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Episode6 1組対2組の対決、そして夜の帝都の外へ… 中編

 ビ————ッ、遠くでいくつかのアラームが鳴るのが聞こえる。激化した戦場とは離れた場所で1組から、2組から退場者の名前が次々と上がっていく。そんな中で俺とライオネットはみんなと離れた場所で一騎打ちをしていた。ライオネットのレイピアが俺の盾に防がれ、俺の魔銃の弾はひらりひらりとかわされる。お互い攻め手に欠けたままの攻防が続いている。俺の腕はいまだライオネットの魔法で繋がれたままで離れることが出来ない。だがどうやら俺のアラームを鳴らさせる為の攻撃ではないのが救いといったところだ。


「どうやらそろそろ…フィナーレになりそうだな」


「あぁ、こっちもそろそろ決着。つけようぜ」


 俺は今回ライオネット対策にと持ってきた魔銃に魔力を込める。


「っふ、そんな玩具如きが僕の対策になると思ってるのかい?…見せてやるよ、これが君如きの為に編み出したこの僕の本気を!『その姿を現せ 自らの身体を構築せよ 我が魔力よ』」


 ライオネットが魔法を唱えると、俺の腕を掴んでいた黒い腕状の魔法が外れライオネットの身体に戻っていった。だがすぐにライオネットの身体から真っ黒な魔力が漏れ出ると身体から離れ、その流動体のような魔力の塊は徐々に形を変えると…見た目は真っ黒ではあるものの何とまるでライオネットと瓜二つの形となり、ライオネットと鏡写しのように全く同じように動いているのだった。


「どうだい、これが『聖隷魔法』さ。ここまでの完成度はここでは僕だけくらいなものだろう」


 うざったらしく語るライオネットと全く同じ鏡写しな動きをする黒い魔力の塊にウザさが二倍に感じるが、今はそんなこと考える余裕はない。ライオネットと魔力の塊による同時攻撃、せっかくライオネット対策と思い持ってきた盾も純粋な二倍の力に押され腕が痺れる。このままではと思い魔銃を持つ手でも盾を支える。だがそうすればこっちは完全に防戦一方だ。


「はっはっは、盾を持ってきて正解だったみたいだねぇ…そうやって自分の身を守るのに必死な姿は随分お似合いだよ!だけどそれも、意味のない事になるだろうけどね」


 ライオネットと魔力の塊による強烈な同時刺突が盾に突き刺さると、ビキリッと音を立てて大きな亀裂が入るようにして突き刺さってしまった。


「っげぇ、やばいっ!!」


「これで…終わりだっ!!」


 再度ライオネットが腕を大きく引き、一気に突き刺す。俺の身を護るための盾は完全に砕け散り…盾の内側に隠していた魔銃はチャージ限界一杯まで溜めたままライオネットにしっかりと向けていた。ライオネットのレイピアが俺の身体に届く数センチというギリギリのタイミングで魔銃の引き金を引き絞った。


「ってめぇがだよっ!!」


 攻撃のための体勢のためか前傾しているライオネットと魔力の塊に向けて高エネルギーとなった魔力弾を一気に全弾放射する。反動で俺の身体が後方に一気に吹き飛ばされながら、魔法弾をもろに直撃したライオネットもまた大きく後ろに吹き飛ばされ、魔力の塊は命中した部分から靄のように四散し、そのまま消えてしまった。

 ビ—————ッ、すぐ近くでアラームが鳴り響く…それは、ライオネットの腕からだ。


「っっっくっそがぁぁぁぁあああああ!!!」


「っっしゃあああああぁぁぁぁ!!」


 ライオネットが拳を強く地面に叩きつけ、俺は両腕を高くつき上げ勝利を示した。二人の感情が五月蠅いくらいに響き渡った。俺はライオネットに勝ったんだ。二度も、二度も勝ったんだ!!二度も勝てた俺が言うのもあれだが…こいつは決して調子づいた強さじゃなかった。技術、体力、体の動かし方、そしてなにより本気の目をしていた。俺には分かる…元の世界で中途半端に試合をする気持ちの奴と本気で全国一位を狙う奴の二つを見てきた。こいつは…ライオネットは間違いなく本気の目をしたやつだった。自信に満ち溢れ、決して負けないという闘士が宿る目だった。だから俺はそんなライオネットに手を差し出した。


「…ナイスファイトだったぜ」


「…」


 しばらく考え込んだ後ライオネットは手を伸ばし、掴もうとしたその瞬間…俺の手を払いのけてよいしょと重く感じていそうな身体を立ち上がらせて一人去ろうとした。


「勘違いするな、僕はまだ認めちゃいない!僕はまだ…負けちゃいないんだ!!」




 ———僕が強くなるためには、あいつを超えなきゃいけないんだ!!———


 脳裏にライオネットの言葉が響き渡った。そうそれは…この集団戦闘訓練が始まる丁度一週間前だ。俺達は集団戦闘訓練に向けてカリキュラム時間外の自由時間でも戦闘の練習をしていた。


「おいミナヅキ~、そろそろ戻ろうぜ。夕食の時間終わっちまうぞ」


「そうだな…だいたいいい感じに仕上がってきたし、この調子なら勝てるんじゃね?」


「自分夕食いいや…シャワー浴びて寝てきたい~…」


「おつ、コノハ」


 夕日がグラウンドに差し込み俺達1組Aグループは武器や道具を片付けながら会話する。俺達と同じように他のグループや他の組の連中も同じく撤収の準備をしている。食堂はいつでも使えるが講習所のサービスとして夕食が食べれる時間帯は決まっているため、その時間帯にみんな合わせて行動している。

 片付けが済んでだいたいみんなで固まって建物内に戻っている時にそれは起こった。俺は唐突にポケットの中や荷物の中を漁りだす。


「…ん?あれ?」


「どうしたミナヅキ」


「…やべぇ、俺のルームキーがない。どっか落としたのかも」


「まじかよ。どうする、俺らのルームキーあるし明日探すか?」


「んー…まだ明るいしちょっとグラウンドとか見てくる。どこで落としたかな…?」


「おっけ、荷物持ってくわ」


 サンキューと言い残しトレイスに荷物を任せながら俺は一人グラウンドに戻った。夕焼けが濃くなってきておりあまり時間がない事に焦りながらグラウンドを見て回るが落ちていなかった。仕方なく今日通った道を思い出しながら歩き回ると、ふと何か音が聞こえてきたのだ。興味心でその音のする人気の少ないグラウンドの倉庫裏の方に向かってみると…そこにはまだボロボロになりながらも練習を続けるライオネットの姿があった。いやその周りにはライオネットの身を案じるいつもの取り巻き三人組もいた。


「ら、ライオネット様~、そろそろ終わりにするでゴワス…」


「これ以上やってたらホントに身体壊しちゃいますよ」


「ピー…休んでほしいっピ」


「うるさいお前達!僕は…あんな奴に負けたままでいるわけにはいかないんだ!!」


 その練習内容は三人組に取り囲まれ長い棒で攻撃されながら、さらに反撃をしてくるカラクリサンドバックに攻撃を叩き込まれるというシンプルながらも明らかに滅茶苦茶な練習法だ。全ての攻撃を躱し続ける事なんて当然不可能、何度も攻撃を体で受け止めながらサンドバックのカラクリが止まるまで攻撃を止めなかった。何度もガタが来て倒れては立ち上がり、また同じように練習を続行する。

 …俺から言わせてみればこんな練習法じゃ強くなれるどころか身体を悪くするだけだ。無茶苦茶な練習法は上手くなる近道と勘違いする典型例を見ているものだ…練習に集中して俺に気付いていない2組連中に俺は渋々ながらも声をかけようとする。


「…止めないでください。たとえ貴方には滑稽にみられているとしても」


 不意に後ろから声が聞こえ振り向くと、2組Bグループのセレイアさんがそこに立っていた。俺はこの人とは殆ど話したことはなかったが、とりあえずライオネットの許嫁だという情報や、一緒にいる姿を見てる程度には知っている。


「えっと…セレイアさん、ですよね?」


「まぁ、私の事まで知っていてくださってたなんて。こうしてお話しするのは初めてですので改めて…私はセレイア・ウォン・ナルベールと申します。ライオネット様とは許嫁という関係で、あの人とはずっと一緒に育ってきました」


 そう言いスカートを持って頭を下げる姿はまさに上級令嬢を思わせるお淑やかさで、ライオネットのあの俺に対する態度とは随分似合わないのに許嫁とは…とは思ったが当然そんな感情はぐっと堪える。


「…分かっています。ライオネット様がミナヅキ様に示された態度、とても好印象のものだとは思われないですし、私にもライオネット様のご意向が分かりません。ですが…あの人は元来あのような横暴な態度を無闇に振りまいたりする人ではありません」


「俺も同じ組にいるラフィラさんから聞いた話と全然違うのを知っているので分かっています。まーきっと俺が異界人なのに周りからちやほやされているのが気に食わなかったってオチだと思うのですが…」


「…もしその通りでしたら、私からお詫びいたします。私からライオネット様にちゃんとお話しいたします。ですので」


「いや、大丈夫です。俺も、あいつも…俺達で決着をつけます。というか心配する必要なんかないですよ。たーだこのやり方じゃ俺は超えれないってのは言った方がいいかもな。あ、俺が見てたことは内緒にしといてください」


 そう言い残して俺はセレイアさんを置いて建物に戻っていった。あいつが悪い奴じゃない。そんなのはとっくに気付いている。だけど…俺は、いやきっとあいつも、あの日剣を交えた時からとっくに決まっていたのだ


  ——強くなるためには、あいつを倒して、超えてみせなきゃならない——


     ———ミナヅキを———   ———ライオネットを———


 理解りあえるとか、仲間とか敵とか、そんなんじゃない。俺達の間には初めてあった時から既に決まっていた。ライバルという関係が


   ………———………




 ふらふらと歩くライオネットだが、思ったよりも魔銃で受けたダメージが大きかったのかぐらりと態勢が崩れ前に倒れそうになる。だがその時どこからか現れ駆けつけてくれたセレイアが駆け付けライオネットを抱き支えた。


「ライオネット様…お疲れ様です」


 そんな献身的なセレイアにライオネットは肩を震わせながら力なく支えられていた。きっとこんな弱い自分を見られているのが辛いのだろう…きっと支えている手を振り払いたいと思っているのかもしれない…。夏の大会で俺達に負け悔し泣きしている相手チームを見ているみたいで、俺は居た堪れなくなってふいっと顔を逸らした。


「お互いが本気だったから分かる。負けた時の悔しさ…だがきっともっと強くなって再戦するだろう。俺には分かるぞ」


「そうだな…あいつがあれくらいで挫けたりなんか……、…ん?」


 俺は自然と相槌を打ったが、なんかいつの間にかアルケイドが来ていた。いやまぁ確かにさっきセレイアも来ていたんだし他の奴も来ているのは何らおかしな話ではない…。ちなみにアルケイドの他にシルヴィアとドレイクもいた。


「…あれ?他の奴らは?てか俺達の組は?」


「あぁ、向こうの戦いは全部終わって、残ったのは俺達三人だけだ。あと残っている1組は…ミナヅキ、お前だけだ」




   ………———………


「いやーっ、ざぁんねんだったねぇミナヅキくぅーん。君の頑張りには、ま・さ・に称賛に値する奮闘だったが、まぁ~そんな頑張りも虚しく、ぼくたちぃ~…に!く!み!の大勝利って結果に終わってしまったってわけだぁ~」


「ふっざけんじゃねーよ!!なんでお前が偉そうにそんなこと言ってんだよ!お前は俺に負けたんだよ!!」


「いやいやいや、僕は負けを認めてないしぃ~、てか僕と君との勝負とかぁ~訓練の結果にはなぁ~んにも関係ないしぃ~、ま、総合的に見て…僕の勝ち。ってわけ」


「クソが…さっきまでめそめそ泣いてたくせに…調子こきやがって…、クソが…」


 1組対2組による集団模擬戦闘訓練は、奇しくも2組の勝利という形で幕を閉じ俺達は昼食会場にてお疲れ会というか打ち上げ感覚でわいわい盛り上がっていた。ライオネットのやろーもすっかり上機嫌に戻りやがって…


「おめでとうでゴワスライオネット様」


「ライオネット様ならやってくれるって信じてましたよ」


「ピッピっピー!」


「はっはっは、そうだろうそうだろう。まぁ結局すべて僕らの作戦勝ちってわけだ。お前達もよく頑張ってくれたよ」


 ちなみにこのお供三人組はドロフィーたちの魔法の流れ弾が飛んできていたのかいつの間にかのびていたらしい。そのため何にも知らないでライオネットをおだてて…まぁライオネット的にもその方がいいしおめでたい連中だな。それに…ライオネットの近くで静かに微笑んでいるセレイアさんも嬉しそうだし。それはそうと今度は完膚なきまでにぼっこぼこにしてやると心に誓い不貞腐れながら昼飯をやけ食いする。


「まぁまぁ、自分らが不甲斐なかっただけですから…ささ旦那ぁおつぎしあすぜぇどーぞどーぞぉ~」


「あー、申し訳ない…おととととと」


「…それお茶でやんねーのよ」


 昼食は以外にも1組も2組も仲良く、悔しさはあるものの特に恨みっことかはなく穏やかな空気で食事している。いや少し浮かれた空気だが…ともかくこれで俺達1組の集団模擬戦闘訓練は終わりを迎えたのだ。後は明後日に2組対3組の訓練があるのと…そして最後の大きなイベントの野外行軍を残すだけとなった。


「次は野外行軍かぁ…実際何するんだ?」


「野外行軍か、まぁ僕くらいは全然平気だが…貴爵の中には当然好きではない人が多いだろうね」


 意外にもこの話題に口を挟んできたのはライオネットだった。ライオネットは皿の上の肉団子をパクリと食べ口をもごもごさせながら話を続ける。


「行軍なんて仰々しく言ってるが要はただの二泊する野外キャンプだ。毎年コースは違うみたいだが、基本的には帝国領土内の未開拓地と開拓地を交互に通り抜け目的の村や都市に歩いて移動するだけだ。外にテントを張って二夜を過ごすからな…キャンプの経験が少ない、まさしく君みたいなのには難しい行事だろうな」


「…野外で一泊なら、村を出るときに経験してる。あんまり思い出したくないが」


「ってゆーか、自分の役割取られたんですけどー」


 コノハがブーブー言ってるのはほっといて、もう少し詳しい話では戦闘訓練とは違ってこっちは自主的な活動で出来そうなことはあまりないみたいだ。各組ごとに引率の教官が一緒に歩き、お題らしきフィールドワークも軽くこなしご飯を作りテントを張って、それを三日やるだけとのこと。多少道具の準備とかは各自で多少の調整するにしても、当日頑張るって感じだ。


「というわけだ、君達が今やることは…僕等に3組との戦った感想や対策を伝授することだ」


「どうせそんな事だろうと思った…」


「そんなこと考えなくても全員ラセツにぶっ飛ばされて終わりだから気にしなくていいぞ」


「だからそうなるのは分かっているから!その対策をだな…ちなみにミナヅキの使った卑怯な手段は当然禁止だからな。僕は君と違って騎士道精神に則って正々堂々戦うのだからな」


「いやそれお前の自爆だろ…」


 なんてたわいのない話をして、そして2組と3組の集団模擬戦闘訓練は3組の勝利という結果に終わり、またこれまでのような合宿の日々が再び訪れ…雪が降り今年の終わりが近づいてくるのを感じながら、カリキュラムを受け、いろんな合宿参加メンバーとバカやって遊んで、笑って、学んで、食って寝て…20日ほどが経過した。


 15月の頭、合宿開始から約60日以上…つまり二か月が経過し俺達もすっかりほぼ全員が知れた仲、というかいつのまにか俺にいたってはこの世界にやってきて長く居ついた時間で言えばここでの生活が一番永いものになってしまった。

 この時期になってくると集団模擬戦闘訓練が終わったからか、それとも寒さからかあまり戦闘訓練をしたがるグループはいなくなり、比較的室内で済むカリキュラムの消化をしたりして日々を過ごしている。勿論休みのタイミングで適当に人数集めて体育館のような場所でスポーツをして体を動かしている。ちなみに夏だとこのタイミングでプールで遊んだりするらしい…夏参加にしとくべきだったぜ。


「ちょっと~、今やましいこと考えたでしょ~」


「んー…、1組バーケニーさん、2組シルヴィアさん、3組ホタルさん…かなぁ」


「いや1組イヴさん、2組グラシアスさん、3組ホタルさんだろ」


「イヴさんにはマアダさんがいるだろ。1組イレイザさん、2組グラシアスさん、3組ホタルさんだろ」


「「それだっ!」」


「おいっ!ちょっと!おい!なにかは分からないですけどなんで自分の名前が上がってないんですか!おいっ!!」


「いやー?」「なんでもねぇなぁ」「おぅ」


 そんな相変わらずしょーもない話をしつつ、俺達は1組全員が乗っているバスに揺られながら…夜間行軍のための出発地点を目指しているのだ。


「イヴの姐さーん…グループの男達がぁ~セクハラするんですよぉ~、いやセクハラしてこないんですよ~…違うか、してるってことでいいのか」


「はいはい、コノハはドロフィーよりもかわいいもんね」


「「「えっ、ドロフィーよりかわいい!?」」」


「なんでばらすんですかぁ!?バカバカバカぁ!!」


 俺達がそんな会話してお菓子の回し食いしながら、Aグループ男性陣は談笑、BグループのイプロクスとキコクはAグループに混じって一緒に談笑、ジョンは何やらパズルの様なもの、ホオズキはアイマスクして寝ている。ラフィラはさっきまでMDプレイヤーのものを聞いて、いたのだが…


「あ゛――――…ダメ…無理…限界……ん゛ん゛っ゛゛」


「トリーダさん、耐えて、頑張って…お茶ちょっと飲んで、一応袋もありますから」


「…絶対に…絶対にダメですからね…、私貰うので。やめてくださいね」


 Cグループの女性陣席が地獄と化してきた…、トリーダさんがまさかのバス酔いを起こし、パンデミック発生寸前の状態だった。多分門が決壊したら、おそらく次にバーケニーさんも続いてしまう。そうなると連鎖的に他のメンバーも「貰い」続いてしまう…現にさっきまでパズルをしていたジョンも、そしてウルヴァもその雰囲気にやられ始めていた。

 とまぁそんなこんななちょっとしたハプニングがありつつもバスで二時間移動し、俺達は無事目的地である帝都から北東に約150km程離れた小さな町に到着した。この町がいわゆる出発地点であり、ここから残りの100㎞を歩いて農業都市『アンダルハーグ』に到着するまでが今回の野外行軍となった。とは言っても季節は丁度冬で雪もちらついているうえに帝国領土内の未開拓地帯を突き抜けることもあり非常に危険ではある。そのためか途中リタイアするメンバーの為に多くの教官達や国衛兵爵、さらには義勇兵爵の騎士団にも依頼し見守ってもらうため合宿参加メンバーの倍以上の人数が集まっていた。

 出発前には全員で改めて荷物の点検を行っている。全員寒さ対策用に防寒着をしっかり着込んでいる。テントに寝袋、椅子、レーションに缶詰、インスタント…懐中電灯に着火機、地図に方位磁針に着替えに汗拭きマット…その他諸々とそして野生動物が出た際の自衛のために武器の所持、それから…


「えっと…、【アンダルハーグの歩き方 行っておきたい10の観光地】?準備良すぎだろ…」


「ラフィラさん、ミュージックプレイヤーは教官に預けてください」


「えー、別にいーじゃーん。けちー」


「…誰だよ、グラビア誌持ってきた奴は」


「いいじゃん、焚きつけに使おーぜ」


「おいふざけんじゃねぇよやめろよ!」


 とまぁみんなの荷物にも要らないものがちょくちょく混ざっていたけど、とりあえず最低限の荷物と、それとご馳走用の準備を小分けにみんなで持ちつつ、男性がちょっと女性の荷物を持ってあげたりしながら出発の時を待つ。


「んそれでぇ~わぁ、エブリーブワァ~ン。これよーりぃ…んっ野外行軍、ッスタァ~ットォ~」


 相変わらずのリディ教官の合図とともに俺達1組は先行して歩き出した。2組と3組は俺達が出発してから20分後、さらにそれから20分後に同じ道を歩いて進む。途中ルートから逸れたりはするものの宿泊予定地点は同じなためそこで最終的に落ち合い全員いるかの確認を行うのだ。

 天候は晴天、出発時刻は朝の9時…だいぶ日が出てポカポカ陽気な気候になってきたからか道の雪は解けてシャビシャビになっている。とはいえしばらくは開拓地域、舗装された石畳の上を歩き進んでいく。1時間おきに俺達は荷物を置き少し休息をとる。そして再度出発…2時間分ほど歩いてついに未開拓区域を目前としている。道からは大きく外れまさに森の入り口といったところ。


「ふむ…では未開拓の場所に入る前に安全を確認してから昼食をとる。休憩後は未開拓区域に入るため念入りに準備するように、一時間後に出発するから休憩でもきびきび動くように。以上」


 同行している教官の一声で各自散会し周囲の安全を確認する。とはいってもここはまだ開拓されている場所なので見晴らしのいいギリ草原と言えるような場所。危険など探す方が難しい…と思っていたが


「お、ジェリーだ。あぶねーぞ」


 そんなトレイスの声の近くを見ると、足元に15㎝程の半透明の柔らかいボールのような物体がポヨポヨと動いている。まるでファンタジー作品に出てくるようなスライムにそっくりな物体『ジェリー』。この世界で固い水という意味で名付けられており、その生態は都市外ならどこにでも生息する普通の野生動物だ。そして歴史的に見ても最も人に危害を加えた生き物とも言われている。


「ジェリーの討伐は認証済みだ。討伐数を報告するように」


 教官が討伐の許可を発言すると、みんなが見かけたジェリーを自衛のために所持している武器で討伐を開始する。かく言う俺も持ってきた剣をジェリーに突き刺すと、ジェリーは本体が破裂し中から複数の触手が伸びて剣に絡みついたのだ。この触手に刺胞…つまり毒針をさして得物を弱らせて捕食する。人が捕食されるケースは滅多にないが、相当な不注意とかでジェリーを誤って踏んだ際に毒針を刺されて激痛に襲われたり、最悪毒で死ぬケースもあるため意外にもかなり危険なのだ。


「にしても…冬なのにジェリーっているんだな」


「いや、むしろこのスノージェリーって種類は秋から春が活動期で冬が一番活発になるんだ。他のジェリーと比べて積雪に負けない程度には身が硬いのが特徴だ。」


「スノージェリーと言えば以外にも鍋に入れるとうまいらしいですよ!」


「へぇ…生でもいけるかな?ちょっと食ってみよーぜ」


「討伐したジェリーは軍で全部回収する。勝手に荷物に入れたりしないように、というか絶対直接触るなよ」


 残念ながら教官にくぎを刺されてしまったため討伐したジェリーは教官達が回って回収をしている。俺のところも剣を突き刺したジェリーはすっかり弱ったのか剣に巻き付いていた触手が力なく地面に垂れているのを見て俺は剣を引き抜く。そして回収されていく。

 そんなこんなで周囲が安全になった事を確認して昼食タイム。レーションの中身を取り出して口に入れ水を飲む…以外にも美味しい。こういうのは大概まずいイメージがあったがそんなことはなく、問題なく腹に入れれるのがわかるとすいすい一食分を食べ、重たい荷物を下ろし背負っていた身体をしっかり伸ばす。

 12時半、俺達は準備を済ませ再度出発を開始、未開拓地に突入した。未開拓地である森の中は足元は陰っているため雪が残っているのもあるが単純に不安定で歩きづらく、さらに枝草が鬱蒼と生い茂っており視界が悪い。細心の注意を払いながら口から白い息を出しながら歩き進む。この未開拓区域は本来アンダルハーグに行く際に迂回する場所であり所謂近道コースといったところ、移動時間4時間程で抜け再度開拓区域に戻るルートとなっている。

 1時間、2時間と休憩しては歩き続けているものの、この辺りから徐々に何人かの遅れが出てきている。特にCグループは全員が俺達よりも歩くペースを落として全員で遅れて進んでいる。こういう時にグループ全員がバラバラにならないように調整することは大事だ。現にAグループはマアダとイヴ、ファイグル、カロアで完全にペースがバラバラになっている。これでは遅れている奴に何かあった時に対処が出来ないからな。かくいう俺達のグループもドロフィーが明らかに遅れ始めている。


「みんな、俺はドロフィーとペースを合わせるから三人で先行を頼む」


 俺は他の三人に伝えドロフィーの所まで引き返す。ドロフィーの荷物はコノハよりも少なめにして軽くしているのにもかかわらず、それでも体力的に辛そうだ。


「少し休憩するか?」


 俺がそう聞くとドロフィーはいつもの全部を人に任せっきりな性格からは思えないほど自分から首を縦に振り、すぐに歩くのを止めた。俺は遅れたメンバーと一緒に動く教官にハンドサインを送り荷物を下ろす。そんな様子を見ていたCグループのメンバーや、同じく遅れているBグループのジョンと、Aグループのマアダとイヴも休憩に参加した。


「はぁ…はぁ…ちょっと、しんどい…」


 ほとんどのメンバーがここが未開拓地域の危険エリアという事も忘れてか、周囲の危険を確認しないままそのままドスンと座り込んだ。そのため体力に自信のある俺やマアダ、トリーダさんが茂みを払いながら周囲を見回す。幸い危険はなさそうだった。

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


これにて、集団模擬戦闘訓練が決着という事で、一応戦闘描写の方は終わりにするのですが、割とすぐ次のバトルシーンも考えています。いやそれよりExシナリオ書かないと…

そしてそして、そろそろ講習編が終わり、これをもって序章の終了となります。ながいながい始まりの話ももう少しなので、お付き合いいただけると幸いです。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は9/29の月曜日、午後7時にEpisode6の後編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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