Episode7Ex さよなら義勇兵爵叙爵合宿、そして旅立ち——— 番外編
※本投稿へのお詫び
本投稿は昨夜12/6の19時に投稿予定で設定をしていましたが、誤って一週間後である13日で投稿を設定してしまいましたことお詫び申し上げます。
義勇兵爵叙爵講習合宿、それは数奇な運命で集まることとなった50人…まぁ51人目は途中脱落したが、ともかく50人によるおよそ100日に渡る共同生活、そして試験合格を以て俺達は正式に義勇兵爵となる。…そう、そして俺達50人はなんと無事全員が試験合格となりほぼほぼ義勇兵爵は確実なものとなった。そして本日は合宿開始から95日目。閉講するまで残すところ5日となった。そのため俺達はこの合宿でやり残した事をすることになった。そのやり残した事とは…中断することとなった野外行軍のその先。到着予定地であった農業都市『アンダルハーグ』に行く事だ。
とはいえ野外行軍をまたやるというわけではない。なんと今回は軍の貸し切りバスで直接アンダルハーグに向かう事となったのだ。1泊2日だけとはいえ移動中のバスの中でもみんな待ち遠しいのかパンフを読んだりお菓子食べたり寝て休んでいたりと…
そうしているうちにバスは徐々に自然的な風景からのどかで豊かな園芸風景が広がり、綺麗な水が流れる舗装された川にこの街の代名詞ともいえる大きな風車が見えてきた。そしてついに煌びやかな建物が並ぶアンダルハーグに到着したのだ。
「やーっとついたー!!」
俺達は待ちわびた分バスから勢いよく降りていく。そこには街と自然が混ざり合う豊かな風景。そして街を歩く人々のその殆どが女性、それもただの女性ばかりではない!みなとても美人でさらに豊満な物をお持ちな方ばかりなのにそんな見目麗しい方々が右を見ても左を見てもそんな人ばかりなこの天国のような光景に男達は興奮しっぱなしだ。勿論俺も一緒になって興奮しっぱなしだ。後何故かコノハも一緒になって興奮してる、お前は女だろ。
「あはは、みんな張り切ってるね。僕も嬉しいよ」
そう言いながら後からバスをゆっくり降りてくるのは3組Cグループ、アンダルハーグ出身のローズ、ソフィア、ルーレンの3人だ。何を隠そう元々この3人が今回のアンダルハーグ旅行を計画してくれた主催メンバーなのだ。元々地元だからというのもあるが、なによりも今回の旅行は中止になった野外行軍…もといウルフ襲撃の件で戦えない彼女達に代わり身を挺して守ってくれた俺やライオネット、その他あの場所に居合わせたみんなへのお礼のためでもあるらしい。
「ライオネット様、早速ご案内したいお店があります。お時間も限られていますし早くいきましょう」
「ははは、まぁ落ち着きたまえルーレン君。すぐ行くともさ。君の考えてくれた旅行計画は楽しみだからね。というわけで僕たちは僕たちの予定通り満喫してくるからそっちはそっちで楽しんできたまえ。あぁ、それとあまりローズ君達を困らせるようなことは控えるようにな」
相変わらず減らず口叩きながらご機嫌に進んでいくライオネット一行。残されたのは俺達アラタ騎士団への入団メンバーと、ローズとソフィア、そして残りの1組3組メンバーだ。
「ははは、ルーレンはあの日ライオネット様に助けてもらってからというものすっかりお熱でな。まさにこの街の女性に相応しい情熱的なアプローチ。今日という日をまるで待ても出来ない空腹な子犬のように待ちわびていたのだよ」
俺の近くにいる女性でありながらまるで舞台男優の如くきりっと整った男装をしているローズがそうフォローのように言うが、俺はどちらかというとライオネットの方にムカついているんだが…と口籠っていると、急に俺の後ろにローズが立ち。
「かく言う僕も…君にお熱だけどね。ふふっ、ソフィアには内緒だからね」
そう俺にだけ聞こえるほどの小声を耳元でぼそりと呟く。その言葉に背中や色々がぞくっときた。合宿ではずっと凛々しい声をしているローズからは想像もつかないような少女のような声に、しばらく固まった俺をよそにローズはみんなに出発の準備を促す。
街の中を歩き進むとおしゃれで穏やかなマーケットに辿り着いた。俺達はここで一時自由行動をとった。みんなが集まって散り散りに見て回り始めている中で、相変わらずというか…バーケニーさんはどうにもこういうところには慣れていないみたいだ。
「バーケニーさん、ほら一緒に見て回ろ?」
俺はバーケニーさんに手を差し出す。バーケニーさんはおどおどしつつも俺の手をゆっくりと取る。その手はじんわりと熱く感じた。その手をしっかりと握ったまま俺達は様々な小物ショップやアクセサリーなどを見て回ってから、衣装売り場に行ってバーケニーさんに似合いそうなアンダルハーグ特有の胸のふくらみやくびれのある真っ赤な薄いドレスみたいな衣装を探して試着してもらった。いつも色気のない服ばかり着ていたバーケニーさんだが、いざ攻めた格好を着てもらうと…凄い。ビックリするくらいめちゃ可愛かった。
「…こんな、仕事に関係のなさそうな…その…、…に、似合ってますか?」
「めっちゃ似合ってる!!もうずっとそれでいいんじゃないかな」
恥ずかしがるバーケニーさんを煽ててると、どこから俺達がここにいるのか聞きつけてきたコノハがバーケニーさんに近寄ると、そのまま二人で縮こまるようにしてぼそぼそと内緒話を始めた。俺も聞きたいという欲をグッと堪えて待っていると、何度かバーケニーさんが慌てたのち
「いや~、旦那ぁ。せっかくのデートって時にぃ~、ちょちょっと私達で買ってこなくちゃいけない大事な買い物を思い出しましてぇ~、申し訳ないのですが、へへっ、旦那とは、ここで別行動って事で、へへっあ、あとでお返しやしあすので、なにとぞ~なにとぞ~」
とか言ってさらに衣装売り場の方へと連れてかれてしまった。ま、まぁ…これはこれでバーケニーさんが楽しめているなら、よかったかな。俺はフリーになったけど。
しょうがないしどうしようかな、トレイスあたりが暇してるかなと思い探してみようとすると、不意に後ろから俺の手を掴んで隣を歩き出す一人の女性…誰かと思い顔を見るが服装を見るが、なんかどこかで見たことあるような、でも合宿メンバーの誰とも雰囲気の合わない知らない女性だった。
「えっと、あの…ど、どなたでしょうか?」
「おや?さっき君には僕…いや私の気持ちは伝えたはずなんだけど、丁度お礼もできそうだと思ってね。ソフィアをまいて来ちゃった」
ローズ!?と叫びそうになる口を手で塞がれる。ローズは女性ではあるもののいつでもまるで美少年のようなカッコいいスタイルとふるまいをしているのだが、今目の前にいるのはそんないつものローズとはかけ離れたまるでセレイアさんとかレイフェルさんみたいなお嬢様的な美少女そのものだ。こんな姿を同室でローズとすごく仲のいいソフィアが見たらどう思うのか、というか見たことあるのだろうか…驚く俺をよそにローズはさらにぐいぐいと手を引き、マーケットの端っこの人気のないお店。骨董の展示店に入り込んだ。
「ふふっ、この辺りには誰も来ていないみたいだし…気兼ねなく、楽しんじゃお♪」
そう言うと俺はローズにエスコートされながら二人きりを楽しんだ。色々な展示物を見て回ったり、ビックリハウスみたいな店で騒いだり、ちょっとしたカフェスペースでお茶したり…いつも芝居のような絵になるような身嗜みからは考えられないくらい腕を組んで歩いたり、驚いて抱き付いたり、ケーキをあーんしたり…正直同一人物とは思えないくらい彼女の可愛さに俺が驚いている。まるでほんとのカップルみたいな、俺に気があるんじゃないかと思うくらいに…。
「ふふっ、ちゃんとお礼は出来てるみたいかな?私も嬉しいよ」
ローズのにへっとした笑顔をずっと見ていたいが…何と最悪なことに、1組Cグループの3人がソフィアの案内で俺達のいる店に真っすぐ歩いてきているのが見えた。まずい…ソフィアには内緒でこんな格好をしてきているのだからこんなところ見られたら、なんかまずい気がする!
「ローズ!こっちだっ!!」
代金は前払いだから会計は済ませてある。俺はローズの腕をいきなり掴み気を付けながら、でも急ぎ店から二人で連れ出る。頼む俺に気付くな…そう思いながらソフィアたちが来る方向とは逆の隣の店にすぐさま逃げ込む。さっきバーケニーさんと来たとことは別の衣装売り場だ。
「こっちだ!!」
俺達は咄嗟に二人で狭い試着室に入り込んだ。狭いと言っても流石に二人で入ってもまだ余裕のある広さだ。いやそもそも流石にここまで追って来てたりなんかしないか…なんて乱れた呼吸を整えながら考えていると、いきなりローズが俺に距離を詰めてくる…というか、胸同士が密着している…ローズさん男装しているときはあまり気にならなかったけど、結構立派なのあるんですね…
「あの…そんなに近づかなくても」
「しっっ」
ローズが口の前に指を立てると、試着室の外から声が聞こえてきた。
「ねぇ…さっきのミナヅキだったよね?」
「一緒にいたの誰だった?よく見えなかったけど」
「…ナンパした?」
「マジー」「やってるー」「やばー」
言いたい放題言われているが、今はそれどころではない。喋り声がどんどん近づいてきている。それなのにローズさんは相変わらず俺にくっついたまま、それどころか顔を向き合わせたまま…まるでキスしそうな距離に、俺の心臓はこれまでにないほどバクバクとまるで警報のように轟音を鳴らしている。
「ふふっ、もし…君に、今ここで、試着室のカーテンを開けて…みんなに見られちゃったら…私、みんなに失望されちゃうかも。せっかく目指していた夢も、君によって諦めさせられちゃう…か、も」
ローズの小声が俺の脳に響く。ローズの手が俺の手を掴んでカーテンを掴まさせるように、外の声が全く聞き取れないくらい自分の心音が煩い。だけど今みんながカーテンを挟んで隣にまで来た。いる。すぐそこに、開けたら…だけどローズさんは離れてくれない。それどころか見つめるローズさんの口の動きが
あ け ち ゃ え
とねっとりと動くのに目が離せなかった。だけど俺の手は動かせなかった。だが俺の手を掴んでいたままのローズの手がゆっくりと俺の手を引っ張りカーテンを開かさせる。俺の息が止まる。俺の目線はゆっくりと外に向いた、カーテンの外には…誰も居なかった。
「…っはぁ!?」
俺は大きく息をしながら試着室の外に出た。あたりを見渡してもソフィアたちの姿は見えなかった。もうどこかに行ったみたいだ。
「っぷ、あはっ、あはははははは」
そんな俺の様子を見たローズは腹を抱えて笑っていた。だけど俺にはそれを咎めるだけの元気はなかった。笑われっぱなしだった。涙が出るほど笑ってた。
「あはは…あー、面白かった。凄かったね。ね、充分お礼できたかな?…流石にそろそろ戻らないと、ついでだし着替えてから行くから先に皆の所に戻ってて。…それとも、着替えも見ていくかい?」
俺は咄嗟に首を激しく横に振り、相変わらずクスクスと笑うローズが試着室に消えていくのを見送ってから、俺はそそくさと…いやちょっとぎこちない足運びで店から逃げ出ていく。俺は弄ばされていたのかなぁ…、それとも…いやいやまさかな。
なぁーんてぼんやり考え事しているといつの間にか自由時間は終わりみんなが集まり始めた。というかボケーッとしている俺を中心にみんなが集まっている。
ところでこの時点で既に何人かは集まってはいないが、それについては事前に把握済みだ。なにせ美女が多い街…いわゆるそういうお店にもう行っている男衆がいるのだ。それ以外は全員集まった。そう着替え終わったローズもだ。
「ふふっ、ミナヅキ君。惚けているようだけど一体どうしたんだい?何かいいことでもあったかな?」
「い、いーやぁ~…そのー…」
「やっぱり!さっきの子はナンパした子ですか!?」
「い゛っっ!?ち、違うっ!ナンパしてない!!だ、誰かと見間違えたんじゃない…?」
「おやぁ~?おかしいですねぇ~、私達は別にミナヅキらしい人を見かけたとはまだ行ってない筈ですけどぉ~」
「あ、いや、えっと…」
「ふふふっ、面白いねミナヅキ君は」
女性陣に詰め寄られる俺、部外者面で遠くから眺める張本人ことローズ、同じく遠くから鋭い眼力で睨みつけるバーケニー。真実をはけば楽になれるのに…俺はグッと堪えることを選んだ。
「さぁみんな、折角の面白い時間だけど、そろそろ出発しないと予約時間があるからね」
そう言いながらパンパンと手を叩き仕切るローズ。俺はもやっとする気持ちをグッと抑えながらみんなと一緒に更なるアンダルハーグ旅行を楽しむことにする。
「僕とソフィアの入団希望先さ」とローズが語るアンダルハーグの一番人気、演劇騎士団『十二華月歌劇団』によるミュージカルを堪能し、観光スポットとなっている歴史的な建造物を眺めて歩き、時にはこっそりバーケニーさんを連れ出して二人で楽しんだり…夜には騎士団が経営するライブ会場付きのレストランで楽しい食事を満喫した。こうしたみんなで行く自由な旅行ってのはやっぱり楽しいものだ。
「ミナヅキ様、この私が貴女の騎士団に参加して差し上げますのよ。もっとこのわたくしを敬ってはいかがですの?ほらコップが空でしてよ」
「あーはいはいおじょーさま…ったく、なんでお前が俺の隣なんだよ」
楽しい食事に一点難癖付けるなら、俺の隣に何故かカトレナが座っているという事だ。いやまぁ別に嫌いというわけでもないし、なんなら見た目が華やかなザ・お嬢様してるし男として嬉しいっちゃ嬉しいのだが、まぁ…周りから珍妙な目で見られるから…
「なんでもなにも、貴方こそせっかくいっぱい時間があったのに全然一緒にいないではありませんか。このわたくしが、無事に叙爵できるというのを貴方から祝ってあげるのが当たり前でなくて」
「全然当たり前でなくってですよ…までも、いっぱい頑張ったもんな」
「えぇ、貴方達に資料室に監禁されて毎日毎日いつ終わるかもわからない書類をひたすら書き続けて、手にインクがいっぱい滲ませながら」
「いやそもそもちゃんと毎日やってたらそんないっぺんにやらなくても済んだと」
「あー、もー、それは聞き飽きたわ。ほら、そんなことよりもっと私の口に合う料理はないのですの?」
「ふふっ、カトレナ嬢、それでしたらこちらのサイドメニューからお選びしてはいかがでしょうか?よろしければカトレナ嬢のお好みに合うと思うものを僕がお選びしますよ?」
「あらローズ様、えぇえぇ是非お願いします。ミナヅキ様、貴方もこれくらいの気遣いが出来るよう努力してくださいね」
ローズの助け舟に対しても何故か自慢げに言うカトレナに呆れつつ、ローズは誰にも気づかれないようだと思って俺に向けてアイコンタクトをしてきた。ただ俺はそのアイコンタクトの意味が分からない。うん、分からないんだすまない。
ともかくそんな感じでカトレナたちともすっかり楽しんだ食事会…いや正確にはバーケニーはずっと不満げに俺に無言の訴えな視線を受け止め続けるのが痛かった食事会が終わり、後は宿泊ホテル周辺で自由解散という流れになった。勿論みんなただ夕食を食べただけでホテルに戻るなんてもったいない事はなくみんな有り余る体力で自由に遊び回りに行った。勿論俺だってこの夜を待っていた…のだが。
「ほらミナヅキ君、早くいこう。このために予約も済ませてあるんだから」
待ち合わせしていた場所で俺はてっきりバーケニーさんと一緒に歩くつもりでいたが、何故かまたさっきみたいに可愛らしい恰好のローズもそこにはいた。どうやら二人は既に三人で動くことで打ち合わせしていたみたいだ…顔が納得しているのかは置いといて、バーケニーさんもさっき買ったドレスに早速着替えており美人二人にまさに眼福ではあるのだけども
「…ローズさん、ソフィアさんの事はいいのですか?」
「安心したまえ、あの子なら今ホテルのベッドで夢の中さ。今日はみんなへの案内で張り切ったからね。そ・れ・と、カトレナ嬢も、ね♪」
なんだかこの人の掌で踊らされているみたいでちょっと怖いところあるけど、まぁともかく俺は二人と一緒に夜の街へと繰り出していった。夜の街は驚くことに様々な色のネオンがちかちかと光り艶しく夜を彩りアダルティに景色を変えていた。そんな中で歩く二人はとても俺には過ぎるくらいの別嬪さだ。
「それにしても…変なこと聞くようですけどローズさんはどうしてそんなに、俺にそこまでしてくれるのですか?」
「…お礼なんかじゃないよ、ただの一目惚れさ。いや一目惚れってのも少し違うか」
「ひ、一目惚れ?」
「もともと君はみんなから随分慕われていたじゃないか。現に今もこうして隣を歩く素敵なお嫁さんもいるのだしね」
「おっ、い、いや!いやいやそのまだ違いますよ!!」
「そ、そうです!!そも結婚なんて、そんな、私は別にミナヅキ君とは別にその」
「あはは、ごめんごめん。でもやっぱり一番はあの日僕等を助けに来てくれたから、かな。それまでの僕は小さい頃から追っていた男装劇団員としての夢のために女の子の中で理想の男の子を演じ続け、いざとなれば戦いだってするだろうくらいに楽観的に思っていたのさ」
「小さい頃からって…もしかして女の子らしい恰好は今まで一度も?」
「いや…流石に一度もってわけではない。まぁでもここ数年は女性らしい恰好をしたことがなかったな。だから今日のために急いで衣服を買い揃えてきたのさ。…似合っているだろうか?」
「…えぇ、すっごくお似合いですよねミナヅキ君。私なんかよりもよっぽど」
「あはは、そんなことないさバーケニー君。ミナヅキ君を見ればわかるさ、僕なんかよりもよっぽど綺麗さ。…なんて、僕もこんな格好で言ってもいつもらしく言えないな」
「…その格好も、話の続きが理由で…?」
「まぁ、そうだな…とは言ってももう話すほどの内容なんか無いさ。男らしく振舞おうといざという時は戦おうと思いこんでいたのに、あの日あの時の僕は他の女の子と一緒になってただ愚かにも怯えることしか出来なかった。そしてあの状況を打開してくれた…僕の瞳に飛び込んできてくれた君に、僕の心は釘付けだった。何が男らしくだ。結局、僕…いや私は見た目だけが男に寄せただけのただの一人の女だったことを自覚させられただけだ。一目見た君に…僕の身体の、心の女の部分が、刺激されただけって話さ。…分かってる。そんな状況を利用して、お礼なんて言葉を使って君を利用して、痴情を満たそうとする卑しい女だって。自分でも嫌気がさすよ」
「ローズ!…さん、そこまで自分を卑下しないでください。せっかくのおめかしが台無しになってしまいますよ」
「ミナヅキ君…」
「別にいいじゃないですか、俺だってそんな世界を救うヒーローなんかじゃないんですよ。ただのどこにでもいる男子学生、ちょっと元の世界で部活で頑張っただけの異界人。あと…男友達で回している綺麗なお姉さんが乗ってる雑誌を回し読みする普通の男で、バーケニーさんもローズさんも俺のためにお洒落してくれたってだけで鼻の下を伸ばしているしょーもない男ですよ俺は」
「…低俗です。信じられません」
バーケニーさんの一言はいつも俺に突き刺さる…とはいえそんなバーケニーさんもなんだかんだこんな俺についてきてくれるのが凄い嬉しい。するとクスクス笑うローズさんの足がゆっくりになりある店の前の止まる。
「…ふふっ、そうだな。今日くらい年頃の普通の女の子したっていいよな。それじゃあ…今日は一緒に目一杯悪い事しようじゃないか。それじゃ入って」
少し吹っ切れた気持ちで表情が和らいだローズさんと、まるで待ち遠しかったとばかりに未だ不機嫌なままのバーケニーさんと一緒に、俺は多分俺の人生の中で最も永く、最も楽しい夜を満喫した。…いや、満喫するにしては少々、少々でなくかなり寿命を削ったというか、生命力を吸い取られ心身ともに窶れ、ホテルに三人で帰ったのは12時を回っていた…いやちょっと二人とも部屋間違ってるよここ俺のへ
「やぁみんなおはよう。夜はゆっくり眠れたかな?」
早朝から少し日が昇ってきた次の日。昨日までのがまるで嘘だったかのようにいつも通りな男装に身を包み、いつも以上に爽やかな様子で仕切っているローズの姿がそこにはあった。だが集まった合宿メンバーの殆どがすっかりやつれていた。主に男性陣が…そしてそんな中で俺は完全に干からびた状態でそこらへんに投げ捨てられていた。
「あーらら~、旦那ってば…仕方ないのでバーケニー殿から昨晩の事聞くしかないですね~」
「なんのことでしょうか?昨晩は食事の後はホテルの自室でずっと一人で勉強してましたよ」
「あーもーホテルに一晩中いなかったのは知ってるのでそう言うのいいですって、それでどうでしたか?」
「ちょっと何言っているのか分かりません。ミナヅキ君と私は別に関係ないでしょう」
「むぅ…こんなにも顔てっかてかのつやっつやで、何もしてないわけないでしょうに…」
「ローズ様、今朝ローズ様のお姿がお見えにならなかったのですが…」
「あぁすまないソフィア、実は急な連絡が入ってね。君を起こさずに出て行ったのだが書置きの一つでも残していかなかったのは失敗したなと思ってる。すまないな、君の寝顔をいっぱい堪能したかったのに」
「いっ!いえっ…そうでしたか、お疲れではないですか?」
「あはは、なんだか分からないけどすっかり気分はスッキリしているし、満たされている気分だよ。あぁでも少し眠たいかな?バスの中で寝させてもらおう」
二人は周りから昨晩について責められているが俺と一緒にいたとは言う様子はないみたいだ。とそんな様子を枯れはてながら眺めているとライオネット一行が近づいてきた。
「ふっはははは、随分情けない姿だなミナヅキ!!たった一日たかだかその程度の活力しか示せないとは惨めなものだなぁ」
開口一番俺の様子を見てあざ笑うライオネット。だが当の本人も目の下には濃い隈を作り、足はまるで生まれたての小鹿の如くガックガクのプルップルに震え一人で立てずにガーランドに支えてもらっている状態だ。まぁとはいえお前の方こそと言い合う気力もないのは事実だが…こんな奴はほっといて他のメンバーに目をやると、なにやらウルヴァ達も随分面白い事をしている…
「「「ビヨンドさん、ありがとうございましたーっ!!」」」
…ホントに何やってるんだか、昼の時点から団体行動から抜け出ていた連中であるウルヴァとドレイクとツヅリの三人がビヨンドに頭を下げている。事前に聞いた話でビヨンドが所謂大人のお店を紹介したんだと思うが…三人の緩んだ顔から相当満足したのだろう。対してトレイスやツヅリ以外のラセツのグループのメンバー、ライオネットのとこのガーランドやヨハンはそういう風には見えない、全員が全員ってわけではないが…まぁ顔で分かる奴らがいる。ちなみに女性陣もテッカテカした満足そうな顔をしてる人もちらほらいる…。この件に関してはこれ以上は深く追及しないでおくこととしよう…。とにかくまぁみんな色々思い出に残る楽しい旅になったのだと思う。うん…。
そんなこんなで出発までの残りちょっとの時間で町を満喫して俺達の合宿最後の思い出旅行となるアンダルハーグでの2日間はこれにて幕を閉じることとなった。思い残すことは無いのだけども、俺はまたこの街に来ることになるだろう。
それは昨晩の事…、実は思い切ってローズに俺達アラタ騎士団(仮)に入団しないか聞いてみたのだ。彼女は少し迷いながらも一時は俺の誘いを受け入れ嬉しそうにしていた。だけど夜更かしをする時間帯になる頃には楽しそうにしていたローズの表情は一転し…
「ごめん、…ミナヅキ君。私、やっぱり…今のままじゃミナヅキ君と一緒にいれないかも」
と、誘いを断る事に申し訳なさから涙する彼女をぎゅっと抱きしめた。彼女の何が俺と一緒にいる事を拒ませてしまうのか…分かっている気でいるのは多分きっと彼女に失礼なのだと思っている。だけどもし彼女の思いに感づいてあげるとするなら…おそらく、知識やデスクワーク能力で俺をサポートしてくれるバーケニーさんと違い、今のローズには俺に守られ好意からでしか団に入る理由がない、胸を張って歩けるだけのものがない。…そう勝手に思っている。勿論真意は分からないが、だけど俺はそんなこと気にしない、とは言っちゃいけないなとそう直感している。
「…私、絶対あきらめない。絶対に、十二華月歌劇団に入団して、一流女優陣入りして、自分が主役の舞台で一番の舞台女優になって、それから、それから…」
「…あぁ、見に行くよ。絶対ね。約束する。どんなのでも全部、デビュー作も、主役でも…見に行くよ。それから、…迎えに行くよ」
その言葉にローズさんは何も言葉を綴ることなく、ただ俺の腕の中で強張っていた全身の力が抜け優しく抱き返した。そんな様子を見ていたバーケニーさんも呆れながらも一緒にローズさんを励ますように抱き付いた…。
そんな昨晩があってからの今日、すっかりいつも通りさを取り戻しているのに驚きながらもどこか寂しさと、そして嬉しさをほんのりと感じている。
「…結果として一日限りの恋人、といったところですか?」
そう言ってきたのは隣の席に座るバーケニーさん…というかぼーっとしすぎていつの間にか帰りのバスの中にいる事も気付いてなかった。
「随分満足されていましたね。やはり私一人だけでは」
「そそそ、それはない!それはないから、絶対、大丈夫。てかそれはバーケニーさんだってその、知ってるっつーかばれたっつーか」
相変わらず俺は色恋に振り回されているが、少なくともこの旅で知り合った友の行く道を正せれた。たった一日の恋人、けどきっと一生の特別な関係を決して切れさせてはいけない。それはきっと今後様々な人とも色んな縁とも同じように、そしてバーケニーさんとの大事な縁をこれからも大切にすることを改めて誓い直し…俺達は残り僅かな合宿に帰っていくのだった…。
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
ホントはもっとバーケニーさんとどちゃくそエロくて、エロエロなのが書きたかった。思ってるのと違うものになってしまった…
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は12/13に、Episode9の前編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




