Episode7 さよなら義勇兵爵叙爵合宿、そして旅立ち——— 前編
野生動物、それは人間の手がちゃんと行き届かない自然に近い環境下に生きる人類とは異なる生態系を維持する世界の住民。人類にとってその環境は自然の管理社会であり自然の恵みを与えてくれるというメリットとなることが多い一方で時に人類に対し牙をむく無法地帯でもある。時に大きな翼を持ち飛び回り鋭い牙や爪で人間を食らい、時に4つの剛脚を持って人間を踏みつぶし、時に俊敏な動きで人間を翻弄させ首を刈り取る…多種にわたる生態系を持つ『ゴラドン』。その数を無数に増やし、油断した人間に身体の中から飛び出る触手をからめさせ弱らせて捕食する『ジェリー』。人々に幻覚を見せ困惑している相手に強力な溶解液で対象を熔かし飲み込む『シンリュー』。…他にも多くの野生動物が跋扈するこの自然という状況下でも人間達は抗い、その生態系バランスを厳格に管理する必要がある。その役目を全うするのこそ、兵爵の役目でもあるのだ。
だが若き見習いたちが経験するには、心身共にまだ未熟であった…。まさに今少年達は暗闇の中から数十という数の猛獣共が取り囲んでいるという状況なのだ。
「はぁ…はぁ…は、走れ!」
俺達は8人で固まったままとにかく走り続けた。周りからガサガサと奴らが一定の距離を保ったままついて来るのが分かる。油断すればいつ襲われるか分からない、いや油断ですらない一瞬の隙すらも許されない状況だった。俺達は持っている投光器全てで辺りを照らしながら走り続けた。
「ほ、ほんとにこっちで間違いないんだよな!?」
「分からん、だけど、散乱した荷物とか、人の通っている形跡がある!こっちに3組がいると思う!!」
「分からんとか、思うとか!そんないい加減な
「危ないでゴワス!!」
ライオネットの声をかき消すかのように茂みから飛び込んできた生き物を、ガーランドが持っていた大刀で防ぎ、俺が魔銃を発砲させる。走りながらではうまく狙えず全然的外れな方向に弾が飛んで行ったが、追い払うには十分な効き目だったようだ。
「こんなことになるんだったら、ついて来るんじゃなかった~」
「泣いたって仕方ねーだろコノハ、てかお前飛べるだろ!!」
「こんな走りながらで、木々だらけじゃ、うまく飛ぶ前に襲われちゃうって!!」
「もう、私限界ですライオネット様~」
「ピー!」
「くそっ…おいミナヅキ!僕達はいつまで走ればいいんだ!!このままでは奴らとやり合う前にガス欠だぞ、ここはもう戦うしか…」
どうするかと切迫した状況…するとドォーン!と進行方向から巨大な爆発音が響き渡った。それが俺達の中での予想から確信へと変わり、ライオネットももう何も言わず全員で一気に走り抜けた。
走り抜けたその先はちょっとした広場みたいな場所、木々が少なく見通しのいいフィールドで、そこで3組の面々が猛獣達と対峙していた。
「お前達は!?」
「助けに来たか、もしくはミイラ取りか」
「みんな大丈夫か!?」
「全然大丈夫じゃねぇ、お前達も手を貸してくれ」
俺達はすぐに投光器を宙に浮かべる機構で飛ばし辺りを明るくさせ、武器を手に取り3組のメンバー達に混ざった。3組メンバーの様子は主にラセツ率いるAグループと乱暴なBグループの二つが戦っており、Cグループは明らかに負傷したり恐怖で震え全員で固まってて身動きが取れない状況。そして何故かそんなCグループと一緒にいる盾を持ったカトレナがいるし、何よりカトレナ以外のDグループメンバーが誰も見当たらなかった。どちらにしてもCグループの今の状態では走って助けられに行くことも出来ない。ここで何とかするしかないんだ。
「とにかく、俺達もCグループを守りながら野生動物を追い払うぞ!」
「「「お―――!!」」」「「「「お―――!!」」」」
「…って勝手に指示するな!!」
俺達も加わった合同の防衛作戦は、動けないCグループを中心に4方向をそれぞれのグループが防衛することとなった。俺達ミナヅキグループはいつも通り俺とウルヴァが前に出て、トレイスが後衛、コノハはフラットに。ライオネットのグループはなんか全員が横並びみたいに並んでいる。Aグループはラセツ1人が前に出て残りの三人が援護の構え。Bグループは…俺達と戦った時のように陣形らしい陣形は取ってなさそうだ。
投光器で照らされたフィールドはしっかりと俺達を映し出し、猛獣は暗闇に隠れたままだ。だが一匹の猛獣がゆっくりと俺達との距離を詰めるように光の中に現れその姿がはっきりと視認できた。その姿は犬、いやまさしく狼といったものだった。
「あれは…野犬、いや狼でいいんだよな?」
「お、なんだよミナヅキ。お前の元の世界じゃウルフも架空の生き物なのか?」
「架空っつーか…俺の住んでた国では絶滅した生き物だ」
「無駄口叩いてる暇はないぞ、くるぞ!」
狼…ウルフ共は警戒してかじりじりと滲みよって距離を詰めるが、そのうちの一匹がいきなり跳びかかってきた。その一匹を皮切りに取り囲んでいたウルフ共が一斉に襲い掛かる。俺達は手にした武器でウルフ共を蹴散らそうとするが、ウルフ共の動きはまるで一糸乱れぬ連携のように見え俺達の攻撃を見るや否や攻撃を躱し、他の個体が隙を見て襲い掛かるというまさしく波状攻撃。致命傷を与えるどころかウルフの攻撃を凌ぐので精一杯だ。後衛からの魔法や弓などもウルフ共はひらりひらりとあっさり躱され殆ど効果がなかった。
「みんな!隙を与える大振りな攻撃は駄目だ!!とにかく仲間の隙をカバーし合うんだ!」
「言われなくても、分かってる!!」
「でも、これじゃあ!!」
だが確かにこれではいつウルフの攻撃が止むとも分からない状況の解決にはならない。どうにかして状況の打破する策を考えないと…
「…コノハ!フィラーレ!竜巻みたいな魔法とかないか?」
「はぁ?無くはないけど…でも」
「…まっかせてくだしぁ旦那ぁ!!ありったけの魔力でいかせていただきます!」
そう言い残すとコノハは翼を広げ俺達の真上に飛び上がった。その様子を見ていたフィラーレも慌てて追うように羽を広げた。
「いーい!この私に指示をしたこと、後でたっぷり後悔するくらいこき使ってやるんだから!!」
そう言い残しフィラーレも上空に飛んでいくと、2人で詠唱を始めた。
「「『全てを巻き上げろ、竜巻となりて、風よ』!!」」
二人の呪文と共に俺達を取り囲むように魔力を帯びた風が、激しく吹き荒れ始め、まるでウルフ共と俺達を阻むように二重の竜巻の障壁が発生し始めた。ウルフ共は無理やりこの竜巻を突破しようと風の魔法に揉まれながら強引な侵入をしようとするが、その隙に俺達がウルフ共を竜巻の外におい返すように攻撃する。
「こりゃいい!まるでモグラたたきだぜ」
「…だけどこっちからも攻撃がしにくい…。二人の魔力体力の事を考えるとウルフは何もしないだけで解決しちまう…」
現にさっきまで無理やり竜巻を突破しようとしていたウルフ共はもう既に無理やりな突破をしようとせずに竜巻の外で待機している。試しに俺の魔銃の一発を打ち込むが、それも風壁に阻まれる。二人の風壁を無駄にしないためにも何か今のうちに次の策をすぐに考えないと…
「『攻撃に備えよ、壁となりて、大地よ』」
すると突如複数の土の壁が俺達を取り囲むように盛り上がった。集団模擬戦闘訓練でドロフィーによく使わせていた魔法だ…どうやらホタルも同様の魔法が使えるみたいだ。とはいえ取り囲んだ弊害として投光器の光が入りにくくなってしまい少し暗いが…いやもはやそんな状況ではない。二人の竜巻魔法の外にあった投光器がウルフに壊されているのが見えた。こいつらどんだけ賢いんだ…
「若っ!手当を!少しでもいいので休んでください!!」
3組メンバーはラセツを中心に殆ど満身創痍の状態だ…俺達が来るまでの間殆ど二チームで凌いでいたのだから当然と言えば当然だ。というかラセツの身体からは血がにじみ出ているのをこの時点ではっきりと認識できた。認識してしまった。
「…構わん、それよりあの二人に術を止めさせるよう…」
ラセツの言葉が途切れた。その瞬間轟轟と鳴り響く風魔法の音が弱まった気がした。まさかと思い上を見るとフィラーレの手を掴んでゆっくりと降下するコノハの姿が見えた。フィラーレは気絶しているのかピクリとも動く気配が感じられない。そんなフィラーレの腕を掴み墜落させまいとしながら魔法を止めようともしないのだ。
「コノハ!!魔法をキャンセルするんだ!!それか手を離せ!俺達で受け止める!!」
俺達の声が聞こえたのか、コノハは俺達の方を見るがその表情はまるで困惑しているかのようで、掴んだ腕を離そうとはしなかった。
「何やってるんだよコノハ!なんで手を離さねーんだ!!」
「…パニックになってるんだ。飛ぶ、腕を掴む、魔法を使っている。その三つを同時に行ってるせいで脳がパンクしているんだ…。正確に何かどれかを止めるってことが出来ないんだ!」
「プラノ!」
「任せてくださいライオネット様!!」
ライオネットの指示で翼を広げ飛び上がったプラノがフィラーレを抱きかかえ、そのままコノハの手を離させようとしたところで…コノハの魔法が止まってしまった。
「くるぞっ!!」
風壁がなくなった途端ウルフたちが一気に土壁に襲い掛かる。隙間から顔を突っ込むのを叩くと引っ込む。壁をよじ登って乗り越えようとするのを叩き落とす。それを繰り返しているとなにやら何か削る音が聞こえる…土壁を掘ってウルフの手が見えてきたのだ!
「くっそぉぉ」
掘られた土壁の穴にも武器で叩き追い払う。そんなこんなで全員が処理に手いっぱいな状態になってしまったが…ふと一匹が土壁の上に乗ったまま上を向いていた。
「…おい、あれ…まさか!まずい!!みんなあいつを!!」
「プラノ!!飛べ!!降りてくるな!!!」
俺の声も、ライオネットの声も虚しく、一匹のウルフが高くジャンプする。そしてその先には…二人を抱えたままのプラノがウルフの届く距離まで降りてきていたのだ。そしてその牙は、爪は…三人に襲い掛かった。
「いっっいやああああぁぁぁぁぁぁあっっ!!!」
「ガーランド!僕を飛ばせ!!」
「ゴワッス!!」
ライオネットがすぐさまガーランドの上に飛び乗り、思いっきり持ち上げられるとその勢いで高く飛び上がり、ライオネットのレイピアがウルフを貫いたのだ。すると四人と一匹の身体は一気に急降下を始めたのだ。
「受け止めてくれ!」
その呼び声に即座に反応した数人のメンバー達がCグループの人達に落ちないように庇いながら四人をなんとか受け止めた。後ろで見ていたキヨミツは即座に紛れて一緒に落ちてきたウルフに止めをさした。
「プラノ!!プラノ大丈夫か!?」
「い、痛い…痛いです…」
「フィラーレ!フィラーレ!!ねぇしっかりして!!」
「コノハ!…くそっ」
プラノは意識があるが硬い鱗越しに牙が食い込んだ跡があり出血もしている。フィラーレとコノハは意識が戻らず返事がない。俺はとりあえず意識のないコノハをCグループのメンバーの中に運び入れる。フィラーレと仲が良かったであろうアルフィーはフィラーレを抱いて離さない。だけどウルフたちはそんな俺達の状況を絶好のチャンスとばかりに吠えたててきた。
「くっそぅ…他に手立てはねぇのかよ!!そもそも教官達は何やってんだよ!!」
「知るか!どっか行ったDグループを探しに行った奴と、ウルフから離してくれた奴といたが…それでもあいつが引き連れてきやがったんだ」
「っそ、そんな!そんなつもりじゃ、なかったのよ!!」
ビヨンドに指を刺されたカトレナが、今にも泣きそうな声で反論しながら盾でウルフの顔面を殴る。…おそらくウルフに襲われたのはDグループで、Dグループがどう逃げたのか分からないが、カトレナだけが3組の所に引き連れたまま戻ってしまったのが原因ってわけか。
「なんにしたってそんなことを言い合っても解決しない!とにかくこいつらをどうにかする策を…」
「そんなこと言ってもよぉ!俺の魔砲弾も、トレイスの魔法も、ライオネットの奴らのやれることだって、もう打てる策は出し尽くしたぜ!!」
実際俺達が出来る事は全部やった。3組ももうほぼ全ての死力を尽くして戦い続けている。そのおかげで多くのウルフに致命打を与え、数体ではあるが止めをさせている。それでもまだ十数匹程のウルフが俺達を取り囲んでいる…。終わりが見えそうで見えない戦いに俺達の方が先に限界が来そうだ。
だがそんな絶望をさらに超えてくるとは思ってもいなかった。ウルフ共が急に攻撃を止めたと思うと、静寂を破るように…パキリ…パキリと枝を折りながら大きな影が迫ってきていたのだ。その影は俺達の持っているわずかな光に照らされ、壊された土壁の隙間から見ると…さっきまで戦っていたウルフよりも一回りも大きな、まさにボスの風格を持つ個体だった。俺達はそのボスウルフがまるで笑っているかのように睨みつけられると身が固まるような恐怖心に襲われた。
「うそだろ…そりゃないだろ…」
「そんな…」
みんなの戦意が削がれていくのを感じ、俺は必死に残り少ない戦意をなんとか奮い立たせ、ボスウルフの前に立つ。
「…あいつの相手は、俺がやる。みんなは、みんなは周りのウルフを!」
「ふん。あいつを斃せばここにいるウルフ共は逃げていくかもしれないだろ。…プラノの恨み、借りをあいつに替えさせてやる」
そう言うと俺の隣にライオネットが並び立つ。そしてだいぶ重篤状態の筈のラセツも俺の隣に来る。
「若っ!!その身体では無茶です!!」
「そういうのなら、周りのウルフ共をさっさと片を付け援護に来い!」
その言葉を聞いた他のメンバー達は、俺達の背を、Cグループたちを守るように再度奮起した。打つ手も、気力も、ほんの一滴分しかないその身体で、最後の戦いに挑むしかなかった。
「「「いくぞっ!!」」」
俺達三人は土壁を乗り越えてボスウルフまで一気に走り接近する。ボスウルフもまた両手の爪で襲い掛かるが、その二撃を俺とラセツで受け止める。そして俺達の間からライオネットが飛び出し、呪文を唱えおいたであろう闇の魔力を帯びたレイピアでウルフの顔に突き立てようとする。
「ディオ、ダークネス、ドロワッ!!」
だがその一撃はウルフが大きく身を翻して躱し不発に終わる。ボスウルフは次にその牙を持って襲い掛かるが、ラセツの振り下ろされた金棒がボスウルフのすぐ近くの地面にドスンと叩きつけられ、その音か振動かに警戒したのか
「キンジョー流魔式、氷閃撃」
ラセツの金棒が地面に突き立てられたまま一気に振りぬくと、氷の衝撃波のようなものが地面を這うようにしてボスウルフに放たれる。ボスウルフは反応が一瞬遅れたのか回避が間に合わず後ろ足を掠り血が噴き出す。痛みからか俺達に吠え返すが、ボスウルフは視界内に二人しかいないことに気がつき焦っている。
「ダンク、ショット!!」
そう、俺は以前使ったバスケットボール大の魔法弾を手に、数m高くジャンプしてボスウルフの真上から撃ち落としたのだ。急転直下のその魔法弾は猛スピードで落下しボスウルフに命中…と思ったが野生の勘なのか命中する直前に体を大きく曲げて躱したのだ。だが至近距離で魔法弾が地面に弾けた衝撃でボスウルフの身体は大きく吹き飛ばされゴロゴロと転がったのだ。
その隙を逃さないとばかりライオネットがボスウルフの腹にレイピアを突き刺す。ボスウルフは痛みから大きく雄叫びを上げる。
「よし!このまま…あれ?」
レイピアを突き刺したライオネットは何故かその場でもたもたし始めた。いや、刺さったレイピアが抜けなくなったようだ。
「ライオネット!手を離して離れろ!!」
ライオネット目掛けてボスウルフの牙が襲い掛かる。ライオネットが手を離し躱そうとしたがもう間に合わない。ぶしゃあぁぁ…と血飛沫が舞い上がる。だがライオネットは無事だった。なんとボスウルフに食われたのはラセツだった。ラセツを庇うために身を挺したのだ。しかもそれだけではない。呆気にとられた俺達もボスウルフの両爪で切り裂かれ大きく吹き飛ばされてしまう。
「ラセツゥぅっ!!」
「若あぁぁっっ!!」
キヨミツ達Aグループがラセツの様子を見てしまい悲鳴と共に攻撃をボスウルフに向けてしまう。放たれた攻撃はボスウルフが回避のためにラセツを開放する程度くらいにしか効果がなく。さらに隙を見せたことでAグループの三人がウルフ共に襲われてしまった。
「くそぅ!くそぅ!くそぉおおお!!」
「落ち着けウルヴァ!!とにかくみんなを助けないと」
「ライオネット様―っ!ヨハンがー!た、助けてくれでゴワスー!!」
「もう駄目だ!死にたくなかったら逃げ出すしかない!!」
「おいバカラ!!てめぇ一人で逃げようとしてんじゃねぇ!」
「だったらてめぇはここに残って無駄死にするだけだ!!」
連携は完全に瓦解した。残り少ないメンバーで、経験が浅いままでの野生動物との戦闘で、俺達は完全に戦う術を失った。あの俺達の中でも一番強いって言いあってたラセツも今や、全身血だらけでその場で倒れ込み意識すらなかった。3組メンバーも、ライオネットのグループも、そして俺達も、勝てなかった。そして何より…この戦いは模擬戦でも訓練でもない。命を懸けた実戦そのものだった…。そんな戦いに負ける。それはここにいる全員が…死ぬという事だ。
そんなの嫌だ
ウルヴァとトレイスはクザスの村を出た時から一緒に頑張ってきた仲じゃないか。コノハとここで出会って同じグループとして頑張ってきたじゃないか。
いやだ
ラセツ達と戦った模擬戦闘訓練、強かったあいつらだって戦い以外では一緒に笑ってふざけたことだってあったんだ。
いやだ、いやだ
せっかくドロフィーやバーケニーさんだってちょっとだけかもだけど心開いてくれて、1組みんなで楽しくやってきたってのに…もう会えないなんて
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!
「ガーランド、プラノ、ヨハン…みんな!諦めるな!僕が…絶対助けないといけないんだ!!こんなところで終わるわけにはいかないんだ!!!」
ライオネットだって、普段は生意気でウザいけど…だけどあいつは、誰よりも仲間想いで、2組だけじゃなく他の組の奴ともうまくやってる。あいつだって…こんなところで!誰か欠けて終わるなんて、したくない!俺だって!!誰も欠けさてたくないんだ!!!
…———この世界では当たり前でありきたりな経験と努力で培った個の能力こそがね———…
…———この世界の戦いの全てなの。———…
…———君にはそれだけの素質が十分備わってるの———…
…———あとはほんのちょっとのきっかけで充分———…
…———私が代わりに開いてあげる———…
…———あなたの内に秘めたる力の限界の門を———…
「絶対っっっ、負けるもんかっっ!!!みんなをっ!守るんだっっっ!!!」
「当たり前だ!!僕達でっ!絶対みんなを助けるんだっっ!!!」
俺の中で琴線のような何かがプツリと切れるのを感じた。その瞬間これまで生きてきた中で一度も感じたことのない、不思議な力が溢れ出した。体を包んでいた恐怖心や疲れのようなものはまるで怒りにも似た感情で吹き飛び身体が信じられないくらい軽く感じ、全身からは体の内側から無限にも思える程溢れんばかりの魔力が漏れ出て俺でも制御が出来ない…いや、制御なんてしようとも思わない。ただ、ただひたすらに、目の前にいる、仲間達を傷つける存在をぶっ飛ばす。そのためだけに身体が無限に動くのを感じた。
だが驚いたことに俺だけじゃなかった。俺と同時にライオネットも全身から魔力を溢れさせ、この戦いでの疲労や恐怖心なんかを一切感じないくらいに全身に力が満ち満ちているのが分かる。ただ一つ違いをあげるとするなら、俺は全身から白い魔力を、ライオネットは黒い魔力に身を包んでいるのだ。
「…まずはみんなを、それからあいつだ」
「僕に指示をするなと言っただろう」
ライオネットが軽く手を振るうと、溢れた魔力からなんと六体もの人型の魔力の塊…以前使った『聖隷魔法』を作り出した。だが以前よりもはるかに精巧な見た目で、それぞれが独立した動きをして確実にみんなを襲うウルフを作り出したレイピアで突き刺す。その動きは俺達よりも、いやウルフ共よりも素早くキレのある動きだ。ウルフ共が全員から離れるのを確認する。
そして俺も地面に手を置く、すると俺の脳内に術式が、鮮明に思い出される。それは以前コノハが持っていたあの竜巻を作り出す魔法の術式…だがあれでは駄目だ!俺の頭の中に浮かんだ術式の一部が塗りつぶされる。そしてその上からは新たな術式が刻まれる。それが正しい書き換えかなんてわからないが、だけどこれでいいと直感で新たにつくられた魔法が放たれる。俺の魔力をたっぷり吸った魔法は先ほどとは比べ物にならない竜巻を作り出しみんなを包み込み、ボスウルフを除く残っている全てのウルフを空へと巻き上げ、地面にへと叩きつけたのだ。
だがそうこうしているとボスウルフだってただ黙って仲間がやられているのをみているわけがなかった。ボスウルフの鋭い爪が俺達に襲い掛かるが、ライオネットが作り出した黒いレイピアでボスウルフの攻撃を凌ぐ。その力は拮抗していた。お互いに弾きあい後ろに飛んで距離を取る。俺は土の魔法と風の魔法で空中に足場を作り、ライオネットがその足場を飛んでいく。ボスウルフはライオネットが飛び回るのを目で追うが、足元ががら空きになったタイミングで俺の光弾をがら空きのどてっぱらに撃ち込む。ボスウルフが驚き体勢を崩したタイミングでライオネットの黒い魔力で出来たレイピアがその身体を貫き貫通する。ボスウルフが痛みで悶え叫ぶ。
「とどめだ!君に合わせてやるよミナヅキ!!」
「あぁ、いくぞライオネット!!」
俺達二人は残り全ての魔力を全て解放し、そのまま黒と白の尾を引いて走り出した。その姿は地上を這う東方の龍の如き、二つの龍はそれぞれ離れあい大きく迂回し、その勢いを、力を、木々をなぎ倒しながら高めたエネルギーの塊となって、ボスウルフを挟むように…黒と白の二匹の龍が衝突した。真正面同士から衝突し合った二つのエネルギーは徐々にその力の逃げ道が上へ上へと押し上げられる。そしてついにボスウルフを挟んだまま二つの龍はまるで二重螺旋を描くようにしながら空へと昇っていった。そしてぐるりと反転し、今度は地面に一気に落下していったのだ。
「ツイン」
「ドラゴン」
「「ダンクぅっっ!!!」」
強力な魔力エネルギーに挟まれたままのボスウルフはその勢いのままに、その力のままに地面に叩きつけられ…ドオオォォン!!という衝撃、そしてその衝撃によって起きた砂埃の中から…完全に動くことのないボスウルフが斃れていた。
「…終わった、のか?」
あの二人の戦いをただ見守ることしか出来なかった全員はその静寂が、戦いの終幕だと実感するのに時間はかからなかった。全員が俺達二人が立っている姿を見て静かに武器を下ろし…そして数人のまだ無事だったメンバーが俺達に詰め寄る。
「ミナヅキ!!!大丈夫か…?」
「ライオネット様~!良かったーっ!!」
「若っ!!まだ意識はございますか…!?」
各々が全員の状態を確認する中で…ぽつりと、一人の声が聞こえた。
「これ…俺達がやったのか…?」
それは…痛ましい惨状であった。確かに俺達は戦わなければ命を落とすような危険な状態ではあった。だが…今となっては俺達を取り囲むような形で、多くのウルフ『だったもの』が辺り一面に斃れ、さっきまで自らの意志で動いていたはずなのに今ではまるで、物のような意志を全く感じない物体が転がっている。鼻が曲がるような血生臭い匂いがツンと劈く。
「うっ…おえええぇぇぇぇ…」
ついに耐え切れずウルヴァが吐いた。他の何人かも命を奪ったことに対してか、この惨劇を見てか…耐えられずに目と鼻を覆ったりうずくまったりした。見たくない現実を逃避するように。
だけど、そんな満身創痍な状況にもかかわらず、近くで茂みのきしむ音が聞こえてきた。もはやこんな状況で戦わないといけないという極限状態でなんとか武器を持つ手をあげる。しかし意外にも俺達にも希望があったようだ。
「遭難した講習生のグループを発見!要救助者有り、すぐに全員の保護を急げ!!」
俺達を探しに来た教官達や騎士団達の声が聞こえた。俺達は安堵から全身の力が抜けその場にへたり込む。そしてかく言う俺とライオネットも…全身の魔力を殆ど一気に放出しきった影響と、みんなが助かるという安心感から、お互いその場で意識を失いぶっ倒れたのだ。
「ミナヅキ!」
「ライオネット様―っ!!」
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
最近本業で少しうまくいかず精神的に疲れてきていますが、この投稿はむしろ癒しになってきているので助かってます。とはいえ今後本業の方で飲みの席が増えるので…もしかしたら長期出張で投稿が滞るかも…と不安を感じていますが、めげずに頑張っていきたいと思います。
問題は設定資料の方が滞っている事ですかね…そっちが全然で申し訳ないですー!!
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は10/25に、Episode7の中編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




