Episode9 城塞都市最前線事変——— 中編
「こんな事ならコノハにはついてきてもらうべきだったな…」
「そうか?あいつがいるとめんどくさい事がもっとめんどくさくなるぞ?」
「行ってやるなトレイス…。ラセツ、バンドのみんなとの連携はどうする?」
「…、俺達は俺達でやればいい。向こうは向こうの好きにさせてやれ」
「うーん…そういうわけにもいかないと思うけど…、仕方ない。バーケニーさんをそっちのチームでAチームは3人、BとCチームは合同で8人をラセツが指揮してくれ」
「了解」
…我儘を言えばドロフィーをラセツ側に任せたかったが、諸々の事情で俺が面倒を見ないといけない。俺達3人でバンドメンバーとうまく連携していかないと。
そんなこんなで待っていると定刻となったのか、イワンさんから今回の依頼についての詳しい概要が説明された。今回の依頼は《ティストレイ連邦》からの軍事攻撃に備え前線維持すること。ムルフィルテンジュの西側は大きな防壁状になっていて、その先は地続きで連邦の軍が陣地を敷いている。帝国からは常にそこからお互いの攻撃距離を測定し、その攻撃がかち合う場所を国境としておりその国境線は年々遠ざかったり近づいたりと時代が進むごとに武器や魔法が発達するたびに変化している。今は連邦軍の陣地まで10㎞弱程の距離で睨み合っているとの事だ。
それで今回俺達は疲弊した国衛兵爵に代わって前線で敵国との戦争をするというわけだ…これは義勇兵爵になった時に定められている事であり今更知らなかったは通用しない。それに…そもそも今は昔と比べだいぶ戦争の『質』が変わっているとの事。お互いの国のお偉いさん同士で決めたことらしいが、今は戦争を経済に利用しているらしく、戦争は「その時」が来るまでは前線では真面目に戦うだけ馬鹿らしいのでお互い死なないように適度に戦っているらしい。ある意味俺達にとっても程よく戦闘の経験を積める場所として最適らしい…。とはいえ向こうの前線にいる人次第らしく、大真面目に全力で斃す気で向かってくる連中も居なくはないらしい…。
「ベテランの義勇兵爵チームとまだルーキーな義勇兵爵チームでそれぞれ別々のエリアを担当してもらう。開戦は昼の2時だ、それまでに準備を済ませ担当場所に移動しておくように」
残念ながら出撃無しじゃなくなったことが確定した。それにしても…開戦時刻まで決まっているとか、もはや俺達は上の政治のおまけにも感じるな。なんてぼんやり考えながら軍の食堂で食事を堪能する。流石というか君の食堂も広くてメニューも豊富、面白い事にいつでも出動可能な穴が地面や天井にある。今日のお昼は軍用ゴラドンの卵で作ったエッグベネディクト乗せの親子ステーキだ。…ちなみにゴラドンの肉は鶏肉?ささみっぽい感じに加え、コラーゲンが多いのかプルップルで女性人気の高いステーキらしい。
なんて食っていると、隣に座っているドレイクが随分そそっかしい様子…
「…おい、分かってると思うが…真面目に戦えよ?」
「あ、あったりまえだろぉよぉい!もうきょーなんか、俺の全力の全力で、チョー真面目にやってやろっかな~って、思ってるとこよぉー。にしても、あいつら残念だったなぁ~、あーぁ、ま、俺があいつらの分まで、頑張ってやりますかっとぉ~」
「…おいラセツー、やっぱドレイクも」
「ちょおいおい団長、だんちょーぉー、冗談きついっすよぉ~」
かんっぜんに浮かれていやがる…。まぁ既に女性陣が根回しした後だが。まぁそれはともかく、準備は済んだしドレイクはやる気十二分、ドロフィーは相変わらずではあるがバンド組5人も問題なさそうだ。
改めて俺達の陣形を確認する。まずAグループは俺とドレイクの2人で正面、その後ろにバンド組にドロフィーを加えた6人の陣形。まだ俺達が5人の動きを完全に把握していないためなるべく向こうのやり方に合わせるように動く予定だ。んでBグループはリーダーのラセツを中心に前衛をラセツ、カトレナ。左右をマアダ、イヴ、ビヨンド。後衛にトレイス、フィラーレ、バーケニーを置きオーソドックスな後衛守備陣形で俺達とは離れすぎない程度に広い範囲を担当している。
時計の針が1時45分を指す。真正面にはいつの間にか無数の旗や煙が上がり大勢の人の気配を察知した。いくら政治の影響で人が死ににくくなっているとはいえ、本物の戦争なんだ。俺は緊張で震える足をバシンと叩く。死ぬかもしれない?それがなんだ、俺のここまでの人生で死ぬかもしれないは何度もあった。この世界ではもっとたくさんあった。だけどここまで向き合ってきた。だから今の俺がここにいるんだ。俺だけじゃない。俺を信じて一緒に騎士団に入った仲間達を、俺は絶対死なせたりはしない!!
ドォ———ンッッ!!!激しい砲撃の音と共にけたたましい怒声と共に連邦軍が突撃を始めた。それとほぼ同時に俺達の後ろ、防壁から無数の砲弾や矢、魔法が飛び出した。その投擲物の雨をものともせずに進撃を続ける連邦軍。さらに防壁からは今度は数十ものゴラドンや翼を持つ軍用動物、ブルームに跨って飛び立つ兵士や、自らの翼や羽で飛び立ち前線に並び立つ。そして…ついに、第一陣として帝国の国衛兵爵と、連邦軍の兵士同士が武器を交えたのだ。
それからは戦場は大混乱だった。右も左も武器のぶつかり合う音、魔法が放たれる音が至る所から聞こえ止むことがない。俺は周りに声をかき消されそうになりながらも必死に陣形を崩さないように指示。…だがついにその時が来た。俺達の陣形に真っすぐ向かってくる敵兵が見えた。
「っ、来た!ドレイク、行くぞ!!」
「おうっ、任せろっ!!」
まずは俺達がまっすぐ迫る敵を迎え撃つ。相手は…俺達と同じ16人の陣形で迫る一小隊だ。先陣きって走る狼系の獣人種の男と祖人種の男の組み合わせ相手に俺は盾を、ドレイクはハンマーを叩きつけて互いの得物をぶつけ合う。
「…ほう?見ない顔ぶりだな。戦歴は何年くらいだ?」
「…えっと、後ろの女の子たちは違うけど…去年の末に皆で揃って免許を貰って作った騎士団です!」
「お、おい…ミナヅキ…」
「はぁ?」
お互いの武器が弾けあい、互いに距離を取る。
「おい聞いたか。殆ど実戦をしたことのねぇド新人騎士団だってさぁ、たっぷり可愛がってやろうぜぇ。ぜってぇヤッたりするんじゃねーぞ」
うぉぉーっ、と敵がまるで好物を目の前にした獣のように一斉に俺達2チームを取り囲んだ。
「うぉい!ミナヅキ!どーすんだよ!!」
「いや、まぁ…ごめん。やっぱ流石にだめだったか…ドロフィー、2と10に壁だ!!」
俺がドロフィーに指示を出すとドロフィーが土壁の魔法を即座に唱える。すると俺達の両側に二枚の土壁が出来上がる。俺達はその二つの壁から前に出て後ろの6人を囲う陣形を取った。敵の陣形は6人がグラップラーの遊撃、後ろ2人が後方支援の陣形が二つだ。敵の得物は機動力の為か重たい武器は携帯していない…、いたぶられるのは覚悟の上だ。
「ドレイク、頑張って二人を相手してくれ。それと…テトフルクバンドさん達、準備はいいですか?」
「えぇ、ばっちり以上よ」
胸の前でバシンと拳を打ち鳴らす音を聞き、俺も盾と魔法銃を構える。敵獣人種の方向と共に敵前衛が一斉に距離を詰める。俺は一人のナイフによる攻撃を防ぎながら魔法銃で別の敵の注意を引く。盾で攻撃を弾きながら魔法銃で応戦をするが容易く躱される。その隙に先ほど狙った敵の攻撃が頬を掠るが…これで俺は二人と対峙する形にはなった。
「くっそぉ…ちょこまかと!おらぁ!!」
ドレイクの苛立つ声が聞こえる。ちゃんと二人を引き留めることが出来たかは分からない…が、人の様子を見てるほどの余裕はない。こっちだって戦闘慣れしている二人を相手にしているのだから。俺は撃ちきった魔法銃を再装填する間盾で防戦する構えを取った…。当然だがそんな状態の俺を相手するほど敵は呑気でないのは分かっている。敵の一人が魔法銃を持つ手と反対に走り後衛を狙おうとしていた。
「『敵を貫け、放て、光の矢よ』!」
「『幾千の槍になれ、重力に逆らい、大地よ』!!」
それはほぼ同時だった。俺が光の矢の魔法を後衛を狙おうとする敵に向けて放とうとしたその瞬間、俺の足元が隆起しまるで鋭い槍のようになり俺の身体を突き刺したのだ。幸いにも直撃は避けたが…いや違う、わざと直撃しないよう外したのだ。俺の手足や背中のダメージを、俺と今まさに相対している敵が見てにやにやしている。
「けひゃひゃ…戦場でよそ見してたら、すぐ死んじまうぜ。油断してんじゃねぇぞ新人風情がぁ!」
油断なんかしてない…。だけど、いやそんなこと考えている暇はない。俺は痛みを堪え目の前の敵に集中する。押さえつけていられなかった敵の事が気にはなるが…。再装填された魔法銃を連射し敵の動きを誘導させる。真正面から仕掛けようとしたところで俺は手元を盾で隠しながら銃から剣に持ち替え、そのまま盾の陰から剣を振るう。…が、これを寸での位置で躱される。横薙ぎの剣を敵はジャンプし俺の背後を取ったのだ。
「今のは悪くねぇが…脇があめぶふぉおぉっっ!?」
背中を取った敵のすぐそばには、なんとフェリスさんが接近しており見事なまでのアッパーカットが敵の顎にクリーンヒットし上空を一回転したのだ。振り向いて驚く俺にフェリスさんは黙って近づくと、そのままチョップを食らわせられた。
「ちょっと!何自分達が苦労すればいいとか、そんなダサい事考えてんのよ。私達だって十分戦えるわよ」
…油断なんかしてない。そう思っていたが、俺は5人のバンドグループ達と共闘すると言っておきながら、心のどこかで自分達で守ってやることを考えていた。その慢心こそが油断となっていたのだ。そんなことを数日前にビヨンドともやり取りしてたのに…俺もまだまだ未熟だ。俺はフェリスさんに気付かされてからゆっくりと周りを見回す。
鬼人種のトモエはその見事な太刀捌きで敵の攻撃をいなし躱し、お互いに致命打を当てられないすれすれの殺陣を披露して見せている。獣人種のルミナもまた小さい身体と俊敏な身のこなしで敵の攻撃を悠々回避して相対する。精人種のティラはドロフィーと連携してか弓と魔法の弾幕、さらに壁魔法による妨害で進行を妨げている。ククルーも上空から敵後衛の援護に対し魔法を打ち込んで妨害している…。みんな、ちゃんと戦える。それが見えていなかったのは俺の方だ。
「おっ、おいっ…ミナヅキー!助けてくれー!!」
そんな声をあげるドレイクは相変わらずなんとか敵二人からの攻撃を凌ぐので手いっぱいという様子。そしてフェリスさんにぶっ飛ばされた敵もゆっくりと臨戦態勢に戻る。
「あー、いてて…顎が外れたかと、あれ…かみ合わせが悪くなってる…ちくしょう」
「…フェリスさん。すみません、ありがとうございました…俺」
「御託はいい、こっからどうする」
「今フォローが必要なのはドレイクとティラさんのところが最優先。最終的にルミナちゃんを敵後衛に差し向けたい。前2後ろ1で3対3の構図を二つ作る…フェリスさんはドレイクの方に、俺は、ティラさん達を!」
「オッケー!」
そう言い残しフェリスさんはまっすぐドレイクのいる方向に走っていく。その様子を見た敵が追おうとするが、今度は俺が剣による一打を叩き込む。その攻撃は決して不意打ちでない愚直な攻撃。だけどそんな攻撃が敵の服を、肌を切り裂いたのだ。
「なぁっ…くそっ!」
ぐらりと体勢を崩した敵をその場に放っておいて俺はまっすぐティラ達の対応している敵の元へと向かう。ちょうどそのころドレイクの元に辿り着いたフェリスが敵2人と相対している。
「よ、よぉ、リーダーのねーちゃん。…ちょ、ちょっとカッコ悪いとこ見せちまったけど、こっから盛り返すからよぉ」
「だったらさっさと見せてちょーだい。私が全部いいとこ貰っていくわよ」
フェリスはまるでボクシングのファイティングポーズのような構えとステップから、身を屈めて一気に懐に飛び込んで強烈なパンチを片方の敵の腹にぶち込む。だがその一撃は腕で防がれ距離を取られる。すると即座に数本の短剣を取り出し、それらが宙に浮かぶ。
「ソーン・オブ・デカグラム ナイフ!!」
宙に浮いたナイフが一斉に無作為な動きで宙を飛び回り敵に襲い掛かる。だがもう一人の敵が攻撃に集中しているフェリスに背後から襲い掛かる。
「こいつは、さっきのお返しだ!!」
敵とフェリスの間に割って入ったドレイクがハンマーで一撃を叩き込む。ようやくドレイクが受け持っていた敵2人のうちの1人に強烈な一打を与えることが出来たのだ。その様子を見ていたナイフによる攻撃を受ける敵は、攻撃の渦中から脱出し、致命打を受けた味方を庇いながら距離を取る。
「くそっ、優勢だったのに…そっちはどうなっている。新人共相手なんだ、援軍は出せんのか!!」
敵が声を荒げる先はもう一つの俺達の担当、ラセツ達の戦域だ。当然そっちでも激しい戦闘が繰り広げられている。ラセツが2人、ビヨンド、マアダ、イヴが1人ずつ、カトレナが1人の攻撃を受け止めつつトレイスの魔法で援護。バーケニーとフィラーレによる援護攻撃が敵後衛に降り注ぐ。
「どうなっていやがる、こいつら全員新人って話だろ!!」
「この仕切ってる鬼人種のやろーは甘く見るな!要マークしろ、手足を封じさせるんだ」
特にというか、やはり俺達の中でも群を抜いて高い戦闘能力を持つラセツは熟練の敵2人を相手にしても引けを取らないどころか押し返すだけの実力を示した。素早く動く敵に対しあろうことか鈍重で破壊力抜群な金棒で的確に攻撃してくるのは敵からしたら恐ろしいものだろう。さらに以外にも結構小技も豊富に使える。しいて言うならそんなラセツを支える三人が今日来ていればさらに盤石な並びになっていただろうに…。
「っは、ラセツラセツと…そいつだけじゃねーってんだよ!!俺達もマークしろよなぁ」
「ちょっとビヨンド、私とかダーリンとかは一緒にしないでよね。あんまり目立つとデートしにくくなるじゃない」
「ははっ、まぁ見せつけながらってのも悪くねーかもなハニー」
左右を任されているグラップラー組、左を任されているビヨンドはその巨体からとは思えない俊敏さで敵兵と対峙し、反対に右を任されているマアダとイブのコンビは水魔法の道を泳ぐように滑り槍を使い敵兵二人を近づけさせない戦い方を組み立てている。
「あはは、この調子なら私達だけでもなんとかなりそうだし…愛しの団長様のとこにでも行ってくるバーケニー?」
「…おふざけが過ぎますフィラーレさん。私はここを任されたのですから、ここでの戦闘に専念すべきです」
フィラーレが茶化すのを苛立った様子で答え弓を射るバーケニー。その矢は後衛で魔法の呪文を唱える敵兵の妨害となり、それでも放たれた魔法は上空を飛ぶフィラーレの風魔法によってかき消されていく。布陣としては現状今の敵の軍勢では崩しようがなかった。勿論今俺達が担当している地区以外からの援軍が来ないとも限らない。だがどこもかしこも交戦状態の今優劣がはっきりしている場所で兵が多く動く中で、俺達のとこのような比較的拮抗している場所は後回しになりやすい。戦況が動くときは俺達の中で決着がついた時になるだろう。
「…よし、カトレナ。お前は向こうのフォローに行ってやれ」
「はぁ!?ラセツ様、その口のきき方はいかがなものでは!?」
「おいカトレナ、今はそこはどうでもいい。ラセツ、こっちの戦況を先に優位にした方がいいんじゃないか?」
カトレナが敵の攻撃を受け止めながら喚く中で後方からトレイスが魔法による攻撃を行いながらラセツに進言する。
「確かに一見俺達の優勢にも見えるこの状況…だがさっきから敵が受け身になっているだけで何の打開も進んでいない。うまくいなされているだけだ。ならば一度状況そのものを変えなければ転機は訪れん」
「だからってなんで私がそんな、雑用みたいなことを…ビヨンドあたりに行かせておけばよいでしょう!!」
「お前が一番丈夫だし、あとこっちで役割がないからな」
ムキーっと怒りを露わに暴言を吐き捨てながらAグループの戦域へと向かっていくカトレナ。それをみすみす見逃す敵兵達ではないが当然ラセツが睨みを聞かせている。さらにラセツの補佐にまわったトレイスがいる状況…三人掛かりでラセツを対応することとなった。
「という事がありまして来てやりましたわよ。全く…どうしてこのわたくしがこんなことをしなければならないのですの?」
そんなことをぶつくさと言い、前衛している二人をほったらかしに愚痴を言うためにティラや俺のいる後衛グループに合流したカトレナ。ドロフィーは相変わらずそそっかしくなるので出来ればカトレナ以外を応援に送って欲しかったんだけどな…
「おい、お前のとこの団員だろ…こんなとこじゃなくてさっさと前線のサポートに行くように言えよ」
「分かったから、話はあとで聞くからカトレナ。あっちの手伝いしてき…
俺の指示をそんな悠長に敵兵が待ってるわけもなく、いつの間にかこっちはこっちでグラップラーの敵兵四人が取り囲み、残りのグラップラー敵兵二人がフェリスとドレイクを隔離している。敵後衛もククルーの妨害も受けながらも完全に二人に狙いをシフトしてきてる。そして当然二人を援護するのを阻止すべく4人の敵兵が俺達に妨害すべく攻撃が激しくなる。俺もカトレナに指示する余裕もないくらいに仕掛けられ剣と魔法銃で対応する。
「くっ…このままではフェリスが!こうなれば皆もろとも一掃するしか」
「トモエさん、その前に…俺を信じて、任せてください。それから、[ごと]をお願いします」
俺の言葉に横目で見るトモエ、しばらく考え込むと小さく頷く。俺は今一度ぐるりと見まわし全員の位置関係を把握する。そして戦いながら背を合わせるトモエに小声で指示を出す。
「ドロフィー!目隠しだ」
「…っ、『姿をくらませよ、視界を遮り、暗闇よ』」
今度は大声で指示を飛ばすとドロフィーは驚いてなのか動揺してなのかは分からないが、ぎこちない呪文で放った魔法はドロフィーを中心に真っ暗な黒い霧の様なものを発生させ、飲み込まれた全員は何も見えずまるで光り一つない闇の中に飲み込まれたのだ。幸い上空を飛ぶククルーの所まではその闇は届かなかった。
「ちょっとー!何も見えないのだー!?ククルー!!」
「一体何のつもりですの団長ーっ!?」
敵の困惑する声よりも味方の悲鳴の方がよく聞こえるのは腑に落ちないが、そんなことは置いとくとして、この闇の中で都合がいいのは敵も同じ、この暗闇に乗じてすることは…
「ドロフィー!!こんなに暗いと何も見えませんわ!さっさと明かりを戻しなさい!!」
2~3分程度くらい騒がしくしていたカトレナの怒鳴る声でついに闇が晴れてあたりが見やすくなった。するとそこには、ドロフィーが高い土塊の上に座っており、その土塊に3人の敵兵がはりつけにされていたのだ。そう、この暗闇の中で真っ先に狙うのは後衛、そのためドロフィーにはこの暗闇にさせる闇魔法を使った際にすぐに自分の足元に土魔法で高くするように練習させておいたのだ。敵兵は思惑通り暗闇の中でもドロフィーを狙って襲ってきたが、そこにあるのは魔法で作り出した土塊…つまり俺達は遠慮なく敵を土塊に拘束させることが出来るのだ。それにしても事前にトモエには伝え済みで一人を小刀を差して動けなくさせたのはいいとして、ティラも弓で射って一人拘束しているのには驚いた。これで俺が2人拘束させていればよかったのだが…何故か一人しかとらえることが出来なかった。…それどころか周りを見渡しても、4人目の敵兵が見えない。
「ひゃうっ!?ひゃぁ、やっ」
聞き覚えのある情けない声が聞こえると、なんと土塊の上にはドロフィーと、最後の敵兵がいたのだ。それもそうだ、全員が全員必ずドロフィーを狙うとは限らない。暗闇が晴れたこのタイミングで狙ってきたのだ。
幸い嫌がられながらも近接戦を多少はこなせるようにしておいたかいがあり杖で防いだおかげで致命打は避けられた。だが足を踏み外して土塊から落っこちたのだ。当然そんな隙を敵が黙って見てるわけがない。敵が上から追撃する。俺達もフォローに走るが…間に合わない!!
「っふん!!」
だが一人だけ間に合った。カトレナだった。落っこちるドロフィーと敵の間に割り込んで盾で攻撃を防ぐ。そしてそのまま力強く盾で弾き飛ばす。そしてドスンと落っこちたドロフィーを片腕で立ち上がらせる。
「相変わらずどんくさいわねあんた…ほら、なんか落としたわよ」
ドロフィーがいつも持ち歩いている子道具入れの口が開いていたのか、地面に落ちた拍子にそのままばら撒いてしまったようだ。するとドロフィーは落ちたものをまるで隠すかのようにひどく焦ったように集め始める。呆れながらもカトレナも一緒になって拾おうとする。それは一本の、とてもきれいなインクペンだった。
「…これ、わたくしの!失くしてたわたくしのインクペンじゃない!!」
…その一言に、俺も驚きを隠せなかった。どうして今、こんなところで、カトレナが合宿時代初めて会った時から、ずっと探し続けているインクペンが…今こんなところで見つかるなんて。だけど今そんなことを考えている場合ではない。だけど、でも…俺は何を言っていいんだ?分からない。けど、けど今は…カトレナが弾いた敵がまた迫ってきている。
けどそんなことはお構いなしに、明らかに二人は自分達の世界だ。カトレナは上からドロフィーを睨みつけ、ドロフィーは震えたままカトレナからの視線に目が泳ぎその場で固まっている。カトレナの盾を持っていない手がゆっくりと持ち上がる。こんな時にドロフィーを打とうとしてる。その手は…拳は勢いよく…
ドロフィーの背後から迫る敵兵の顔面にクリーンヒットした。その一撃は鈍い音をたてゆっくりと敵兵が倒れていくのと同時に、カトレナの顔が痛みでぐにゃりと歪む。
「あ゛ぁ~~~…、…っつぅー…あとで団長から労災を貰ってやりますわ」
「…」
「ま、それにしても無事にわたくしのペンが見つかったからよかったですわ。まさか貴女の荷物の中に紛れていたのですね」
カトレナはドロフィーに顔を合わせないまま一人でしゃべる。その様子をドロフィーは顔を俯けたまま聞いている。トモエはこの状況を理解できずに困惑している。
「おぅい、お前ら…そっちは済んだのか?」
すると前線で頑張っていたドレイクとフェリス、そしてルミナとククルーが向こうからやってくる。そう、暗闇になった時ルミナは真っ先に暗闇の範囲外まで走り、そしてそのまま敵後衛の2人の所まで行き強襲、ドレイクたちの所にククルーも合流しなんとか押し返すことに成功。なんとこっちにいるメンバーを置いて撤退していったのだ。さっきカトレナがぶん殴った敵兵も気がつけば撤退をしていた。残る三人は土塊に拘束されているとはいえドロフィーの魔法が解除されればそのまま拘束も解けるだろう。
すると突如ドロフィーが1人防壁に向かって走り出してしまった。勿論俺達の制止を無視して、すると土塊が崩れて三人が解放されたのだ。とはいえこっちはドロフィーがいないとはいえ8人そろっている状態、3人は投降する意思を見せた。丁度Bチームの方も敵兵が撤退をしているのが見え、俺達が受け持つこととなった敵小隊を無事撤退にまで追い込むことが出来た。
…いや、俺達の所だけじゃない。各戦域でもティストレイの軍勢が撤退をしているみたいだ。銅鑼のような楽器?を叩く音が響き渡る。気がつけばあたりはすっかり夕方の空模様だ。
「おい、こっちも撤退だそうだ」
俺達はラセツ達と合流し、お互いの情報を共有し合いながら一緒にムルフィルテンジュへと戻っていく。色々あったが…まぁまずはとりあえずドロフィーを探さないと、先に都市内に戻っている筈だ。
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
今週忙しく驚くくらい執筆が進みませんでした。これはもう投稿お休みにするしかなさそうですね…
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は12/27に、Episode9の後編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




