Episode8 新たなる僕らの日常、アラタ騎士団——— 中編
「っ!!まずいっ!」
ふと網に飛びついた個体を見ると既に網から離れ、コンバットJ団員に襲い掛かろうとしていた瞬間だった。俺が全力で向かってももう遅い…完全に油断した。目の前の敵に集中しすぎた、目的を忘れかけていた。ビーゴラドンを討伐することじゃない。コンバットJ団員を護衛するのが今回の作戦なのだと…。
まぁだけど、だからこそ、俺達はちゃんと役割を分けて動いている。俺一人ですべてをこなせるわけではない。だから…俺には仲間がいるのだ。
「っは!!やっと俺も楽しめる時が来たってもんよ!!」
コンバットJ団員に襲い掛かろうとした個体は突如横から来た白く大きな毛玉に衝突させられ、少し離れた地面に一緒に叩きつけられた。そう、ビヨンドだ。ビヨンドにはフォローをお願いしていたがどうにか警戒を緩めてしまった個体の対応に当たってくれて助かった。
「ありがとうビヨンド!ホタルは索敵を、キヨミツはビヨンドの手伝いを」
「いらねぇよ!こいつは俺一人でぶっ潰す!!手ぇ出すんじゃねーぞ」
ビヨンドの怒りにも似た気迫に俺達は気圧され、ビヨンドは本当に一人で一匹のビーゴラドンと対峙し始めた。
「…分かった。ビヨンドの事は好きにやらせておこう。俺達は俺達でこいつらを早急に処理するぞ」
俺の指示のもと残りのメンバー達は対応していた2匹の処理にすぐ当たった。カトレナが攻撃を受け止め、ツヅリの矢が甲殻を貫きキヨミツが体力を奪い、弱ったところを俺が剣を脆くなった甲殻を貫いて止めをさした。そうこうしているうちに土塊に潰されていたもう一匹が這い出てくる。だが充分潰されている時間が長かったのかもう相当弱っているのが目に見える。早急に処理が出来た。
「っうし、だいぶ慣れてきたな」
「だんちょー、きたよー。5匹」
「おっけーホタル、5匹ね。…5匹か、5匹…、…5匹かぁ~」
2匹でもまぁまぁしんどかったが5匹が一斉に襲ってきたらどう対処したもんかと思考を巡らせる。するとふと他の所もこの数で襲われてて大丈夫なのかという心配や不安まで湧いてくる…。ダメだ、今は自分の所に集中しないと。そう思い俺はビヨンドの状況を横目で確認する。
ビヨンドはまだ一匹のビーゴラドンと対峙している。ビヨンドは手頃なクラブと蹴りを得意としてビーゴラドンの機動力にも十分追い回せるだけの脚力がある。パワーも騎士団内では上位、俺達が戦った感じではビヨンドがビーゴラドンに負ける要素はない、そう思っていたのだが…どこか苦戦気味に見える。決め手に欠けているのかなかなかビーゴラドンを仕留めれそうにない。ビヨンドの応援は望めなさそうだ。
「…仕方ない。ちょっと無理するけど俺が数匹引き連れるから全員で各個撃破、カトレナはみんなを守るのに専念して、ホタルは援護しつつ索敵を。後の事はキヨミツが上手くやってくれ。とにかくコンバットJ騎士団を護衛するのが最優先だ」
「はぁぁ!?まだ私にこんな事をしろって言うのですの!?」
「おいなんでキヨミツなんだ!指揮権は俺に譲るべきだろ!!」
「あきたー、つかれたー」
カトレナとツヅリとホタルの抗議を全部キヨミツに丸投げするようにみんなを背に無視して走り出す。上空から5匹のビーゴラドンが迫ってきているのが見えた。とりあえず俺は走った勢いのまま一気に跳躍する。一気にビーゴラドンの飛行高度までジャンプするがビーゴラドンは瞬時に躱し俺の剣の範囲外に移動した。攻撃が出来なかったにしろ、このまま俺を無視して網の方に向かったら意味がないのだが…と思いながらゆっくりと落下する。
地面に着地した直後に見上げると、3匹のビーゴラドンがこちらに迫ってきているのが見えた。俺はすかさず持ってきていた一冊の魔導書を取り出す。
「『攻撃に備えよ、壁となりて、大地よ』」
呪文を唱えると1枚の大きな土壁が形成された。ドロフィーやホタルと同様土魔法による壁形成魔法だ、とは言っても二人と比べ壁としての質も形成速度も全然レベルが低い、なにより俺はまだ魔導書無しの発動の準備が済んでいない。この魔法を使うのはまだ10回使ったかどうかくらいだ。だが今この状況を打開するのには十分だ。向かってくる3匹のビーゴラドンのうち1匹が土壁に張り付いた。
「しばらく…じっとしててくれ!『敵を貫け、放て、光の矢よ』」
俺は壁を挟んでさらに別の呪文を唱えると、数本の光の矢が目の前に宙に浮いて現れ全て同時に、弓もなくまっすぐに勢いよく射出された。その光の矢は土壁を貫通し何本かはビーゴラドンの身体すらも貫通した。その姿はまるで昆虫標本のように釘に刺さった虫そのもの、矢と壁に固定されうまく動けずに悶えている。とはいえこれで完全に倒せたわけでも、無力化できたわけでもない。魔力が切れれば、いや土壁か矢が破壊されればすぐ自由になる。だから急ぎ残りの2体を始末しなければならないのだ。
「今ので体感3割の魔力…あまり魔法に頼るわけにもいかないな」
魔力消費でクラッと来た頭を軽く小突きながら迫る2匹を相手取る。とはいえ今は一応守る相手もいないからなるべく回避に専念しビーゴラドンをじっくり眺める。トレイスって程じゃないが、こいつらを攻略するためにしっかり観察しないと。
黄色い甲殻に覆われたゴラドン、複眼のような目を持ち虫のような顎を持つ顔、意外と大きな体に細い手足、翼ではなく虫のような2対の翅、腹と思われる部位の先に毒針がある…がゴラドンのような長い尻尾ではない。あの手足に捕まった時くらいしか毒針は刺さらなさそう…となると攻めるなら背中が定石か?なんて思慮しながら攻撃を回避していると、急に2体のビーゴラドンは地上で動きを止めた、攻撃が止まった。
「…?なんだ…、いやまさか、待てマジでこいつらもっ!?」
咄嗟にその場を離れようか、いや壁で防ぐかと考えている時間もなかった。2匹のビーゴラドンは大きく口を前に突き出すと、その瞬間口から『ブレス』をはいたのだ。ブレス、ゴラドン共の使える唯一の魔法ともいえる大技で口から文字通り魔力のこもった息吹をはきだすのだ。だがその威力は息吹なんかとは比べ物にならず大きなゴラドンなら建物ですら平気で破壊することだって可能、らしい。だがまさかビーゴラドンも使ってくるとは…
2匹のビーゴラドンのはきだしたブレスは俺にまっすぐ発射され、そして物凄い衝撃音と土煙が即座に巻き起こった。だが俺は即座にジャンプしており、なおそのまま一匹のビーゴラドンの背中に剣を突き立てることに成功したのだ。きいぃぃぃぃ、と金切り声で鳴くビーゴラドンは必死に俺を振り払おうとするため、即座に剣を抜いて飛び降りる。こいつらの甲殻はかたいのか柔らかいのかよく分からないが、背中部分は比較的柔らかめみたいだ。刺されたビーゴラドンは明らかに弱りフラフラとした様子だ。可哀そうだが反撃してこなさそうならあのまま放置した方が楽だろう。そう思い俺はもう一体のビーゴラドンを相手取ることにする。磔にした3匹目が抜け出す前に決着をつけないと…。
「…っはぁ、っはぁ、くそっ…」
所変わって1匹のビーゴラドンと対峙しているビヨンド。なかなか斃すことが出来ずに未だ苦戦している。決して力量で劣っているわけではないが、ビヨンドの攻撃は全て飛行するビーゴラドンに躱されている。焦る気持ちでさらに激しく動くせいでさらに疲弊が増すのだ。
「くそっ、くそっ…俺は、俺はもっと強えんだ…こんな虫一匹に…」
ビヨンドの強靭な足を畳むと、まるでバネのように飛び上がり飛翔しているビーゴラドンの真正面にまでジャンプする。そして手にしたクラブを思いっきり振るうが…飛翔しているビーゴラドンにはひらりと躱されるだけだった。着地したビヨンドは一息をいれるがビーゴラドンがゆっくりと距離を縮める。そしてビーゴラドンの細く鋭い腕が襲い掛かる。ビヨンドは腕で防ぎながらクラブを振るうが瞬時に躱され軽く甲殻を擦る程度でなかなか致命打にはならない。
「どうなってやがる…俺は、あんなガキ共と違って…もっと上を目指すんだ。こんなところで…」
ビヨンドの焦りは徐々に過激化しもはや手当たり次第にクラブを振るい乱暴に攻撃をするだけでビーゴラドンに届くはずもない、完全に空に飛びビヨンドの様子を眺めている。
「っけっひゃひゃひゃひゃひゃ…随分情けねぇなぁ、威勢がいいだけの新人かぁ?」
するとどこからともなく声が聞こえ、ビヨンドが振り向くとそこには北を任されている筈のダチュラがいたのだ。だがその手には依頼開始時に持っていた異形な大鎌はどこにも見当たらない。
「あん…てめぇ…、てめぇこそ何呑気に散歩していやがるんだよ。虫退治も出来ずにおめおめよそに助けを求めに来たのかよ」
「けひゃひゃ、そいつぁ面白れぇ。あーたった一匹如きに時間使いまくって全然仕事が進んでねぇ暇そうな新人君に是非とも手伝ってもらいたいもんだぜけひゃひゃ」
「ってっめぇ!!」
ダチュラの挑発に乗せられたビヨンドは怒りのままにダチュラに襲い掛かる。振り上げたクラブを力任せに振り下ろすのをダチュラは欠伸しながらひらりと躱し、そのままビヨンドの顎に膝蹴りをいれる。
「っがは…」
「焦んなよ新人…っま、もしこの俺様相手にこのまま決闘して勝てたら俺の順位をそのままくれてやってもいいぜ」
そう言い残し口から血がぽたぽた垂れているビヨンドを、その屈強な体躯を明らかに半分くらいしかないダチュラの細身な足で蹴り飛ばすと勢いよく木々をへし折りながら数m遠くに吹き飛んだのだ。流石にその状況に周りも気付き、ビーゴラドンに対応しているキヨミツ達も、網を狭めているコンバットJ団員達も手を止めずともその様子をうかがっている。
「上等だぁ…ぶっ潰してやるから覚悟しやがれ…」
腕で蹴られた腹を抑えながらよたよたとダメージを引きずりながらダチュラに向かって歩き出す。そして強靭な足で勢いよく前方にジャンプし渾身の蹴りを叩き込もうとする。だがその蹴りに対しダチュラが反対の足を前に突き出すとビヨンドの足にピッタリと当て完全に動きを止める。どんっとビヨンドの攻撃に乗せた衝撃が周囲に走る。そしてその衝撃はビヨンド自身にも跳ね返ってきたのだ。だがダチュラは表情一つ変えることなくぴんぴんしていた。
「っぐ、がああぁぁぁぁ!?」
ビヨンドの悲痛な叫びが森の中に響く、地面に横たわり転がりながら足を抑えるビヨンドを不敵な笑みを見せながら見下ろすダチュラ。そしてダチュラがビヨンドの頭を左手で掴む。
「どうしたぁ?その程度か?さっきなんか言ってたよなぁ?上を目指すぅ?ひゃひゃ、俺の見立てで言ってもてめぇ程度の実力なんざこの帝国には何万とゴロゴロいるぜ。ランキングに載りたきゃぁ、俺よりも格下を最低でも9900人ぶっ飛ばしてから言いなぁ。…ま、今ここで、生きて帰れたらの話だがな」
ダチュラがビヨンドの頭を持ち上げ、まるで言い聞かせるように話すと、右手に魔力を貯め始める。
「…てめぇ…まさか…」
「なんだ?犯罪とでもいうのか?依頼中の事故死ってのはよくあることだ。それにお前は決闘を受け入れただろ?まだ決闘の決着がついていないだけだ…ま、これで最後にしてやる。せいぜい生きていられるように足掻くんだな」
ビヨンドの腕がダチュラに伸びるがその腕がダチュラに届くことなくだらんと下に降りる。ダチュラの魔法球がゆっくりとビヨンドに触れる。その瞬間、突如ダチュラは右腕を自分の右側に向けると、魔力球同士が衝突し合った。ミナヅキの光球だった。
「ビヨンド!!今助ける!!」
魔法球同士が衝突し合い爆ぜる。その衝撃で全員が少し離れる。その隙に俺はビヨンドの身体を抱え距離を取るように走る。そしてビヨンドの身体を地面に下ろした後すぐに庇うようにしてダチュラに身構える。
「待ってくれ!ビヨンドは俺達の大切な仲間なんだ!そりゃ、まぁ…思うとこあっただろうけど、その…勘弁してくれ!」
「…けひゃひゃひゃ、団長に御守りされてそりゃいー御身分なこった」
「…ぐっ、やろう!」
「落ち着けビヨンド!!…あいつは全然本気じゃない。俺も見ていた。ダチュラはお前と戦いながら、お前が倒し損ねたビーゴラドンを倒していたのを」
そう、ビヨンドには全く見えていなかったのだろうが…ダチュラはビヨンドの攻撃の合間に魔法による攻撃でビーゴラドンを仕留めていたのだ。その様子を遠目に見ていた俺が、ビーゴラドンを急いで処理して駆けつけたというわけだ。
「あのやろー…」
「けひゃひゃ…ぶっ潰してーかぁ?俺を…なんだったら二人掛かりでもいーんだぜ?」
「い、いやいや!それよりも依頼は!!」
「調子乗った事、後悔させてやるよ!」
「ビヨンド!!…あーもー、コンバットJの団員達に被害が出ない程度にだけだからな!」
ビヨンドのダチュラに対する相当な敵対心が止みそうにないので俺は仕方なくビヨンドに手を貸すことになった。とはいえ相手は帝国の義勇兵爵だけとはいえ強さは数十万、数百万のうちの57位の実力者だ。ぽっと出の騎士団なり立てな俺達二人掛かりで勝てるわけない。…とはいえ、とはいえだ。勝てないと分かっていても、今俺達の相手をするのはこの帝国でも57位の実力者、そんな人と手合わせできる機会なんてめったにない。俺の実力が一体どこまで通用するのか、ほんの少しだけ楽しみな気持ちがあったのは隠せなかった。
「ビヨンド…どのくらい動けそうだ」
「これくらい、どうって事ねぇ!おめぇは」
「分かってる、サポートだろ。俺が前に出て仕掛けるからお前は奴の動きを観察してくれ、ある程度ダチュラの動きを把握したら俺が隙を作ったタイミングで一気に攻めてくれ」
「あ、あぁ…」
俺がビヨンドの言葉を遮って俺が作戦を口にする。ビヨンドはきょとんとした顔で俺の話を聞き呆気にとられながら返事をする。俺がいつも使っている剣と銃を手にダチュラに詰め寄ると、さっきまで余裕そうだった表情がなくなっている。…というかそもそも持ってきていた大鎌は一体どこに?
とりあえず探りを入れるために魔法銃で3発撃ってみる。当然のようにひらりひらりと回避する。
「光、複合か…?グラップラー適性は高め」
明らかに俺の情報が抜かれている!いやそれがどうした!元の世界にいた時のバスケの時だって情報戦はしたりされたりしてきた、情報を隠して勝てる相手じゃない。しょっぱなから全部出すくらいの気持ちでぶつけないと。俺はさっきとは別の魔導書を取り出す。
「いかせていただきますダチュラさん!!『駆け抜ける力を与えよ 背中を押せ 風よ』!」
俺が風魔法を詠唱すると、俺の身体が軽くなる感覚と共に物凄いスピードで走り出した。ただスピードを出して直線を走るだけじゃない、足場の悪い中で持ち前のバスケで鍛えたステップを駆使しジグザグと動き回って翻弄する。この魔法を使いながら猛ステップで動くのはひっそりと合宿の頃から練習したものだ、最近ようやく慣れてきての初実戦だ。
「っほぅ!こいつぁすげぇ…ただの新人団長にしちゃぁ、随分センスあるじゃねぇか」
俺の動きに驚いているのか、それとも楽しんているのか…ダチュラは俺の動きに合わせ、なんと最低限の足捌きで動き回る俺を常に真正面に捉えていやがる!死角からの攻撃は望めないと思い、思い切って剣で切り込んでみる。だが俺の剣撃はダチュラの身体を捉えたように見えたが、全く手ごたえ無く体を通り過ぎた…。続けざまに二撃三撃と切り込んでみてようやく気付いた。俺の攻撃を剣が当たらないギリギリでスウェーのように上半身を瞬時に動かして回避しているのだ。あまりにも剣の動きにピッタリくっついて動いているせいでまるで身体をすり抜けているように見えていたのだ。
「くっ、これでもか…!」
今度は至近距離で魔法弾を発射したが、これもひらりと躱される。ここまでこっちの動きを見極められていると…流石にこのまま攻撃を続けても体力の消耗戦で負けるだけだ。このあたりで攻め手を変えないと…なんて考えていると、不意に俺の真下から黒い影が迫っていた。違う!ダチュラのズボンだ!!俺は咄嗟に
両腕と足でガード行動をとる。ガツンッとまるで金属バットにでも殴られたような鈍い痛みが四肢に響きながらそのまま軽々と蹴り飛ばされる。痛いには痛いが動けなくなるような痛みではない。すぐに着地し体勢を立て直す。丁度ビヨンドの近くに着地したみたいだ。
「お、おい…ミナヅキ」
「ビヨンド、どうだ?隙は狙えそうか?」
「…頭が冴えたおかげではっきり分かったぜ。あいつ…おめーの攻撃を捌きながら俺からも注意をそらしてなかった…隙なんてありゃしねぇよ…」
「マジかよ、どーする?もう諦めるか…?」
「…冷静になれば、最初から勝ち目のねぇ決闘だったのは目に見えてたんだろうな。だがよぉ…このままおめおめ尻尾を巻いて逃げ出すわけにもいかねぇだろ!」
「…だよなぁ、仕方ねーなぁ!けどこれ以上みんなに迷惑かけられないしラストアタックだからな!」
無策のまま立ち上がる俺と、休めたおかげか冷静になったか冴えた顔で並び立つビヨンド。その視線の先には相も変わらず不敵に笑うダチュラがいた。
「っけ、そんな根性論で上の奴をひっくり返せるほど、層は薄くねーぞぉ~」
「…ミナヅキ、さっきの魔法俺に使ってくれ」
「…分かった」
俺は先ほど自分に使った風の速く動ける魔法をビヨンドに使用した。直後、俺よりも早い速度でダチュラに急撃した…いや、明らかに速過ぎる!スピードの出し過ぎだ!!あれでは制御が出来ない!!
「っうおっとぉ」
ビヨンドの巨体が俺以上の速さで急に飛び込んできたのを見てすかさず回避をするダチュラ、躱すので精一杯なのか地面に手をつき体勢を崩している。絶好のチャンだ。だけどビヨンドも制御できない速度に木をなぎ倒しかねない勢いで衝突していた。俺も突然の事で続けなかった…。ビヨンドの決死の策だったのに。
「ぐっ…いてて」
痛みを堪えながら再度立ち上がるビヨンド、また突撃をすると言わんばかりのその瞳を見て俺は今度こそ動き出す。俺は即座に魔導書の呪文を唱えると先ほどと同じ土壁を木と木の間に作り出した。それも一枚ではない。まるでダチュラを取り囲むように3枚の壁を生成した。
「…面白い、やってみろ」
ダチュラはまだ余裕を見せている。だがその立ち振る舞いは先ほどから大きく変化し明らかに臨戦態勢そのものだ。そしてビヨンドも…先ほどと同じ超速度での突撃を開始した。ダチュラに届くまで瞬きするほど一瞬、だがその一瞬の一手を確実なものにするために俺がいる。俺はビヨンドが飛び出すその瞬間、魔法銃の中の弾に、強力なフラッシュ効果のある光魔法をたっぷり込めた一発を撃ち出したのだ。それは丁度ダチュラのつま先の先、視界を遮る足元に撃ち込めたのだ。強力なフラッシュにダチュラの視界はほぼ完全にビヨンドを見失うものになったはずだ。
だがそれでもダチュラはビヨンドの突進を回避した。俺自身もフラッシュでよく見えないが当たった感じはしなかった。ビヨンドが俺の作った土壁に衝突する。だが今度は土壁から別の土壁に跳弾するかのように反射し、そして再度ダチュラに奇襲する。ダチュラは二度目の攻撃も予見していたかまたも大きく今度は余裕をもって足で受け流しながら回避する。
「『ゴールにぶち込む、バスケットボールとなれ、光の弾よ』!!」
その直後回避先のダチュラの背後にバスケットボール大の光球が襲い掛かる。完全に隙をついた一撃だ。ビヨンドほど早くなくてもビヨンドに意識がいっているダチュラには充分な速さ、そしてまだフラッシュで視認性も悪い。ついにようやく一打撃ち込めた!
そう思った…光球が命中するその瞬間、回避で体勢が悪い状態のまま腰から上半身を真横に曲げ回避したのだ!体がやわらけぇ…
「そこかぁけひゃひゃ!黒の刃ぁ!!」
ダチュラが光球の飛んできた方向に大きく腕を振るうと、指の数分なのか5つの黒い魔法の刃を飛ばし地面や木々をいとも簡単に切り倒しながら物凄い速度で飛んで行った。5つの刃が通ったその場所はずたずたに切り裂かれ荒れ開けた場所となった。フラッシュの光量が力尽き視界が見えやすくなってくるとその場所に俺はいなかった。ダチュラはすぐに周囲を警戒する。だがどこにも俺の影はなかった。そうなぜなら俺は今…ダチュラの背後上空に飛び上がってるからだ!
またも背後からの奇襲だが今度は上からの襲撃、しかも先程ダチュラの攻撃による騒音のおかげで俺が跳びあがる際の音が完全にかき消された。ダチュラがいくら後ろを見ようが俺は上だ。完全に不意打ちだ。俺は静かに、そして勢いよく剣を振り下ろす。
だが、それすらも…ダチュラには届かなかった。剣がダチュラに命中する、その瞬間にダチュラは両腕を頭の上に上げクロスされて俺の剣の一撃を防いだのだ!腕にはまるで魔力がこもっているのか刃が通る気配がない。
「っんな!?なんでっ」
「っけひゃっひゃっひゃっひゃ…いいねぇ~、あいつの攻撃で俺の隙を誘い背後からの一発、そしてそれすらもブラフにして本命である上空からの二段構え…あとは経験と実績さえ積めばお前もランキング入り狙える素質はあるぜ」
ダチュラが流暢にしゃべっている間も防御姿勢を崩さず、なんなら俺の全体重を剣との接触部で支えている…一体どうなっているのか。
「お褒めの言葉…どーもぉ。なら、もー一声下さいっ!!」
どん、と鈍い音が聞こえたかと思うと俺の身体を支えているダチュラが二つ折りになった。そしてダチュラから剣が離れゆっくりと落下する俺の足元には、ビヨンドがいた。意識を完全に上にいる俺に向けさせてからの下からの一撃、ビヨンドの腕がダチュラの腹に突き刺さっているのだ。
「ぐっ…かはっ…」
ついに叩き込んだ一撃に余裕そうな表情は一気に歪み、ゆっくりと2歩3歩後ずさる。かく言うビヨンドも俺の魔法で制御が出来ない状態で突撃を繰り返していたため体中を木や土壁にぶつけまくっているためもうボロボロだ。そして俺自身も魔力の使い過ぎでへとへとだ…
「…くっ…ひゃひゃ…、まさか本当に一撃を叩き込むとはな、随分筋のいい団長を見つけれたじゃねーか」
「…あぁん?」
「いいか、てめぇが上の世界に行きたいってんなら…その団長を大事にするこったな。俺が見てきた奴らの中には仲間を踏み台に上を目指そうとした奴もゴロゴロいた。だが、そういう奴が上の世界に上がってこれたことは一度たりともねぇ。独り善がりな力じゃランキングに乗れねぇごろごろいる数千人のうちの一人になるだけだ」
ぺらぺらと話しているうちにダチュラの表情はいつの間にか回復しきり、腹も手で払い痛みが引いたのを見せつける。こっちはまだ満身創痍のままだというのに。そして手をひらひらと振るい俺達を背に歩いていく。
「てめぇ、どこ行きやがる」
「どこでもねぇだろ、今はまだ依頼の真っ最中。お前らもそろそろ仕事に戻れよ」
…そういえばすっかり忘れていた。今俺達はコンバットJ団員の護衛任務をしているのだ。何をマジでダチュラと戦っていたんだ。すぐみんなに様子を見に行くと…ひとしきりビーゴラドンを斃した後かぐったりと倒れ休んでいる。俺とビヨンドはすぐに駆け寄った。
「わりぃみんな!!任せっぱなしにして」
「ホントに何をしていらっしゃったのですのミナヅキ!!私に前線を任せっぱなしにしておきながら貴方はいつまでも戻ってこずに…一体何様のつもりでして!!」
「…何様も何も俺達の団長だろ。…ま、にしても遅すぎだろ。もうこっちは休まんとやってられねーぞ」
「にしても、追加のビーゴラドンが来た時には焦ったが…誰かが魔法で撃ち落としていたのだが…そっちで何かしていたのか?」
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
最近急に寒くなってきて仕事も落ち着き、執筆作業も暖房の傍でだらだらと活動するようになりまた一段と筆が進まなくなってきましたが、それでもめげずに頑張って書き続けています。今後の方向性としてはこの後数本のストーリーののちに少し意趣を変えた内容を書いていこうかなと考えていますのでその時になったらお楽しみいただきたいなと思っています。
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は11/29に、Episode8の後編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




