて、少しだけ心が沸き上がる気持ちが芽生えた。それと同時になれない感情でくすぐったいような恥ずかしい気持ちにもなった。


「あ、そ、それで…この子たちはやっぱり…国に返してあげることは…」


 話題を無理やり変えようと、そのまま勢いのままに話し出すが、みんなの顔が難しい顔になるのが見えてしまった。その時、拘束され肉を食べながらのキャプテンがこっちに歩いてきた。


「無理だろうな。帰ったところでクソ貴族がいる限りスラム街だろうが私達に居場所なんかねぇ」


「そ、そう…ですよね…」


「だが飯食ったらなんだか何とでもなる気がしてきた。私達はあんたたちの言うベテラングループのとこに合流しに行くことにするよ。んで今度こそみんなを守って見せるさ。あん時のあんたみたいにな」


 それだけ言い残すと、帝国から護送車が到着し、お腹が満たされた子供達は皆次々と乗り込んでいった。全員が乗り込むのを見送った後、事後は軍や回収を得意とする騎士団に任せ私達も帰りのバスに乗り…そのまま解散となった。




 拝啓、お母様…私はもう少しだけ兵爵を頑張ってみようと思います。実家に帰るのはもう少し先にします。


 今日は少しだけ前向きな気持ちになれました。仕事でみんなに褒められました。あの後コノハさんからアラタ騎士団の連絡先を受け取りました。なにかあったら遠慮せずに頼って欲しいと言ってくれました。

 明日もまた知らない人と一緒に依頼するかもしれないけど、今度は連携の為に色々話せることを考えておこうと思います。そう考えながら選ぶ依頼書はいつもより少しだけ色鮮やかに見えてきました。

 まだまだ不安とか、自信はありませんが…これからはもう一歩だけ、あの一日一日を仲間の為に全力で頑張っていたキャプテンさんみたいに、めげずに何度も話しかけてくれたコノハさんみたいに、私も、これまでの人生にめげずに頑張って…今度コノハさんに会った時には、嘘を言ってしまった事。実はちょっとだけ古い雑誌に写っていた事を言えるように頑張ってみたいと思います。そして実家に帰る時までには、いい思い出話が出来るようにしておきます。


   敬具

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


あけましておめでとうございます。今年度も本投稿をよろしくお願いいたします。

そして、新年早々から、大変申し訳ありませんでした。

本来なら19時に投稿予定だった本作ですが、投稿時間までに予約準備を出来ていなかった事、誠に申し訳ございません。

年末年始で2週間あったから書いてる時間あっただろうというご意見に関しましては、年末年始のせいでお酒の席が毎日のようにお呼ばれするので脳がアルコールにやられたのが原因です。

しかもまだまだお酒の席はこの後もあるので、しばらく自分の脳はアルコールに浸かる事間違いなしとなりました…

それでもめげずに今後も投稿の方を続けていくので、改めてではございますが今年度もお目汚しいたしますがなにとぞお付き合いの程よろしくお願いいたします。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は1/17に、Episode10の前編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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