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Episode8 新たなる僕らの日常、アラタ騎士団——— 後編

 …俺とビヨンドは見合うが当然そんな事態も知る由もなくお互い首を振る…、いやまさか、あいつ俺達と戦いながらそんなことも…まさかな。と思っている間もなくさらに追加のビーゴラドンが飛んできた。


「まだ来るのかよ…どっか網に抜け穴とかあるんじゃねーの?」


「…いや、穴はなさそうだと思うぞ。うん」


 コンバットJの方々の方をみると、いつの間にか網はだいぶ縮小され、そして網の中には無数のビーゴラドンがびっしりと張り付いており網にかじりついたりと今にも飛び出してきそうで怖いような見た目になっている。首の後ろに変なぷつぷつが出そう…。なんて呆けている場合ではない。とにかくここは俺が何とか…


「てめぇらは休んでろ、ここは俺とミナヅキで何とかする」


「えっ…ビ、ビヨンド?」


「なんだ、お前も休みてぇのか?」


「い、いや!俺は大丈夫だ!!俺達で何とかしよう」


 ビヨンドがやたら協力的なのを見てきょとんとするみんなと、調子の狂う俺、だがビヨンドの顔はどこかさっきまで見せていた憤りにも似た怖い顔をしていたのが、今でははっきりと凛々しい顔に変わっているのがわかる。さっきの戦いで何か吹っ切れたのだろう。


「とりあえずこいつらの楽な処理方法は分かっている。まずは降りてきてもらわないと…、でも俺もさっきまで魔法使ってたから、もう結構ガス欠なんだよな…」


「…なぁ、その魔法銃貸せ。俺の魔力で撃ってやるよ」


「指入るか?」「あん?…きっつ」「全然サイズあってねーじゃん」


 もたもたしつつもとりあえず俺の銃をビヨンドの大きな手に貸してあげる。ビヨンドがこういう風にお金以外で物を借りたりするのは合宿の時を含めてみたことがない。だが今はそんな事は考えてる余裕はない。ビヨンドは充填した魔法弾を2発撃つ、ビーゴラドンに命中はしないものの狙いを完全に俺達に向け4匹程が勢いよく襲い掛かってきた。


「きたぞっ、自分の身は自分で守れるか?」


「もうあんなへまする気はねーよっ!」


 俺達は突撃するビーゴラドンを躱し、お互いで挟むようにして身構える。ビーゴラドンも俺達に対して警戒心丸出しだ。威嚇しながらじりじりと詰め寄る。そして一匹のビーゴラドンがビヨンドに襲い掛かると、ビヨンドはそれをひらりと躱しながら、横っ腹に見事な反撃を叩き込んだ。一撃で撃沈…とはいかなかったがフラフラとダメージを引きずり弱ったのが分かる。というか、さっき同じビーゴラドンに苦戦していたビヨンドとは明らかに違う。ダチュラさんとの戦闘のダメージを引きずっているというはずなのにだ。


「…くそっ、やっぱ大したことねーのに…さっきは随分手間取っちまった」


「気にすんなよビヨンド、今から仕事分きっちりこなしていけばいいさ」


 俺も迫りくるビーゴラドンの背に剣を突き立てて弱らせつつ、ビヨンドの傍に移動し励ます。ビヨンドは頭をポリポリと掻き歯痒いという顔を見せながら、さらに襲い掛かるビーゴラドンを相手取る。本来並の兵爵数名で相手取るビーゴラドンなのに複数匹相手に1人で対応するビヨンド…いや、正確には俺もいるが、殆ど俺はビヨンドのサポートにまわっているだけでだいたいはビヨンドが一匹ずつ確実に対処している。ビーゴラドンの波状攻撃を二人で一つずつ丁寧に避け、隙を見て一撃を叩き込む。ビーゴラドンが襲ってこないなら魔法弾で牽制をいれる。刺激されたビーゴラドンがまた襲ってくる…これの繰り返しだ。いつの間にかどんどん新たな個体が来ていたが難なく処理できている。


「はぁ…これで10匹目か。大丈夫かビヨンド」


「…そうだな、慣れねぇ魔法銃を使ってるからなのか急な魔力欠乏で目が眩んできた、こいつはもう返しとく」


 そういいポイっと投げ渡される俺の魔法銃。特に理由はないがなんだかちょっと握っていたくない気分…とはいえ俺も魔力切れが近いため使っている余裕もない。見えている限りでは残り2匹が上空を飛んでいるのが見える…さてどうしたものか、と考えていると背後からビーゴラドン目掛け矢が放たれた。ツヅリの矢だ。それどころかみんなが俺達の元に駆け寄ってきた。…いや正確にはカトレナだけはまだ完全にだらけきって動こうとしていないが…。


「みんな、もう大丈夫か?」


「あぁ充分休めた。まぁとはいえもう最後になりそうだが」


「にしても…お前達だけでそれだけの数を処理したとは…」


「おなかすいたー」


 キヨミツ達三人も加わった事だし、ビヨンドもダメージの割に調子がいいし連携もしっかり合わせてくれそうな感じだ。こうなれば今の俺達相手にビーゴラドン2匹などもう相手ではない。ツヅリの矢で牽制し、俺とビヨンドで見合い、キヨミツとホタルの魔法で弱らせ、そしてビヨンドが止めをさす。呆気ないラストを迎え探す限りのビーゴラドンは全て対処した。

 そして一発の照明弾が上空に撃ち上がった。事前に打ち合わせしておいた巣の制圧完了の連絡だ。俺達もコンバットJ団員からはつかず離れずの位置で護衛していたが、最初に展開していた位置からは随分内側に移動したものだ…とはいえそれでもまだ網は半径数100mもする大きなものだ。

 その中はというと…まぁ、もう2~3mのが、ゴラドンと言えど黄色くて足がカサカサしてるのがもううじゃうじゃと、見ただけで背中がかゆくなるような、あでもそれが逆にすっごくてむしろもういっそ快感みたいなあ無理やっぱ無理見てるけど見たくない。あー夢に出そう。…あ、カトレナが失神した。


「ご苦労、網の固定が完了した。これにて実質的な依頼の完了として報告に向かおう」


「あの…この巣の中のゴラドンは、全部殺処分するのですか?」


 俺達が担当をしていたコンバットJ団員二人が歩いてきた。そして俺の投げかけた質問に団員二人は難しい顔をしながら顔を見合わせている。しばらく考えた後また俺の方を見て。


「…どうだろうね、残念だけど僕らはただの作業団員だから最終的な決定は軍や団長が決める。殺処分も致し方ないし、可能ならば巣ごと持ち上げてもっと未開拓区域の奥に移設させてあげることもする。今の時期だったら巣ごと移設することの方が多いんだが」


「あぁ、これだけ活発にこいつらが活動しているというのは異常ではあるからね…もしや巣の中に女王がいないとか…?」


「いや、そもそも他の大型種のゴラドンに巣を壊された方が可能性あるだろ。…どちらにしてもそれらが理由なら殺処分になるだろうな。未開拓地域に送ってもきっと巣は長く持たないだろうし」


「そうですか…」


 これだけの網の中にいるゴラドンが殺処分されるというのはなんだか少しだけ胸に来る…、小さな虫を潰しても気分は悪くならないが、合宿時代に襲われたウルフが多く死んだ時の不快感…いや、罪悪感?生き物が死んだという実感が暫く残り続けたあの感覚、それとはまた別なのか…多くのビーゴラドンが「処分」という名目で数百数千の命を落とす。現実だって虫の巣を駆除すればいっぱい死ぬのは分かっているが、ビーゴラドンは大きいからその死の実感が大きく感じるのか?じゃあさっきまで俺が斃していたビーゴラドンとは何が違うのか…それとも一度野生動物の命を奪うことに俺自身が慣れてきているのか…?

 これ以上は考えても仕方ないと頭を振るい、後の事は任せるとして俺達は帰宅の準備を始めた。ちなみに俺達が斃したビーゴラドンは軍が処理してくれるとの事らしい。俺がカトレナを背負い森を抜けると、他の参加メンバーも既に森から出ていた。そして…ダチュラもそこにはいた。俺達どころか他の参加メンバーもボロボロに疲弊している中で一人けろっと余裕そうにしていた。それとさっき俺達があった時には持っていなかった大鎌も肩に立てかけるように持っている。ビヨンドはまぁバツが悪そうな感じではあるが…それにしても他メンバー達がダチュラにお礼を言っているのが気になる。俺は参加メンバーの一人に声をかけた。


「すみません、あの…ダチュラさんとなにかあったんですか?」


「え?あぁ、俺達の担当場所のフォローに来てくれていたんだよ。ちょっと大変だったんだけどダチュラさんが数匹倒してくれたおかげで何とか被害がなく済みました」


「なるほど、そうだったんですか。教えてくれてありがとうございます」


 そう言い残しその人とは軽く頭を下げ会話を切る。するとすっとキヨミツが俺の横に来る。


「…担当場所以外のフォロー、この様子だとわざわざ全箇所巡ってたってわけか、自分の担当をこなしながら…間違いなく参加者トップの撃墜数だろうな」


「一体どんなやり方してんだろう…思ったよりも凄いな、57位ってのは…まだまだ上は高そうだ」


 そうこう喋っているうちに迎えのバスと車が到着する、しかも行きと違い三大も準備してくれていた。車はダチュラの貸し切り用、バスは片方が野良メンバー全員で乗るようで、そしてもう一台はわざわざビヨンドの為に大きいバスに替えてくださったのだ。俺達はその大きいバスに乗り込む。のびきったカトレナを座席2つ分使って寝かせ、俺達は伸び伸びと座らせてもらう。だいぶ疲れたからか座っただけで眠気が襲ってうとうととする。


「…今日は、悪かったな団長」


 すると前の席に座ったビヨンドが話しかけてくる、俺はふわふわした頭で彼の話に耳を傾ける。


「んー、まー気にすんなよ。依頼自体は無事終わった…まぁ終わっちゃいないが俺達はやるだけのことはちゃんとやったからな」


「…、…いや、今日だけじゃねぇ、これまでも随分身勝手なことをしてきちまった。どうせ出ていくからと粋がってた」


「…詳しく教えてくれ、出来れば最初からな」


「あぁ…、知ってるかもしれねーが、俺は元々ヴェリパドキノヴォの日雇い隷爵だ。こんな荒くれみてぇな性格で良く仕事貰えるとは俺でも思ってるくらいしょうもない男だ」


「そうか?土方の職人みたいで頼もしいと思うけど」


「…ははっ、よく分かってんじゃねぇか。実際建設の下請けみたいな仕事が俺の主に貰える仕事だった。…だが仕事で折が合わなきゃ喧嘩ばっかりしててな、んで親方によ…そんなに力を見せつけたいなら兵爵にでもなって来いと厄介払いされてな」


「それで今回の合宿で俺達と一緒になったってわけか」


「あぁ、…ま正直俺には退屈だったけどな、…いや案外退屈じゃなかったな。集団模擬戦闘訓練はなかなか刺激的だったしな」


「あー、懐かしいな…あの頃はまさかお前達のいる3組に勝てるなんて思ってもいなかったからな、まぁ俺は途中で意識ぶっとんだけどな」


「…それと、野外行軍のウルフに襲われた一件…あの一件だ。あの時のお前を、お前達を見たあの時だ」


 あの一件の俺達…、おそらく俺とライオネットの限界を超えた力の事だろう…。結局あの力をまた出すことが出来ないままだが、今思えばあれくらいの力を常時扱えないときっと本気のダチュラさんに太刀打ちできないんだと思う。


「俺はお前達のあの能力を見た時から、どうしてお前達にだけ出来たのか…お前達にだって出来たのなら俺にだって使えるはずだと、ずっと思ってた。そして、俺は…ミナヅキ、お前よりも俺の方が強いと…本気で思っていた」


 …かける言葉が思うように出てこない。だが確かにフィジカルで言えばビヨンドは俺よりも非常に高い潜在能力を秘めている。これまでの依頼でもビヨンドが活躍する場面は決して少なくはなかった。だけど、俺もこの世界に来ていろんなことを感じた今ならわかる。だけど言わない、きっとビヨンドの口からそれは聞けると思っている。俺は静かにビヨンドの言葉に耳を傾け続ける。


「あれから俺は一度はライオネットの誘いを蹴ったもののお前が仲間を探していると聞き、お前達を踏み台にもっと強い騎士団に入ることを考え付いた。いやそれ以上にラセツが入るのを聞いたからかもしれん。ラセツを実力的に超え、次の騎士団が見つかるまでこんなとこで頑張り、ランキングに乗ってるような騎士団に異動し活躍しようと考えてた」


「…言いたい放題だな」


「自惚れていたさ、ランキングに載っている奴らも大したことない、俺だってランキングに載ることぐらい、やってやれるだろうってな。…ランキング57位、ダチュラ…あいつが粋っているのが生意気に見えて仕方なかった。いや、今となっちゃどっちが粋がってんだって話だよな」


「ビヨンド…」


「分かってる、いや実際戦って分かった。独り善がりで全然実力を見せれてねぇ俺と、仕事のために全然実力を見させてやれねぇあいつとじゃ…いやたとえ俺が全力出せれたとしても、仕事しながらのあいつに勝てっこなかった。それに、俺にはミナヅキがあの時使っていた力を、引き出すことが出来なかった。なによりも、あの全力を引き出していないお前を、あいつは高く評価していた…」


 正直驚いている。あのビヨンドがここまで悩み落ち込んでいることに、俺はなんて励ませばいいのか、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。


「…慰めるためにって言うわけじゃないけど、俺はビヨンドの事を高く評価しているよ」


「適当言ってんじゃねぇよ」


「適当なわけないだろ、ビヨンドは俺よりも体がデカい。機動力も高い、蹴りも強力、グラップラーらしく純粋な攻撃力も強いし、いざとなれば回避盾だってやれる。俺に出来ないだけの力がある。お前の本当の実力はもっともっとダチュラに対してやれると思ってる」


「だ、だが実際全然」


「俺が教える、お前に叩き込む!…俺なんかがって思うかもしれないけど、曲りなりにも俺はみんなが所属するアラタ騎士団団長なんだ。ビヨンドがランキングに載りたいって言うなら、俺が全力でサポートする!だから俺を信じて…俺達と一緒に俺達の騎士団をもっと強い、それこそお前が納得するランキングにも載るような騎士団にするのを手伝ってはくれないか?」


 ビヨンドは目を見開いて後ろの席の俺を見る。俺はまっすぐな眼でビヨンドを見つめる。すると驚いていたビヨンドの顔は徐々に緩んだ顔になっていき


「っふ、はは…はははっ!!面白ぇ、いいぜぇミナヅキ団長!!そうだよなぁ、何も別にランキングに載る騎士団に異動しなくったって、俺達がランキングに載る騎士団になっちまえばいいんだよなぁ!!」


 すっかり上機嫌に笑うビヨンドの笑い声がバスの中に響き渡る。運転手には申し訳ないが丁度俺達しかいないバスだったため内輪話が迷惑にならなくて助かった。まぁカトレナ以外のメンバーはずっと聞き耳を立てていたみたいだが


「ビヨンドの兄貴!自分も兄貴がランキングに名を載せるために助力しますぞ!!」


「ランキングもいーが、ちったぁ拠点の仕事もしてくれよな」


「おー、がんばー」


「っち、めんどくせぇーな…あーったよぉ。面倒だろーがなんだろーが見てやるよ。」


 さっきまですっかり消沈していたビヨンドが今ではすっかり元の調子だ。キヨミツ達とも距離も縮まっているように感じる。この感じなら拠点に戻っても他のみんなとうまくいく…と思うし、案外また明日にはけろっと何事もなかったかのようにしてるかもしれないな。そう考えるとダチュラさんと今回一緒の依頼になったのはよかったのかもしれない…いや、むしろダチュラさんがそうしてくれたのかもしれない。天狗になっていたビヨンドの鼻を折るために…まぁあの人の真意は結局分からずじまいだけど。

 なんて少しだけ問題解決に前進したという気持ちでゆっくりしていると…さっきまで気を失っていたカトレナがすっかり元気を取り戻していた。


「…随分たのしそうですわね」


「まーな、…カトレナも折角俺達の騎士団に入ったんだし何かやりたいこととかないのか?…というか、お前は何で義勇兵爵の合宿に参加したんだ?お前の性格からして別に義勇兵爵になるメリットってあるのか…?」


「ま、またこのわたくしをお前呼び…んんっ、まぁいいでしょう。勿論合宿そのものが目的でしたわ」


「…合宿?」


「えぇ、合宿こそが社交の場…わたくしのお相手に相応しい殿方を見つける舞台だったのですわ!それだったのに…ミナヅキ団長!あなたはせっかくお近づきになれたリューゼルト様から突き放させ!挙句わたくしをこんな騎士団に誘い込ませ!!今のままでは行き遅れ確定ですわ!!」


 えぇー…、一体誰に吹き込まれたのか…要するに義勇兵爵の合否に関係なく合宿を単なる貴族の社交場にしか見ていなかったってわけかよ。というか同室だったフィラーレやアルフィーはこの事を知ってたんだろうか…?というかどういう経緯でカトレナがちゃんと叙爵して卒業できるまでの勉強会をやるまでの流れになったのだろうか…?


「で、す、の、で!あなたには責任を取ってもらいますからね!!わたくしがちゃんと納得するわたくしに相応しい殿方と結婚出来るように!いいですね」


「えー…っと、ウルヴァとかドレイクとか、あっツヅリとかはどうだ?」


「んー、ぶっちゃけ結婚相手としては見れないですわ。彼らよりももっとカッコよくて素敵な貴爵でないと!分かりましたかミナヅキ団長!!」


 こいつこんなところで堂々と言いやがったなぁ!!多分ツヅリには聞こえているってのに、ほらキヨミツとビヨンドが笑いを堪えてクスクスと声が漏れ出ているのが聞こえるじゃねーか…。


「わ、分かった。分かったよ…いいお相手が見つけられるように俺も手伝うからさ」


「えぇ、お願いしますわ。こんな事ならもっと早く言っておけばよかったですわ。行き遅れになる前に早く見つけておくんなまし」


 口に出したおかげなのかすっかり機嫌のよくなったカトレナ。とはいえこっちもこっちで今回の収穫はいいものだ。ビヨンドの目標は『季刊誌ルーブル』に掲載されている兵爵ランキングに自分の名前が載る事。カトレナは納得のいく結婚相手と結ばれる事。この二つを叶えてあげることを目標として今後の活動方針に組み込んであげるのが俺の役目ってわけだ。…いやカトレナの件は本当に何とかしてやれんのか俺…。

 なんて考えつつみんなでゆっくりしながらバスに揺られ帝国に戻ってきた。出発してきたときにはまだ午前中だったのが空模様はすっかり夕焼け色だ。三時のおやつはとっくに過ぎ、お昼だってまともに食べていないためすっかりはらぺこだ。バスが最初に乗ってきた停留所に着き俺達が下りるとふわっと甘い匂いが俺達の鼻から腹に突き抜ける。そんな簡単な誘惑に俺達はコロッと負けて今日の稼ぎを少し減らすこととなった。ぐるりと巻かれた芋のタルトクレープ、まろやかで美味しかった。次からはやっすい携帯食を荷物に入れておこう。ちなみにキヨミツはかなり甘い果物とクリームたっぷりのやつ。ビヨンドは…なんかケバブみたいな肉のやつと酒を買ってた。いつの間に…。それにしてもカトレナも満足そうに食べてくれて俺も嬉しいなー


「…期間限定の高級パフェは別ですからね」


 はははー…、忘れていなかったなんて偉いなー…。なんて食べながら俺達はダラダラ歩いて拠点に辿り着いた。


「たっだいま帰りましたわ~」


 カトレナの第一声と共にみんなで中に入る。荷物を置いて真っすぐロビーを抜けみんなが座る食堂にて一斉にドスンと腰掛ける。どうやらラセツ達の方が先に依頼を済ませていて先にゆっくりしていた。これでみんなが集まる形になった。


「若様!お怪我はございませんでしたか!?」


「ミナヅキの組の奴らも腕がたつ奴ばかりだ。大事はない…とはいえどうにもドロフィーだけはミナヅキにしか扱えそうもないな」


「いやはや…同じ部屋にいた自分としては不甲斐ないですラセツ殿…」


 どうやらドロフィーは相変わらずって感じか。言っても俺もドロフィーはまだうまくやれているか怪しいものだけど…。当の本人はコノハの後ろにがっしりしがみついてラセツに怯えているような感じだ。


「おいラセツ!次はてめぇのもとで仕事すっぞ、戦闘依頼来てねぇか」


「むっ、おぉ…ビヨンドの奴一体どうした?」


「まー色々あってな。端的に言えばこのアラタ騎士団を最強にしてあいつも最強になりてぇって誓ったってわけだ」


 困惑するラセツの元にキヨミツが近づき耳打ちする。今日あった事を1から話してたら長くなりそうだもんな。


「よく分からんが…それならビヨンド、俺が稽古してやろうか」


「おぅいーぜぇ!!ご鞭撻頼むぜ」


「おいお前、身体ボロボロなのに…」


 帰って来たばかりというのにラセツを連れて今はまだ何も使ってない丈夫でだだっ広いだけの部屋に向かって出ていくビヨンド。キヨミツ達やウルヴァなど数名の男衆も一緒について行った。俺は見に行く元気がもうないから珈琲を淹れてゆったり座る。そしてこっちはこっちでまだ上機嫌のままのカトレナとその様子を眺めるフィラーレがいる。


「カトレナー、何かいーことでもあった?てか買い食いした?」


「えぇ!わたくしずっと出来ない婚約者の事で悩んでいましたが、この度ミナヅキ団長が責任を取ってくださると」


 ばふっっ!!俺はあっつあつの珈琲を噴き出し。ガターーンッと大きな音を立てて椅子を倒して立ち上がるバーケニー。唖然とするフィラーレ。すっとカメラを構えるコノハ。静まり返る…というか凍り付く食堂。それはバーケニーの足音が重く響き渡る。


「団長、ミナヅキ団長、詳しく。詳しく説明してください。ミナヅキ団長」


「おおお落ち着けバーケニー!違う!!そうじゃない!!話を聞け!話を聞け!!」


「私は至って冷静です。今冷静さを欠こうとしています。詳しく団長説明してください。ミナヅキ詳しく冷静してください団長。これは騎士団のため。騎士団として大事なことです。詳しく、詳しく説明してください。ミナヅキ団長」


 物凄い圧力をかけるバーケニーに気圧される俺…を嬉々として撮影するコノハ。そんな状況を不思議そうに見つめるカトレナに色々察してか頭を抱えるフィラーレ。その様子を遠くから眺めるマアダとイヴ、それと困惑しているドロフィー。


「いやー、ホットなタイミングで申し訳ないんだけどよ団長、ちと軍からの緊急の通達が届いているんだ」


 状況を見かねたマアダが俺に一枚の依頼書を持って歩み寄る。それは他の依頼書とは大きく異なり赤い紙だった。この赤い紙はいわば実質的な徴兵令みたいなものだ。俺は気を引き締めてその紙を受け取る。バーケニーさんも凄い形相から落ち着き俺が依頼書に目を通す邪魔をしては来なかった。

 内容は城塞都市『ムルフィルテンジュ』へ行き、《ティストレイ連邦》からの軍事攻撃に備え前線維持をするというものだ。期間は年明け5日からの一週間、報酬額は高額なものの、辞退すれば罰則金が発生するというものだ。しかもその罰則金は俺達アラタ騎士団に所属している全員分の金額の合算になるため相当な金額になるのが確定だ。つまり断れば多額の債務に苦しむことになるだろう。


「どうされますかミナヅキ団長」


「どうもこうも参加するしかないだろ…全員いく必要はないみたいだし、10人くらい揃っていけば文句は言われないだろ。…それにしてもまだできたばっかの騎士団にもうこんな依頼が来るとはな」


「遅かれ早かれ義勇兵爵なら誰しも回ってくるんだ。俺達がたまたま早かったってだけだ」


「むしろ騎士団だからこそ無理に全員でいかなくてもいいからソロで活動してる人より安心できるわね。ソロだと嫌でも強制参加確定だからね」


 俺が依頼書をバーケニーに手渡し受諾処理を任せ俺はカレンダーを捲り来月の5日に丸を付ける。今年がもうすぐ終わる。そして来年初仕事が出兵…何とかそれまでの間にみんなには一度帰郷出来たりゆっくり休んでもらいたい。…俺も一度ウルヴァと一緒にクザスの村に帰って報告とかしないと…


「っあ!そう言えば団長!!すっかり忘れていたよ、もうすぐ面接予定の子が来るよ」


「あぁ、そう言えばそうだ…もう来てもおかしくない時間だ!ヤバイ準備急がなきゃ」


「面接?」


「あぁ、出来たばかりの俺達騎士団に早速もう入団希望が来たんだ。俺も驚いてるさ…とにかく会って話しないと…」


 俺が慌てて机といすを用意していると、ぎぎぃ…と正面扉が開く音が聞こえてきた。そしてコツコツとゆっくりと真っすぐ歩いてくる音が聞こえてくる。俺は程々の準備だけ済ませ、入団希望の人と向かい合うように振り向く。


「団長、お見えになりましたよ」


「…っよし、ようこそアラタ騎士団に。俺はここの団長を務めているミナヅキ アラタだ。まだ出来たばかりの騎士団だけど俺達の所に来てくれたこと感謝するよ。早速だけど…君の名前を教えてくれないかな?」


 そう、俺はまた新たな出会いに手を繋ぐ。俺達は…まだ始まったばかりだ。

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


少し今後についてお話します。現在本ストーリー自体はEpilogue10を目途にミナヅキ達の物語を一旦終了させたいと思っています。それに伴い本執筆が追いつかなくなる事が多くなるので休息を少しばかり挟まさせていただきたいと思います。

また、設定資料集は引き続きゆっくり書き進めていく予定です。現在獣人種の王がいる国『ティストレイ連邦』に関する内容を書いており、残りはかつて月人種の王のいた『グレート・ウィンチェストローズ』、帝国より東にあるとある王がいるという国、南東にあるラセツ達の故郷の島国の三つを書いて一段落とする予定です。

そして何より、今後の執筆計画として文字数の少ないサクッと読めるタイプのショートストーリー作品の作成、さらにTRPG用の書類作成を行っていきます。


…書き出しただけで頭が痛くなりそうですが、とにかく頑張っていくので今後とも応援の程よろしくお願いいたします。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は12/6に、Episode7のEx編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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